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其晩
其晩宗助は
裏から
大きな
芭蕉の
葉を二
枚剪つて
來て、それを
座敷の
縁に
敷いて、
其上に
御米と
並んで
涼みながら、
小六の
事を
話した。
其晩、
郵便局長のミハイル、アウエリヤヌヰチは
彼の
所に
來たが、
挨拶もせずに
匆卒彼の
兩手を
握つて、
聲を
顫はして
云ふた。
其晩は
湿やかな
春雨が
降つてゐた。
近所隣は
闃として、
樋を
洩れる
細い
雨滴の
音ばかりがメロヂカルに
聞える。が、
部屋には
可恐しい
影が
潜んでゐた。