“屋根(やね)” の例文
なんでも夜中(よなか)すぎになると、天子(てんし)さまのおやすみになる紫宸殿(ししいでん)のお屋根(やね)の上になんとも知(し)れない気味(きみ)の悪(わる)い声(こえ)で鳴(な)くものがあります。
鵺 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
夏(なつ)になると、真(ま)っ白(しろ)な雲(くも)が屋根(やね)の上(うえ)を流(なが)れました。女(おんな)は、ときどき、それらのうつりかわる自然(しぜん)に対(たい)して、ぼんやりながめましたが
ちょうと三つの石 (新字新仮名) / 小川未明(著)
さて、屋根(やね)の上(うへ)に千人(せんにん)、家(いへ)のまはりの土手(どて)の上(うへ)に千人(せんにん)といふ風(ふう)に手分(てわ)けして、天(てん)から降(お)りて來(く)る人々(ひと/″\)を撃(う)ち退(しりぞ)ける手(て)はずであります。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
こいつには底(そこ)に穴(あな)がひとつあいている。こいつを屋根(やね)うらべやにもっていって、大きなくぎにかけて、なかに水をつぎこんでみてくれ。
雨夜(あまよ)の橘(たちばな)の其(それ)には似(に)ないが、弱(よわ)い、細(ほつそ)りした、花(はな)か、空燻(そらだき)か、何(なに)やら薫(かをり)が、たよりなげに屋根(やね)に漾(たゞよ)うて、何(ど)うやら其(そ)の人(ひと)は女性(によしやう)らしい。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
倉庫(そうこ)の屋根(やね)もあんまりのその怒りように、まさかこんなはずではなかったと言うように少しあきれて、だまってその顔を見ていました。
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ユパダールの荘園(しょうえん)の上や、ロンネビュー町のくらい屋根(やね)の上や、白い滝(たき)の上をこえて、すこしも休まずに、ぐんぐん飛(と)んでいきました。
老人(ろうじん)が杖(つえ)を振(ふ)ると、二人は一番高い塔(とう)の屋根(やね)にあがりました。王子はまだこんな高いところへあがったことがありませんでした。
強い賢い王様の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
火(ひ)が天井(てんじよう)まで燃(も)え上(あが)つたならば、屋根(やね)まで打拔(うちぬ)いて火氣(かき)を拔(ぬ)くこと。これは焔(ほのほ)が天井(てんじよう)を這(は)つて燃(も)え擴(ひろ)がるのを防(ふせ)ぐに效力(こうりよく)がある。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
只(たゞ)一部(ぶ)、三角測量臺(かくそくりやうだい)の見通(みとほ)しに障(さは)る爲(ため)に切(き)り拂(はら)はれた空隙(すき)がそれを導(みちび)いた。火(ひ)の子(こ)は東隣(ひがしどなり)の主人(しゆじん)の屋根(やね)の一角(かく)にどさりと止(とま)つた。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
鳩(はと)はお腹(なか)が空(す)いてゐました。朝(あさ)でした。羽蟲(はむし)を一つみつけるがはやいか、すぐ屋根(やね)から庭(には)へ飛(と)びをりて、それを捕(つか)まえました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
その他(た)のものには家(いへ)の形(かたち)もあり、その屋根(やね)には、今日(こんにち)私共(わたしども)が伊勢大神宮(いせだいじんぐう)の建築(けんちく)で見(み)るような、ちぎやかつをぎを載(の)せてゐるのもありますが
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
うつったものは乾燥(かんそう)されたワラであるし、屋根(やね)うらの高い小屋の木組(きぐみ)は、一瞬(しゅん)にして燃えあがるべくおあつらえにできている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
毎年(まいねん)、田(た)の穫(と)り入(い)れがすむと、やはり家(いへ)を作(つく)りかへ、或(あるひ)は屋根(やね)を葺(ふ)き替(か)へたりして、おなじく、新室(にひむろ)のうたげを行(おこな)ひました。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
「俺も愈々渦の中をまひ/\してゐる塵芥になツてアツたんだ。」眼をそらして、づツと街頭(まち)の方を見る。何も見えない、窓と屋根(やね)ばかりだ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
屋根(やね)あり、天井(てんじやう)あり、壁(かべ)のあると言(い)ふばかり、野宿(のじゆく)の露(つゆ)の哀(あは)れさにまさつて、それは冷(つめ)たい情(なさけ)ない、こぼれる涙(なみだ)の氷(こほ)らぬが不思議(ふしぎ)で御座(ござ)ります。
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
山(やま)には大(おほ)きな檜木(ひのき)の林(はやし)もありますから、その厚(あつ)い檜木(ひのき)の皮(かは)を板(いた)のかはりにして、小屋(こや)の屋根(やね)なぞを葺(ふ)くこともありました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ニラジイランド、ヴェネジュラ、マレイ諸地方(しよちはう)には海底、川底、湖底抔に杭(くひ)を打ち込み水面上(すゐめんじやう)數尺(すうしやく)の所に床を張り屋根(やね)を設けて住居とする者有り。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
円(まる)い月は形が大分(だいぶ)小(ちひさ)くなつて光が蒼(あを)く澄(す)んで、静(しづか)に聳(そび)える裏通(うらどほ)りの倉(くら)の屋根(やね)の上、星の多い空の真中(まんなか)に高く昇つて居(ゐ)た。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
入(い)る船(ふね)停泊(とゞま)つて居(ゐ)る船(ふね)、其(その)船々(ふね/″\)の甲板(かんぱん)の模樣(もやう)や、檣上(しやうじやう)に飜(ひるがへ)る旗章(はたじるし)や、また彼方(かなた)の波止塲(はとば)から此方(こなた)へかけて奇妙(きめう)な風(ふう)の商舘(しやうくわん)の屋根(やね)などを眺(なが)め廻(まわ)しつゝ
二人(ふたり)は蓮池(はすいけ)の前(まへ)を通(とほ)り越(こ)して、五六級(きふ)の石段(いしだん)を上(のぼ)つて、其(その)正面(しやうめん)にある大(おほ)きな伽藍(がらん)の屋根(やね)を仰(あふ)いだまゝ直(すぐ)左(ひだ)りへ切(き)れた。玄關(げんくわん)へ差(さ)しかゝつた時(とき)、宜道(ぎだう)は
門 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
漸くに踏(ふみ)しめ勝手(かつて)の屋根(やね)へ到(いた)らんとする機(をり)思ひも寄らぬ近傍(かたへ)の窓(まど)より大の男ぬつくと出ければ喜八はハツと驚き既に足を踏外(ふみはづ)さんとするに彼の男は是を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
『彼等(かれら)はこの次(つぎ)に何(なに)をするだらう!若(も)し生(しやう)があるものなら屋根(やね)を取除(とりの)けるやうな莫迦(ばか)はしないだらう』程(ほど)經(へ)て彼等(かれら)は再(ふたゝ)び動(うご)き出(だ)しました、愛(あい)ちやんは兎(うさぎ)が
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
そして、はしごだんをあがっていって、屋根(やね)うらのものおきのうすぐらいすみへ、ほうりあげました。そこにはまるで、お日さまの光がさして来ませんでした。
そして何処(どこ)やらに唐風(からふう)なところがあります。先(ま)ずその御門(ごもん)でございますが、屋根(やね)は両端(りょうたん)が上方(うえ)にしゃくれて、大(たい)そう光沢(つや)のある、大型(おおがた)の立派(りっぱ)な瓦(かわら)で葺(ふ)いてあります。
表間口(まくち)九間の屋根(やね)の簷(のき)に初春の頃の氷柱(つらゝ)幾条(いくすぢ)もならびさがりたる、その長短(ちやうたん)はひとしからねども、長きは六七尺もさがりたるが根(ね)の太(ふと)さは二尺めぐりにひらみたるもあり
海べりの家ではどこもみな、屋根(やね)がわらをはがされたらしく、屋根の上に人があがっていた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
その音(おと)づれにすつかり目(め)を覺(さま)した地上(ちじやう)の雪(ゆき)は、煽(あふ)られ/\て來(く)る風(かぜ)の中(なか)にさら/\と舞(ま)ひ上(あが)り、くる/\と卷(ま)かれてはさあつと人(ひと)の家(いへ)の雨戸(あまど)や屋根(やね)を打(う)つ事(こと)に身(み)を委(まか)してゐる。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
「鉛板葺(レッズ)屋根(やね)の上へ。あなたもおいでになつて、あそこから景色を御覽になりませんか。」
軌道(レール)と直角(ちよくかく)に細長(ほそなが)い茅葺(くさぶき)の農家(のうか)が一軒(けん)ある其(そ)の裏(うら)は直(す)ぐ山(やま)の畑(はたけ)に續(つゞ)いて居(ゐ)るらしい。家(いへ)の前(まへ)は廣庭(ひろには)で麥(むぎ)などを乾(ほ)す所(ところ)だらう、廣庭(ひろには)の突(つ)きあたりに物置(ものおき)らしい屋根(やね)の低(ひく)い茅屋(くさや)がある。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
西蔵(チベット)は世界(せかい)の屋根(やね)といはれてゐるほどで、国(くに)全体(ぜんたい)が高(たか)い山々(やまやま)の連(つらな)りだ。その山々(やまやま)の中(なか)でも群(ぐん)を抜(ぬ)いて高(たか)く、西蔵(チベット)の屋根(やね)ともいはれるのが、印度(インド)との国境(こくきやう)に跨(またが)るヱヴェレスト山(ざん)である。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
電車の往来も少(すくな)くなつて、人通りは勿論少い。たゞ大空には皎々(こうこう)とした月が冴(さ)え渡つて、もう夜霧が降りたのでせう、近所のトタン屋根(やね)も往来の地面も湿(ぬ)れたやうに白く光つてゐました。
赤い杭 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
雪(ゆき)ははげしく降(ふ)りだし、寒さと空腹(くうふく)はたまらなくぼくをせめたてるんだ。ぼくはただ雪の中からのがれて、屋根(やね)の下でゆっくりとやすんで、腹(はら)いっぱい食べたいと、そればかり考えていたよ
水(みず)くきのあとも細々(ほそぼそ)と、流(なが)したように書(か)きつらねた木目(もくめ)の浮(う)いた看板(かんばん)に、片枝折(かたしおり)の竹(たけ)も朽(く)ちた屋根(やね)から柴垣(しばがき)へかけて、葡萄(ぶどう)の蔓(つる)が伸(の)び放題(ほうだい)の姿(すがた)を、三尺(じゃく)ばかりの流(なが)れに映(うつ)した風雅(ふうが)なひと構(かま)え
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
それは例(たと)へば堂塔(だうたふ)伽藍(がらん)を造(つく)る場合(ばあひ)に、巨大(きよだい)なる重(おも)い屋根(やね)を支(さゝ)へる必要上(ひつえうじやう)、軸部(ぢくぶ)を充分(じうぶん)に頑丈(ぐわんぜう)に組(く)み堅(かた)めるとか、宮殿(きうでん)を造(つく)る場合(ばあひ)に、その格式(かくしき)を保(たも)ち、品位(ひんゐ)を備(そな)へるために、優良(いうれう)なる材料(ざいれう)を用(もち)ひ
日本建築の発達と地震 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
裏の行きとまりに低い珊瑚樹(さんごじゅ)の生垣(いけがき)、中ほどに形ばかりの枝折戸(しおりど)、枝折戸の外は三尺ばかりの流れに一枚板の小橋を渡して広い田圃(たんぼ)を見晴らすのである。左右の隣家は椎森(しいもり)の中に萱(かや)屋根(やね)が見える。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
町立病院(ちやうりつびやうゐん)の庭(には)の内(うち)、牛蒡(ごばう)、蕁草(いらぐさ)、野麻(のあさ)などの簇(むらが)り茂(しげ)つてる邊(あたり)に、小(さゝ)やかなる別室(べつしつ)の一棟(むね)がある。屋根(やね)のブリキ板(いた)は錆(さ)びて、烟突(えんとつ)は半(なかば)破(こは)れ、玄關(げんくわん)の階段(かいだん)は紛堊(しつくひ)が剥(は)がれて、朽(く)ちて、雜草(ざつさう)さへのび/\と。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
月や星を見る望遠鏡(ばうゑんきやう)は あのまあるい屋根(やね)の やうな所にあるのよ
柿の葉の濡れてかぶさる木片(こば)屋根(やね)に夜ふけて来る月のかげあり
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
屋根(やね)のうへから見(み)てゐましよ………
降(ふ)りたらぬ殘暑(ざんしよ)の雨(あめ)や屋根(やね)の塵(ちり)
荷風翁の発句 (旧字旧仮名) / 伊庭心猿(著)
ひとりでお屋根(やね)の雪(ゆき)見(み)てた
赤い旗 (旧字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
古寺(ふるでら)の屋根(やね)に嬉(うれ)しや
しやうりの歌 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
小鳥(ことり)は、まず屋根(やね)の上(うえ)に止(と)まりました。そして、これからどっちへ向(む)かって逃(に)げていったらいいかと、しばし思案(しあん)にふけったのです。
めくら星 (新字新仮名) / 小川未明(著)
下谷(したや)團子坂(だんござか)の出店(でみせ)なり。夏(なつ)は屋根(やね)の上(うへ)に柱(はしら)を建(た)て、席(むしろ)を敷(し)きて客(きやく)を招(せう)ず。時々(とき/″\)夕立(ゆふだち)に蕎麥(そば)を攫(さら)はる、とおまけを謂(い)はねば不思議(ふしぎ)にならず。
神楽坂七不思議 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
するときじが屋根(やね)の上からとび下(お)りてきて、門(もん)を押(お)さえている鬼(おに)どもの目をつつきまわりましたから、鬼(おに)はへいこうして逃(に)げ出(だ)しました。
桃太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
低(ひく)い粟幹(あはがら)の屋根(やね)から其(その)括(くゝ)りつけた萱(かや)や篠(しの)の葉(は)には冴(さ)えた耳(みゝ)に漸(やつ)と聞(きゝ)とれるやうなさら/\と微(かす)かに何(なに)かを打(う)ちつけるやうな響(ひゞき)が止(や)まない。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「ぼくのハトを見ているんですよ。ほら、あいつ、屋根(やね)の上にとまって、ぼくにさよならっていおうとしているんですもの。」
いつか霧(きり)がはれてそら一めんの星が、青や橙(だいだい)やせわしくせわしくまたたき、向(む)こうにはまっ黒な倉庫(そうこ)の屋根(やね)が笑(わら)いながら立っておりました。
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
それは、森をうしろに、海を前にして建(た)てられていました。壁は赤く塗(ぬ)ってあり、屋根(やね)はキリのように、とがっていました。