まよ)” の例文
四国しこくしまわたって、うみばたのむら托鉢たくはつしてあるいているうちに、ある日いつどこでみち間違まちがえたか、山の中へまよんでしまいました。
人馬 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
太郎たろうは、もしや、おじいさんが、この真夜中まよなか雪道ゆきみちまよって、あちらの広野ひろのをうろついていなさるのではなかろうかと心配しんぱいしました。
大きなかに (新字新仮名) / 小川未明(著)
二人の青年紳士しんしりょうに出てみちまよい、「注文ちゅうもんの多い料理店りょうりてん」にはいり、その途方とほうもない経営者けいえいしゃからかえって注文されていたはなし。
トーマスは、さんさんとかがやく太陽たいようの下で、いつまでも、どちらをはくかまよいつづけて、ぼんやりとくつをみながらすわっていた。
けれどもまえのようにやはりかれは考えを一つに集めることができなかった。かれの目は川のこちらの岸から向こう岸へとまよい始めた。
御身おんみるとおり、こちらの世界せかいではこころ純潔じゅんけつな、まよいのすくないものはそのまま側路わきみちらず、すぐに産土神うぶすなのかみのお手元てもときとられる。
されど、百万遍のまよごと何のえきなけれど聞いてつかわすべしとの仰せをさいわい、おのが心事を偽らず飾らずただ有りのままに申し上ぐべく候。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
峨峰がほう嶮山けんざんかこまれた大湖たいこだから、時々とき/″\さつきりおそふと、このんでるのが、方角はうがくまよふうちにはねよわつて、みづちることいてゐた。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
夕暮ゆふぐれうすくらきにまよこゝろもかきくらされてなにいひれんのすきよりさしのぞ家内かないのいたましさよ頭巾づきん肩掛かたかけはつゝめど
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
だからアッカには、これですっかり方角ほうがくがわかったのです。もうこうなれば、だれにもまよわされるようなことはありません。
切られどうさへ見えぬ此形容かたち何卒なにとぞ御情に御とむらひ下され度と涙ながらに頼みければ出家は點頭うなづき其は心やすき事かな早々さう/\生死のまよひを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
忍冬すひかづら素馨そけい濱萵苣はまさじまよはしの足りないほかの花よりも、おまへたちのはうが、わたしはすきだ。ほろんだ花よ、むかしの花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
凡ての職業を見渡したのちかれは漂泊者のうへて、そこでまつた。彼はあきらかに自分の影を、犬とひとさかいまよ乞食こつじきむれなかに見いだした。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
安政あんせい末年まつねん、一人の若武士わかざむらいが品川から高輪たかなわ海端うみばたを通る。夜はつ過ぎ、ほかに人通りは無い。しば田町たまちの方から人魂ひとだまのやうな火がちゅうまようて来る。
雨夜の怪談 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
そこで新吉は、曲馬団へ入ってそこをげ出すまでのいきさつと、東京へ叔父おじさんをたずねて来て、こうしてまよっていることを一通り話しました。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
ゆくときの困難こんなんにひきかえて、帰りは一歩もまようところなく、わずか六時間でサクラわんの波の音をきくことができた。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
さるをおんそうしば/\こゝにきたりて回向ゑかうありつる功徳くどくによりてありがたき仏果ぶつくわをばえたれども、かしら黒髪くろかみさはりとなりて閻浮えんぶまよふあさましさよ。
子をたずねまようお時の目には、ものかげからジイッとかずに見ていると、ああ煩悩ぼんのうにもふしぎ、この少年こそ、あるいは自分の子ではないか
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ゆめからゆめ辿たどりながら、さらゆめ世界せかいをさまよつづけていた菊之丞はまむらやは、ふと、なつ軒端のきばにつりのこされていた風鈴ふうりんおとに、おもけてあたりを見廻みまわした。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
無垢むく若者わかものまへ洪水おほみづのやうにひらけるなかは、どんなにあまおほくの誘惑いうわくや、うつくしい蠱惑こわくちてせることだらう! れるな、にごるな、まよふなと
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
無かった縁にまよいはかぬつもりで、今日に満足して平穏へいおんに日を送っている。ただ往時むかし感情おもいのこした余影かげが太郎坊のたたえる酒の上に時々浮ぶというばかりだ。
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
這麼事こんなことおそれるのは精神病せいしんびやう相違さうゐなきこと、と、かれみづかおもふてこゝいたらぬのでもいが、さてまたかんがへればかんがふるほどまよつて、心中しんちゆう愈々いよ/\苦悶くもんと、恐怖きようふとにあつしられる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
こひしい、なつかしい、ヂュリエット、なんとして今尚いまなうも艶麗あてやかぢゃ? しやかたちのない死神しにがみそなた色香いろかまようて、あのほねばかりの怪物くわいぶつめが、おの嬖妾おもひものにしようために
僕がここに自分のまよいの径路けいろを述べたのは、同じ問題に苦しめる人の参考にきょうしたいからである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
しかしそのうつくしいつまは、現在げんざいしばられたおれをまへに、なん盜人ぬすびと返事へんじをしたか? おれは中有ちううまよつてゐても、つま返事へんじおもごとに、嗔恚しんいえなかつたためしはない。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
しミツシヨンより金をもらこと精神上せいしんじやうかれかれ教会けうくわいの上にがいありとしんずればたゞちに之をつにあり、我れゆるとも可なり、我の妻子さいしにして路頭ろとうまよふに至るも我はしのばん
問答二三 (新字旧仮名) / 内村鑑三(著)
火はときどき思いだしたように、パチパチとえてはすぐえてしまう。のくさみを持ったけむりはいよいよ立ちまようのである。源四郎は二十二、三の色黒いろぐろ丸顔まるがおな男だ。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
人夫中にては中島善作なるものはりやうの為めつねゆきんで深山しんざんけ入るもの、主として一行の教導けうどうをなす、一行方向にまよふことあればただちにたくみに高樹のいただきのぼりて遠望ゑんぼう
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
へえゝ立派りつぱもんですねうも……あの向うへきますのはをんなぢやアございませんか。近「うよ。梅「へえゝをんなてえものは綺麗きれいなものですなア、をとこまよふな無理もありませんね。 ...
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
またろうされて千鳥ちどりむれいはよりいはへとびかうてましたが、かるさいにも絶望ぜつばうそこしづんだひとこゝろ益々ます/\やみもとめてまよふものとえ、一人ひとり若者わかものありて、あをざめたかほえりうづ
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
やがて日暮ひぐがたかれすぼらしい小屋こやまえましたが、それはいまにもたおれそうで、ただ、どっちがわたおれようかとまよっているためにばかりまだたおれずにっているよういえでした。
いまは、ふゆはるこゝろうへまよはずにゐられない時分じぶんである。こゝろではいつとも時候じこう區別くべつがつかないのに、るものは、すでにすくなくとも、ひとつだけははるらしいしるしをしめしてゐる。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
あをそらあさみづそこからはるかにふかとほひかつた。さうして何處どこからかまよして落付おちつ場所ばしよ見出みいだねてこまつてるやうなしろくもうつつて、勘次かんじはしればはしほどさきへ/\とうつつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
まよわないわけにいかなかったが、とにかく繃帯をといてみれば、どっちがほんものかニセかがわかるかもしれないと思い、ついに決心して壁の前に立っている博士の頭へ手をのばした。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
どうしてこの明るい家の中に、こんなくらさがあるのだらうとかんがへた。北側きたがはに一れんかべがあるこれだ。——しかし、私は間もなく周囲しうゐの庭にみだれてゐるとりどりのはないろまよひ出した。
美しい家 (新字旧仮名) / 横光利一(著)
一四三里遠き犬の声を力に、家に走りかへりて、彦六にしかじかのよしをかたりければ、一四四なでふ狐にあざむかれしなるべし。心のおくれたるときはかならず一四五まよはし神のおそふものぞ。
けれど夫人ふじん姿すがたえない『春枝夫人はるえふじん、々々。』とこゑかぎりにんでたがこたへがない、たゞ一度いちどはるか/\の波間なみまから、かすかにこたへのあつたやうにもおもはれたが、それもなみおとやら、こゝろまよひやら
おもなる病児びやうじかすかに照らされてまよひわづらふ。
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ものうじがほにたゆたひつ、まよひつ、やが
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
みたまよ何処いずこに まよいておわすか
七里ヶ浜の哀歌 (新字新仮名) / 三角錫子(著)
蝶は花野はなのの地にまよ
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
、いったところであるから、みちまよ心配しんぱいもなかった。二のすずめは、やまえて、湯気ゆげのぼ温泉おんせんへついたのでした。
温泉へ出かけたすずめ (新字新仮名) / 小川未明(著)
わたしたちが道にまよったことがわかると、もうからだになんの力ものこらないように思われた。親方はわたしのうでをった。
いけどしぢゞいが、女色いろまよふとおもはつしやるな。たぬまご可愛かあいさも、極楽ごくらくこひしいも、これ、おなことかんがえたゞね。……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
邪魔じやまいたつみなき者に罪を離縁りえん仕つりしにより私し共路頭ろとうまよひ候を村内の者共たつすゝめにまかせ里儀を惣内妻にいた候夫を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
むろん人間にんげんには、賢愚けんぐ善悪ぜんあく大小だいしょう高下こうげ、さまざまの等差とうさがあるので、仏教ぶっきょう方便ほうべん穴勝あながちわるいものでもなく、まよいのふかものわかりのわるいものには
わたしはもう自分じぶんながら自分じぶんふかつみまよいのために、このとおり石になってもなおくるしんでいるのでございます。
殺生石 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
雛菊ひなぎく釣舟草つりぶねさうひゆの花、もつと眞劍のまよはしよりも、おまへたちの方がわたしは好だ。ほろんだ花よ、むかしの花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
小鳥たちの中には、道にまよって遠い国に吹き流され、そこで、うえ死にしたものもありますし、つかれはてて海に落ちて、おぼれ死んだものもあります。
いくらめくらめっぽうに進んでも、けっして、まよう気づかいはないと、燕作はいつもの早足ぐせで、才蔵よりまえにタッタとかけていったが、やがてのこと
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)