おと)” の例文
こまかきあめははら/\とおとして草村くさむらがくれなくこほろぎのふしをもみださず、かぜひとしきりさつふりくるはにばかりかゝるかといたまし。
雨の夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そして、あたりはしずかであって、ただ、とおまちかどがる荷車にぐるまのわだちのおとが、ゆめのようにながれてこえてくるばかりであります。
花と人の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
やがて大きなつめでひっかくようなおとがするとおもうと、はじめくろくもおもわれていたものがきゅうおそろしいけもののかたちになって
(新字新仮名) / 楠山正雄(著)
くちへ、——たちまちがつちりとおとのするまで、どんぶりてると、したなめずりをした前歯まへばが、あなけて、上下うへしたおはぐろのはげまだら。……
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いや馬鹿ばやしいやだ。それよりかつゞみつて見たくつてね。何故なぜだかつゞみおとを聞いてゐると、全く二十世紀の気がしなくなるからい。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
子供こどもたちはとおくへいき、「もういいかい。」「まあだだよ。」というこえが、ほかのものおととまじりあって、ききわけにくくなりました。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
背伸せのびをして、三じゃく戸棚とだなおくさぐっていた春重はるしげは、やみなかからおもこえでこういいながら、もう一、ごとりとねずみのようにおとてた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
今度こんどふたつのさけごゑがして、また硝子ガラスのミリ/\とれるおとがしました。『胡瓜きうり苗床なへどこいくつあるんだらう!』とあいちやんはおもひました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
かしこにあらはれし諸〻の光より一のうるはしきおと十字架の上にあつまり、歌をしえざりし我もこれに心を奪はれき 一二一—一二三
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
みゝかたむけると、何處いづくともなく鼕々とう/\なみおときこゆるのは、この削壁かべそとは、怒濤どとう逆卷さかま荒海あらうみで、此處こゝたしか海底かいてい數十すうじふしやくそこであらう。
ボンボン時計を修繕なほす禿頭は硝子戸の中に俯向うつむいたぎりチツクタツクとおとをつまみ、本屋の主人あるじは蒼白い顏をして空をたゞ凝視みつめてゐる。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
ちがだなを略した押入れのあるのに目をとめて、それへ手がかかる途端に、サッと、ふすまおと——そして、どたりという重苦しい響きが一瞬。
八寒道中 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、おもいました。そしてまだじっとしていますと、りょうはなおもそのあたまうえではげしくつづいて、じゅうおと水草みずくさとおしてひびきわたるのでした。
とうさんが玄關げんくわんひろいたて、そのをさおときながらあそんでりますと、そこへもよくめづらしいものきのすずめのぞきにました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
本堂ほんだうはうではきやうこゑかねおともしてゐる。道子みちこ今年ことしもいつかぼんの十三にちになつたのだとはじめてがついたときである。
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
ですが民衆を肯定し得る場合ほど、幸福なことがあるでしょうか。民藝品はこの悦ばしいおとずれを語ってくれる使いなのです。
民芸とは何か (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
かれすぐ自分じぶんちか手拭てぬぐひかぶつたおつぎの姿すがたおもむろにうごいてるのをた。それ同時どうじひそか草履ざうりおと勘次かんじみゝひゞいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
たゞしあらためあしき御政事おんせいじ當時は何時にても此皷このつゞみうち奏聞そうもんするにていたとへば御食事おんしよくじの時にてもつゞみおとを聞給ひたちまち出させ給ひ萬民ばんみんうつたへ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
するともなくすさまじいおとをはためかせて、汽車きしや隧道トンネルへなだれこむと同時どうじに、小娘こむすめけようとした硝子戸ガラスどは、とうとうばたりとしたちた。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
赤鉢卷隊あかはちまきたい全力ぜんりよく山頂さんてうむかつてそゝぎ、山全體やまぜんたいとりくづすといふいきほひでつてうちに、くはさきにガチリとおとしてなにあたつた。
と、左の方に当ってがさがさと云う枯れた草木の枝葉に足を触れるおとが聞えた。益雄はびっくりして犬だろうか人だろうかと思って眼をみはった。
草藪の中 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
もとよりどんなふうあそぶのかもらなかつたのだが、さてその窓向まどむかうから時折ときをり談笑だんせうこゑまじつてチヤラチヤラチヤラチヤラきこえてくる麻雀牌マアジヤンパイおと
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
私もその家はおとずれてみたことがあるが、嫁のだいが変ってからは何等なにらのことも無いような風である。真箇まったく妙なことがある。
白い光と上野の鐘 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
そんなはなし最中さいちうにサァーツとおとをたてゝうるしのやうにくらそらはうから、直逆まつさかさまにこれはまた一からすがパチパチえてる篝火かがりびなかちてきた。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
ふくろ(がく)はからだ一尺いつしやくもあり、暗褐色あんかつしよく羽毛うもうあしまでかぶつてゐます。はね非常ひじようやはらかですからぶときにおとがしません。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
非道ひどいヒステリーの夫人や未亡人が、妙な神様や気合術なぞに凝り固まっておとなしくなったなぞいう例がいくらもある。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
翌朝よくちょう。画家は楽気らくげ凭掛よりかかり椅子いすに掛り、たばこみ、珈琲コオフィイを飲み、スケッチの手帳を繰拡くりひろげ、見ている。戸をたたおとす。
わたくしはあのたきおとをききながら、いつもそのおとなかけこむような気分きぶんで、自分じぶん存在ありかわすれて、うっとりとしていることがおおいのでございました。
其晩そのばん湿しめやかな春雨はるさめつてゐた。近所隣きんじよとなりひつそとして、れるほそ雨滴あまだれおとばかりがメロヂカルにきこえる。が、部屋へやには可恐おそろしいかげひそんでゐた。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
「すると、人形はその時のこぼれた水を踏んだという事になるね」と検事は、引きつれたような声を出した。「もう後は、あの鈴のようなおとだけなんだ。 ...
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
と、思返おもひかへしたものゝ、猶且やはり失望しつばうかれこゝろ愈〻いよ/\つのつて、かれおもはずりやう格子かうしとらへ、力儘ちからまかせに搖動ゆすぶつたが、堅固けんご格子かうしはミチリとのおとぬ。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
きでないかあのものしづかなかけひおとを。とほりにゆき眞白ましろやまつもつてゐる。そして日蔭ひかげはあらゆるものの休止きうし姿すがたしづかにさむだまりかへつてゐる。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
なにを考えるともなくぼんやり夢想むそうしている時でも——彼はいつも、くちじ、ほほをふくらし、くちびるをふるわして、つぶやくような単調たんちょうおとをもらしていた。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
そのおと寂寞せきばくやぶつてざわ/\とると、りよかみけられるやうにかんじて、全身ぜんしんはだあはしやうじた。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
深更、暁明よあけ、二度目の、おとないの響きに、今度は、宿屋の、不寝番ねずばんも、うたたねから目を醒されたのであろう——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
こういって、外套室がいとうしつへかけ出した。このとき小使こづかいがベルのボタンをしたので、あじもそっけもない広い校舎こうしゃじゅうへ、けたたましいベルのおとひびき渡った。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
そして何日いつかはかみなりのようなおとがして、その格子戸がくだろうと、甘いあくがれを胸に持って待っていて見たけれど、とうとう格子戸はかずにしまった。
お母さんの御許可おゆるしが出て、土曜日に舞踏会をするので、姉さん達は蜜蜂のように忙しい。乃公おれも大層おとなしい。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
吉備きびくに中山なかやま——美作みまさかにある——よ。それがこしのひきまはしにしてゐる、細谷川ほそたにがはおとんできこえることよ。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
夜になったのでは雌波めなみおと一つ立たないで、阿漕あこぎうらで鳴く千鳥が遠音とおねに聞こえるくらいのものでありました。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ヹルハアレンの詩が近世の鋼鉄で出来た器械の壮大なおとに富んで居るのを更に押し進めたものだとも見られる。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
それは、ちかくのよせ(落語らくご講談こうだんなどのかかる小屋こや)のたいこのおとで、かえりのひとがぞろぞろでてきたので、朝吹あさぶきはもうどうすることもできませんでした。
この茅葺かやぶきは隣に遠い一軒家であった。加之しか空屋あきやと見えて、内は真の闇、しずまり返って物のおとも聞えなかった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
妙源 みんな恐ろしさに耳の中まで慄えるので、自分の血のめぐるおとがいろいろな物のにきこえるのだ。
道成寺(一幕劇) (新字新仮名) / 郡虎彦(著)
兵士へいし軍楽ぐんがくそうしますのはいさましいものでございますが、の時は陰々いん/\としてりまして、くつおともしないやうにお歩行あるきなさる事で、これはどうも歩行あるにくい事で
牛車 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
罌粟けしはなあいの疲のねむり、片田舍の廢園。蓬生よもぎふなかに、ぐつすりねむるまろ寢姿ねすがた——靴のおとにも眼が醒めぬ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
きたからつめたいかぜて、ひゆうとり、はんのはほんたうにくだけたてつかゞみのやうにかゞやき、かちんかちんとがすれあつておとをたてたやうにさへおもはれ
鹿踊りのはじまり (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
いたのとあばれたので幾干いくらむねがすくとともに、次第しだいつかれてたので、いつか其處そこてしまひ、自分じぶん蒼々さう/\たる大空おほぞら見上みあげてると、川瀬かはせおと淙々そう/\としてきこえる。
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
法華經云、諸法實相しよほふじつさう天台云てんだいにいはく聲爲佛事等云々せいゐぶつじとううんぬん。日蓮又かくの如く推したてまつる。たとへばいかづちおとみゝしい(つんぼ)の爲に聞くことなく、日月の光り目くらのためにことなし。
室が寂然ひつそりしてゐるので、時計とけいの時をきざおとが自分の脈膊みやくはくうま拍子ひやうしを取つてハツキリ胸に通ふ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)