月日つきひ)” の例文
さう云ふひとつてごす時間が、本当の時間で、穴倉で光線の試験をしてくら月日つきひは寧ろ人生に遠い閑生涯と云ふべきものである。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
月日つきひのたつのははやいもので、そのときから、もう六、七ねんはたちました。そのあいだ叔父おじさんは、病気びょうきでなくなってしまわれました。
人の身の上 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そんなことをいいいい、毎日まいにちらしているうちに、十日とおかたち、二十日はつかたち、もうかれこれ一月ひとつきあまりの月日つきひがたちました。
松山鏡 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
月日つきひかさが、これをさゝふる水氣のいとき時にあたり、これをいろどる光を卷きつゝそのほとりに見ゆるばかりの 二二—二四
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
やつれたうれへるのをかれるにしのびなかつたからである。かれのさういふ意志いしなが月日つきひ病苦びやうくさいなまれてひがんだ女房にようばうこゝろつうずる理由わけがなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
道子みちこ小岩こいは色町いろまち身売みうりをしたとき年季ねんきと、電話でんわ周旋屋しうせんやと一しよくらした月日つきひとをむねうちかぞかへしながら
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
または年祝としいわいといって老人の長命を祝う日、いっぽうにはまた人がくなって野辺送のべおくりをする後先あとさきから、しだいに月日つきひがたって月忌げっき年忌ねんきの祭りをする日まで
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
あのほんつくつたときから、もう三ねん月日つきひがたちます。太郎たらうは十六さい次郎じらうは十四さいにもなります。とうさんのうちには、いま太郎たらうに、次郎じらうに、末子すゑこの三にんます。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
何事ぞ、眞の武士の唇頭くちびるぼすもいまはしき一女子の色に迷うて、可惜あたら月日つきひ夢現ゆめうつゝの境にすごさんとは。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
但馬さんとも相談して、私は、ほとんど身一つで、あなたのところへ参りました。淀橋よどばしのアパートで暮した二年ほど、私にとって楽しい月日つきひは、ありませんでした。
きりぎりす (新字新仮名) / 太宰治(著)
たい土地とちはふみがたく、兀々こつ/\として月日つきひおくらねばならぬかとおもふに、のふさぐも道理だうりとせめては貴孃あなたでもあはれんでくれ給へ、可愛かわいさうなものではきかとふに
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
御両親は掌中たなぞこたまいつくしみ、あとにお子供が出来ませず、一粒種の事なればなおさらに撫育ひそうされるうちひまゆく月日つきひ関守せきもりなく、今年はや嬢様は十六の春を迎えられ
いまくなつておな境遇きやうぐうに、なが月日つきひくらあひだには、何時いつ君等きみらまへに、其事そのこと表顯あらはれずにはをはるまい。
樹々きゞに落葉のある如く、月日つきひにも落葉がある。無邊のあなたから吹いて來る音無おとなしの風は歳月の樹々を震はせて、黄ばみわなゝく月日をば順々に落してゆく。落ちてどこへ行くのだらう。
落葉 (旧字旧仮名) / レミ・ドゥ・グルモン(著)
月日つきひともきず疼痛いたみうすらぎ、また傷痕きずあとえてく。しかしそれとともくゐまたるものゝやうにおもつたのは間違まちがひであつた。彼女かのぢよいまはじめてまことくゐあぢはつたやうながした。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
このままいてしまったら、折角せっかくきたえたおのがげいを、こそぎてなければならぬかなしさ。それゆえ、あきむしにもおとる、はかない月日つきひごしてたが、……おせんちゃん。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ぼく此校長このかうちやうもと大島小學校おほしませうがくかうたのは二年半ねんはんで、月日つきひにすればふにらず、十二さいより十五さいまで、ひと年齡ねんれいにすれば腕白盛わんぱくざかりでありましたけれど、ぼくしん教育けういくけたのは此時このとき
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
だん/\月日つきひるにしたがつて日本につぽんでも青銅器せいどうきつくるようになつたのでありますが、材料ざいりようはやはりおほくは支那しなからつてたものでありまして、ときには支那しなから輸入ゆにゆうした古錢こせんつぶして
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
さと言葉ことばらぬも、こひにはをんなさかしうして、そでたもとおほひしが、月日つきひつまゝ、つるはさすがにとしこうおのかしらいろふ、むすめちゝいろづきけるに、總毛そうげふるつて仰天ぎやうてんし、あまね掻搜かきさがして
妙齢 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それが月日つきひるに従い、黄身は黄身、白身は白身と分かれ、さらに進んでは頭もでき、手も足もそなわり、一つのひなするように、きわめて幼少の折から自然的に各分業的のきざしあるものである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
月日つきひは流れ、歳は人を待ってはくれないものですが……」
現代訳論語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
入るうち月日つきひ關守せきもりなくはや十八年の星霜せいさう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
明日あす月日つきひのないものを。
ゴンドラの唄 (旧字旧仮名) / 吉井勇(著)
これや月日つきひ破壞はゑならじ
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
月日つきひがたつにつれて、ガラスのびんはしぜんによごれ、また、ちりがかかったりしました。あめチョコは、憂鬱ゆううつおくったのであります。
飴チョコの天使 (新字新仮名) / 小川未明(著)
宗助そうすけ一見いつけんこだわりのささうな是等これらひと月日つきひと、自分じぶん内面ないめんにあるいま生活せいくわつとをくらべて、その懸隔けんかくはなはだしいのにおどろいた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
年齡としむにしたがつてみじかかんずる月日つきひがさういふあひだ循環じゆんくわんして、くすんでえることのおほ江戸川えどがはみづ往復わうふくする通運丸つううんまるうしえるやうな汽笛きてきみて
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
こういうたのしい、平和へいわ月日つきひおくむかえするうちに、今年ことし子供こどもがもう七つになりました。それはやはり野面のづらにはぎやすすきのみだれたあきなかばのことでした。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
表向おもてむきにはなんとも月日つきひ大凡おほよそどのくらいおくつたもの御座ござんすか、いま千葉ちば樣子やうす御覽ごらんじても、れの子供こどもときならばと大底たいていにお合點がてんゆきましよ、病氣びやうきしてわづらつて、おてらものなりましたを
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
芳町よしちょう蔵前くらまえわかわかれにむようになったばかりに、いつかってかたもなく二ねんは三ねんねんは五ねんと、はやくも月日つきひながながれて、辻番付つじばんづけ組合くみあわせに、振袖姿ふりそですがた生々いきいきしさはるにしても
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
月日つきひは過ぎて行く。いつかわれわれは舟遊びにも飽きて舟を借りにも行かなくなってから、また更に月日がたつ。尋常中学を出て専門の学校も卒業した後、或会社に雇われて亜米利加アメリカへ行った。
向島 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ねん、二ねん、三ねんと、月日つきひくるま我等われら仕事しごと進行すゝみおな速力そくりよく※去すぎさつて、櫻木海軍大佐さくらぎかいぐんたいさかね豫定よていしたとうりに、にもおどろ海底戰鬪艇かいていせんとうていも、いま九分九厘くぶくりんまで竣成しゆんせいし、いよ/\この二月にぐわつの十一にち
そのくるとしも、またつぎのくるとしも、つばめはなつはじめになると、んできました。そして、なが月日つきひをそこにおくりました。
つばめの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「それじゃぼくより七つばかり若い。七年もあると、人間はたいていの事ができる。しかし月日つきひはたちやすいものでね。七年ぐらいじきですよ」
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼等かれら平生へいぜい家族かぞくまじつて、その老衰らうすゐがどうしても自然しぜん壯者さうしやあひだ疎外そぐわいされつゝ、各自かくじむし無意識むいしきでありながらしか鬱屈うつくつしてものう月日つきひすごしつゝあるとき
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「まあ、おまえがここへなすってからもう三ねんになるよ。月日つきひのたつのははやいものだね。」
白い鳥 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
きに月日つきひながからんことらや、何事なにごともさらさらとてヽ、からず面白おもしろからずくらしたきねがひなるに、春風はるかぜふけばはなめかしき、枯木かれきならぬこヽろのくるしさよ、あはつききか此胸このむねはるけたきにと
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いまになつて回想かんがへると、三ねん月日つきひもさて/\はやいものだ。
いつしか、月日つきひはたちました。いつか、みなみほうみなとまちにいってから三ねんめになりました。ふゆが、またやってきましたときに
気まぐれの人形師 (新字新仮名) / 小川未明(著)
機會きくわいに、佐伯さへき消息せうそく折々をり/\夫婦ふうふみゝれることはあるが、其外そのほかには、まつたなにをしてらしてゐるか、たがひらないですご月日つきひおほかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
なほ其人そのひとこひしきもらく、なみだしづんでおく月日つきひに、らざりしこそをさなけれ、うへきをかさねて、宿やどりしたね五月さつきとは、さてもとばかなげふしてなきけるが、いまひとにもはじものおもはじ
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
むかしひとは、月日つきひながれるみずにたとえましたが、まことに、ひとときもとどまることなく、いずくへかってしまうものです。
たましいは生きている (新字新仮名) / 小川未明(著)
この二三ねん月日つきひやうやなほけた創口きずぐちが、きふうづはじめた。うづくにれてほてつてた。ふたゝ創口きずぐちけて、どくのあるかぜ容赦ようしやなくみさうになつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ゑがかぬもおなじこと御覽ごらんはずもあらねば萬一もしやのたのみもきぞかしわらはるゝからねどもおもそめ最初はじめより此願このねがかなはずは一しやう一人ひとりぐすこゝろきにおく月日つきひのほどにおもひこがれてねばよしいのちしも無情つれなくて如何いかるは
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
月日つきひがたって、いつしかせい一は、上級生じょうきゅうせいとなりました。かれは、またりが大好だいすきなので、祭日さいじつや、日曜日にちようびなどには、よくりにかけました。
窓の内と外 (新字新仮名) / 小川未明(著)
此塵このちりは二三十年かゝつて漸くつもつた貴といちりである。静かな月日つきひに打ち勝つ程の静かなちりである。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
はなしたふむつゆのあしたならぶるつばさ胡蝶こてふうらやましく用事ようじにかこつけて折々をり/\とひおとづれに餘所よそながらはなおもてわがものながらゆるされぬ一重垣ひとへがきにしみ/″\とはもの言交いひかはすひまもなく兎角とかくうらめしき月日つきひなり隙行ひまゆこまかたちもあらば手綱たづな
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
子供こどもは、ここのうちから、かしこのうちへというふうにうつわって、だんだん月日つきひとともにおおきくなっていったのであります。
牛女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そうしてただ自然の恵から来る月日つきひと云う緩和剤かんわざいの力だけで、ようやく落ちついた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わかおんなのうずめられたところは、いつしか、古墳こふんといわれるようになりました。そして、それからまた、いくねん月日つきひがたったのであります。
うずめられた鏡 (新字新仮名) / 小川未明(著)