格別かくべつ)” の例文
「何でエ。格別かくべつのこともねえじゃアねえか。面白くもねえ。お命頂戴、只今参上はいいが、一たいいつ来るっていうんだろう?」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そうしたことは格別かくべつめずらしいことでもなんでもないのですが、場合ばあい場合ばあいとて、それがんでもない大騒おおさわぎになってしまいました。——
其方儀久兵衞を盜賊たうぞくと知らずと雖も不正の金子をあづか置事おくこと不屆に付屹度きつととがめ申付べきの處格別かくべつの御憐愍を以て過料錢七貫文申付る
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ちょうは、このときに、格別かくべつ、ほかへいってみたいなどというかんがえをもちませんでしたから、みつばちのいうことをわらってきいていました。
ちょうと怒濤 (新字新仮名) / 小川未明(著)
横穴よこあななかでも格別かくべつめづらしい構造かうぞうではいが、ゆかみぞとがやゝ形式けいしきおいことなつてくらゐで、これ信仰しんかうするにいたつては、抱腹絶倒はうふくぜつたうせざるをない。
野田のだ卯平うへい役目やくめといへばよるになつておほきな藏々くら/″\あひだ拍子木ひやうしぎたゝいてあるだけ老人としよりからだにもそれは格別かくべつ辛抱しんぼうではなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
はツ、はじめましてお目通めどほりをつかまつります。へえ、今度このたびはまた格別かくべつ御註文ごちうもんおほせつけられまして、難有ありがた仕合しあはせにござります。
人参 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そりゃァもう仙蔵せんぞうのいうとお真正しんしょう間違まちげえなしの、きたおせんちゃんを江戸えど町中まちなかたとなりゃァ、また評判ひょうばん格別かくべつだ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ずうっとむこうのくぼみで、達二の兄さんの声がしました。牛は沢山の草を見ても、格別かくべつうれしそうにもしませんでした。
種山ヶ原 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
僕はそのぜんを前に、若槻と献酬けんしゅうを重ねながら、小えんとのいきさつを聞かされたんだ。小えんにはほかに男がある。それはまあ格別かくべつ驚かずともい。
一夕話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
はやるほどなほ落附おちつきてお友達ともだちたれさま御病氣ごびやうきときく格別かくべつなかひとではあり是非ぜひ見舞みまひまをしたくぞんじますがと許容ゆるし
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
やがあめまつたれるとともに、今度こんど赫々かく/\たる太陽たいようは、ごと吾等われらうへてらしてた。印度洋インドやうちう雨後うご光線くわうせんはまた格別かくべつで、わたくしころされるかとおもつた。
窯焚かまたきの百助ももすけ山目付やまめつけの鈴木杢之進もくのしん、庭木戸から入ってきてこのていを眺めたが、格別かくべつ目新しいことでもないので、相変らずだな、と思って縁へ寄ってきた。
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
無論むろん、そんなことで筆頭ひつとうなどゝみとめられても、格別かくべつうれしくもないが、そも/\わたし寫眞しやしんはじめたのは、十一二の時分のことで、年ごうにすれば、明治めいち三十五六年
實際頭巾にて覆はれるべき耳の形がそとに作り設けて有ればとて格別かくべつに不審をいだくにも及ばざるべし。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
そのうちの一人は、助手の小山すみれ女史であって、彼女がそこに居ることには格別かくべつ愕きはしない。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
一平 僕はあの小説を読むと描き方はやわらかく感じるが、あの女は格別かくべつ新しいとは思わないね。
新時代女性問答 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それでこの二人ふたりあひだには、號外がうぐわい發行はつかう當日たうじつ以後いご今夜こんや小六ころくがそれをしたまでは、おほやけには天下てんかうごかしつゝある問題もんだいも、格別かくべつ興味きようみもつむかへられてゐなかつたのである。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
其まゝに大きくして、内のよめにするのが多い。所謂いわゆるつぼみからとる花嫁御はなよめご」である。一家総労働の農家では、主僕の間にへだてがない様に、実の娘と養女の間に格別かくべつ差等さとうはない。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
十年以前まだ両親のあったころは、年に二度や三度は必ず帰省きせいもしたが、なんとなしわが家という気持ちが勝っておったゆえか、来て見たところで格別かくべつなつかしい感じもなかった。
落穂 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
ぴきの白い蝶だ、最早もう四辺あたりは薄暗いので、よくも解らぬけれど、足下あしもとあたりを、ただばたばたと羽撃はうちをしながら格別かくべつ飛びそうにもしない、白い蝶! 自分は幼い時分の寐物語ねまのかたりに聞いた
白い蝶 (新字新仮名) / 岡田三郎助(著)
そして格別かくべつあぢだとはんばかりにのどらした。さむさもさむさだが、自分じぶん眼玉めだまがたべられるなんていたので、おもわずブルルッと身震みぶるひしたペンペは、さつそく片方かたほう眼玉めだまをたべてみた。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
これはまた格別かくべつにぎはひ、郡司大尉ぐんじたいゐ壮行さうかうをまのあたり見て、子やまごかたりて教草をしへぐさにせんと、送別さうべつほか遊人いうじんも多くして、かへさはつゑこゝきしもすくなからで、また一倍いちばいにぎはひはありしならん
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
夫婦ぐらしなれば格別かくべつ、もしも三、五人の子供または老親あれば、歳入さいにゅうを以て衣食を給するにらず。故に家内かない力役りきえきたうる者は男女を問わず、或は手細工てざいく或は紡績ぼうせき等のかせぎを以てかろうじて生計せいけいすのみ。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
女人禁制にょにんきんせい土地柄とちがら格別かくべつのおもてなしとてできもうさぬ。ただいささか人間離にんげんばなれのした、一ぷうかわっているところがこの世界せかい御馳走ごちそうで……。』
彼等かれらしろ手拭てぬぐひあつまつてはるかひとほか師匠ししやううち格別かくべつ利益りえきもなく彼等かれら自分等じぶんらのみが一にちたのしくらるのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
かはし候由尤も其節長庵が體裁ありさま甚だ以て如何敷いかゞしき趣きに有之候旨に御座候之に依て右忠兵衞證據人に相立あひたて此段御訴訟申上奉つり候何卒なにとぞ格別かくべつの御慈悲を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
其後そののちまたくわい此所こゝつたが、格別かくべつものなかつた。發掘はつくつはそれりであるが、表面採集ひやうめんさいしふにはそれからも度々たび/″\つた。
ちゝにまで遠慮ゑんりよがちなればおのづからことばかずもおほからず、一わたしたところでは柔和おとなしい温順すなほむすめといふばかり、格別かくべつ利發りはつともはげしいともひとおもふまじ
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
はあ、御串戲ごじようだんをなさりますな、貴下あなたからお酒錢さかてなんぞ、うして餘分よぶん御祝儀ごしうぎねえさんたちにいたゞいてります。格別かくべつをつけてお供申ともまをせとことで。
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
古道具屋ふるどうぐやは、それを格別かくべつ、ありがたいともおもわぬようすで、金銀細工きんぎんざいくかざりといっしょにってゆきました。
さかずきの輪廻 (新字新仮名) / 小川未明(著)
數年すうねんらいなみまくらわた水夫すゐふども未曾有みそういうかう航海かうかいだとかたつたほどで、したがつ其間そのあひだには格別かくべつしるほどこともない。
とにかくあんまりつよくもなく、かと言つてまた格別かくべつはづかしいほどよわわけでもなく、風も先づ正正堂堂どうどうとして至極しごくち着きはらつた方、正に兄たりかたく弟たりかたしのくみ合せだ。
作者さくしやはさつき、「下人が雨やみを待つてゐた」と書いた。しかし、下人げにんは、雨がやんでも格別かくべつどうしようと云ふ當てはない。ふだんなら、勿論もちろん、主人の家へ歸る可き筈である。
羅生門 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
織屋おりや仕舞しまひ撚糸よりいとつむぎと、白絽しろろを一ぴき細君さいくんけた。宗助そうすけこのつまつたくれに、なつひと餘裕よゆうのあるものはまた格別かくべつだとかんじた。すると、主人しゆじん宗助そうすけむかつて
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
一平 一つは外国からの格別かくべつ新しい思潮しちょうが入らなくなったいきおいもありはしないか。
新時代女性問答 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
標本みほんとしてわたくし彼所あそこ実家さと忠僕ちゅうぼくおよ良人おっとったはなしなりといたしましょうか。格別かくべつ面白おもしろいこともございませぬが……。
(三)だい二の横穴よこあな數人すうにん合葬がつそうしたるは主人しゆじんおよ殉死者じゆんししやれたりと解釋かいしやくせず。身分みぶん格別かくべつ隔絶かくぜつなき武人ぶじんの、同日どうじつ戰死者せんししや合葬がつそうしたるもの考證かうしようす。
不味相まづさう容子ようすをしてはしるのは卯平うへいすべての場合ばあひつうじての状態じやうたいなので、おつぎのには格別かくべつ注意ちういおこさしむべき動機どうきひとつもとらへられなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
いくら惡人あくにんでも、親子おやこじやうはまた格別かくべつへ、正直しやうじきなる亞尼アンニーは「一寸ちよつとで。」とそのをば、其邊そのへんちいさい料理屋れうりやれてつて、自分じぶんさびしい財嚢さいふかたむけて
二人ふたりは、たぶんそんなことだろうというようなもしたので、格別かくべつおどろきも、力落ちからおとしもしませんでした。
野菊の花 (新字新仮名) / 小川未明(著)
はか這入はいるまで八ゑん月給げつきうではるまいとおもひますに、其邊そのへん格別かくべつ御心配ごしんぱいなくと見事みごとへば、母親はゝおやはまだらにのこくろして、るほど/\立派りつぱきこえました
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
島秀之助が今日の振舞ふるまひのちに關東へ聞え器量きりやう格別かくべつの者なりとて元文ぐわんぶん三年三月京都町奉行まちぶぎやうを仰付られ島長門守しまながとのかみいひしは此人なりし同五年江戸町奉行となり延享えんきやう三年寅年とらどし免ぜらる
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
最惜いとしげな。はやくから御兩親ごりやうしんにおわかれなすつた貴下あなたでござります。格別かくべつのお心持こゝろもち、おはかまつかぜおとが、みねからして此處こゝまでなあ……なまいだぶ、なまいだぶ、なまいだぶ、……
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「昔々」と云へばすで太古緬邈たいこめんばくの世だから、小指ほどの一寸法師いつすんぼふしが住んでゐても、竹の中からお姫様が生れて来ても、格別かくべつ矛盾むじゆんの感じが起らない。そこであらかじめ前へ「昔々」と食付くつつけたのである。
澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ふゆの、あるさむさむばんのこと、格別かくべつおとうとわるいことをしたのではないのに、あにおとうとをいじめました。
白すみれとしいの木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
たゞしその時代じだいには、精々せい/″\打製石斧だせいせきふか、石鏃屑せきぞくくづくらゐで、格別かくべつおどろくべき珍品ちんぴんらぬのであつた。
結構人けつこうじん旦那だんなどの、うぞしたかとおひのかゝるに、いえ、格別かくべつことでも御座ござりますまいけれど、仲町なかまちあねなにやら心配しんぱいことるほどに、此方こちからけばいのなれど
うらむらさき (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
うぢや、それとも、御身達おみたちに、煙草たばこ吸殻すゐがら太陽たいやうほのほへ、悪魔あくま煩脳ぼんなう焼亡やきほろぼいて美女びぢよたすける工夫くふうがあるか、すりや格別かくべつぢや。よもあるまい。るか、からう。……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「しかしそののち格別かくべつに、御歎きなさる事はなかったのですか?」
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)