此人このひと)” の例文
同伴者つれ親類しんるゐ義母おつかさんであつた。此人このひと途中とちゆう萬事ばんじ自分じぶん世話せわいて、病人びやうにんなる自分じぶんはらまでおくとゞけるやくもつたのである。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
浮世絵でも描こうといった殿様だけに、此人このひとには妙に平民的な——その当時の大名にしては型破りの気易いところがあったのです。
ホヽいやだよ此人このひとは、しゞみかひごとべてさ……あれさお刺身さしみをおかつこみでないよ。梅「へえ……あゝ心持こゝろもちになつた。 ...
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
一日いちにちすみやかに日本につぽんかへりたいのは山々やま/\だが、前後ぜんご事情じじやうさつすると、いま此人このひとむかつて、其樣そん我儘わがまゝはれぬのである。
するとあによめがそれに賛成して、一週間許り前占者うらなひしやに見てもらつたら、此人このひとは屹度人のかみに立つに違ないと判断したから大丈夫だと主張したのださうだ。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
蒙古もうこ退治の注進状ちゅうしんじょうの中に、確か此人このひと連名れんみょうもあったかと思いますが……。いや、それは調べればすぐに判ります。何しろ、面白いものを掘出ほりだしましたよ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
幾分かは此人このひとによって満足されるだろうと云う深く知り合わない人に対しての良い予期も心の裡に満ちて居た。
千世子(二) (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
此人このひとうまちると此山このやまそだつたので、なんにもぞんじませんかはりひとちツともお心置こゝろおきはないのでござんす。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
お父さんはお昼に神保じんぼうさんをお招き申した。何でも何とか町の地所を此人このひとに買わせるんだって、お母さんと談話はなしていた。今日は料理人が馬鹿に意地が悪い。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
『それは友人いうじん水谷幻花みづたにげんくわといふのがります。此人このひとれられて、東京近郊とうきやうきんがう表面採集ひやうめんさいしうあるきました』
檀家だんかなかにも世話好せわずきのある坂本さかもと油屋あぶらや隱居ゐんきよさま仲人なかうどといふもものなれどすすめたてゝ表向おもてむきのものにしける、信如しんによ此人このひとはらよりうまれて男女なんによ二人ふたり同胞きやうだい
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
白猿はくゑん余光よくわう抱一はういつ不白ふはくなどのもとへも立入たちいるやうになり、香茶かうちや活花いけばなまで器用であはせ、つひ此人このひとたちの引立ひきたてにて茶道具屋ちやだうぐやとまでなり、口前くちまへひとつで諸家しよけ可愛かあいがられ
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
此人このひとは梅毒とリウマチスとの治療が得意なのでその家へは男女の梅毒患者が多くくと聞いて、神経のたかぶつて居る僕は喉を焼いて貰ふ度にその器械が無気味でならなかつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
そも此人このひと如何いかなればかゝる細工をする者ぞと思うに連れてひとみは通い、ひそかに様子を伺えば、色黒からず、口元ゆるまず、まゆ濃からずして末ひいで、眼に一点の濁りなきのみか
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
さいはひなるかな、せふ姙娠中にんしんちゆう屡〻しば/\診察を頼みし医師は重井おもゐと同郷の人にして、日頃ひごろ重井おもゐの名声を敬慕し、彼と交誼こうぎを結ばん事を望み居たれば、此人このひとによりて双方の秘密を保たんとて
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
ひとあるひ其書そのしよつたへてしんいたる。秦王しんわう孤憤こふん五蠧ごとしよいはく、『嗟乎ああ寡人くわじん此人このひとこれあそぶをば、すともうらみじ』と。李斯りしいはく、『韓非かんぴあらはすところしよなり』と。しんつてきふかんむ。
乳母 はれま、此人このひとは! なんたるおひとぢゃおまへは?
三四郎が広田のうちるには色々な意味がある。ひとつは、此人このひとの生活其他が普通のものと変つてゐる。ことに自分の性情とは全く容れない様な所がある。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
されば外見よそみには大分限だいぶげんごとくなれど、其實そのじつ清貧せいひんなることをそれがし觀察仕くわんさつつかまつりぬ。此人このひとこそ其身そのみをさまりてよくいへをさまれるにこそさふらはめ、かなら治績ちせきべくとぞんさふらふ
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
其頃そのころ諸侯方しよこうがたされ、長兵衛ちやうべゑ此位このくらゐ値打ねうちが有るといふ時は、ぢき代物しろものを見ずに長兵衛ちやうべゑまうしただけにお買上かひあげになつたとふし、此人このひと大人たいじんでございますから
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
それはおまへなにぞの聞違きゝちがへ、わたし毛頭すこしおぼえのことと、これが此人このひとの十八ばんとはてもさてもなさけなし。
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
櫻木海軍大佐さくらぎかいぐんたいさ! 々々々。此人このひと讀者どくしや諸君しよくん御記臆ごきおくそんしてるかいなか。
ぼく此人このひと從者じうしやです』
そこで三四郎はうしたらあゝなるだらうと云ふ好奇心から参考の為め研究にる。つぎ此人このひとの前へると呑気のんきになる。世のなかの競争があまり苦にならない。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
此人このひとはじめは大藏省おほくらしやう月俸げつぽうゑん頂戴ちようだいして、はげちよろけの洋服ようふく毛繻子けじゆす洋傘かうもりさしかざし、大雨たいうをりにもくるまぜいはやられぬ身成みなりしを、一ねん發起ほつきして帽子ぼうしくつつて
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
わしなども其位そのくらゐな苦しみをしてやうやういふうへになつたのだ。とはれて此人このひと多助たすけのいふことを成程なるほど感心かんしんしたから、自分もなんあきなひをしようといふので、これから漬物屋つけものやを初めた。
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
婦人は予を凝視みつむるやらむ、一種の電気を身体みうちに感じて一際ひときは毛穴の弥立よだてる時、彼は得もいはれぬ声をて「藪にて見しは此人このひとなり、テモ暖かに寝たる事よ」とつぶやけるが、まざ/\ときこゆるにぞ
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
此人このひと武村兵曹たけむらへいそうとて、吾等われら三年さんねんあひだ孤島こたう生活中せいくわつちう日出雄少年ひでをせうねんとはきはめてなかのよかつた一人ひとりです。』とわたくしかれ二人ふたり紹介ひきあはせて、それより武村兵曹たけむらへいそうわたくしとはかはる/″\、朝日島あさひじま漂流へうりう次第しだい
いま原田はらだ嫁入よめいりのことにはつたれど、其際そのきはまでもなみだがこぼれてわすれかねたひとわたしおもふほどは此人このひとおもふて、ゆゑ破滅はめつかもれぬものを、此樣このやう丸髷まるまげなどに
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
けるものは、此人このひとぎりなんださうですよ」とつて細君さいくんわらつた。すると織屋おりや
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
貴僧あなたまをせばなんでも出来できませうとおもひますけれども、此人このひとやまひばかりはお医者いしやでもみづでもなほりませなんだ、両足りやうあしちませんのでございますから、なにおぼえさしましてもやくにはちません。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おもひとほどはづかしくおそろしきものはなし、女同志をんなどししたしきにても此人このひとこそとうやまともに、さしむかひてはなにごともはれず、其人そのひと一言ひとこと二言ふたことに、はづかしきはくまではづかしく
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
つゆといへばほろりとせしもの、はかないのうへなしなり、おもへばをとこ結髮いひなづけつまある、いやとてもおうとても浮世うきよ義理ぎりをおもひつほどのこと此人このひと此身このみにしてかなふべしや
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
うつくしいまなじり良人をつとはらをもやはらげれば、可愛かあいらしい口元くちもとからお客樣きやくさまへの世辭せじる、としもねつからきなさらぬにお怜悧りこうなお内儀かみさまとるほどのひとものの、此人このひと此身このみ裏道うらみちはたら
うらむらさき (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
たみ此家このやに十ねんあまり奉公ほうこうして主人しゆじんといへどいまかはらず、なにとぞ此人このひと立派りつぱあげてれも世間せけんほこりたきねがひより、やきもきとむほど何心なにごヽろなきおそのていのもどかしく
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
其人そのひとゆかしからねど其心そのこヽろにくからず、ふみいだきて幾夜いくよわびしが、れながらよわこヽろあさましさにあきれ、ればこそはけばこそはおもひもすなれ、いざ鎌倉かまくら退がれて此人このひとのことをもわす
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
さてもこのみのくまでに上手じやうずなるか、たゞしは此人このひとひし果報くわはうか、しろかね平打ひらうち一つに鴇色ときいろぶさの根掛ねがけむすびしを、いうにうつくしく似合にあたまへりとれば、束髮そくはつさしのはな一輪いちりん中々なか/\あいらしく
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
今宵こよひれば如何いかにもあさましい有樣ありさま木賃泊きちんどまりになさんすやうにらうとはおもひもらぬ、わたし此人このひとおもはれて、十二のとしより十七まで明暮あけくかほあはせるたび行々ゆく/\みせ彼處あすこすわつて
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
正太しようたはあつともはず立止たちどまりしまゝいつもごとくはだききつきもせで打守うちまもるに、彼方こなた正太しようたさんかとてはしり、おつまどんおまへものらば此處こゝでおわかれにしましよ、わたし此人このひとと一しよかへります
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
のやうにおぼしめして御苦勞ごくらうなき御苦勞ごくらうやら我身わがみ新參しんざん勝手かつてらずおもとようのみつとめれば出入でいりのおひとおほくも見知みしらず想像さうぞうには此人このひとかとゆるもけれどこのみはひと心々こゝろ/″\なにがおそみしやらはでおもふは山吹やまぶきしたゆくみづのわきかへりてむねぐるしさもさぞなるべしおつゝしぶかさは
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
夜目よめなればこそだしもなれひるはづかしき古毛布ふるげつと乘客のりてしなさぞぞとられておほくはれぬやせづくこめしろほどりやしや九尺二間くしやくにけんけぶりつなあはれ手中しゆちゆうにかゝる此人このひと腕力ちからおぼつかなき細作ほそづくりに車夫しやふめかぬ人柄ひとがら華奢きやしやといふてめもせられぬ力役りきえき社會しやくわいつたとは請取うけとれず履歴りれき
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
春秋はるあきはな紅葉もみぢつゐにしてかんざし造物つくりものならねど當座たうざ交際つきあひ姿すがたこそはやさしげなれ智慧ちゑ宏大くわうだいくは此人このひとすがりてばやとこれも稚氣をさなげさりながら姿すがたれぬはひとこゝろわらひものにされなばそれもはづかしなにとせんとおもふほど兄弟きやうだいあるひとうらやましくなりてお兄樣あにいさまはおやさしいとかおまへさまうらやましとくち
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)