あな)” の例文
高窓たかまど障子しょうじやぶあなに、かぜがあたると、ブー、ブーといって、りました。もうふゆちかづいていたので、いつもそらくらかったのです。
風はささやく (新字新仮名) / 小川未明(著)
こうしているうちに、とうとう、仕立屋したてやさんのかんしゃくだまが爆発ばくはつしました。仕立屋さんは仕立台したてだいあなからぬのきれをつかみだして
くちへ、——たちまちがつちりとおとのするまで、どんぶりてると、したなめずりをした前歯まへばが、あなけて、上下うへしたおはぐろのはげまだら。……
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
たとへば越中えつちゆう氷見ひみ大洞穴だいどうけつなかには、いまちひさいやしろまつられてありますが、そのあななかから石器時代せつきじだい遺物いぶつがたくさんにました。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
みのをやち○笠をてつか○人の死をまがつた又はへねた○男根なんこんをさつたち○女陰ぢよいんくまあな。此あまたあり、さのみはとてしるさず。
「まずこれで伊勢いせは片づけた、——つぎには柴田権六しばたごんろくか、きゃつも、ソロソロくまのように、雪国のあなから首をだしかけておろう……」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
冷静れいせいなる社会的しやくわいてきもつれば、ひとしく之れ土居どきよして土食どしよくする一ツあな蚯蚓みゝず蝤蠐おけらともがらなればいづれをたかしとしいづれをひくしとなさん。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
すぐをつとそばから松葉まつばひろげてあななかをつついた。と、はちはあわててあなからたが、たちま松葉まつばむかつて威嚇的ゐかくてき素振そぶりせた。
画家とセリセリス (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
そして、まもなく戦車の尾部びぶが土中にかくれ、あとはくずあなだけになったが、その穴からは、もくもくと赤土が送り出されてきた。
未来の地下戦車長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
石垣いしがきの上にすわるときには、どんな小さなあなにもはいこめるようなイタチがいることを、しょっちゅう気をつけていなけりゃいけない。
猛狒ゴリラるいこのあな周圍しうゐきばならし、つめみがいてるのだから、一寸ちよつとでも鐵檻車てつおりくるまそとたら最後さいごたゞちに無殘むざんげてしまうのだ。
さてたぬきはおじいさんのうちをしてから、なんだかこわいものですから、どこへも出ずにあなにばかりんでいました。
かちかち山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
勘太郎かんたろうはそうひとりごとを言って、それから土間どまの柱をよじ上って、ちょうど炉端ろばたがぐあいよく見えるあなのあいている天井の上に隠れた。
鬼退治 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
宗助そうすけは、うですかとつて、たゞふとつたをとこのなすがまゝにしていた。するとかれ器械きかいをぐる/\まはして宗助そうすけあなはじめた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
しか卯平うへい僅少きんせう厚意こういたいしてくぼんだ茶色ちやいろしがめるやうにして、あらひもせぬから兩端りやうはしちひさなあな穿うがつてすゝるのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
狹衣子さごろもし手傳てつだひにては、つい、しや時間じかんわすれたことや、佛骨子ぶつこつしあななか午睡ひるねをしたことや、これ奇談きだんおもなるもの。
そこで嘉十かじふはちよつとにがわらひをしながら、どろのついてあなのあいた手拭てぬぐひをひろつてじぶんもまた西にしはうあるきはじめたのです。
鹿踊りのはじまり (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
そして地べたに茶飲茶碗ちゃのみちゃわんほどの——いやもっと小さい、さかずきほどのあなをほりその中にとってきた花をいい按配あんばいに入れる。
花をうめる (新字新仮名) / 新美南吉(著)
その毛皮服にはそではなかったが、かたの所に二つ大きなあなをあけて、そこから、もとは録色だったはずのビロードのそでをぬっと出していた。
そればかりか、折角せつかくのごちさう はとみれば、そのあひだに、これはまんまと、あなげこんでしまつてゐるのです。そしてあなくちからあたまをだして
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
それは一銭銅貨をあなへ入れて、金具をパチンとはじくと、キャラメルが一つ出てくるような道具である。時には、いくらかよいものが出てくる。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
さうしてその四かくあななかから、すすとかしたやうなどすぐろ空氣くうきが、にはか息苦いきぐるしいけむりになつて濛濛もうもう車内しやないみなぎした。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
大気都比売命おおけつひめのみことは、おことばに従って、さっそく、鼻のあなや口の中からいろいろの食べものを出して、それをいろいろにお料理してさしあげました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
同じ獅子ししあなに入るにしても、相手がおのれを食らうなど思えばおそろしくなるが、この獅子ししみだりに人をわぬことが分かれば、恐怖の念が去る。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
そのうちに、あつはひなかまつてかきあなからは、ぷう/\しぶ吹出ふきだしまして、けたかきがそこへ出來上できあがりました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
をけあなより入れさするに安五郎かたじけなしと何心なく饅頭まんぢうを二ツにわるに中にちひさくたゝみし紙ありければ不審ふしんに思ひひらき見るに
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そんなとおくにいたんじゃ、本当ほんとうかおりはわからねえから、もっと薬罐やかんそばって、はなあなをおッぴろげていでねえ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
めっかりました、先生せんせい。エピファーノフが自分で持ってたんです。ポケットにあながあいてたもんですから、ナイフも銀貨ぎんか長靴ながぐつん中へ落ちてたんです。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
金魚鉢きんぎょばち位置いちから、にわかえでがくれではあるが、島本医院しまもといいん白壁しらかべえていて、もしそのかべあながあると、こつちをおろすこともできるはずである。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
何日いつでもちよいとわつしをおびなさりやアあな見附みつけて一幕位まくぐらゐせてげらア、うもおほきに有難ありがたうがした。
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
殺そうか殺すまいかと躊躇ちゅうちょして見て居る内に、彼は直ぐ其処そこにあるけい一寸ばかりのあな這入はいりかけた。見る中に吸わるゝ様にズル/\とすべり込んで了うた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
うさぎあなしばらくのあひだ隧道トンネルのやうに眞直まつすぐつうじてました。まらうとおもひまもないほどきふに、あいちやんは非常ひじようふか井戸ゐどなかちて、びッしよりになりました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
あの水松いちゐしたで、長々なが/\よこになって、このほらめいたうへひたみゝけてゐい、あなるので、つちゆるんで、やはらいでゐるによって、めばすぐ足音あしあときこえう。
と見ると、幽霊は不意に、おとあなに落ち込む人のように、あッと思う間もなく大地にめり込んで、あとは、塔婆と白張と井戸と柳が、ほの暗い中に残るばかり。
その中に手首てくびからさきのないうでが、にゅっとかれのほうにつきだされ、のっぺらぼうのまっ白な大きな顔が、うす青い三つのふかあなをあけて、空中くうちゅういていた。
一つずり落ち二つ落ちして、ようやくあなへ帰ったころには、枝に一ぴきものこっていない。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
其れが貢さんには、蛇のあな発見めつけたのでらうぢや無いかと相談して居るやうに思はれた。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
まあ勿体もったいないお言葉ことば、そんなにおおせられますとわたくしあなへもはいりたいおもいがいたします……。
非人ひにんて、死者ししゃや、あしとらえてあななか引込ひきこんでしまうのだ、うッふ! だがなんでもない……そのかわおれからけてて、ここらの奴等やつら片端かたッぱしからおどしてくれる
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
紀州きしうの山奥に、狸山たぬきやまといふ高い山がありました。其所そこには、大きなかしだの、くすだのが生えしげつてゐる、昼でも薄暗い、気味の悪い森がありました。森の中には百あなといふのがありました。
馬鹿七 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
こつなはなんともこたへなかつたが、いやいやでたまらないこの土地とちなまぬるい、齒切はぎれのわるい人間にんげんをこツぴどくやつけてくれた殿樣とのさま小氣味こきみのよい言葉ことばが、氣持きもちよくみゝあなながんで
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
おな新開しんかいまちはづれに八百髮結床かみゆひどこ庇合ひあはひのやうな細露路ほそろぢあめかさもさゝれぬ窮屈きうくつさに、あしもととては處々ところ/″\溝板どぶいたおとあなあやふげなるをなかにして、兩側りようがはてたる棟割長屋むねわりながや
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あなつくるに當つては、或は長さ幾歩いくほはば幾歩とあゆみ試み、或はなわ尋數ひろすうはかりて地上にめぐらし、堀る可き塲所ばしよの大さを定め、とがりたるぼうを以て地を穿うがち、かごむしろの類に土を受け
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
外國がいこくたとへにも、金持かねもちが天國てんごくくのは、おほきなぞうはりあなをとほらせるよりもむつかしいといつてゐますが、さういつた滿足まんぞくしきつた氣持きもちばかりでゐては、人間にんげんにはしみ/″\と
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
日本につぽんきつね日本につぽん固有こゆうのものでやまあなんでゐます。からだ二尺にしやくぐらゐでながく、からだの半分はんぶん以上いじようもあります。食物しよくもつおも野鼠のねずみですが、人家じんかちかいところではにはとりなどをかすめることもあります。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
このすきまにつけこんで、魔人のやつは、何か仕事をしてから、逃げだそうと思う方角へ、夜中に、たこつぼのようなあなをほり、その上にマンホールのふたをかぶせて、ちゃんと用意しておくのだ。
青銅の魔人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
即ち鍋上にあな穿うがてる布片きれひ、内にれて之を沼中にとうじたるなり、「どろくき」としやうする魚十余尾をたり、形どぜうに非ず「くき」にも非ず、一種の奇魚きぎよなり、衆争うて之をあぶしよくすれど
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
太郎「だつてかはあなからなんだかあかしるるんだもの」
おや ストーブの煙突えんとつあなから何かはいつてきたわ
あなに心をはれゆくごとく思ひて
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)