其晩そのばん)” の例文
其晩そのばん宗助そうすけうらからおほきな芭蕉ばせうを二まいつてて、それを座敷ざしきえんいて、其上そのうえ御米およねならんですゞみながら、小六ころくことはなした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
其晩そのばん郵便局長いうびんきよくちやうのミハイル、アウエリヤヌヰチはかれところたが、挨拶あいさつもせずに匆卒いきなりかれ兩手りやうてにぎつて、こゑふるはしてふた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
其晩そのばん湿しめやかな春雨はるさめつてゐた。近所隣きんじよとなりひつそとして、れるほそ雨滴あまだれおとばかりがメロヂカルにきこえる。が、部屋へやには可恐おそろしいかげひそんでゐた。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
やつぱり片袖かたそでなかつたもの、そしてかはおつこちておぼれさうだつたのをすくはれたんだつて、母様おつかさんのおひざかれてて、其晩そのばんいたんだもの。だからゆめではない。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
が、その美しい夫人の魅力を以てしても、其晩そのばんの話題ばかりは、うすることも出来なかったのです。
悪魔の顔 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
其晩そのばん宗助そうすけゆめには本多ほんだ植木鉢うゑきばち坂井さかゐのブランコもなかつた。かれは十時半頃じはんごろとこはひつて、萬象ばんしやうつかれたひとやういびきをかいた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
翌日あくるひになると帰さない、其晩そのばん女中が云ふには、お奥でやかたが召しますつさ。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
代助は其晩そのばん自分の前途をひどく気に掛けた。もしちゝから物質的に供給の道をとざされた時、彼は果して第二の寺尾になり得る決心があるだらうかをうたぐつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ほんママうに其晩そのばんほどこはかつたことはない。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
くつばかりぢやない。うちなかまでれるんだね」とつて宗助そうすけ苦笑くせうした。御米およね其晩そのばんをつとため置炬燵おきごたつれて、スコツチの靴下くつした縞羅紗しまラシヤ洋袴ずぼんかわかした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)