他人たにん)” の例文
おまえは、なかにいるときに、あまりものぐさで、他人たにんたいして、特別とくべつによいこともしなかったかわりに、わるいこともしなかった。
ものぐさじじいの来世 (新字新仮名) / 小川未明(著)
おなひとですら其通そのとほり、いはんやかつこひちかられたことのないひと如何どうして他人たにんこひ消息せうそくわからう、そのたのしみわからう、其苦そのくるしみわからう?。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
それが如何どうしたものか何時いつにやらひど自分じぶんからおしなそばきたくつてしまつて、他人たにんからかへつ揶揄からかはれるやうにつたのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
れはうもおまへさんのこと他人たにんのやうにおもはれぬはういふものであらう、おきやうさんおまへおとゝといふをつたこといのかとはれて
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それを他人たにんに知られたら、ひきょうな立合たちあいといわれて、徳川家とくがわけの名をけがすことになるが、いまはそんなことを顧慮こりょしていることはできない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だから、きみもよく心えていてもらって、ぼくの部屋へ他人たにんをいれないでくれたまえ。しずかに休んでいたいんだからね
と、これつたことばです、智者ちしや哲人てつじんしくは思想家しさうかたるものゝ、他人たにんことなところてんは、すなはこゝるのでせう、苦痛くつうかろんずるとことに。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
何者なにものにもと意味いみ世評せひやうとか、先輩せんぱいせつとか、女學校ぢよがくかう校長かうちやう意見いけんとか、さういふ他人たにん批判ひはんふのである。
読書の態度 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
他人ひとの物はおれの物と思って他人たにんを欺くような人だから此の者を切るの突くのと仰しゃる気遣きづかいは有るまいが、なお念のため申す、愈々いよ/\此の者をお許しなさるか
丹後行たんごゆき舞鶴行まひづるゆき——つてたばかりでも、退屈たいくつあまりに新聞しんぶんうらかへして、バンクバー、シヤトルゆきにらむがごとき、じやうのない、他人たにんらしいものではない。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
芝居しばゐ土間どま煙草たばこつて、他人たにんたもとがしたものも、打首うちくびになるといふうはさつたはつたときは、皆々みな/\あをくなつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
しか其頃そのころはもうさういふこと他人たにん批難ひなんするのは馬鹿々々ばか/\しいといふ意見いけんつてゐる學生がくせいかたおほかつた。
忠太郎 親のねえ子は人一倍、赤の他人たにんの親子を見ると、羨ましいやらねたましいやら。おさらばでござんす。
瞼の母 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
猛然もうぜん立ちあがった糟谷はわが子を足もとへたおし、ところきらわずげんこつを打ちおろした。芳輔はほとんど他人たにんとけんかするごとき語気ごき態度たいど反抗はんこうした。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
彼はこれでこそ、生甲斐いきがひがあると信じてゐたのだから、彼の健康は、彼に取つて、他人たにんの倍以上に価値をつてゐた。彼のあたまは、彼の肉体と同じくたしかであつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
たう秦韜玉しんたうぎよく村女そんぢよに、もつともうらむは年々ねん/\金線きんせんつくらふ他人たにんためよめいり衣装いしやうつくるといひしはむべなる哉々々かな/\/\
他人たにんから——いや敵と思つた人間から、こんなに深切にされるとは想像もしたことはなかつたのです。
他人たにんがよいからよいとおもふのは、正直しようじきでよいことですが、さういふのを支那しなひとはうまくいひました。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
底ありふたありで親もとがめず、をつとも咎めぬものをアカの他人たにんとがめても、ハイ、しませうと出るはずのない事だがぼくとても内職ないしよくそのものを直々ぢき/″\不可わるいといふのではない
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
左樣さうさとられたからは百年目ひやくねんめこの一件いつけん他人たにんもらすものならば、乃公おれかさだいぶはれたこと左樣さうなればやぶれかぶれ、おまへ御主人ごしゆじんいへだつて用捨ようしやはない、でもかけて
おめえさえくびたてってくれりゃァ、からきしわけはねえことなんだ。のうおせん。あか他人たにんでさえ、ことけて、かくかくの次第しだいたのまれりゃ、いやとばかりゃァいえなかろう。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ひろひ念頃ねんごろとぶらたくぞんじたづね候と申ゆゑ數多あまたの骨の中にていかでか是が親の骨と分かるべきやと申候に彦三郎しぼり骨へかける時は他人たにんの骨へは染込しみこむ事なく父の骨なれば染込候ゆゑゆび噛切かみきり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
殊更ことさらつとめて他人たにん教化けうくわせんとするが如きはこれを為す者の僣越せんえつしめし、無智無謀むちむぼうしようす、る大陽はつとめてかゞやかざるを、ほしは吾人の教化けうくわはかつひかりはなたず、からざるをざればひかるなり
問答二三 (新字旧仮名) / 内村鑑三(著)
それをまもつくのは至極しごく結構けつかうでありますが、如何いかにせん無味乾燥むみかんさうなる一ぺん規則きそくでは銘々めい/\好都合かうつがふわからず、他人たにんから命令めいれいされたことのやうにおもはれて、往々わう/\規則きそく忽諸こつしよにするのふうがある。
女教邇言 (旧字旧仮名) / 津田梅子(著)
抑も斯かる覆面は何の爲にもちゐらるるかとへば、故らに面貌めんばうを奇にする爲か他人たにんに面貌を示さざる爲かしからざれば寒氣かんきを防ぐ爲なるべし。思ふに第三種の用こそ此場合このばあひに於けるまことの用ならめ。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
おばあさんは、仕事しごとの手つだいに、下男げなん下女げじょをやとうこともできたでしょう。けれども、じぶんの子どもたちが、おばあさんを残していってしまってからは、身ぢかに他人たにんを見たくなかったのです。
「なにしろたのみとするせがれでしたので、量見りょうけんがせまいようですが、当分とうぶん他人たにんさまのためにどうこうする気持きもちもこりません。」
子供は悲しみを知らず (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのさまれに遠慮ゑんりよらず、やなときやといふがよし、れを他人たにんをとこおもはず母樣はヽさまどうやうあまたまへとやさしくなぐさめて日毎ひごとかよへば
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
しなやうやあきなひおぼえたといつてたのはまだなつころからである。はじめはきまりがわるくて他人たにんしきゐまたぐのを逡巡もぢ/\してた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
大浪おほなみ小浪こなみ景色けしきなんだ。いまいままでぼくをよろこばして自然しぜんは、たちまちのうちなん面白味おもしろみもなくなつてしまつた。ぼくとは他人たにんになつてしまつた。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
と、これはよくったことばです、智者ちしゃ哲人てつじん、もしくは思想家しそうかたるものの、他人たにんことなところてんは、すなわちここにるのでしょう、苦痛くつうかろんずるとうことに。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
わらかしやがらあ。あたらしいくつ穿いたとおもつて、おつおれ他人たにんにしやがる。へん、してくんねえ。」
人参 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
これ如何いかに其の方の荷物が紛失ふんじつしたとてみだりに他人たにんを賊といっては済まんぞ、いやしくも武士ぶしたる者が他人ひとの荷物を持っておのれの物とし賊なぞを働く様なる者と思うか、手前は拙者を賊に落すか
貴重きちよう尊用そんようはさら也、極品ごくひん誂物あつらへものは其しなよくじゆくしたる上手をえらび、何方いづく誰々たれ/\ゆびにをらるゝゆゑ、そのかずに入らばやとて各々おの/\わざはげむ事也。かゝる辛苦しんくわづかあたひため他人たにんにする辛苦しんく也。
くちはからきし下手へたかわ人様ひとさままえたら、ろくにおしゃべりも出来できおとこじゃござんせんが、若旦那わかだんなだけは、どうやらあか他人たにんとはおもわれず、ついへらへらとおしゃべりもいたしやす。——ねえ若旦那わかだんな
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
問、他人たにんみちを説くに如何いかなる方法はうはふるべきや。
問答二三 (新字旧仮名) / 内村鑑三(著)
「なんでも、他人たにんちからをあてにしてはならぬ。自分じぶんはたらいて自分じぶんむのがいちばんうまい。」と、おじいさんは、ったのであります。
こまどりと酒 (新字新仮名) / 小川未明(著)
他人たにんけば適當てきたうひやうといはれやせん別家べつけおなじき新田につたにまではからるゝほど油斷ゆだんのありしはいへうんかたぶときかさるにてもにくきは新田につたむすめなり
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ごろでは不廉ふれんさけ容易ようい席上せきじやうへははこばれなくつてたのでしたがつて他人たにんつたのでもみなひかにするやうつてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
すると一日あるひ一人ひとり老叟らうそう何所どこからともなくたづねて來て祕藏ひざうの石を見せてれろといふ、イヤその石は最早もう他人たにんられてしまつてひさしい以前から無いと謝絶ことわつた。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
またある若者わかものてどうふう生活せいかつをしたらいいかと相談そうだんけられる、と、他人たにんはまず一ばんかんがえるところであろうが、貴方あなたにはそのこたえはもうちゃんと出来できている。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
雖然けれども、いざ、わかれるとれば、各自てんでこゝろさびしく、なつかしく、他人たにんのやうにはおもはなかつたほど列車れつしやなかひとまれで、……まれふより、ほとんたれないのであつた。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いよいようちからて、他人たにんなかはいるのだとおもうと、いくらわんぱくものでもかわいそうになって、もう二、三にちしかうちにいないというので
海へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
流石さすがのおけるお他人たにんにはすこ大人をとならしくおあそばせど、お心安こヽろやすだてのわがまヽか、あま氣味ぎみであのとほりの御遠慮ごゑんりよなさ
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
影法師かげぼふしが、鐵燈籠かなどうろうかすかあかりで、別嬪べつぴんさんの、しどけない姿すがたうへへ、眞黒まつくろつて、おしかぶさつてえました。そんなところだれ他人たにんせるものでございます。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あるひ公書こうしよごときものに詐欺さぎ同樣どうやう間違まちがひでもはせぬか、他人たにんぜにでもくしたりはせぬか。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「おにいさん。すると、自分じぶんのことばかりかんがえず、他人たにんのこともおもうなら、このなかは、あかるくなるんですね。」と、少年しょうねんは、きました。
アパートで聞いた話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
おぼえてるものぞ松澤まつざは若大將わかたいしやうたゝへられてせき上座かみくらまうけられしれすらみすぼらしき此服裝このなりよしやおもておぼえがればとて他人たにん空肖そらに
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あるい公書こうしょごときものに詐欺さぎ同様どうよう間違まちがいでもしはせぬか、他人たにんぜにでもくしたりしはせぬか。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
何故なぜ雪枝ゆきえ他人たにん訪問はうもんたやうな心持こゝろもちつて、うつかり框際かまちぎは広土間ひろどま突立つゝたつてた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)