次第しだい)” の例文
茨や葛の中にふみ込んでも、方向に迷っても、森が唸っても、一々鏡に照らして難をさけ、次第しだいに山の中ほどまで登って参りました。
夢の卵 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
さいはひ非常ひじやうなる同情どうじやう好意かういもつて一億圓おくゑんのクレデイツトの設定せつていをすることが出來できたことは、日本にほん財界ざいかいつて此上このうへもなき次第しだいである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
つもる雪もおなじく氷りて岩のごとく、きしの氷りたるはし次第しだいに雪ふりつもり、のちには両岸りやうがんの雪相合あひがつして陸地りくちとおなじ雪の地となる。
右のような次第しだいだから、実を言えば、百合の字面を日本のユリからは追放ついほうすべきもので、ユリの名はその語原がまったく不明である。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
つまり頬をふくらし、唇で山蜂の飛ぶ音を真似まね、かくて不満の意を表わすという次第しだいだ。そのうちに、きっとやらずにはいないだろう。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
かくすにゃあたらないから、有様ありようにいってな、こと次第しだいったら、堺屋さかいやは、このままおまえにはあわせずに、かえってもらうことにする」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
十四、五になる大概たいがいいえむすめがそうであるように、袖子そでこもその年頃としごろになってみたら、人形にんぎょうのことなぞは次第しだいわすれたようになった。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
したがつてわたしは、以前いぜん同郷的愛着どうきやうてきあいちやく同藩的偏見どうはんてきへんけんうしなつたとおなじやうに、いま次第しだい國民的愛着こくみんてきあいちやく國家的偏見こくかてきへんけんうしなつたのであつた。
敵国は空中よりの爆弾が一向いっこう効目ききめがなくなったことを確認し、そして遂に、その軍用機整備の縮小を決行するに至った次第しだいであります。
むまじき事なりおとろふまじき事なりおとろへたる小生等せうせいらが骨は、人知ひとしらぬもつて、人知ひとしらぬたのしみと致候迄いたしそろまで次第しだいまるく曲りくものにそろ
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
そのわりまた、ねずみがわるさをはじめたら、いつでもつけ次第しだいころしてもかまわない。どうだね、それで承知しょうちしてくれるか。
猫の草紙 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
どちらも次第しだいに菜食になれて参りますと消化もだんだん良くなるのであります。色々実験の成績もございますから後でご覧を願います。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
また鎔岩ようがん次第しだい冷却れいきやくしてるとどんな成分せいぶんのものも流動りゆうどうがたくなり、其後そのご固形こけい岩塊がんかい先頭せんとう岩塊がんかいえて前進ぜんしんするのみである。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
其處そこ乘組人のりくみにん御勝手ごかつて次第しだい區劃くくわく彈藥だんやく飮料いんれう鑵詰くわんづめ乾肉ほしにく其他そのほか旅行中りよかうちう必要品ひつえうひんたくわへてところで、固定旅櫃こていトランクかたちをなしてる。
仰立おほせたてられなば其事のみにて渠等かれらつみし候なり其上主と家來の事なれば此公事このくじに於ては御前に九分のつよみが之あるゆゑ事の次第しだい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それとも次第しだいにうすれ去る記憶を空想で補って行くうちにこれとは全然異なった一人の別な貴い女人にょにんを作り上げていたであろうか
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それが次第しだいすゝんで、旅行中りよこうちゆううたにはほんとうに自然しぜんみこなした立派りつぱなものが、萬葉集まんようしゆうになると、だん/\てゐます。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
陽炎かげらふひざつて、太陽たいやうはほか/\としてる。そられたが、くさ濡色ぬれいろは、次第しだいかすみ吸取すひとられやうとする風情ふぜいである。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そして論旨ろんしを一転して青年の思想問題に入りかけたが、そのころからかれの言葉は次第しだいにみだれがちになり、またしばしばゆきづまった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
ほとんど薬師如来やくしにょらいが来たか何ぞのように礼拝らいはいしてものを頼むという次第しだいで実に驚きまして、その翌六日午前二時パルテー駅出立
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
この物音ものおときつけた母親ははおやは、なにごとがこったかとおもって、おくからてきました。そして、その次第しだいると、たいへんにおこりました。
めくら星 (新字新仮名) / 小川未明(著)
へだては次第しだいかさなるばかり、雲霧くもきりがだんだんとふかくなつて、おたがひのこゝろわからないものにりました、いまおもへばそれはわたしから仕向しむけたので
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
すなわちそのみちとはなし、今の学校を次第しだいさかんにすることと、上下士族相互あいたがい婚姻こんいんするの風をすすむることと、この二箇条のみ。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ふゆ何事なにごともなく北風きたかぜさむくにつた。やまうへあきらかにしたまだらゆき次第しだいちて、あとからあをいろ一度いちどいた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
これにつきましては、当町長さまはじめ、警察けいさつの方々さま、当町有志ゆうしの皆々さまから一方ひとかたならぬご後援こうえんをいただき、一同感謝かんしゃにたえない次第しだい
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
わたしなども少年しようねんのころ、御陵ごりよう巡拜じゆんぱいするといふようなことから、つい/\考古學こうこがく興味きようみおぼえるようになつた次第しだいであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
それでもこちらへて、いろいろと神様かみさまからおさとしをけたおかげで、わたくしの現世げんせ執着しゅうじゃく次第しだいうすらぎ、いまでは修行しゅぎょうすこみました。
もりこずゑうへはるかのぼらうとして次第しだいいきほひをくはへるほのほを、疾風しつぷうはぐるりとつゝんだ喬木けうぼくこずゑからごうつとしつけしつけちた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
舞台の奥から拍子木ひやうしぎおとが長いを置きながら、それでも次第しだいに近くきこえて来る。長吉ちやうきち窮屈きうくつこしをかけたあかりの窓から立上たちあがる。するときちさんは
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
番甲 此邊このあたりだらけぢゃ。墓場はかば界隈かいわいさがさっしゃい。さゝ、つけ次第しだいに、かまうたことはい、引立ひきたてめさ。
しかしこんな心遣こころづかい事実じじつにおいても、普通ふつう論理ろんりにおいてもかんがえてればじつ愚々ばかばかしい次第しだいで、拘引こういんされるだの
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
現に自分が呼吸してゐる空氣の中にも毒惡どくあく分子ぶんしこもつてゐて、次第しだい内臓ないぞうへ侵入するのでは無いかと思ふ。すると室の光線の弱いのも氣に懸つて來る。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
はなはだ困り候折さふらふをりからゆゑ、誠に残念には御座候得共ござさふらえども右様みぎやう次第しだいあしからず御推察ごすゐさつなし被下度候くだされたくさふらふ匆々さう/\
牛車 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
しかるに、あのかはけつしてあさくはなかつた。ながれもおもひのほかはやかつた。次第しだいつてはいのちうばはれんともかぎらなかつた。その危急ききふさい中根なかねはどうことをしたか。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
あめ次第しだいつよくなつたので外面そと模樣もやう陰鬱いんうつになるばかり、車内うち退屈たいくつすばかり眞鶴まなづる巡査じゆんさがとう/\
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
かかる次第しだいにして小栗等が仏人をいて種々計画けいかくしたるは事実じじつなれども、その計画は造船所の設立、陸軍編制等の事にして、もっぱ軍備ぐんびを整うるの目的もくてきに外ならず。
ただすぎたけうらに、さびしい日影ひかげただよつてゐる。日影ひかげが、——それも次第しだいうすれてる。もうすぎたけえない。おれは其處そこたふれたままふかしづかさに包まれてゐる。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
されどしょうの学校はその翌日、時の県令高崎たかさき某より、「詮議せんぎ次第しだい有之これあり停止ていし候事そうろうこと」、との命をこうむりたり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
例へば「高砂たかさご」を演じるとする。初めにワキ・ワキヅレが次第しだいの囃子で登場して一定の場所に着座するまでは序の部分であるから、これは粘らずにサラリと運ばねばならぬ。
演出 (新字旧仮名) / 野上豊一郎(著)
情景はおおよそ、次第しだいがきまっていた。まず最初にそれを発見するのは、石太郎の前にいる学科のきらいな、さわぐことのすきな、顔ががまににている古手屋の遠助とおすけである。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
いつたいどうしてがそんなにあかくなるのかといひますと、それはあきになるときゆうすゞしくなる、その氣候きこう變化へんかのために、新緑しんりよくのところでおはなしした、葉緑素ようりよくそ次第しだいかはつて
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
駒下駄の音も次第しだいかすかになって、浴衣ゆかた姿すがたの白いM君は吸わるゝ様にもやの中に消えた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
これにはクックしや桑港支社長さうかうししやちやうストークスくんやら、朝日新聞社あさひしんぶんしや桑港特派員さうかうとくはゐん清瀬規矩雄君きよせきくをくんなどが便乗びんじようしてたので、陸上りくじやう模様もやう明日あす見物けんぶつ次第しだいなどをかたつて、大方だいぶにぎやかになつてた。
検疫と荷物検査 (新字旧仮名) / 杉村楚人冠(著)
あいちやんがこのことひとはなさうとめるうちに、料理人クツク圍爐裏ゐろりから肉汁スープなべはづして、手當てあた次第しだいなにはじめました、公爵夫人こうしやくふじんとゞほどでしたから無論むろんぼツちやんにもあたりました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
不用意ふよういると窒息ちつそくしておそれがあるので、蝋燭らうそくをさしれる必用ひつようがある。人足にんそく一人ひとりすゝんで、あななか片手かたてをさしれると、次第しだいちいさつて、のちには、ふツとえた。
やはりできないものだということを、しみじみかんがえさせられた次第しだいです……
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
……しかし、わしが雷神らいじんたき孤岩こがんの上に、書きのこしておいた通り、これもみな、まえからわかっていることなのでござる。おう、ご不審ふしんの晴れるように、いまその次第しだいをお話しいたそう。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
長い陰気な梅雨がようやく明けた頃、そこにはもうきびしい暑さが待ち設けて居て、流石さすが都大路もしばらくは人通りの杜絶える真昼の静けさから、豆腐屋のラッパを合図に次第しだいに都の騒がしさに帰る夕暮時
真珠塔の秘密 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
右大臣うだいじんちかねて、自分じぶんでもとほうみして、たつつけ次第しだい矢先やさきにかけて射落いおとさうとおもつてゐるうちに、九州きゆうしうほうながされて、はげしい雷雨らいうたれ、そののち明石あかしはまかへされ
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
あなたが西八条にとらわれていらっしたあと、平氏の役人どもがやかたに押し寄せて近親のかたがたをことごとくからめとり、連れかえって拷問ごうもんし、謀叛むほん次第しだいを白状させてことごとく首をはねました。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)