屏風びやうぶ)” の例文
平次はお篠の側を離れると、ツイ鼻の先に、投り出すやうにして、二枚屏風びやうぶでかこつてある御朱印の傅次郎の死骸に眼を移しました。
枯つ葉一つがさつか無え桑畑の上に屏風びやうぶたててよ、その桑の枝をつかんだひはも、寒さに咽喉のどを痛めたのか、声も立て無えやうなかただ。
鼠小僧次郎吉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
宗助そうすけはもうすこ一所いつしよあるいて、屏風びやうぶこときたかつたが、わざ/\まはみちをするのもへんだと心付こゝろづいて、それなりわかれた。わかれるとき
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「いかものも、あのくらゐにると珍物ちんぶつだよ。」と、つて、紅葉先生こうえふせんせいはそのがく御贔屓ごひいきだつた。——屏風びやうぶにかくれてたかもれない。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
屏風びやうぶは実用品なり、然れども、白紙の屏風といふものを見たる事なきは何ぞや。装飾と実用との相密接するは、之を以て見るべし。之より
夜風よかぜやぶ屏風びやうぶうち心配しんぱいになりてしぼつてかへるから車財布ぐるまざいふのものゝすくなほど苦勞くらうのたかのおほくなりてまたぐ我家わがやしきゐたか
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
上州境の連山が丁度ちやうど屏風びやうぶを立廻したやうに一帯につらなり渡つて、それがあゐでも無ければ紫でも無い一種の色にいろどられて
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
桟敷さじきのこゝかしこに欲然もえたつやうな毛氈まうせんをかけ、うしろに彩色画さいしきゑ屏風びやうぶをたてしはけふのはれなり。四五人の婦みな綿帽子わたばうししたるは辺鄙へんびに古風をうしなはざる也。
エヽ此水指このみづさしまこと結構けつこうですな、それからむかうのお屏風びやうぶ、三ぷくつひ探幽たんにゆうのおぢくそれ此霰このあられかま蘆屋あしやでげせうな
士族の商法 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
下りて屏風びやうぶのうちへ入置いれおき平左衞門は入牢じゆらう申渡されしが主税之助儀は交代かうたい寄合よりあひ生駒大内藏へ御預けとさだまりたり此生駒家の先祖せんぞ讃州さんしう丸龜まるがめ城主じやうしゆにして高十八萬石を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
つひに鹿は、屏風びやうぶのやうに切り立つた崖のすそをまはつて、向かふへ姿をかくしてしまひました。
鳥右ヱ門諸国をめぐる (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
一つは博多はかたの町人が浮世又兵衞の屏風びやうぶを持つてゐるのを、十太夫が所望してもくれぬので、家來を遣つて強奪させ、それを取り戻さうとする町人を入牢させたのである。
栗山大膳 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
困難のじつに水量と反比例をなしきたすすむこと一里にして両岸の岩壁屏風びやうぶごとく、河はげきして瀑布ばくふとなり、其下そのしたくぼみて深淵しんえんをなす、衆佇立相盻あひかへりみて愕然がくぜん一歩もすすむを得ず
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
トルストイ伯は、息子のイリヤが十八歳の頃、ある日屏風びやうぶの裏表で背中合せになつて
はいよ/\うれしくてたまらず、川面かわづらは水も見えぬまで、端艇ボート其他そのたふねならびて漕開こぎひらき、まは有様ありさま屏風びやうぶに見たる屋島やしまだんうら合戦かつせんにもて勇ましゝ、大尉たいゐ大拍手だいはくしゆ大喝采だいかつさいあひだ
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
学校がつこう卒業そつげふ証書しようしよが二まいや三まいつたとてはなたしにもならねばたかかべ腰張こしばり屏風びやうぶ下張したばりせきやまにて、偶々たま/\荷厄介にやつかいにして箪笥たんすしまへば縦令たとへばむしはるゝともたねにはすこしもならず。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
水墨の絵から何か一つ選ばうと思案する間もなく、長谷川等伯の松林図屏風びやうぶがはうふつと目の前に現はれた。上野の博物館にあるもので、いくたびかそこで見、そのたびに感動の溜息をついた絵だ。
このいへこと數町すうちやう彼方かなたに、一帶いつたいわんがある、逆浪げきらうしろいわげきしてるが、その灣中わんちういわいわとが丁度ちやうど屏風びやうぶのやうに立廻たてまわして、自然しぜん坩※るつぼかたちをなしてところ其處そこ大佐たいさ後姿うしろすがたがチラリとえた。
きん屏風びやうぶをめぐらして
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
つい二三日前にさんちまへまで其所そこてゝいたのですが、れい子供こども面白おもしろ半分はんぶんにわざと屏風びやうぶかげあつまつて、色々いろ/\惡戲いたづらをするものですから
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
部屋に入ると、檢屍が濟んで、とむらひの支度に忙しいらしく、主人の死骸を屏風びやうぶの中に納めて、二三人の者が打合せに夢中でした。
桟敷さじきのこゝかしこに欲然もえたつやうな毛氈まうせんをかけ、うしろに彩色画さいしきゑ屏風びやうぶをたてしはけふのはれなり。四五人の婦みな綿帽子わたばうししたるは辺鄙へんびに古風をうしなはざる也。
しまひには猫又ねこまたけた、めかけのやうに、いとうて、よるひるも、戸障子としやうじ雨戸あまどめたうへを、二ぢうぢう屏風びやうぶかこうて、一室ひとまどころに閉籠とぢこもつたきり、とひます……
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
内裏雛だいりびな、五人ばやし、左近さこんの桜、右近うこんたちばな雪洞ぼんぼり屏風びやうぶ蒔絵まきゑの道具、——もう一度この土蔵の中にさう云ふ物を飾つて見たい、——と申すのが心願でございました。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
半分はんぶんいはせずうしろより只一刀に切殺し此方へ入來いりきたるにぞお菊はお竹が聲におどろ迯出にげいださんとするに間合まあひなければ屏風びやうぶかげへ隱れ戰慄ふるへたりし中曲者くせものは手ぢかに在しお菊が道具だうぐ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
でう座敷ざしきに六まい屏風びやうぶたてゝ、おまくらもとには桐胴きりどう火鉢ひばちにお煎茶せんちや道具だうぐ烟草盆たばこぼん紫檀したんにて朱羅宇しゆらう烟管きせるそのさま可笑をかしく、まくらぶとんの派手摸樣はでもやうよりまくらふさくれなひもつねこのみの大方おほかたあらはれて
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
同じく大刀根岳よりはつするものたり、数間ことかなら瀑布ばくふあり、而して両岸をかへりみれば一面の岩壁屏風びやうぶの如くなるを以て如何なるあやうき瀑布といへども之をぐるのほかみちなきなり、其危険きけん云ふべからず
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
至つて質素な六疊で、屏風びやうぶも花も線香まで用意してありますが、肝心かんじんの床の中は空つぽ、寒々とした不氣味さを感じさせます。
貴方あなた、あの屏風びやうぶつちや不可いけなくつて」と突然とつぜんいた。抱一はういつ屏風びやうぶ先達せんだつ佐伯さへきから受取うけとつたまゝもととほ書齋しよさいすみてゝあつたのである。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
岸のむか逆巻さかまき村にいたる所にはしあり、猿飛橋さるとびばしといふ橋のさまを見るに、よしや猿にてもつばさあらざればとぶべくもあらず、両岸りやうがん絶壁ぜつへきにて屏風びやうぶをたてたるがごとくなれども
その色々の声が、大津絵を補綴ほてつして行く工合ぐあひは、丁度ちやうどぜの屏風びやうぶでも見る時と、同じやうな心もちだつた。自分は可笑をかしくなつたから、途中であははと笑ひ出した。
京都日記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
こゑふるへ、をのゝいて、わたしたち二十人にじふにんあまりをあわたゞしく呼寄よびよせて、あの、二重にぢう三重さんぢうに、しろはだ取圍とりかこませて、衣類きもの衣服きものはななかに、肉身にくしん屏風びやうぶさせて、ひとすくみにりました。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
たのみ外へ遣置やりおき急立せきたつこゝろしづめて覗見のぞきみるにへい四郎は夜具やぐもたれて鼻唄はなうたうたひ居るにぞよく御出おいでなんしたと屏風びやうぶの中にいりぬしに御聞申事がある布團ふとんの上へあがりけれどもなんの氣もつかところ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「へエ、面目次第もございませんが、少し呑み過ぎて苦しいので、屏風びやうぶの蔭へ横になつて、半刻ばかり休まして貰ひました」
臺所だいどころれば引窓ひきまどから、えんてば沓脱くつぬぎへ、見返みかへれば障子しやうじへ、かべへ、屏風びやうぶへかけてうつります。
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
上を見れば雪の屏風びやうぶたてたるがごとく今にも雪頽なだれやせんと(なだれのおそろしき事下にしるす)いきたる心地はなく、くらさはくらし、せめては明方あかるきかたにいでんと雪にうまりたる狭谷間せまきたにあひをつたひ
彼の書斎には石刷いしずりを貼つた屏風びやうぶと床にかけた紅楓こうふう黄菊くわうぎく双幅さうふくとの外に、装飾らしい装飾は一つもない。壁に沿うては、五十に余る本箱が、唯古びた桐の色を、一面に寂しく並べてゐる。
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
それも夜中過ぎは眠りかけて正體のある人も居なかつたのですから、屏風びやうぶの中からフラフラと起ち上がつた死人の姿に
陽氣やうきで、障子しやうじ開放あけはなしたなかには、毛氈まうせんえれば、緞通だんつうえる。屏風びやうぶ繪屏風ゑびやうぶ衣桁いかう衝立ついたて——おかるりさうな階子はしごもある。手拭てぬぐひ浴衣ゆかた欄干てすりけたは、湯治場たうぢばのおさだまり。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ぢやによつて「れぷろぼす」を見知つたほどの山賤やまがつたちは、皆この情ぶかい山男が、いよいよ「しりや」の国中から退散したことを悟つたれば、西空に屏風びやうぶを立てまはした山々の峰を仰ぐ毎に
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「御免かうむりやせう。夜中にフラフラ浮出した首が、屏風びやうぶの上なんかに載かつて居た日にや、睦言むつごとの見當が付かねえ」
銭形平次捕物控:167 毒酒 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
猶子いうし屏風びやうぶて、には牡丹叢ぼたんさうおほひ、ひとうかゞふことをゆるさず。ひとなかにあり。くわ四方しはうり、ふかおよび、ひろひとれてす。たゞ紫粉むらさきこべに白粉おしろいもたらしるのみ。
花間文字 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
が、葦原醜男は彼にも増して、殆ど海豚いるかにも劣らない程、自由自在に泳ぐ事が出来た。だから二人のみづらの頭は、黒白二羽のかもめのやうに、岩の屏風びやうぶを立てた岸から、見る見る内に隔たつてしまつた。
老いたる素戔嗚尊 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
あまりの事に顛倒てんたうしたのと、一家中毒の半病人揃ひだつたので、誰も死骸を屏風びやうぶかこふことさへ忘れたのでせう。
すそはうがくすぐつたいとか、なんとかで、むすめさわいで、まづ二枚折にまいをり屏風びやうぶかこつたが、なほすきがあいて、れさうだから、淡紅色ときいろながじゆばんを衣桁いかうからはづして、鹿扱帶しごき一所いつしよ
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
幻の民五郎は、唐紙や屏風びやうぶの繪の中へも溶け込み、衣桁えかうや衣紋竹の着物の中へも消えて無くなると言はれました。
孫權そんけん或時あるときさう再興さいこうをして屏風びやうぶゑがかしむ、畫伯ぐわはくふでつてあやまつておとしてしろきにてんつ。つてごまかして、はへとなす、孫權そんけんしんなることをうたがうてもつはじいてかへりみてわらふといへり。
聞きたるまゝ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
型の如き屏風びやうぶの中に、北枕で若旦那の死骸が横たへてありますが、線香をあげて膝行ゐざり寄つた平次は、たつた一目で、井戸の中で、三間以上の高さから
たゞしその六尺ろくしやく屏風びやうぶも、ばばなどかばざらんだが、屏風びやうぶんでも、駈出かけだせさうな空地くうちつては何處どこいてもかつたのであるから。……くせつた。ふといゝ心持こゝろもち陶然たうぜんとした。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
まだ入棺にふくわんもせず、北枕に寢かして、さか屏風びやうぶを廻した前に、弟子の良助と太吉がしきりに香をひねつて居ります。