まく)” の例文
軍師ぐんし民部は、きのうからまくのそとに床几をだして、ジッと裾野すそのをみつめたまま、龍太郎りゅうたろうのかえりを、いまかいまかと待ちかねていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてわか牝狐めぎつねが一ぴき、中からかぜのようにんでました。「おや。」というもなく、きつね保名やすなまくの中にんでました。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
裾野すそのけむりながなびき、小松原こまつばらもやひろながれて、夕暮ゆふぐれまくさら富士山ふじさんひらとき白妙しろたへあふぐなる前髮まへがみきよ夫人ふじんあり。ひぢかるまどる。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
其時原口さんはうしろから、平手ひらてで、与次郎の脊中せなかたゝいた。与次郎はくるりとかへつて、まくすそもぐつて何所どこかへ消え失せた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
もう、日が西のほうへうつっていましたので、マタンじいさんは、子どもたちの上にかぶさっていた日おおいのまくを、しぼりあげました。
名なし指物語 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
少女は実際部屋の窓に、緑色の鸚鵡おうむを飼いながら、これも去年の秋まくかげから、そっと隙見すきみをした王生の姿を、絶えず夢に見ていたそうである。
奇遇 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ベンヺ こりゃなんでも、かくれて、夜露よつゆれのまくという洒落しゃれであらう。こひめくらといふから、やみちょうどおあつらへぢゃ。
仮小屋かりごやまくうちまたは青空の下で、賞翫しょうがんする場合のほうが昔から多く、それはまたわたしたちの親々の、なにか変った仕事をする日でもあった。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
○さて口上いひ出て寺へ寄進きしんの物、あるひは役者へ贈物おくるもの、餅酒のるゐ一々人の名をあげしなよび披露ひろうし、此処忠臣蔵七段目はじまりといひてまくひらく
先刻さつきから三人四人と絶えずあがつて来る見物人で大向おほむかうはかなり雑沓ざつたふして来た。まへまくから居残ゐのこつてゐる連中れんぢゆうには待ちくたびれて手をならすものもある。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
道具方どうぐかたかしてまくいたんだが、そりゃおめえ、ここでおれがはなしをしてるようなもんじゃァねえ、芝居中しばいじゅうがひっくりかえるような大騒おおさわぎだ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
秋も十一月に入って、お天気はようやくくずれはじめた。今日も入日いりひは姿を見せず、灰色の雲のまくの向う側をしのびやかに落ちてゆくのであった。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そして新吉の手がけるほどぐいと引き立て、引きずるようにして中央ちゅうおうまくのかげへれて行ってしまいました。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
いかにたずねてもたずねても、竜神りゅうじん生活せいかつなにやらうすまくへだてたようで、シックリとはちない個所ところがございます。
くさおほはれたをかスロープ交錯かうさくし合つておだやかなまくのやうに流れてゐた。人家じんかはばう/\としたくさのためにえなかつた。
美しい家 (新字旧仮名) / 横光利一(著)
山麓さんろくには、紅白こうはくだんだらのまくり、天幕テントり、高等官休憩所かうとうくわんきうけいじよ新聞記者席しんぶんきしやせき參觀人席さんくわんにんせきなど區別くべつしてある。べつ喫茶所きつさじよまうけてある。宛然まるで園遊會場えんいうくわいぢやうだ。
アントン・チエエホフの名戯曲ぎきよくさくらその」のだいまく目の舞台ぶたいの左おく手には球突塲たまつきばがある心になつてゐる。
文壇球突物語 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
ひがしもんからはひつて、露店ろてん參詣人さんけいにんとの雜沓ざつたふするなかを、あふひもんまく威勢ゐせいせた八足門はつそくもんまへまでくと、むかうから群衆ぐんしうけて、たか武士ぶしがやつてた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
着し座す其形勢ありさまいと嚴重げんぢうにして先本堂には紫縮緬むらさきちりめんしろく十六のきく染出そめいだせしまくを張り渡し表門には木綿地もめんぢに白とこんとの三すぢを染出したる幕をはり惣門そうもんの内には箱番所はこばんしよ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そのとき黒装束くろせうぞく覆面ふくめんした怪物くわいぶつが澤村路之助丈えとめぬいたまくうらからあらはれいでヽあか毛布けつとをたれて、姫君ひめぎみ死骸しがいをば金泥きんでいふすまのうらへといていつてしまつた。
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
湊屋の大将こと、篠崎仁三郎は、その日常の生活がことごとくノベツまくなしの二輪加の連鎖であった。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
チャリン! まくをはねて花道から、しばらく……しばらくと現われる、伊達姿女暫だてすがたおんなしばらく
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
時は涼秋りょうしゅうげつ、処は北海山中の無人境、篝火かがりびを焚く霜夜の天幕、まくそとには立聴くアイヌ、幕の内には隼人はやと薩摩さつま壮士おのこ神来しんらいきょうまさにおうして、歌ゆる時四絃続き、絃黙げんもくす時こえうた
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
芝居の引幕は能のまくとは趣を異にして居るやうではあるが、しかし元はやはり揚幕から出た考へであらうと思ふ。チヨボ語りの位置は地謡じうたいの位置と共に舞台に向つて右側の方にある。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
みるみるうちに数人の人夫が財宝を庭に出しはじめた。金銀銭紙幣数百万、真珠瑪瑙めのうの類数百斛ひゃくこくまくすだれ、榻類これまた数千事。そしてこども襁褓おむつや女のくつなどは庭や階段にちらばって見えた。
続黄梁 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
桂川かつらがはまくときはおはんせな長右衞門ちやううゑもんうたはせておびうへへちよこなんとつてるか、此奴こいついお茶番ちやばんだとわらはれるに、をとこなら眞似まねろ、仕事しごとやのうちつて茶棚ちやだなおく菓子鉢くわしばちなか
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ぼつちやんがアノうもながいダレまくあひだちやんとおひざへ手をせて見てらつしやるのは流石さすがうもおちがひなさるツてえましたら親方おやかたがさうひましたよ、それ当然あたりめえよおまへのやうな痴漢ばかとはちが
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
それゆゑぱん子女しぢよのやうではなくおつぎのこゝろにもをとこたいする恐怖きようふまく無理むり引拂ひきはらはれる機會きくわいかつ一度ひとたびあたへられなかつた。おつぎは往來わうらいくとては手拭てぬぐひかぶりやうにもこゝろくばたゞをんなである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
そのつきは、紺碧こんぺきそらまくからくりいたやうにあざやかだつた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
有名な蔚山籠城うるさんろうじょうまくは、切って落とされたのである。
三両清兵衛と名馬朝月 (新字新仮名) / 安藤盛(著)
拍子木ひやうしぎをうつはねまく
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
というまくかげの答え。主命しゅめいによって、いまそこへ、ひかえたばかりの福島市松ふくしまいちまつ、一鎧櫃よろいびつをもって、秀吉と伊那丸いなまるの中央にすえた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて拍子木ひょうしぎって、まくがりますと、文福ぶんぶくちゃがまが、のこのこ楽屋がくやから出てて、お目見めみえのごあいさつをしました。
文福茶がま (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
代助は今読みつたばかりうすい洋書を机の上にけた儘、両ひぢいて茫乎ぼんやり考へた。代助のあたまは最後のまくで一杯になつてゐる。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
……二人ふたり三人さんにん乘組のりくんだのも何處どこへかえたやうに、もう寂寞ひつそりする。まくつてとびらろした。かぜんだ。汽車きしや糠雨ぬかあめなか陰々いん/\としてく。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
○さて口上いひ出て寺へ寄進きしんの物、あるひは役者へ贈物おくるもの、餅酒のるゐ一々人の名をあげしなよび披露ひろうし、此処忠臣蔵七段目はじまりといひてまくひらく
役者の仕着しきせを着たいやしい顔の男が、渋紙しぶかみを張つた小笊こざるをもつて、次のまくの料金を集めに来たので、長吉ちやうきちは時間を心配しながらものまゝ居残ゐのこつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
しかし中央ちゅうおうまくの前に立っている団長だんちょうはもちろん、ファットマンの周囲しゅういに立っている四、五人の道具方も、それが新吉であることはゆめにも知りませんでした。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
修行しゅぎょう未熟みじゅく思慮しりょりない一人ひとりむかし女性じょせいがおこがましくもここにまかりまくでないことはよくぞんじてりまするが、うも再々さいさいしにあずかり、是非ぜひくわしい通信つうしんをと
「あいサ。いきいとしいまくだけれど、あんまりパッとした着付けじゃアないね」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
出立し大坂さしおもむき日ならず渡邊橋向のまうけの旅館へぞちやくしたり伊賀亮が差※さしづにて旅館の玄關げんくわん紫縮緬むらさきちりめんあふひの御紋を染出せしまく張渡はりわたひのきの大板の表札へうさつには筆太ふでぶとに徳川天一坊旅館の七字を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
いつたい「さくらその」にはだいまく車のおとだいまくのギタアの音色、だいまくをはりのさくらの木を切りたふをのひゞきなどと、塲面ばめん々々のかんじとあひ俟つて音響おんけう効果こうくわじつたくみもちゐられてゐるが
文壇球突物語 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
にあるような綺麗きれいな、お嬢様じょうさまなにやかやと御馳走ごちそう頂戴ちょうだいした挙句あげく、お化粧直けしょうなおしのまくすみで、あたしはおまえに、おまえはあたしに、たがいにお化粧けしょうをしあって、この子達こたち、もうねんったなら
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ふきあげのかたわらにもう一つのふきあげのように白いしぶきの柱が立ちあがって、それが軽羅けいらまくのように広がって流れゆき、池の水ぎわにいたるとその幕のなかから昼間の老人が現われてきた。
おしどり (新字新仮名) / 新美南吉(著)
倦怠けんたい彼等かれら意識いしきねむりやうまくけて、二人ふたりあいをうつとりかすますことはあつた。けれどもさゝら神經しんけいあらはれる不安ふあんけつしておこなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
きょう一日は陣休みだから、とにかく久しぶりに、じゅうぶん心もからだも養っておくようにと、まくのあなたへでていった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ついてまがると、眞晝間まつぴるままくおとした、舞臺ぶたい横手よこてのやうな、ずらりとみせつきのながい、ひろ平屋ひらやが、名代なだい團子屋だんごやたゞ御酒肴おんさけさかなとも油障子あぶらしやうじしるしてある。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
まくにてかへらんとせしに守る者木戸をいださず、便所べんじよは寺のうしろにあり、空腹くうふくならば弁当べんたうかひ玉へ、取次とりつぎ申さんといふ。我のみにあらず、人も又いださず。
生意気なまいきをいうな。我々われわれがせっかくつけたきつねが、このまくの中にんだからさがすのだ。はやきつねせ。」
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
屋根にはイルミネーションがつき、前面には金銀のまくが下がり、幾本いくほんものはたがにぎやかに立ちならび、すべて新吉の町につくったものと少しもわりませんでした。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)