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行渡
谷戸の方は、こう見た
処、何んの影もなく、春の日が
行渡って、
些と
曇があればそれが
霞のような、
長閑な景色でいながら、何んだか
厭な
心持の処ですね。
すると、
即て
慄然として
眠たいやうな
氣持が
血管中に
行渡り、
脈搏も
例のやうではなうて、
全く
止み、
生きてをるとは
思はれぬ
程に
呼吸も
止り、
體温も
失する。
お
位の
宜い
方々や
御身分のある
奧樣がたとの
御交際もして、
兎も
角も
原田の
妻と
名告て
通るには
氣骨の
折れる
事もあらう、
女子どもの
使ひやう
出入りの
者の
行渡り