さむ)” の例文
それから、おじいさんは、それは、またさむがりでありました。けれど、こうしたむずかしやのおじいさんでも、子供こどもきでした。
ものぐさじじいの来世 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そして背嚢から小さな敷布しきふをとり出してからだにまとい、さむさにぶるぶるしながら階段にこしかげ、手をひざに組み眼をつむりました。
ガドルフの百合 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
雨がしきりなので、かへるときには約束通りくるまを雇つた。さむいので、セルのうへへ男の羽織をせやうとしたら、三千代は笑つてなかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
伊那丸いなまるの一とうが立てこもる小太郎山こたろうざんとりでが、いま、立っている真上まうえだとは、ゆめにも知らずにいただけに、身のさむくしてしまった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むらさめ吹通ふきとほしたかぜに、大火鉢おほひばち貝殼灰かひがらばひ——これは大降おほぶりのあとの昨夜さくやとまりに、なんとなくさみしかつた——それがざかりにもさむかつた。
十和田の夏霧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
𤍠あついところからさむ地方ちほうくにつれて、そこに生育せいいくしてゐる樹木じゆもく種類しゆるいおよ森林しんりんかたち各々おの/\ことなつてゐる、とはいまはおはなししました。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
かれ前年ぜんねんさむさがきふおそうたときたねわづか二日ふつか相違さうゐおくれたむぎ意外いぐわい收穫しうくわく減少げんせうしたにが經驗けいけんわすることが出來できなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
葉末はずゑにおくつゆほどもらずわらふてらすはるもまだかぜさむき二月なかうめんと夕暮ゆふぐれ摩利支天まりしてん縁日ゑんにちつらぬるそであたゝかげに。
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
築山の草はことごとく金糸線綉墩きんしせんしゅうとんぞくばかりだから、この頃のうそさむにもしおれていない。窓の間には彫花ちょうかかごに、緑色の鸚鵡おうむが飼ってある。
奇遇 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
猿羽織さるばおりつて、とうさんの田舍ゐなか子供こどもは、おさるさんのそで羽織はおりのやうなものをました。さむくなるとそれをました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
あかつきかけて降りだした時節はずれのさむしぐれ——さんざめかして駕籠の屋根を打つその音を、お艶はこの日ごろ耳にする色まちの絃歌
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
なんてまぶしくって、人間にんげんがどっさりいて、馬だのくるまだのがはしりまわって、おまけに、さむい身をきるような風が、きまわっているのだろう。
「バカなまねをするんじゃないよ。あの連中れんちゅうは、いまにおなかがすいたり、さむくてこごえたりするにきまってるんだから。」
そして彼等かれらは、その立派りっぱつばさひろげて、このさむくにからもっとあたたかくにへとうみわたってんでときは、みんな不思議ふしぎこえくのでした。
くさ邪魔じやまをして、却々なか/\にくい。それにあたらぬ。さむくてたまらぬ。蠻勇ばんゆうふるつてやうやあせおぼえたころに、玄子げんし石劒せきけん柄部へいぶした。
夜雨やうあきさむうしてねむりらず残燈ざんとう明滅めいめつひとり思うの時には、或は死霊しりょう生霊いきりょう無数の暗鬼あんきを出現して眼中に分明なることもあるべし。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
きみのおかげで、さむさからも空腹くうふくからものがれることができたよ。そのうえ、おちついてたばこをすうことまでできたんだ。まったく感謝かんしゃするよ。
さむかんずるのはやまふかいからではない。ここはもうそろそろ天狗界てんぐかいちかいので、一たい空気くうきおのずとちがってたのじゃ。
それは、まださむい春のはじめで、一ばん汽車きしゃにのるために、あけちかく、山をおりていくいのきちたちのあたまの上には、ほしがきらきらかがやいていた。
ラクダイ横町 (新字新仮名) / 岡本良雄(著)
晝のうちはあんなにほか/\とあたゝかくしてゐながら、なんとなくたもとをふくかぜがうそさむく、去年きよねんのシヨールのしま場所ばしよなぞをかんがへさせられたりしました。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
葬式とむらひをしたのは五ねんばかりまへで、お正月しやうぐわつもまださむ時分じぶんでした。松戸まつど陣前ぢんまへにゐる田村たむらといふ百姓家しやうやひとがお葬式とむらひをしてくれたんで御在ございますが……。
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
ふゆさむい日でした。馬子まご馬吉うまきちが、まちから大根だいこんをたくさんうまにつけて、三さき自分じぶんむらまでかえって行きました。
山姥の話 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
……それに貴さん何んぢやい、お光にばツかりひよこ/\お辭儀しやがつて、この大黒屋の亭主も同樣な俺に、『おさむなりました』の一言も言やがらん。
兵隊の宿 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
それじきは、いろし、ちからをつけ、いのちぶ。ころもは、さむさをふせぎ、あつさえ、はぢをかくす。人にものをする人は、人のいろをまし、ちからをそへ、いのちぐなり。
次いで白髥橋下の獄門舟事件と前代未聞の残虐に世人せじん心胆しんたんさむからしめた怪賊は、更らに毒手を伸ばして
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
火星くわせいにも北極ほつきよくのやうなさむいところがある。『極冠きよくくわん』とんでる。まんなかのは火星くわせいにのぼつたつきだ。火星くわせいさむいところは零下れいか四十から零下れいか七十さむさだ。
ヨーロッパでは舊石器時代きゆうせつきじだい氣候きこう非常ひじようさむかつたので、洞穴ほらあななか人間にんげんんでゐたことがありました。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
名もなつかしき梅津うめづの里を過ぎ、大堰川おほゐがはほとり沿ひ行けば、河風かはかぜさむく身にみて、月影さへもわびしげなり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
おさへたりと云ふに左京は是をきいて大いにいぶかり我々は大雪を踏分ふみわけさむさをいとはずふもとへ出てあみはつても骨折損ほねをりぞんして歸へりしに貴殿は内に居てあたり乍ら千兩程の大鳥を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
總身そうみさむって、血管中けっくわんぢゅうとほおそろしさに、いのちねつ凍結こゞえさうな! いっみな呼戻よびもどさうか? 乳母うば!……えゝ、乳母うばなんやくつ? おそろしいこの
『もちろんぼくはじめてだ。こんなにべるとはおもはなかつたよ。愉快々々ゆくわいゆくわい。そりやさうと大分だいぶんさむくなつてた。ラランよ、ヱヴェレストのてつぺんはまだとほいか。』
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
この間長きときは三十分もあらん。あたりの茶店より茶菓子ちゃがしなどもてれど、飲食のみくわむとする人なし。下りになりてよりきりふかく、背後うしろより吹くかぜさむく、忽夏を忘れぬ。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
もとからずんば、このところしたがはん。(六〇)としさむうしてしかのち松柏しようはくしぼむにおくるるを
隙間風すきまかぜがきらいで、どこででもさむそうに帽子ぼうしをかぶっていたが、その帽子をぬぐと、円錐形えんすいけいの赤い小さな禿頭はげあたまがあらわれた。クリストフとおとうとたちはそれを面白おもしろがった。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
旅裝束たびしようぞくをとほして、さむさがこたへるとおもつてゐたが、なるほどやついたはずだ。あのむかうにえる、るこまのくらといふまへの乘鞍のりくら高山たかやまに、ゆきつもつてゐる。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
台所ののすみにこしをかけて、さむさでひどく弱っているジョリクールをあたためていた。さるは毛布もうふにくるまっていても、やはり苦しがって、うめき声をやめなかった。
そんな囚人のようなさむざむとした毎日をつみかさねているうち、いつのまにか、ぼくにもちょうど同僚と同じ病人としての感覚が生まれてきて、ひどく内省的で悲観的な
煙突 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
苅薦かりごも一重ひとへきてされどもきみとしればさむけくもなし 〔巻十一・二五二〇〕 作者不詳
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
山田やまだ書斎しよさいは八ぢやうでしたが、それつくゑ相対さしむかひゑて、北向きたむきさむ武者窓むしやまど薄暗うすぐら立籠たてこもつて、毎日まいにち文学の話です、こゝ二人ふたりはなならべてるから石橋いしばししげく訪ねて来る
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
秋らしくみ返つた夜氣やきのややはださむいほどに感じられた靜かな夜の十二時近く、そして
処女作の思い出 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
午夜ごやふけて揺るるものあり。わが窓の硝子戸のそと真透ますかせば月に影してこごえ雲絶えず走れり。円かなる望月ながら、生蒼なまあをくまする月の、傾けばいよよ薄きを、あなさむや揺るる竹あり。
(外をあらしの吹き過ぎる音がする)きょうもたいそう立腹して吉助きちすけ殿の家に行かれたのだけれど、めんどうな事にならなければよいが。(立ちあがり、戸をあけて空を見る)おゝさむ
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
往昔むかしから世界せかいだい一の難所なんしよ航海者かうかいしやきもさむからしめた、紅海こうかいめい死海しかいばれたる荒海あらうみ血汐ちしほごと波濤なみうへはしつて、右舷うげん左舷さげんよりながむる海上かいじやうには、此邊このへん空氣くうき不思議ふしぎなる作用さようにて
地気は冷際れいさいかぎりとして熱際ねつさいいたらず、冷温れいをんの二だんは地をる事甚だとほからず。富士山は温際をんさいこえ冷際れいさいにちかきゆゑ、絶頂ぜつてう温気あたゝかなるきつうぜざるゆゑ艸木くさきしやうぜず。夏もさむ雷鳴かみなり暴雨ゆふだち温際をんさいの下に見る。
みやもりにはたくさんの老木らうぼくがありました。大方おほかたそれはまつでした。やまうへたかみからあたりを睨望みをろして、そしていつもなんとかかとか口喧くちやかましくつてゐました。あつければ、あつい。さむければ、またさむいと。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
あついにつけ、さむいにつけ、せつないおもいは、いつも谷中やなかそらかよってはいたが、いまではおまえ人気娘にんきむすめ、うっかりあたしがたずねたら、あらぬ浮名うきなてられて、さぞ迷惑めいわくでもあろうかと、きょうがまで
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
と、モイセイカはさむさにふるへながら、院長ゐんちやう微笑びせうする。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「ああさむ……急に寒くなっちゃった」
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「お、さむ。まだ寢ませんか、親分」
ゆるにきしめく夢殿ゆめどの夕庭ゆふにはさむ
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)