不思議ふしぎ)” の例文
いましも、ふとあねが、この不思議ふしぎたかとういただきまりますと、おもいなしか、そのとう手招てまねぎするようながしたのであります。
黒い塔 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのうつくしいそらうばはれてゐたを、ふと一ぽん小松こまつうへすと、わたし不思議ふしぎなものでも見付みつけたやうに、しばらくそれにらした。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
その話から、不思議ふしぎに Tonka John の記憶にもまだ殘つてゐたことを聞いた時のその人の驚きはをかしいほどであつた。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
コロムビアに不思議ふしぎなテナー歌手ロージングが「ムーソルグスキー歌曲集」二巻(J八六一〇—二、J八六一四—六)を入れている。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
「一ならず、二不思議ふしぎたせてらせたに……」ばあさんのこゑついひゞいた。勘次かんじもおつぎもたゞ凝然ぢつとしてるのみである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
このおはなしは結局けっきょく学者がくしゃのアラムハラドがある日自分のじゅくでまたある日山の雨の中でちらっとかんじた不思議ふしぎ着物きものについてであります。
機械きかいとどろき勞働者ろうどうしや鼻唄はなうた工場こうばまへ通行つうかうするたびに、何時いつも耳にする響と聲だ。けつしておどろくこともなければ、不思議ふしぎとするにもらぬ。
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
餅菓子店もちぐわしやみせにツンとましてる婦人をんななり。生娘きむすめそでたれいてか雉子きじこゑで、ケンもほろゝの無愛嬌者ぶあいけうもの其癖そのくせあまいから不思議ふしぎだとさ。
神楽坂七不思議 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
また日本にほん小説せうせつによくあらはれる魔法遣まはふづかひが、不思議ふしぎげいえんずるのはおほくは、一はん佛教ぶつけうから一はん道教だうけう仙術せんじゆつからたものとおもはれる。
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
騙詐かたり世渡よわた上手じやうず正直しやうぢき無気力漢いくぢなし無法むはう活溌くわつぱつ謹直きんちよく愚図ぐづ泥亀すつぽんてんとんびふちをどる、さりとは不思議ふしぎづくめのなかぞかし。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
「おいこれ一寸ちよつと其所そこいてれ」とわたすと、きよめうかほをして、不思議ふしぎさうにそれを受取うけとつた。御米およねおく座敷ざしき拂塵はたきけてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
しかしあんまり不思議ふしぎな話なので、主人はそれをどうしても信じることが出来ませんでした。商人はあくまでほんとうだと言いります。
神様の布団 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
かざりつきのつぼだとか、またくちのついたしびんのようなかたちをしたものもありますが、なかにも不思議ふしぎなのははさふといふ器物きぶつです。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
研究けんきゅうめにそちせてやらねばならぬ不思議ふしぎ世界せかいがまだのこっている。』と、指導役しどうやくのおじいさんがわたくしもうされました。
そしてまたふたたあがってましたが、いまはもう、さっきのとり不思議ふしぎ気持きもちにすっかりとらわれて、われわすれるくらいです。
地蔵じぞうさんが草鞋わらじをはいてあるいたというのは不思議ふしぎなことですが、なかにはこれくらいの不思議ふしぎはあってもよいとおもわれます。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
いまから數分すうふん以前いぜんにかのふね本船ほんせん右舷うげん後方こうほう海上かいじやうおい不思議ふしぎにも難破信號なんぱしんがうげたこととでかんがあはせるとかゝ配慮しんぱいおこるのも無理むりはあるまい。
なるほどさるが中にはいっておれば、人形がひとりでにおどるのも不思議ふしぎではありません。甚兵衛は手をって面白おもしろがりました。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
侍士へ申のべけるに然らば此段申上べしと云て侍士は立歸たり因て名主用右衞門は不思議ふしぎの事に思ひひそかに心つうしてぞ居たりける
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
勿論もちろんかれ仲間なかまだけがことにさうだとはへなかつた。見渡みわたしたところ、人間にんげんみんひとつ/\の不完全ふくわんぜん砕片かけらであるのに、不思議ふしぎはないはずであつた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
屋根やねあり、天井てんじやうあり、かべのあるとふばかり、野宿のじゆくつゆあはれさにまさつて、それはつめたいなさけない、こぼれるなみだこほらぬが不思議ふしぎ御座ござります。
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
こいつァどうも御挨拶ごあいさつだ。ひとらない、おせんのはだかをのぞかせた挙句あげくはなのあるのが不思議ふしぎだといわれたんじゃ、まつろうがありやせん。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
不思議ふしぎだ、こんな毛糸の玉に、家族っていう本能があるのは……」にんじんはいう——「なんて説明するかだ。鼻が鋭敏なせいかも知れない」
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
ある午後ごゞ。ぱちツと不思議ふしぎをとがしました。さやけたのです。まめみゝをおさえたなり、べたにころげだしました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
もちたる木鋤こすきにて和尚をほりいだしければ、和尚大にわらうちを見るにいさゝかきずうけず、みゝかけたる眼鏡めかねさへつゝがなく不思議ふしぎの命をたすかり給ひぬ。
なにもそんな不思議ふしぎな効力はないとの結論で、たちまちその研究熱がめてしまって、今日こんにちではだれもその淫羊藿説いんようかくせつを信ずる馬鹿者ばかものはなくなった。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
まちをつと末男すゑをは、偶然ぐうぜんにも彼女かれとおなじ北海道ほくかいだううまれたをとこであつた。彼女かれはそれを不思議ふしぎ奇遇きぐうのやうによろこんだ。
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
といつて、れいくるまをさしせると、不思議ふしぎにもかたとざした格子こうし土藏どぞう自然しぜんいて、ひめからだはする/\とました。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
あいちやんは、さも不思議ふしぎさうに自分じぶんかた左顧右盻とみかうみしてゐました。『可笑をかしな時計とけい!』つてまた、『わかつて、それでときわからないなンて!』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
不思議ふしぎにもそのとしとつたへび動物園どうぶつゑんにでもるやうに温順おとなしくしててついぞ惡戲いたづらをしたといふことをきません。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
じつこの音色ねいろたくはへてなどといふは、不思議ふしぎまうすもあまりあることでござりまする。ことに親、良人をつとたれかゝはらず遺言ゆゐごんなどたくはへていたらめうでござりませう。
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
が、惡戯いたづら氣分きぶんになつて、をつとかなかつた。そして、なほもはちからだにつつきかかると、すぐくちばし松葉まつばみついた。不思議ふしぎにあたりがしづかだつた。
画家とセリセリス (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
「ちがうよ。なにない。そのてんはこつちでも不思議ふしぎおもつているくらいだ。なにつていることはないのかい」
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
まつた不思議ふしぎことでございました。やまからとらつてかへつてまゐられたのでございます。そしてそのまゝ廊下らうか這入はひつて、とらぎんじてあるかれました。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
この家はこれより幸運に向い、ついに今の三浦家となれり。遠野にては山中の不思議ふしぎなる家をマヨイガという。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
かういふと、不思議ふしぎおもかたがあるかもれません。あなたがた御覽ごらん書物しよもつには、たいてい短歌たんかおこりを、神代かみよのすさのをのみことのおさくからとしてゐるでせう。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
太子たいしのおとくがだんだんたかくなるにつれて、いろいろ不思議ふしぎことがありました。あるとき甲斐かいくにから四そくしろい、くろ小馬こうまを一ぴき朝廷ちょうてい献上けんじょういたしました。
夢殿 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
(これを彼の同僚の一人は「ほっと暖いサンドウィッチ」と読み、真面目まじめ不思議ふしぎがったものである。)それから左は下へ降りる階段、右はすぐ硝子ガラス窓だった。
保吉の手帳から (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その他も皆そんなもので一向不思議ふしぎな事はないが、この辺の山の一体の形を見ますと古昔むかしは噴火山があったのじゃああるまいかと思われるような形跡けいせきもあります。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
蘿月らげつは悲しいとかさびしいとかふ現実の感慨かんがい通過とほりこして、だ/\不思議ふしぎな気がしてならない。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
おれんでゐると、ひめて、おれくちびる接吻せっぷんしていのちいき吹込ふきこんでくれたとた……んだもの思案しあんするとは不思議ふしぎゆめ!……すると、やが蘇生いきかへって帝王ていわうとなったゆめ
けれども家へ帰って家庭の人となる時は、まるで別人になっておとなしい良家の娘になる。それでいて、どっちにもちっとも矛盾むじゅんを感じないのは、われながら不思議ふしぎだ。
現代若き女性気質集 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
此日このひくわいみやびなりしをおもして、詩を作らう、詩を作らう、和韻わゐんに人をおどろかしたいものともだへしが、一心いつしんつては不思議ふしぎ感応かんおうもあるものにて、近日きんじつ突然とつぜんとして一詩たり
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
『まさか不思議ふしぎなもんだ。両方りやうはう眼玉めだまからすなんて、どうしたこつた。』
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
人びとは、誰もかも、その紳士の発散する、強い激しい芳香に打たれて、びっくりしたように立ちどまると、不思議ふしぎそうな顔をして、或はあきれたような顔をして、紳士を見返り、見送った。
香水紳士 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
B あゝ、をんながだよ。をんな結婚けつこん申込まをしこんだつてなに不思議ふしぎことはあるまい。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
たとえば、溶解ようかいせるなまりくちるるとも、すこしも不思議ふしぎにはおもわぬであろう。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
それにしてもお前が夢でミルチス・マジョルをみるとは どうも不思議ふしぎ
滅多めつたわらつたこともない但馬守たじまのかみ今日けふこと機嫌きげんのわるい主人しゆじんが、にツこりとかほくづしたのを、侍女じぢよこつな不思議ふしぎさうに見上みあげて、『かしこまりました。』と、うや/\しく一れいしてらうとした。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
廿にぢう四年中に雑誌編輯ざつしへんしうの手を洗つてから、こゝとしること九年になります、ところの九の字がまた不思議ふしぎで、実は来春らいしゆんにもつたら、又々また/\手勢てぜいひきゐ雑誌界ざつしかいに打つて出やうとふ計画も有るのです
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)