行渡ゆきわた)” の例文
谷戸やとの方は、こう見たところ、何んの影もなく、春の日が行渡ゆきわたって、くもりがあればそれがかすみのような、長閑のどかな景色でいながら、何んだかいや心持こころもちの処ですね。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すると、やが慄然ぞっとしてねむたいやうな氣持きもち血管中けっくわんぢゅう行渡ゆきわたり、脈搏みゃくはくいつものやうではなうて、まったみ、きてをるとはおもはれぬほど呼吸こきふとまり、體温ぬくみする。
くらゐ方々かた/″\身分みぶんのある奧樣おくさまがたとの御交際おつきあひもして、かく原田はらだつま名告なのつとほるには氣骨きぼねれることもあらう、女子をんなどもの使つかひやう出入でいりのもの行渡ゆきわた
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それとつながらない他の府県にも飛び飛びにひろ行渡ゆきわたっているうえに、方法と言葉の異同が入組いりくんでいるのは、何か一つの古い起りがあって、近年の流行ではないように思わせる。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
吉田さんは百枚の羽織を脊負込しょいこんで遣り場が有りません、紫縮緬が仲の町へ行渡ゆきわたって居りまして仕方がないから、深川へ往って、さて斯う/\いうわけではじかれたが、百枚の羽織の遣り場がないから
... 使ってさえこの位に美味おいしく出来るからストーブだったら一層美味しかろうと其処そこ工合ぐあいは来客の方で察しなければなりません」お登和嬢側より「兄さん、テンピといってもまだ世間の家庭には沢山行渡ゆきわたっていないようです。テンピがなくって出来る料理の方が世人のためになりましょう」
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
木綿島村の甚太夫じんだいふといふ百姓にても家柄いへがらの者の娘なりしが年貢ねんぐ未進みしんに付據ころなく常磐屋へつとめ奉公に出して未だもなきにかれうんつよくして此方の旦那樣に受出され勤めの月日もなき故外の遊女とは大にちがひ人品ひとがらもよしと申に付少しは安心なし居たるに何樣文藏は申に及ばずしうとめにもよくつかへ奉公人迄行渡ゆきわたりの能ければ母のおもせは
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
おもつてお請申うけまをせば、列座れつざ方々かた/″\滿足々々まんぞく/\とのたまふこゑずらりと行渡ゆきわたる。
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
一方かた/\仲働なかはたらきふくのこゑ、叮嚀ていねい叮嚀ていねいにとおつしやるけれど、一にちわざうして左樣さう行渡ゆきわたらりよう、隅々すみ/″\隈々くま/″\やつてておたまりがらうかえ、ところをざつとはたらいて、あとはいづれもとなれさ
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
こりゃ此處こゝに四十りゃうある、わし毒藥どくやくを一もんめほどってくりゃれ、すぐ血管けっくわん行渡ゆきわたって饜果あきはてた飮主のみぬし立地たちどころなすやうな、また射出うちだされた焔硝えんせうおそろしい大砲たいはう胴中どうなかからはげしうきふはしるやうに
東京とうきやう四萬よまんかずおほいやうだけれども、ころにしろ府下ふか一帶いつたい人口じんこうくらべては、辻駕籠つじかごほどにも行渡ゆきわたるまい、しかいつげつ税銀ぜいぎん八匁はちもんめ人力車じんりきしやである。なか/\もつ平民へいみんにはれさうにおもはれぬ。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)