なり)” の例文
らうこゝろをつけて物事ものごとるに、さながらこひこゝろをうばゝれて空虚うつろなりひとごとく、お美尾みを美尾みをべばなにえとこたゆることばちからなさ
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
これ吉瑞きちずゐなりけん、此年此家のよめ初産うひざん男子なんしをまうけ、やまひもなくておひたち、三ツのとし疱瘡はうさうもかろくして今年七ツになりぬ。
上野のおなり街道を横切ってくる小川に添った片側かたがわ町の露地で、野暮にいえば下谷の源助店げんすけだな、丹頂のおくめがひとり暮らしの住居すまいであります。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
日来ひごろ武に誇り、本所ほんじょなみする権門高家の武士共いつしか諸庭奉公人となり、或は軽軒香車の後に走り、或は青侍格勤の前にひざまずく。
四条畷の戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
俳諧は連歌ほどはいはず。総別そうべつ景気の句は皆ふるし。一句の曲なくてはなりがたき故つよくいましめ置たる也。木導が春風、景曲第一の句也。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「殊ニ身ニシムヤウニ聞ユルハ、御謀反ノ志ヲモ聞セ給フベケレバ、事ノなりナラズモ覚束おぼつかナク、又ノ対面モ如何ナラムト思召おぼしめす御胸ヨリ出レバナルベシ」
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
引取ひきともと主人しゆじん五兵衞方へあらためて養子にぞつかはしける然ば昨日迄きのふまでに遠き八丈の島守しまもりとなりし身が今日は此大家たいかの養子となりし事實に忠義の餘慶よけい天よりさいはひを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そして、どうなるのだろうとなりゆきをみていた。はたして、しばらくすると、その中の一名が、ほかの人をおしのけて、丁坊のまえにつかつかと出てきた。
大空魔艦 (新字新仮名) / 海野十三(著)
榛軒は帰途に上つて、始めて此日徳川将軍の「おなり」のために交通を遮断せられたことを聞き知つた。枳園は罪を謝するに当つて、絶てこれを口に上せなかつた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
夜軍よいくさなりて、くらさは暗し、大将軍頭中将重衡、般若寺の門に打立うちたちて『火を出せ』とのたまふ程こそありけれ。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
夜叉王 思ひもよらぬおなりとて、なんの設けもござりませぬが、先づあれへお通りくださりませ。
修禅寺物語 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
国子当時蝉表せみおもて職中一の手利てききなりたりと風説あり今宵こよいは例より、酒うましとて母君大いによい給ひぬ。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
わが心はすでに天地とひとつになりぬ、わがこゝろざしは国家の大本にあり、わがかばねは野外にすてられて、やせ犬のゑじきに成らんを期す、われつとむるといへども賞をまたず
一葉の日記 (新字旧仮名) / 久保田万太郎(著)
「へゝゝ、だれにおあそばしたやら、大分だいぶ高慢かうまんくちをおきになります、お廿六で、」
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
御老中は勿論将軍家も年に二度ぐらいはおなりになるという定例じょうれいでございます、すなわち正面の高座敷たかざしきが将軍家の御座所でございまして、御老中、若年寄わかどしより、寺社奉行、大目附おおめつけ御勘定ごかんじょう奉行、こおり奉行
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それから加賀の石川郡の出城でじろ村大字なりの字は、字維、字新、字以、字来、字文、字明、字開、字化というのであり、いずれも無造作の中に著しくあの時代の生活趣味を現わしているのが面白い。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
人品じんぴんを落すほどにつくッて、衣服もなりたけいのをえらんで着て行く。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
さしもになかよしなりけれど正太しようたとさへにしたしまず、いつもはづかしかほのみあかめてふでやのみせ手踊てをどり活溌かつぱつさはふたゝるにかたなりける
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「お邸内やしきうちのおなり御殿ごてんは、おととしから去年にかけて竣工できあがっているが、またことしの春も、おなりがあるというので、庭のお手入れだ。大したものだぜ」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とりお菊の部屋へ誘引いざなひたり然るに此お菊は幼年えうねんより吉三郎と云號いひなづけと聞居たりしが今年ことし十七歳になり始めて吉三郎を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
然れば惜むべきを、ひめ隠しおかば、荷田大人の功もいたづらなりなんと、我友皆いへればしるしつ
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
わたしは千葉の者であるが、馬琴ばきんの八犬伝でおなじみの里見の家は、義実よしざね、義なり、義みち実尭さねたか、義とよ、義たか、義ひろ、義より、義やすの九代を伝えて、十代目の忠義ただよしでほろびたのである。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ごろには、それとなくかぜのたよりに、故郷こきやう音信いんしんいて自殺じさつしたあによめのおはるなりゆきも、みな心得違こゝろえちがひからおこつたこといてつてたので、自分じぶん落目おちめなら自棄やけにもらうが
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
他處目よそめうらやましうえて、面白おもしろなりしが、旦那だんなさまころはからひの御積おつもりなるべく、年來としごろらぬことなきいへきをばかり口惜くちをしく
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
結ぶ時とぞなりにき澤の井ひそかに徳太郎君にむかひかね/\君の御情おなさけを蒙りうれしくもまたかなしくいつか御胤おたね
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
たった一度の湯治おなりに万金の工費をかけて、そのまま建ちぐされとなっている将軍家のお湯浴ゆあみ御殿や諸侯の湯荘など、築地ついじなまこ塀の建ち並ぶ小路をスタスタと話もせずに急いで
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ええうございますともね。だが何ですよ。なりたけ両方をゆっくり取るようにしておかないと、当節はやかましいんだからね。距離をその八尺ずつというお達しでさ、御承知でもございましょうがね。」
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
家内うちればわたしそばばつかりねらふて、ほんに/\かゝつてなりませぬ、何故なぜ彼樣あんな御座ござりませうとひかけておもしのなみだむねのなかみなぎるやうに
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
浜町はまちょう菖蒲河岸あやめがしの御船御殿というのは、将軍家ふねなりの節に、御台所みだいどころづき大奥の女中たちが、よそながら陪観ばいかんするお数寄屋であったが、いつからか、そこにあでやかな一人の貴婦人が棲むようになり
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたしやう不運ふうんはゝそだつより繼母御まゝはゝごなり御手おてかけなりかなふたひとそだてゝもらふたら、すこしは父御てゝご可愛かわゆがつて後々のち/\あのためにもなりませう
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ひどくよわつてるやうだなと見知みしりの臺屋だいやとがめられしほどなりしが、父親ちゝおやはお辭氣じぎてつとて目上めうへひとつむりをあげたことなく廓内なか旦那だんなはずとものこと
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
れはういふ子細しさいでとちゝはゝ詰寄つめよつてとひかゝるにいままではだまつてましたれどわたしうち夫婦めをとさしむかひを半日はんにちくださつたら大底たいてい御解おわかりになりませう
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あけぬれば月は空にかへりて名残なごりもとゞめぬを、すずりはいかさまになりぬらん、な/\影やまちとるらんとあはれなり。
月の夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
えうなきむねいためけん、おろかしさよと一人ひとりみして、竹椽ちくえんのはしにあしやすめぬ、晩風ばんぷうすゞしくたもとかよひて、そらとびかふ蝙蝠かはほりのかげ二つ三つ、それすらやうやえずなりゆく
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
三日みつかともかぞへずしておどろくばかりになりぬ、あきかぜすこしそよ/\とすればはしのかたより果敢はかなげにやぶれて風情ふぜい次第しだいさびしくなるほどあめおとなひこれこそはあはれなれ
雨の夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
めづらしく家内中うちゞうとのれになりけり、このともうれしがるは平常つねのこと、父母ちゝはゝなきのちたゞ一人の大切たいせつひとが、やまひのとこ見舞みまこともせで、物見遊山ものみゆさんあるくべきならず
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
うもなんともはれぬ氣持きもちなりました、貴郎あなたにはわらはれて、かられるやうこと御座ござりましよとしたいておはするに、ればなみだつゆたまひざにこぼれてあやしうおもはれぬ。
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
もとは檀家だんかの一にんなりしがはやくに良人おつとうしなひてなき暫時しばらくこゝにおはりやとひ同樣どうやうくちさへらさせてくださらばとてあらそゝぎよりはじめておさいごしらへはもとよりのこと
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いとはづかしうてならざらんほどはといへちかそれやしろ日参につさんといふことをなしける、おもへばれもむかなりけり、をしへしひとこけしたになりてならひとりし大方おほかたものわすれしつ
雨の夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
歌よみがましきは憎きものなれどかゝる一言ひとことには身にしみて思ふ友ともなりぬべし。
月の夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
婢女はしためども気味わるがりてささやき合ひしが、門の扉のあけくれに用心するまでもなく、垣にだれし柿の実ひとつ、事もなくして一月あまりも過ぎぬるに、何時いつとなく忘れて噂も出ずなりしが
琴の音 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
此池このいけの深さいくばくともはかられぬ心地こゝちなりて、月はそのそこのそこのいと深くに住むらん物のやうに思はれぬ、久しうありてあふぎ見るに空なる月と水のかげといづれをまことのかたちとも思はれず
月の夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あきよりたゞ一人の伯父おぢわづらひて、商賣しやうばい八百やをみせもいつとなくぢて、おなまちながら裏屋うらや住居ずまゐなりしよしはけど、六づかしきしゆう給金きうきんきにもらへえば此身このみりたるもおなこと
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
二つの手桶てをけあふるゝほどみて、十三はれねばらず、大汗おほあせりてはこびけるうち、輪寳りんぽうのすがりしゆがみづばき下駄げた前鼻緒まへばなをのゆる/\にりて、ゆびかさねば他愛たわいきやうなり
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
二つの手桶てをけあふるるほどみて、十三は入れねば成らず、大汗に成りて運びけるうち、輪宝りんぽうのすがりしゆがみ歯の水ばき下駄げた、前鼻緒のゆるゆるに成りて、指を浮かさねば他愛たわいの無きやうなり
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
涙をかくして乗り移る哀れさ、うちには父が咳払せきばらひのこれもうるめる声なりし。
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
たま姫樣ひめさま御出生ごしつしやうきもへず、るやさくらむなしくなりぬるを、何處いづくりてか六三ろくさ天地てんちなげきて、ひめいのちゆゑばかりみじかきちぎりにあさましき宿世しゆくせおもへば、一人ひとりのこりてなんとせん
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
此處こゝ三十へだてなれどもこゝろかよはずは八がすみ外山とやまみねをかくすにたり、はなちりて青葉あをばころまでにおぬひもとにふみつう、ことこまなりけるよし、五月雨さみだれのきばにれまなく人戀ひとこひしきをりふし
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
去年向島むかふじまの花見の時女房づくりして丸髷まるまげに結つて朋輩ほうばいと共に遊びあるきしに土手の茶屋であの子に逢つて、これこれと声をかけしにさへ私の若くなりしにあきれて、おつかさんでござりますかと驚きし様子
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
去年きよねん向島むかふじま花見はなみとき女房にようぼうづくりして丸髷まるまげつて朋輩ほうばいともあそびあるきしに土手どて茶屋ちやゝであのつて、これ/\とこゑをかけしにさへわたしわかなりしにあきれて、おつかさんでござりますかとおどろきし樣子やうす
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)