たづさ)” の例文
下宿げしゆくには書物しよもつたゞさつ『千八百八十一年度ねんどヴインナ大學病院だいがくびやうゐん最近さいきん處方しよはう』とだいするもので、かれ患者くわんじやところときにはかなられをたづさへる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
汝また彼の事を心に記してたづさへ行くべし、されど人に言ふなかれ。かくて彼はまのあたり見る者もなほ信ずまじきことどもを告げ 九一—九三
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
まづ太刀ここにとりて来よといふに、刀自やがてたづさへ来るを、よくよく見をはりて、長嘘ためいきをつぎつつもいふは、ここに恐ろしき事あり。
番甲 これにをりまする老僧らうそう、またころされましたるロミオのしもべにんいづれもはかあばきまするに屈竟くっきゃう道具だうぐをばたづさへてをりまする。
しかし、十和田わだたいは、すべて男性的だんせいてきである。脂粉しふんすくなところだから、あを燈籠とうろうたづさふるのは、腰元こしもとでない、をんなでない。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
勘次かんじ自分じぶん壁際かべぎはにはたきゞが一ぱいまれてある。そのうへ開墾かいこん仕事しごとたづさはつてなんといつてもたきゞ段々だんだんえてくばかりである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
余が去れる後数分、警吏は令状をたづさへて平民社をたゝけり、厳達して曰く「嗚呼あゝ増税」の一文、社会の秩序を壊乱するものありよつて之を押収あふしふすと
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
家は地震にもつぶれざりしかど、忽ち近隣に出火あり。孫娘と共に両国りやうごくに走る。たづさへしものは鸚鵡あうむかごのみ。鸚鵡の名は五郎ごらう。背は鼠色、腹は桃色。
たづさへて相隨あひしたがひ山内伊賀亮には黒羽二重くろはぶたへ袷小袖あはせこそで柿染かきぞめ長上下なががみしもその外赤川大膳藤井左京さきやう皆々麻上下にてつゞいて隨ひ來る其行粧そのぎやうさう威風ゐふう堂々だう/\として四邊を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
その引の中には「茘子纍纍、芡実の如し。父老あり、年八十五、指して以て余に告げて曰く、是の食ふ可きに及んで、公、能く酒をたづさへて来り游ばんかと」
黄葉もみぢばの過ぎにし子等とたづさはり遊びし磯を見れば悲しも」(巻九・一七九六)、「古に妹と吾が見しぬばたまの黒牛潟くろうしがたを見ればさぶしも」(同・一七九八)
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
そして、私の家に出入りしてゐた和助といふ老人夫婦が、自ら望んでそこの留守番になつた。くは肥桶こえをけや僅かな農具をたづさへて渡つて、島のはたけを耕すのだと云つてゐた。
避病院 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
只管ひたすら写真機械をたづさへ来らざりしをうらむのみ、いよ/\溯ればいよ/\奇にして山石皆凡ならず、右側の奇峰きばうへて俯視ふしすれば、豈図あにはからんや渓間けいかんの一丘上文珠もんじゆ菩薩の危坐きざせるあり
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
彼等かれら自業自得じごふじとくで、彼等かれら未來みらい塗抹とまつした。だからあるいてゐるさきはうには、はなやかな色彩しきさいみとめること出來できないものとあきらめて、たゞ二人ふたりたづさえてになつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
まづ一やう来復らいふくして、明治三十一年一ぐわつじつの事で、下谷広小路したやひろこうぢとほる人の装束なりは、フロツクコートに黒の山高帽子やまたかばうしいただき、玉柄ぎよくえのステツキをたづさへ、仏蘭西製ふらんすせいくつ
七福神詣 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
小宮先生は今は文壇ぶんだんよりも學かいの方に專念せんねんされるやうになつてしまはれたが、わたしれるかぎりの文藝ぶんげいみちたづさはる人たちの内では一ばんの、百五十てんといふ球突たまつきの名手である。
文壇球突物語 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
江戸には雪のふらざる年もあれば、初雪はことさらに美賞びしやうし、雪見のふね哥妓かぎたづさへ、雪のちや賓客ひんかくまねき、青楼せいろうは雪を居続ゐつゞけなかだちとなし、酒亭しゆていは雪を来客らいかく嘉瑞かずゐとなす。
いづれもに/\双眼鏡さうがんきやうたづさへ、白巾ハンカチーフり、喜色えみたゝえて、諸君しよくん好意かうゐしやすることであらう。
中央ちうわうアメリカ發見はつけんの古器物中には此類の石器にみぢかき柄を付けせ石細工を以て之をかざれる物在り、又一手に首級しゆきうかかへ他手に石槍形の匕首をたづさへたる人物の石面彫刻物せきめんてうこくぶつ有り。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
お雪伯母がたすきがけで、その繊弱な両手に、水の一ぱい入つたばけつを重さうにたづさへて、遊覧人などのぞろ/\通る坂を上つて来るのを見ると、私はぢつとして居れなかつた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
すると好気いゝきに為つて、はゞで、大風呂敷をたづさへて貰つて歩くといふ始末。殆ど村でも持余した。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
家老石津右門、藤兵衞と一緒に繪圖面をたづさへて江戸表に着いたのは四五日前のことでした。
実に可懐なつかしかつたのです、顔を見ると手をつて、たゞち旧交きふこうあたゝめられるとわけで、其頃そのころ山田やまだわたし猶且やはり第二中学時代とかはらずしばんでましたから、往復わうふくともに手をたづさへて
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
おほきい石室せきしつ奧行おくゆきが十間近じつけんちかくもあり、室内しつない眞暗まつくらですからたいそう氣味きみわるいものでありますが、蝋燭ろうそくともしたり、懷中電燈かいちゆうでんとうたづさへてきますと、内部ないぶ模樣もようがよくわかります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
最初さいしよ、十にん兵士へいし棍棒こんぼうたづさへてました、此等これらみんな三にん園丁えんていのやうな恰好かつかうをしてて、長楕圓形ちやうだゑんけいひらたくて、隅々すみ/″\からは手足てあしました、つぎたのは十にん朝臣てうしん
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
同月どうげつ十七にち、いよ/\發掘はつくつこととしたが家人かじん其状態そのじやうたいたいといふので、らば其用意そのえういしてくべしとて、さいとに糧食れうしよくたづさへさせ、あいする親族しんぞくの六さい幼女えうぢよ
たづさへて江戸に来たり、これを評定所に留め置きしも、わが志を表するなり。
留魂録 (新字旧仮名) / 吉田松陰(著)
二人で畫板ゑばんたづさ野山のやま寫生しやせいしてあるいたことも幾度いくどれない。
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
アポロンのそれに似た、月桂樹編んで造れる冠たづさへ。
たづさへて再び来り
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
結びて懷姙くわいにんなしゝ一子なるが民間みんかんに成長して後未見みけん父君ちゝぎみ將軍と成しかば證據ものたづさへて訴へ出たるなればよしお世繼よつぎとせざるまでも登用とりあげてもて生涯しやうがい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
をとこは、——いえ、太刀たちびてれば、弓矢ゆみやたづさへてりました。ことくろえびらへ、二十あまり征矢そやをさしたのは、唯今ただいまでもはつきりおぼえてります。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
見よ諸〻の星をたづさふる一の圈、かれらを呼求むる世を足らはさんとて、なゝめにかしこよりわかれ出づるを 一三—一五
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
いてかゝる。ベンヺーリオー餘義よぎなく敵手あひてになる。この途端とたん兩家りゃうけ關係者くわんけいじゃ双方さうはうよりきたり、入亂いりみだれてたゝかふ。市民しみんおよ警吏長等けいりちゃうら棍棒クラッブたづさへてきたる。
ほと/\と板戸をたゝき、「この執念深き奥方、何とて今宵こよひに泣きたまはざる」と打笑うちわらひけるほどこそあれ、生温なまぬるき風一陣吹出で、腰元のたづさへたる手燭てしよくを消したり。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
すると丁度ちやうどハヾトフもブローミウム加里カリびんたづさへてつてた。アンドレイ、エヒミチはおもさうに、つらさうにおこしてこしけ、長椅子ながいすうへ兩手りやうて突張つツぱる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「神さぶる磐根いはねこごしきみ芳野よしぬ水分みくまり山を見ればかなしも」(巻七・一一三〇)、「黄葉の過ぎにし子等とたづさはり遊びし磯を見れば悲しも」(巻九・一七九六)
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
有りもせぬぜにを出し合つて病院へ入れたのですが、兼吉は、此儘このまゝにしては、廿世紀の工業の耻辱であると云ふので、其の腕をたづさへて、社長の宅へ面談に参つたのです
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
掃守かもりかたはらはべりて、ももの大なるをひつつ三一えき手段しゆだんを見る。漁父が大魚まなたづさへ来るをよろこびて、三二高杯たかつきりたる桃をあたへ、又さかづきを給うて三三こん飲ましめ給ふ。
おそらく兩方りやうほうならん。交換こうくわんの方法コロボックル先づ何品かをたづさきたりアイヌの小家のり口又はまどまへに進み此所にてアイヌの方より出す相當そうとうしなと引きへにせしものなりとぞ。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
武村兵曹たけむらへいそう此時このとき大佐たいさ許可ゆるして、つぎへやから一面いちめん製圖せいづたづさへてて、卓上たくじやう押廣おしひろ
くるをまつて人夫はなべこめとをたづさへ、渓流けいりゆうくだり飯を炊煑してのぼきたる、一行はじめてはらたし、勢にじやうじて山をくだり、三長沢支流をさかのぼる、此河は利根の本源とほとんど長をひとしくし
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
東京とうきやういへたゝむとき宗助そうすけ先祖せんぞ位牌ゐはいひとのこらずたづさえて、諸所しよしよ漂泊へうはくするのわづらはしさにえなかつたので、あたらしいちゝ分丈ぶんだけかばんなかをさめて、其他そのたこと/″\てらあづけていたのである。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それなら一ことんなでかへらうとて、發掘はつくつ中止ちうしし、天幕てんとたゝみ、飮餘のみあましたる麥酒ビールびんたづさへて、うら池邊ちへんき、其所そこにてまた小宴せうえんり、食物しよくもつのこりをいけうを投與とうよして、かるくし
たづさかへらむものは、此島このしま
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
立て皆々出會々々であへ/\と云程こそあれ吾助は見咎みとがめられては一大事と豫て拵へ置たる迯道にげみちより彼の一包をたづさへて何處いづくともなく迯失にげうせけり其後へ若黨下部等は喜内が聲を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
樂人共がくじんどもひかへてゐる。給仕人共きふじにんども布巾ふきんたづさへてきたり、取散とりちらしたる盃盤はいばんをかたづくる。
各自おの/\でうつゑたづさへ、續々ぞく/\市街しがい入込いりこみて、軒毎のきごとしよくもとめ、あたへざればあへらず。
蛇くひ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そこで用意ようゐとゝなふと、吾等われらに/\一個いつこづゝ爆裂彈ばくれつだんたづさへて立上たちあがつた。かね用意ようゐとりにくを、十きんばかり鐵檻てつおりあひだから投出なげだすと、しよくゑたる猛獸まうじうは、眞黒まつくろになつてそのうへあつまる。
あるいへではクワスをませ、あるところではパンをはしてれる。で、かれいつ滿腹まんぷくで、金持かねもちになつて、六號室がうしつかへつてる。が、たづさかへところものは、玄關げんくわんでニキタにみんなうばはれてしまふ。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)