ところ)” の例文
るとぞつとする。こけのある鉛色なまりいろ生物いきもののやうに、まへにそれがうごいてゐる。あゝつてしまひたい。此手このてさはつたところいまはしい。
居室へやかへつてると、ちやんと整頓かたづいる。とき書物しよもつやら反古ほごやら亂雜らんざつきはまつてたのが、もの各々おの/\ところしづかにぼくまつる。
都の友へ、B生より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
しかし、ところを得れば、洗いは今でもやる。この鮎の洗いからヒントを得て、私はその後、いわなを洗いにして食うことを思いついた。
鮎の食い方 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
が、もしこれがところにおいてはどうであろうか、公衆こうしゅうと、新聞紙しんぶんしとはかならずかくのごと監獄バステリヤは、とうに寸断すんだんにしてしまったであろう。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「おや、此所こゝらつしやるの」と云つたが、「一寸ちよいと其所そこいらにわたくしくしが落ちてなくつて」と聞いた。くし長椅子ソーフアあしところにあつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
時間じかんがなかつたんだもの』とつてグリフォンは、『でも、わたし古典學こてんがく先生せんせいところきました。先生せんせい年老としとつたかにでした、まつたく』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
はねたりけりかゝりし程にところ村役人むらやくにん等は二ヶ所にての騷動さうどうを聞傳て追々に馳集り先友次郎等を取圍とりかこみ事の樣子を聞けるに友次郎はかたち
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
この活玉依姫いくたまよりひめところへ、ふとしたことから、毎晩まいばんのように、たいそう気高けだかいりっぱな若者わかものが、いつどこからるともなくたずねてました。
三輪の麻糸 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
するとだんだんがふさいで、病気びょうきになりました。それから八つきったときに、おんなおっとところって、きながら、こういました。
おもいのでしょう。わたし、あんたといっしょにおうちへいってあげるわ。そして、ご主人しゅじんによくはなしてあげますから、おところをおっしゃい。」
波荒くとも (新字新仮名) / 小川未明(著)
(五二)くわんなればすなは名譽めいよひとちようし、きふなればすなは介冑かいちうもちふ。いまやしなところもちふるところあらず、もちふるところやしなところあらずと。
ほたる淺野川あさのがは上流じやうりうを、小立野こだつののぼる、鶴間谷つるまだにところいまらず、すごいほどおほく、暗夜あんやにはほたるなかひと姿すがたるばかりなりき。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
貝塚の中よりは用に堪えざる土噐の破片出で、又折れ碎けたる石噐出づ。獸類じうるい遺骨いこつ四肢ししところことにし二枚貝は百中の九十九迄はなれたり。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
角「わしらも馬喰町から焼出され、小網町から高橋の方へ逃𢌞って泊るところもないが、何しろ此処は往来だから、マア一緒にお出でなせえ」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それからところとな——ほかにもいろいろやってもらいたいことはあるが、とりあえずそれだけを、おまえの力でぜひなんとかしてくれ
なにうまはゐなかつたか? あそこは一たいうまなぞには、はひれないところでございます。なにしろうまかよみちとは、やぶひとへだたつてりますから。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ジョバンニはすぐ入口から三番目の高い卓子テーブルにすわった人のところへ行っておじぎをしました。その人はしばらくたなをさがしてから
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
やがてはフランスの中部ちゆうぶドルドーンヌのフオン・ド・ゴームといふところ洞穴ほらあななどにまた、おなじようなのあることが發見はつけんせられたのです。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
下品げひんの縮の事は姑舎しばらくおいろんぜず。中品ちゆうひん以上に用ふるをうむにはうむところをさだめおき、たいを正しくなし呼吸こきふにつれてはたらかせて為作わざをなす。
こちらの世界せかいには竜宮界りゅうぐうかいのようなきれいなところがありまして、三浦半島みうらはんとう景色けしきがいかにいともうしても、とてもくらべものにはなりませぬ。
検疫船けんえきせん検疫医けんえきいむ。一とう船客せんかくどう大食堂だいしよくだうあつめられて、事務長じむちやうへんところにアクセントをつけて船客せんかくげる。
検疫と荷物検査 (新字旧仮名) / 杉村楚人冠(著)
赤いたすきを十文字に掛けて、あがくちの板縁に雑巾ぞうきんを掛けている十五六の女中が雑巾の手を留めて、「どなたのところへいらっしゃるの」と問うた。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ゆゑにそのしかばねをいるゝところ棺槨くわんくわくには恒久的材料こうきうてきざいれうなる石材せきざいもちひた。もつとも棺槨くわんくわく最初さいしよ木材もくざいつくつたが、發達はつたつして石材せきざいとなつたのである。
日本建築の発達と地震 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
「もう大丈夫だいじょうぶです」とさるはいいました。「人形は盗賊とうぞくどものところにあるにちがいありません。私が行って取りもどしてきましょう」
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
部屋の一ところに人間がいる。尾張中納言宗春である。じっと一ところを見詰めている。その膝の辺に巻物があり、硯箱すずりばこが置いてある。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ところで旅行中の費用はすべて官費であるから、政府から請取うけとった金は皆手元に残るゆえ、その金をもって今度こそは有らん限りの原書をかって来ました。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ところで西洋の文学上で近代的な女というのはどんなだい。それ何とかいう西班牙スペインの無政府主義者の女ね。あれなんかどうだい。
新時代女性問答 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
其故それゆゑわたくしじゆくではこの規則きそく精神せいしん規則きそく根本こんぽんかへつて、各個人かくこじん都合つがふといふところを十ぶん了解れうかいせしむるといふ方針はうしんとつるのであります。
女教邇言 (旧字旧仮名) / 津田梅子(著)
おれも、あの市來知いちぎしりにある、野菊のぎくいてる母親マザーはかにだけはきたいとおもつてゐる。本當ほんたう市來知いちぎしりはいゝところだからなあ。』
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
ハワイの火山かざんのように海底かいていからあがつて出來できたものは、鎔融状態ようゆうじようたいおい比較的ひかくてき流動りゆうどうやす性質せいしつつてゐることは、まへにもべたところであるが
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
どれほど思っているか、それは今さらいうまでもない。松のよいところ、水のよい所、そちの好きな所へ寮を建ててやろう、どんな栄華えいがもさせてやろう
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何処どこなにして歩いたものか、それともじっとところ立止たちどまっていたものか、道にしたらわずかに三四ちょうのところだが、そこを徘徊はいかいしていたものらしい。
死神 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
B ところが、のごろチラといたはなしだが、みぎのハガキ運動うんどう選擧權擴張せんきよけんくわくちやう要求えうきう應用おうようしかけてゐるものがあるさうだ。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
兎角とかくするほどあやしふねはます/\接近せつきんきたつて、しろあかみどり燈光とうくわう闇夜やみきらめく魔神まじん巨眼まなこのごとく、本船ほんせん左舷さげん後方こうほうやく四五百米突メートルところかゞやいてる。
勘弁かんべんはいいが、——丁度ちょうどいいところでおめえにった。ちっとばかりきてえことがあるから、つきあってくんねえ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
このへん飾馬考かざりうまかんがへ』『驊騮全書くわりうぜんしよ』『武器考證ぶきかうしよう』『馬術全書ばじゆつぜんしよ』『鞍鐙之辯くらあぶみのべん』『春日神馬繪圖及解かすがしんばゑづおよびげ』『太平記たいへいきおよ巣林子さうりんし諸作しよさくところおほあへ出所しゆつしよあきらかにす
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
流轉るてんうまはせては、ひめばれしこともけれど、面影おもかげみゆる長襦袢ながじゆばんぬひもよう、はゝ形見かたみ地赤ぢあかいろの、褪色あせのこるもあはれいたまし、ところ何方いづく
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
つきつてゐるところいてゐる、まちのとほりにゑてあるに、あたるところのかぜおとたかさに、なるほどひどいかぜだとおもつてそらると、げられたちり
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
あの橋のところから阪急の線まで出る路がまたえらい淋しいて、片ッぽ側が大きな松のたあんとえてる土手ですよって、あんなとこ女三人で歩けるはずあれしません。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ところこまつたことにア身躰からだわるく、肺病はいびようてゐるからぼくほとんど當惑とうわくするぼくだつて心配しんぱいでならんからその心配しんぱいわすれやうとおもつて、ついむ、めばむほど心配しんぱいする。
罪と罰(内田不知庵訳) (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
其結果そのけつくわ我國わがくに金利きんりたかくなり、株劵かぶけんさがり、公債こうさい社債しやさいさがつて、我國わがくに經濟界けいざいかい非常ひじやう打撃だげきあたへるであらうとふことが、世人せじんぱん心配しんぱいになつたところであるが
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
これを返したまわらんという時、振り返りたる女の顔を見れば、二三年前に身まかりたる我が主人の娘なり。斧は返すべければ我がこのところにあることを人にいうな。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
さゝ、はやなしゃれ。生存いきながらへて、後日ごじつ自分じぶんは、狂人きちがひ仁情なさけで、あやふところたすかったとおひなされ。
なんのためだとおもふと、しづめる妙法めうはふで——露骨ろこつに、これを説明せつめいすると、やきもちしづめ——そのしぶさ、ゆかしさ、到底たうてい女人藝術げいじゆつ同人どうじんなどの、かんがへつくところのものではない。
しかし、おたがひ日干ひぼしにもならないところると、たしかにどうにかなつてきつつあるぢやないか」
画家とセリセリス (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
利根山奥のひくところは山毛欅帯にぞくし、たかきは白檜帯に属す、最高なる所は偃松帯にぞくすれども甚だせましとす、之を以て山奥の入口は山の頂上に深緑色の五葉松繁茂はんも
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
らえゝところなもんぢやねえ、やつとのことでげるやうにしてたんだ、あんなところへなんざあけつしてくもんぢやねえ、とつても駄目だめなこつた、おらりつちやつたよ
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
とうさんがあそまはつた谷間たにまと、谷間たにまむかふのはやしも、そのへんからよくえました。やまやまかさなりつたむかふのはうには、祖父おぢいさんのきな惠那山ゑなざんが一ばんたかところえました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
前には邦家のきふに當りながら、うしろには人心の赴くところ一ならず、何れ變らぬ亡國の末路まつろなりけり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
消極的に出ることは自己以外の威力に強制されてるので、独立自由の人格の好まないところ、甘んじないところ、止むを得ざること、わば恐迫されしいられてる如きものである。
デモクラシーの要素 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)