むか)” の例文
あはれ新婚しんこんしきげて、一年ひとゝせふすまあたゝかならず、戰地せんちむかつて出立いでたつたをりには、しのんでかなかつたのも、嬉涙うれしなみだれたのであつた。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
この夏もおたがひたび先や何かで久しくかほを合せなかつた二人、さて新秋になると、むかうはあた海で勉強べんけうして大につよくなつたと自しんを持ち
三十七ねんぐわつ十四幻翁げんおう望生ぼうせい二人ふたりとも馬籠まごめき、茶店ちやみせ荷物にもつ着物きものあづけてき、息子むすこ人夫にんぷたのんで、遺跡ゐせきむかつた。
私は番人夫婦にむかって、「お前さん達は長年この別荘に雇われていなさるのかね」と、何気なく尋ねると、夫の方は白髪頭しらがあたまを撫でて
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
つまり河流かりゆう上汐あげしほとが河口かこう暫時ざんじたゝかつて、つひ上汐あげしほかちめ、海水かいすいかべきづきながらそれが上流じようりゆうむかつていきほひよく進行しんこうするのである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
もう加減かげんあるいてつて、たにがお仕舞しまひになつたかとおも時分じぶんには、またむかふのはう谷間たにま板屋根いたやねからけむりのぼるのがえました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
モリエエルは年若な妻に対する誘惑の多い事を感じて人知れず煩悶する。細君にむかつて其れとなく「自重せよ、良人をつとの愛を反省せよ」
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
翌朝よくちょうセルゲイ、セルゲイチはここにて、熱心ねっしんに十字架じかむかって祈祷きとうささげ、自分等じぶんらさき院長いんちょうたりしひとわしたのであった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
女はくたぶれたと見えて、わたしとむかあひに、けれども、すこし離れた処に腰を下し、スカートを引延すやうにして膝をかくした。
畦道 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
れは此樣こん無學漢わからづやだのにおまへもの出來できるからね、むかふのやつ漢語かんごなにかで冷語ひやかしでもつたら、此方こつち漢語かんごかへしておくれ
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
南洲乃ち三十圓を與へて曰ふ、汝に一月ひとつきほう金を與へん、汝は宜しく汝の心にむかうて我が才力さいりき如何を問ふべしと。其人た來らず。
ここでは国見岳(四四二〇尺)が正面に見え、左に妙見右に江丸えまると外輪山が、環状に堵列とれつして普賢ふけんむかっている有様ありさまがよく分かる。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
日出雄ひでをや、あのむかふにえるたかやまおぼえておいでかえ。』と住馴すみなれし子ープルス市街まち東南とうなんそびゆるやまゆびざすと、日出雄少年ひでをせうねん
もう一おせんはおくむかって、由斎ゆうさいんでた。が、きこえるものは、わずかにといつたわってちる、雨垂あまだれのおとばかりであった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
梅子は何にも云はずに、ひたいに八の字をせて、笑ひながら手を振り振り、代助の言葉を遮ぎつた。さうして、むかふからう云つた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
二人は社にむかってゆく、空はいまだ全く暗くなってはしまわぬ、右手の農家の前では筒袖をきて手拭をかぶった男が藁しべなどを掃いている
八幡の森 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
御領地は盛岡で十萬石、南部大膳大夫樣はむかづるの紋ぢや御座いませんか、その上お下屋敷は麻布南部坂で、召使女中には御自慢で京女を
むか三軒さんげん両隣りやうどなりのおてふ丹次郎たんじらうそめ久松ひさまつよりやけにひねつた「ダンス」の Missミツス B.ビー A.エー Bae.べー 瓦斯ぐわす糸織いとおり綺羅きら
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
しか彼等かれらは一ぱういうして矛盾むじゆんした羞耻しうちねんせいせられてえるやうな心情しんじやうからひそか果敢はかないひかりしゆとしてむかつてそゝぐのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
そういながら、わたくしるべく先方むこうおどろかさないように、しずかにしずかにこしおろして、この可愛かわい少女しょうじょとさしむかいになりました。
それでも感心かんしんなことには、畫板ぐわばんむかうと最早もはや志村しむらもいま/\しいやつなどおもこゝろえてはうまつたこゝろられてしまつた。
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
やつと隧道トンネルたとおもふ——そのときその蕭索せうさくとした踏切ふみきりのさくむかうに、わたくしほほあかい三にんをとこが、目白押めじろおしにならんでつてゐるのをた。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そしてもちろんそこにはその童子どうじが立っていられましたのです。須利耶さまはわれにかえって童子にむかってわれました。
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
それはまだたまごからいくらもたない子雁こがんで、たいそうこましゃくれものでしたが、その一方いっぽう子家鴨こあひるむかってうのに
ですから、魔女まじょすこしもがつかずにましたが、、ラプンツェルは、うっかり魔女まじょむかって、こういました。
なほまたぱうからかんがへると、投機思惑とうきおもわく圓貨ゑんくわむかつておこなはるれば、それだけ爲替相場かはせさうば急激きふげきあがるとふことは當然たうぜんであり、急激きふげきあが場合ばあひには
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
「わたしもヴォルデマールさんも、つまらないむかぱらを立てたものだわ。あなたは、皮肉を言うのが楽しみなのね……たんとおっしゃるがいいわ」
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
られては野宿のじゆくでもしなければなるまい、宿屋やどや此近所このきんじよにはなし、うムむかうにえるが人家じんかがあるのだらう。
斯樣かやうにすれば自分じぶん發明心はつめいしん養成やうせいし、事物じぶつむかつて注意力ちゆういりよくさかんにするやうになりませう。すなは學生がくせい自營心じえいしんやしな獨立心どくりつしんやしな所以ゆゑんでありませう。
女教邇言 (旧字旧仮名) / 津田梅子(著)
あるひとが、このくにでいちばん物知ものしりといううわさのたかひとむかっていました。物知ものしりはもうだいぶとしをとった、白髪しらがのまじった老人ろうじんでありました。
明るき世界へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
チャリ敵の伝兵衛、大して度胸もない癖に、すぐむかぱらをたてる性質だから、たちまち河豚提灯ふぐちょうちんなりにつらふくらし
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
サン はて、飼犬いぬたゞけでもむかうてゆくわい。モンタギューの奴等やつらりゃ、をとこでもをんなでもかまうたことァない。
ほかものらはさいはひにれを坐布團ざぶとんにして其上そのうへ彼等かれらひぢせ、其頭そのあたまえてむかあはせになつてはなしてゐました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
A フン、それは相談さうだんをしないはうわるいんだが、むかふで相談さうだんしなけりや此方こつちから相談さうだんしかけたらいぢやないか。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
生は歌よみにむかいて何のうらみも持たぬにかく罵詈がましき言を放たねばならぬように相成あいなり候心のほど御察被下度おさっしくだされたく候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
このひとたちはおもひ/\にだてをめぐらしてひめれようとしましたが、たれ成功せいこうしませんでした。おきなもあまりのことにおもつて、あるときひめむかつて
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
木之助は今までに仏壇にむかって胡弓を弾いたことはなかったので、変なそぐわない気がした。だが思い切って弾き出して見ると、じきそんな気持ちは消えた。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
地球上ちきゆうじようでも、赤道せきどう中心ちゆうしんにして兩極りようきよくむかふにしたがひ、また海岸かいがんからたかやまのぼるにつれて、その寒暖かんだんおうじ、しぜんとそこにえる樹木じゆもく種類しゆるいちが
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
たまらんな、う取付けられちや!」と周三は、その貧弱ひんじやくきわまる經濟けいざい前途ぜんとむかツて、少からぬ杞憂きいういだいた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
見廻せば一どう平伏へいふくある時に伊豆守殿は伊賀亮にむかはれ申さるゝ樣天一坊殿御出生ごしゆつしやうならびに御成長の所は何の地なるやとたづねらるゝに此時常樂院は懷中くわいちうより書付かきつけ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
いつもりの玄竹げんちくると、但馬守たじまのかみ大抵たいていむかひではなしをして障子しやうじには、おほきな、『××の金槌かなづち』と下世話げせわ惡評あくひやうされる武士髷ぶしまげと、かたあたまとがうつるだけで
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
そんなにかやがないならば、むかうにえる、あの小松こまつしげつてゐる、そのしたのかやをば、おりなさいな。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
それとも一方いつぱうには小説雑誌の気運きうん日増ひましじゆくして来たので、此際このさいなにか発行しやうと金港堂きんこうどう計画けいくわくが有つたのですから、早速さつそく山田やまだ密使みつしむかつたものと見える
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ニューヨークのマンハッタン銀行のまんむかえに、ジョン・グレージーというダイヤモンド商があった。
変な恋 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
リゼットはマギイ婆さんにむかっても同様に盃を挙げた。それに対して婆さんは盃を返礼した後った。
売春婦リゼット (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そうすれば、椎の小枝を折ってそれに飯を盛ったと解していいだろう。「片岡のこのむかしひ蒔かば今年の夏の陰になみむか」(巻七・一〇九九)もしいであろうか。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
火鉢ひばちあかいのも、鐵瓶てつびんやさしいひゞきに湯氣ゆげてゝゐるのも、ふともたげてみた夜着よぎうらはなはだしく色褪いろあせてゐるのも、すべてがみなわたしむかつてきてゐる——このとし
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
為めに頭をやさんとするもかなしいかな水なきを如何せん、鹽原君ぶる所の劔をきて其顔面にて、以て多少之をひやすをたり、朝にいたりてすこしく快方にむかひ来る。
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
むかうのきしかんとしたまひしに、ある学者がくしやきたりてひけるはよ。何処いづこたまふともしたがはん。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
朝日新聞社員あさひしんぶんしやゐん横川勇次氏よこかはゆうじしを送らんと、あさ未明まだきおきいでて、かほあらも心せはしく車をいそがせて向島むかふじまへとむかふ、つねにはあらぬ市中しちうにぎはひ、三々五々いさましげにかたふて
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)