くろ)” の例文
あおい、うつくしいそらしたに、くろけむりがる、煙突えんとつ幾本いくほんった工場こうじょうがありました。その工場こうじょうなかでは、あめチョコを製造せいぞうしていました。
飴チョコの天使 (新字新仮名) / 小川未明(著)
やがて大きなつめでひっかくようなおとがするとおもうと、はじめくろくもおもわれていたものがきゅうおそろしいけもののかたちになって
(新字新仮名) / 楠山正雄(著)
泥濘ぬかるみ捏返こねかへしたのが、のまゝからいて、うみ荒磯あらいそつたところに、硫黄ゆわうこしけて、暑苦あつくるしいくろかたちしやがんでるんですが。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
天空そらには星影ほしかげてん、二てんた三てんかぜしてなみくろく、ふね秒一秒べういちべうと、阿鼻叫喚あびけうくわんひゞきせて、印度洋インドやう海底かいていしづんでくのである。
死顔しにがほ」も「くろわらひも」なみだにとけて、カンテラのひかりのなかへぎらぎらときえていつた、舞台ぶたい桟敷さじき金色こんじきなみのなかにたヾよふた。
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
コスモはなんのかざりもない色のあせたくろふくをつけ、まんなかにすりきれたふさのついてる大黒帽だいこくぼうをかぶり、木靴きぐつをはいていました。
活人形 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
三千代みちよの顔をあたまなかうかべやうとすると、顔の輪廓が、まだ出来あがらないうちに、此くろい、湿うるんだ様にぼかされたが、ぽつとる。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ランプもけぬ卯平うへいせま小屋こや空氣くうきくろ悄然ひつそりとしてんだやうである。勘次かんじあししてもどつては出來できるだけしづかぢる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
この二人は、「くろ」よりもにやァ/\よりも、「きみ」よりも、だれよりも一ばん早くから、すゞ子のおあひてをしてゐるのです。
ぽつぽのお手帳 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
一山いくらのおさらの上には、まっくろくなったバナナだの、青かびのはえかけたみかんだの、黒あざのできたりんごだのがのっていました。
水菓子屋の要吉 (新字新仮名) / 木内高音(著)
いろ/\な可愛かあいらしい蝶々てふ/\澤山たくさんあるなかで、あのおほきなくろ蝶々てふ/\ばかりは氣味きみわるいものです。あれは毛蟲けむし蝶々てふ/\だとひます。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
無事ぶじであつてなによりじや。そのくろおほきなやまとは、くじらぢやつた。おそろしいこと、おそろしいこと、いただけでもぞつとする」
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
ねこさんとおくろさんが毛を染めかへて、白い毛のお猫さんが黒くなり、黒いお黒さんが白くなつてしまつたことは一月号でお話しましたね。
お猫さん (新字旧仮名) / 村山籌子古川アヤ(著)
てゝせり呉服ごふくるかげもなかりしが六間間口ろくけんまぐちくろぬり土藏どざうときのまに身代しんだいたちあがりてをとこ二人ふたりうちあに無論むろんいへ相續あととりおとゝには母方はゝかたたえたるせい
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
彼女かのじよはその苦痛くつうたへられさうもない。けれどもくろかげかざしてたゞよつて不安ふあんは、それにもして彼女かのぢよくるしめるであらう。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
先生せんせいっ、たいへんです。上野うえののほうがくでくろいけむりがたちのぼっています。も、ちらちらともえあがりました。」
くろってじゃれるのは、おまえしたっているからだよ。あたしゃまた、わるいいたずらでもされたかとおもって、びっくりしたじゃァないか。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
けれども白が驚いたのはそのせいばかりではありません。見知らぬ犬ならばともかくも、今犬殺しに狙われているのはお隣の飼犬かいいぬくろなのです。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
嘉十かじふはだんごをたべながら、すすきのなかからくろくまつすぐにつてゐる、はんのきのみきをじつにりつぱだとおもひました。
鹿踊りのはじまり (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
と見てるとかね七八なゝやツつづゝ大福餅だいふくもちなかうへからあんもちふたをいたしてギユツと握固にぎりかためては口へ頬張ほゝばしろくろにして呑込のみこんでる。金
黄金餅 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
上着うわぎはキラキラかがやくほど赤く、むねは白く、前足はくろ、そして、しっぽがまた、鳥のはね毛のようにふさふさしていました。
其家そこへよく来るお客で、綽名あだなを「くろさん」とも「のうめん」ともいわれているお客がある。金切れもわるいし、御面相ごめんそうは綽名のとおりだしするのだ。
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
死んだくろあにが矢張黒と云った。遊びに来ると、しろが烈しくねたんだ。主人等が黒に愛想をすると、白は思わせぶりに終日しゅうじつ影を見せぬことがあった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そなたくろ外套マントルほゝばたく初心うぶをすッぽりとつゝんでたも、すれば臆病おくびゃうこのこゝろも、ぬゆゑにきつうなって、なにするもこひ自然しぜんおもふであらう。
そしてただ、くろ海面かいめんを、あとから、あとから、走ってくる白いなみと、いつやむともわからないつよい風とが、いのきちたちの心をひきさらっていた。
ラクダイ横町 (新字新仮名) / 岡本良雄(著)
水のくろきことはるかにペルソにまさりき、我等くろずめる波にともなひ慣れざる路をつたひてくだりぬ 一〇三—一〇五
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
裾は露、袖は涙に打蕭うちしをれつ、霞める眼に見渡せば、嵯峨野も何時いつしか奧になりて、小倉山をぐらやまの峰の紅葉もみぢば、月にくろみて、釋迦堂の山門、木立こだちの間にあざやかなり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
かみはひっつめにって、くろかたマントをしていらっしゃる、もうそれだけで、先生せんせいうやま気持きもちがおこると一しょに、先生せんせいがどことなくきになるのです。
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)
おちよぼぐちにお鐵漿かねくろをんなは、玄竹げんちく脇差わきざしをて、かうひながら、あかたすきがけのまゝで、しろした。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
たゞ常緑樹じようりよくじゆのすぎやひのきのだけがくろずんだをつけたまゝあたゝかいはるふたゝまはつてくるのをつてゐます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
しばらくはだれも物を言わない。日暮里にっぽりの停車を過ぎた頃、始めて物を言い出したのは、くろうとらしい女連おんなづれであった。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
委敷くはしく申立且昌次郎の鼻の下にくろ黒子ほくろありと云ければ越前守殿二人ども多分存命ぞんめいにてあらん其方に手懸てがかりはなきやとのことなれども一同さらに手懸りなきむね
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
むらほうから行列ぎょうれつが、しんたのむねをりてました。行列ぎょうれつ先頭せんとうにはくろふくくろ帽子ぼうしをかむった兵士へいし一人ひとりいました。それが海蔵かいぞうさんでありました。
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
かくてその年もくれて翌年よくとしの二月のはじめ、此弥左ヱ門山にいりたきゞを取りしかへるさ、谷におちたる雪頽なだれの雪のなかにきは/\しくくろものありはるかにこれを
それにつづいては小体こがらな、元気げんきな、頤鬚あごひげとがった、かみくろいネグルじんのようにちぢれた、すこしも落着おちつかぬ老人ろうじん
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
服装ふくそうまでもむかしながらのこのみで、鼠色ねずみいろ衣裳いしょう大紋だいもんったくろ羽織はおり、これにはかまをつけて、こしにはおさだまりの大小だいしょうほんたいへんにきちんとあらたまった扮装いでたちなのでした。
地球ちきゆうからえる火星くわせいくろいところは、だからうみといふよりもぬまか ちいさなぬまあつまったのか、かわだ。)
中山右近次と伊丹佐重郎、その両家に挟まれた、くろい細い露路の中を、この頃陣十郎は歩いていた。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一体にヹネチヤ女とめるけれど目が大きいのと鼻が馬鹿に高いだけで色は青くろいし表情は沈んでる。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
見返みかへると、くろ黄色きいろしまのある大柄おほがらはちで、一たかあがつたのがまたたけ根元ねもとりてた。と、地面ぢべたから一しやくほどのたかさのたけかはあひだ蜘蛛くも死骸しがいはさんである。
画家とセリセリス (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
素燒すやきでありますけれども、くろずんだ茶色ちやいろいぶされたのがおほいのです。そしてそのつちしつこまかいすなや、ときには大粒おほつぶすながまじつてゐるために平均へいきんしてをりません。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
当時取急ぎて普請せししばの新宅は、いまだ人の住着かざるに、はや日にくろみ、或所は雨に朽ちて、薄暗き一間に留守居の老夫婦の額をあつめては、寂しげに彼等の昔を語るのみ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ペンペのからだがくろちひさなてんになつて、グーッグーッときりむやうに下界したちてゆくのがわかつた。やがてそれもえなくなつてしまつた。ペンペはどうなつたらうか。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
いつもくろ地色ぢいろのスカートに、えりのあたりにすこしばかりレースのかざりをつけたしろいシヤツ。
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
すると母親ははおやは、おおきな、おおきな、おさらくろいスープをって、はこんでました。マリちゃんはまだかなしくって、あたまもあげずに、おいおいいていました。すると父親ちちおやは、もう一
私はまたこの晴れた日の大江たいこうしものあなたを展望した。長堤は走り、両岸の模糊もこたる彎曲線のすえは空よりやや濃くくろんで、さて、花は盛りのべにと白とのこの庭の百日紅さるすべりの近景である。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
するとまたそこへ質素しつそくろ服装ふくそうをつけた、断髪だんはつのぎよろりとしたをしたわかいRこく婦人ふじんがやつてて、やゝ熟達じゆくたつした日本語にほんごはなしかけた。もつと大抵たいてい婦人ふじんくろ服装ふくそうした断髪だんはつであつた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
電線なんてものは皆ねずみ色かくろ色で、どうびた色とあまりちがわない。こうした眼に立たない色だから、つい気がつかないで電線を握っちまったり、トタンべい帯電たいでんさせたりするのだ。
電気看板の神経 (新字新仮名) / 海野十三(著)
紐育の中央郵便局に居りましたのはその途中で逃げ出していた時分の事で、頭髪かみを酸化水素で赤く縮らして、くろ香水こうすい身体からだに振りかけて、白人と黒人の混血児あいのこに化けていたのです。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
全体ぜんたいに樣々の沈紋ちんもん有り。他の土器どきと等しく火にけたる物にして、色はくろし。長さのきにあな有りて恰もぢくき取りたる紡錘の如し。思ふに此あなに糸をつらぬきて身にぶるに便にせしならん。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)