はげ)” の例文
風がはげしくなり、足下あしもとくもがむくむくとき立って、はるか下の方にかみなりの音までひびきました。王子はそっと下の方をのぞいてみました。
強い賢い王様の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
此處ここは人の出入りがはげしくて、とても見張つては居られませんから、二十四日の晩からお糸は向島のれうへやつて置くつもりです。
……たびに、銀杏返いてふがへしくろあたまが、縦横たてよこはげしくれて、まんまるかほのふら/\とせはしくまはるのが、おほき影法師かげばうしつて、障子しやうじうつる……
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あゝ僕等は何うして恁う不幸ふかうなんだらう。精神上せいしんじようにも肉躰上にくたいじようにも、毎もはげしい苦痛ばかりを感じて、少しだツて安らかなときはありやしない。
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
そして、大体に於て、彼は親切で、度量があって、人物も高尚でしたが、心にはまるでその獅子のようにはげしいところが大いにありました。
はたけ作主さくぬしその損失そんしつ以外いぐわいにそれををしこゝろからかげいきほはげしくおこらうともそれはかへりみるいとまたない。勘次かんじせた茄子畑なすばたけもさうしておそはれた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
何かしら思いめているのか放心して仮面めんのような虚しさにあおざめていた顔が、瞬間しゅんかんカッと血の色をうかべて、ただごとでないはげしさであった。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
たゞ享保元年きようほがんねん西暦せいれき千七百十六年せんしちひやくじゆうろくねん)にける新燃鉢しんもえばち噴火ふんかは、霧島噴火史上きりしまふんかしじようおいもつとはげしく、したがつて最高さいこう損害記録そんがいきろくあたへたものであつた。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
我が胸板の上にせたが胸が氷のごとく冷えるのに反し顔は寝床ねどこのいきれのためにかっかっと火照ほてって歯痛がいよいよはげしくなるのにたまりかね
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
くさなか半身はんしんぼつして、二人ふたりはいひあらそつてゐた。をとこはげしくなにかいひながら、すぶるやうにをんなかた幾度いくど小突こづいた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
印度洋インドやうちう氣※きかうほど變化へんくわはげしいものはない、いまは五ぐわつ中旬ちうじゆんすゞしいときじつ心地こゝちよきほどすゞしいが、あつとき日本につぽん暑中しよちうよりも一そうあついのである。
しかし、いっそうおどろいたのは、その緻密な論理の中から、間歇的かんけつてきに、気味わるいほどのはげしい情熱と強い意力とがほとばしり出ることだった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
〔評〕伏水ふしみ戰を開き、砲聲はうせい大内おほうちに聞え、愈はげしく愈ちかづく。岩倉公南洲に問うて曰ふ、勝敗しようはい何如と。南洲答へて曰ふ、西郷隆盛在り、憂ふる勿れと。
長吉ちやうきちは外へ出ると急いで歩いた。あたりはまだあかるいけれどもう日はあたつてない。ごた/\した千束町せんぞくまち小売店こうりみせ暖簾のれんや旗なぞがはげしくひるがへつてる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
翌朝よくてうかれはげしき頭痛づつうおぼえて、兩耳りやうみゝり、全身ぜんしんにはたゞならぬなやみかんじた。さうして昨日きのふけた出來事できごとおもしても、はづかしくもなんともかんぜぬ。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
はげしい動作によって、身うちにち満ちているものをおどろかしはせぬかと、それが心配でならなかったように……。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
されば兀ちょろ爺とののしりたるはわざとになるべく、蹙足爺いざりじじいとはいつまでも起き出でぬ故なるべし。男は罵られてもはげしくはおこらず、かえって茶にした風にて
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
たとえば宮古みやこ群島の方は、近世幾度かの地変があり、また住民の闘諍とうそう盛衰がはげしかったためか、民居耕田の跡が移り動き、且つ一般に稲作はやや衰えている上に
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
私は百合のはなを手折つて来てつままくら元にしてやつた。すると、つまはげしい香ひのためにせきつゞけた。
美しい家 (新字旧仮名) / 横光利一(著)
……相かわらず働きがはげしいので、私のような者には、身体からだがとても続かぬと思いましたから止めようと思いましたが、然し倒れる迄は病院に居る積りで居ります。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それからもなく、わたくし随分ずいぶんはげしい雷雨らいう実況じっきょうせていただいたのでございますが、外観がいかんからいえばそれは現世げんせ目撃もくげきした雷雨らいう光景こうけいとさしたる相違そういもないのでした。
こう思うと、例のセンチメンタルな感情がはげしく胸にせまってきて、涙がおのずと押すように出る。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
空のうるわしさ、地の美しさ、万象のたえなる中に、あまりにいみじき人間美は永遠を誓えぬだけに、もろき命にはげしき情熱の魂をこめて、たとえしもない刹那せつなの美を感じさせる。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
した徉徜さまよつてると何處どこともなくッとこゑがしたので、おもはずあいちやんは後退あとじさりしました、ト一おほきなはとかほびついて、つばさもつはげしくあいちやんをちました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
ああ、すべてちからなし。——さらにさらにいたましきはかかるあを薄暮くれがたはげしき官能くわんのう刺戟しげき
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
其議論のはげしきつひに小西技師をして、国境論者こくけうろんしやは別隊をひきゐてべつ探検たんけんすべしとの語をはつせしむるにいたりたる程なりき、もし糧食れうしよくそなへ充分にして廿日以上の日子をつひやすの覚悟なりせば
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
つきのおくまとは、詰者つめもの白浪しらなみの深きたくみにあたりしはのちの話のたねしまあぶないことで……(ドン/\/\/\はげしき水音みづおと)あつたよなア——これでまづ今晩こんばんはこれぎり——。
ほゝかみ其処そこにはむかしこひゆめのこつてゐるやうである。わたしは一しゆ美感びかんゑはされると同時どうじに、はげしいねたましさにむねむしられてゐる。可愛かあゆくもあるがにくくもおもつた。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
袖子そでこかあさんは、彼女かのじょまれるともなくはげしい産後さんご出血しゅっけつくなったひとだ。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
もうそして天の川は汽車のすぐ横手をいままでよほどはげしく流れて来たらしくときどきちらちら光ってながれているのでした。うすあかい河原かわらなでしこの花があちこち咲いていました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
 地衣帶こけたい草本帶そうほんたい上部じようぶせつしてをり、兩帶りようたい區別くべつははっきりとしませんが、ともかく一萬尺いちまんじやくものたかさのところでは、きびしいさむさと、はげしいかぜとでほとんどくさえることが出來でき
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
上陸じょうりくすると、すぐに、かれ部隊ぶたいは、前線ぜんせん出動しゅつどうめいぜられました。そこでは、はげしい戦闘せんとう開始かいしされた。大砲たいほうおと山野さんやあっし、銃弾じゅうだんは、一ぽんのこさずくさばしてあめのごとくそそいだ。
とびよ鳴け (新字新仮名) / 小川未明(著)
なみだの出るまで真佐子はまれる言葉の棘尖とげさきの苦痛をたましいましているというひとみえ方だった。やがて真佐子の顔の痙攣けいれんはげしくなって月の出のように真珠色しんじゅいろの涙が下瞼したまぶたから湧いた。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
すこしはなれている、ぼくにさえ聞えるほどのはげしい動悸どうき粒々つぶつぶの汗が、小麦色に陽焼ひやけした、豊かなほおしたたり、黒いリボンで結んだ、髪の乱れが、くびすじに、汗にれ、まつわりついているのを
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
子路は二人を相手にはげしく斬り結ぶ。往年の勇者子路も、しかし、年には勝てぬ。次第に疲労ひろうが加わり、呼吸が乱れる。子路の旗色の悪いのを見た群集は、この時ようやく旗幟きしを明らかにした。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
ヨーロッパのような生存競争のはげしい深刻さのないことが、すべての人たちの感情をどれほどゆるやかに伸び伸びとさせ、美しい家族的親愛さをたたえさせているのであろうと、これをうらやまれました。
げんに斯かる法の行はるる所にては火の付きたるホクチ樣のものをくさつつ空中くうちうに於てはげしくうごかすなり。コロボツクルも此仕方このしかたを以てえ草に火焔くわえんうつし、此火焔をば再びたきぎてんぜしならん。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
こりゃ此處こゝに四十りゃうある、わし毒藥どくやくを一もんめほどってくりゃれ、すぐ血管けっくわん行渡ゆきわたって饜果あきはてた飮主のみぬし立地たちどころなすやうな、また射出うちだされた焔硝えんせうおそろしい大砲たいはう胴中どうなかからはげしうきふはしるやうに
午後から雷鳴らいめいはげしく、ひょうのような雨さえ降って来た。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
頬冠りの男の辭色は、一しゆんはげしくなりましたが、ハツと氣のついた樣子で、元の靜かな絶望的にさへ見える態度に變ります。
風入かぜいれのまども、正西まにしけて、夕日ゆふひのほとぼりははげしくとも、なみにもこほりにもれとてさはると、爪下つました廂屋根ひさしやねは、さすがに夜露よつゆつめたいのであつた。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
先刻せんこくまではきはめて動搖ゆるぎ平穩おだやかであつた弦月丸げんげつまる何時いつにか甲板かんぱんかたむくばかりはげしき動搖ゆるぎかんじてるのであつた。
翌朝よくちょうかれはげしき頭痛ずつうおぼえて、両耳りょうみみり、全身ぜんしんにはただならぬなやみかんじた。そうして昨日きのうけた出来事できごとおもしても、はずかしくもなんともかんぜぬ。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
さかんはしらちかおほうてつてた。かれまたすぐはげしい熱度ねつどかほぱいかんじた。はどうした機會はずみよこころがした大籠おほかご落葉おちばうつつてたのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
今朝けさ平素ふだんよりもはげしくにほひわたる線香せんかうけむりかぜになびいて部屋へやなかまでながんでくるやうにもおもはれた。
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
けれども往復震動おうふくしんどうきゆう緩慢かんまんとなつたゝめ、地動ちどうつよさは次第しだいおとろへてしまつた。鎌倉かまくら小田原邊をだはらへんでも、もつとはげしかつたのは最初さいしよ一分間以内いつぷんかんいないであつたといへる。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
次郎は、朝倉先生が、開塾最初の朝の訓話くんわで、これほどはげしい言葉をつかって、真正面から塾生たちに非難をあびせかけたのを、これまでにきいた覚えがなかった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
川はちょうどこの吉野山の麓あたりからやや打ちひらけた平野にそそぐので、水勢のはげしい渓流のおもむきが、「山なき国を流れけり」と云うのんびりとした姿に変りかけている。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
わたしは、長いことつかれなかった。ジナイーダのした話で、はげしく心を打たれたのだ。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
はげしい昂奮こうふんからめたわたくしは、もちろんわたくし守護霊しゅごれいむかっていろいろと質問しつもんはなち、それでもちぬ個所ところがあれば、指導役しどうやくのお爺様じいさまにも根掘ねほ葉掘はほいつめました。