うつた)” の例文
お濱の——うつたへるやうに平次を仰ぐ黒い眼は、夕立を浴びたやうにサツと濡れて、ハラハラとぬぐひもあへぬ涙が膝にこぼれました。
けれども第一にこまつたのは、平岡の勝手もとの都合を、三千代のうつたへによつてつたとしては、三千代に迷惑めいわくかゝるかも知れない。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
さうして女房にようばう激烈げきれつ神經痛しんけいつううつたへつゝんだ。卯平うへい有繋さすがいた。葬式さうしき姻戚みより近所きんじよとでいとなんだが、卯平うへいやつつゑすがつてつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
しよめしなぞべると、かれはいつでもこゝろ空虚くうきようつたへるやうな調子てうしでありながら、さうつてさびしいかほ興奮こうふんいろうかべてゐた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
其方儀天一坊身分しかと相糺さず萬事ばんじ華麗くわれいていたらく有しを如何いかゞ相心得居申候やうつたへもせず役儀やくぎをもつとめながら心付ざる段不屆に付退役申付る
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
六千四百とん巨船きよせんもすでになかばかたむき、二本にほん煙筒えんとうから眞黒まつくろ吐出はきだけぶりは、あたか斷末魔だんまつま苦悶くもんうつたへてるかのやうである。
失望しつはう煩悶はんもんとがごツちやになツてへず胸頭むなさき押掛おしかける………其の苦惱くなう、其のうらみ、誰にうつたへやうと思ツても訴へる對手あひてがない。喧嘩けんくわは、ひとりだ。悪腕わるあがき
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
私は耐へ、忍んだ總ての苦痛と悲しみは當然といふこと——最早この上耐へることが出來ないことを私はうつたへたのだ。
疼痛とうつうとは疼痛とうつうきた思想しさうである、思想しさうへんぜしむるがためには意旨いしちからふるひ、しかしてこれてゝもつて、うつたふることめよ、しからば疼痛とうつう消滅せうめつすべし。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
胸の底にひそんだ漠然ばくぜんたる苦痛を、たれと限らずやさしい声で答へてくれる美しい女にうつたへて見たくてならない。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
たもととらへて『あんまりじやアありませんか、何卒どうか返却かへしていたゞきたいもんです』と泣聲なきごゑになつてうつたへた。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
おとつさんは刎橋はねばし番屋ばんやるよとならはずして其道そのみちのかしこさ、梯子はしごのりのまねびにアレしのびがへしをおりりましたとうつたへのつべこべ、三びやくといふ代言だいげんもあるべし
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
含春がんしゆんまた明敏めいびんにして、こゝろり、おほい當代たうだい淑女振しゆくぢよぶり發揮はつきして、いけすかないとてちゝぐ。ちゝや、今古こんこ野暮的やぼてんむすめれたりとてこれおほやけうつたへたり。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
犠牲ぎせいだとか精神的せいしんてき教育けういくだとか能弁的のうべんてき社界しやかいうつたへながら自らは米国的べいこくてき安楽主義あんらくしゆぎるものなり、即ち義を見て為し得ざる卑怯者ひけうしやなり、即ち脳髄のうずい心臓しんざう性質せいしつことにするものなり
時事雑評二三 (新字旧仮名) / 内村鑑三(著)
まちは、そんなことをうつたへるやうにをつとつた。彼女かれは、自分じぶんのすこやかな、乙女おとめときかるやかな、快活くわいくわつ姿すがたをつとせることが出來できないのを、さびしいことのやうに一人ひとりかんがへた。
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
前の傾向は多数へうつたへる小説をうむことになりさうだし、のちの傾向は少数に訴へる小説をうむことになる筈である。即ち両者の傾向は相反してゐるけれども、どちらも起らぬと断言しがたい。
近来ちかごろ都の大臣殿おほいどの一六一御願ごぐわんの事みたしめ給ひて、一六二権現ごんげんにおほくの宝を奉り給ふ。さるに此の神宝かんだからども、一六三御宝蔵みたからぐらの中にてとみせしとて、一六四大宮司だいぐじより国のかみうつたへ出で給ふ。
二十一日のあかつきになつても、大風雨はみさうな気色けしきもない。平八郎父子ふしと瀬田とは、渡辺の死骸しがいあとに残して、産土うぶすなやしろを出た。土地の百姓が死骸を見出してうつたへたのは、二十二日の事であつた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
眼下がんか茫々ばう/\たる大湖ありと、衆忽ち拍手はくしゆして帰途の方針ほうしんさだむるを得たるをよろこび、帰郷のちかきをしゆくす、すでに中して腹中ふくちうしきりに飢をうつたふ、されども一てきの水を得る能はず、いわんや飯をかしくにおいてをや
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
時々とき/″\、もっとよいくらしがしたいといふ氣持きもちがおこらなくもありません。それはおほくは家族かぞくのものたちが、主人しゆじんうつたへる場合ばあひあるひはさういふ心持こゝろもちをかほあらはしてゐる場合ばあひおこつて氣持きもちなのです。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
わたし自分じぶん不安ふあん苦痛くつううつたへたが、それかひはなく、このまゝ秘密ひみつにしてくれとつま哀願あいぐわんれて、此事このことは一そのまゝにはふむることにした。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
殺したる事大膽不敵の擧動ふるまひなり伊勢屋方よりうつたへたる旅僧も同夜の事なれば是はなんぢ同類どうるゐなるべし殊更ことさら其方そのほうは金屋にて盜みし櫛を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
うなるとすこ遣場やりばこまるのね」とうつたへるやう宗助そうすけげた。實際じつさい此所こゝげられては、御米およね御化粧おつくりをする場所ばしよくなつて仕舞しまふのである。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
貧乏びんばふ所帶しよたいであれば彼等かれらいく少量せうりやうでも不足ふそくをいはぬ。しか多少たせう財産ざいさんいうしてると彼等かれらみとめてうちでそれををしめば彼等かれら不平ふへいうつたへてまぬ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
見え隱れに八をつけてやるから、直ぐ番所へ駈け込みうつたへをしろ、お係り同心が出役になつてゐる筈だ。——俺に言はれたなんて、間違つても言ふなよ。
職務しよくむるのはまへにも不好いやであつたが、いまなほそう不好いやたまらぬ、とふのは、ひと何時いつ自分じぶんだまして、かくしにでもそつ賄賂わいろ突込つきこみはぬか、れをうつたへられでもぬか
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ちかづいてるとれいの石をもつて居るので大におどろき其をとこひきずつて役場やくばに出て盜難たうなん次第しだいうつたへた。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
しかるに二時ふたときしのぶをず、なみだながしてきううつたへ、只管ひたすらかごでむとわぶ、なんぢすら其通そのとほりぞ。
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
大屋樣おほやさま地主樣ぢぬしさまいづれの御無理ごむり御尤ごもつともけるたちなれば、長吉ちようきち喧嘩けんくわしてこれこれの亂暴らんぼうひましたとうつたへればとて、それはうも仕方しかた大屋おほやさんの息子むすこさんではいか
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あすうつたへ出でよといふ。
さてまた憑司は其夜昌次郎を立せやり草履ざうりに血の付たるをもちて傳吉宅へしのこみには飛石とびいしへ血を付置き夫より高田の役所へ夜通よどほしに往てうつた捕方とりかた
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
此頃このごろ室中しつちゆうきたつて、うも妄想まうざうおこつて不可いけないなどうつたへるものがあるが」ときふ入室者にふしつしや不熱心ふねつしんいましめしたので、宗助そうすけおぼえずぎくりとした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
しかきうごとあとをぽつ/\ととゞめたのみで衣物きもの心部しんぶふかまなかつた。ほこりかれえてはしつた。與吉よきち火傷やけど疼痛とうつううつたへてひとりかなしくいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
そして、身をひそめて樣子を見てゐると、春日邦之助が通用門から出て來て死骸を引ずつて餅の木坂の秋山家の門前に捨てた——と、かううつたへたんださうですよ
昨夜も散歩の帰りに、好子は子供のことですこしばかりとほるうつたへるところがあつた。訴へるといつても、それは愚痴とか不満とかいふやうな種類のものでは決してなかつた。
二人の病人 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
ひきうけて世話せわをすることしん兄弟けうだい出來できわざなり、これを色眼鏡いろめがねひとにはほろよひひざまくらにみヽあかでもらせるところゆるやら、さりとは學士がくしさま寃罪ゑんざいうつたへどころもなし。
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
矢庭やには引捕ひつとらへてくわんうつたへると二のもなく伏罪ふくざいしたので、石の在所ありか判明はんめいした。官吏やくにんぐ石を取寄とりよせて一見すると、これ亦たたちま慾心よくしんおこし、これはくわん没收ぼつしうするぞとおごそかにわたした。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
學院がくゐんつかはして子弟していともなはしむれば、なるがゆゑ同窓どうさうはづかしめらる。さら街西がいせい僧院そうゐんりてひと心靜こゝろしづかにしよましむるに、ることわづかじゆんなるに、和尚をしやうのために狂暴きやうばううつたへらる。
花間文字 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「もうすこうしろはう」と御米およねうつたへるやうにつた。宗助そうすけ御米およねおもところまでには、二も三其所そこ此所こゝ位置ゐちえなければならなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
お雪といふのが毒死したといふうつたへのあつたのは、ある秋の日の夕方、係り同心漆戸うるしど忠内の指圖で、平次と八五郎が飛んで行つたのは、その日も暮れて街へはもうあかりの入る時分でした。
たヾねかしとすてものにして、部屋へやよりそとあしさず、一心いつしんくやめては何方いづかたうつたふべき、先祖せんぞ耻辱ちじよく家系かけいけがれ、兄君あにぎみ面目めんもくなく人目ひとめはずかしく、我心わがこヽろれをめてひる
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
うつたへるやうにいひました。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
これでもびるかとおさへるやうな仕方しかたに、へて眞直まつすぐにびたつこと人間にんげんわざにはかなふまじ、いていてつくくして、うつたへたいにもちゝこゝろかねのやうにえて、ぬるぱいたまはらんなさけもなきに
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ういつてお糸の聰明な美しい眼が、文七にうつたへるのでした。
またうつたうる。……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)