のこ)” の例文
旧字:
ひかりは、ほのかにあしもとをあたためて、くさのうちには、まだのこったむしが、ほそこえで、しかし、ほがらかにうたをうたっていました。
丘の下 (新字新仮名) / 小川未明(著)
なにしろ西にしひがしからない原中はらなかの一軒家けんや一人ひとりぼっちとりのこされたのですから、心細こころぼそさも心細こころぼそいし、だんだん心配しんぱいになってきました。
安達が原 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
それはいつまでここにいなければならないかわからないので、親方がいくらか晩飯ばんめしのこしておくほうが確実かくじつだと考えたからであった。
はややくにもたたぬ現世げんせ執着しゅうちゃくからはなれるよう、しっかりと修行しゅぎょうをしてもらいますぞ! 執着しゅうじゃくのこっているかぎ何事なにごともだめじゃ……。
これは見立みたての句であろうと思う。枯蘆のほとりにいる鷺の白いのを、のこンの雪に擬したので、実際枯蘆に雪が残っているわけではない。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
縁起えんぎでもないことだが、ゆうべわたしは、上下じょうげが一ぽんのこらず、けてしまったゆめました。なさけないが、所詮しょせん太夫たゆうたすかるまい
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
やまくづして、みねあましたさまに、むかし城趾しろあと天守てんしゆだけのこつたのが、つばさひろげて、わし中空なかぞらかけるか、とくもやぶつて胸毛むなげしろい。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
二十五年間ねんかん教育きょういくつくしてしょく退しりぞいたのち創作そうさくこころをうちこんで、千九百二十七ねんになくなるまで、じつに二十かん著作ちょさくのこした。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
奈美子なみこしろきれあたまをくる/\いて、さびしいかれ送別そうべつせきにつれされて、別室べつしつたされてゐたことなぞも、仲間なかま話柄わへいのこされた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
中堂寺の町筋へ来ると、その晩はのこんの月が鮮かでありました。が、天地は屋の棟が下るほどの熟睡の境から、まだ覚めきってはいない。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
大江山課長は真先まっさきに向うの汽艇へ飛び移った。つづいて部下もバラバラと飛び乗った。狭い汽艇だから、艇内は直ぐにのこくまなく探された。
地中魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
かれがたのもしきをよろこびて、のこる田をもりつくしてかねへ、一一絹素きぬあまた買積かひつみて、京にゆく日を一二もよほしける。
オーラのおとうさんとしては、じぶんがおやからもらった土地とちを、子どもには、ばいにしてのこしてやりたいと思っていたからです。
なにしろおまつりのことだから、とまっている人たちも、ちりぢりにどこかへ行ってしまい、のこっているのは、失業者しつぎょうしゃみたいな男ひとりだった。
こういう児であったればこそと先刻さっきの事を反顧はんこせざるを得なくもなり、また今のこを川に投げる方が宜いといったこの児の語も思合おもいあわされて
蘆声 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
しかも、この研究けんきゅうは人があまりやっていないので、いくらでも研究することがのこされているのが、若いぼくには、たまらない魅力みりょくだったのだ。
のこったものは殿とののご寝所しんじょのほうをまもれ、もう木戸きど多門たもんかためにはじゅうぶん人数がそろったから、よも、やぶれをとるおそれはあるまい」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(ここは何かの寄宿舎きしゅくしゃか。そうでなければ避病院ひびょういんか。とにかく二階にどうもまだだれのこっているようだ。一ぺん見て来ないと安心あんしんができない。)
ガドルフの百合 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
然るにこの小屋の附近には夏はのこんの雪もないのに、この高い所で而も多量の水が湧き出しているのは珍とす可きである。
白馬岳 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
「わしはもう、おもいのこすことはないがや。こんなちいさな仕事しごとだが、ひとのためになることをのこすことができたからのオ。」
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
そして、のこしの牛肉のきれをやって、はなしてやりました。たぬきは肉をもらって、あたまをぴょこぴょこさげながら、やぶの中へはいっていきました。
ばかな汽車 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
勘太郎は鬼の鼻の穴に引っかかっている自在鉤をそのままにして、のこりのつなで両手をうしろに回してしばりあげ、先に歩かせながら村へ帰って来た。
鬼退治 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
事実上じじつじょうこまかい注意ちゅういのこりなくおはつからおしえられたにしても、こんなときかあさんでもきていて、そのひざかれたら、としきりにこいしくおもった。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
代助は、百合ゆりはなながめながら、部屋をおゝふ強いなかに、のこりなく自己を放擲ほうてきした。彼はこの嗅覚の刺激のうちに、三千代みちよの過去を分明ふんみように認めた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それが明日あすからといふかれそののこつた煙草たばこほとんど一にちつゞけた。煙草入たばこいれかますさかさにして爪先つまさきでぱた/\とはじいてすこしのでさへあまさなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
道子みちこ其辺そのへんのアパートをさがして一人暮ひとりぐらしをすることになつたが、郵便局いうびんきよく貯金ちよきんはあらかた使つかはれてしまひ、着物きものまで満足まんぞくにはのこつてゐない始末しまつ
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
いまでも世界中せかいちうからすくちなかには、そのとき火傷やけどのあとが真赤まつかのこつてゐるといふ。ひときらはれながらも、あのあはれなペンペのためにいてゐるのだ。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
のち五年を勅免ちよくめんありしかども、ほふひろめためとて越後にいまししこと五年なり、ゆゑに聖人の旧跡きうせき越地にのこれり。弘法ぐほふ廿五年御歳六十の時みやこかへり玉へり。
滝田くんはじめてったのは夏目先生のおたくだったであろう。が、生憎あいにくその時のことは何も記憶きおくのこっていない。
滝田哲太郎君 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
どうかしておっと財産ざいさんのこらず自分じぶんむすめにやりたいものだが、それには、このおとこ邪魔じゃまになる、というようなかんがえが、始終しじゅうおんなこころをはなれませんでした。
のこんの花の歌で恋歌ではないであろうが、忍びし人に逢う心地に、生身の心の温かみを感じさせるのである。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
アンドレイ、エヒミチはいまはじめていたが、ミハイル、アウエリヤヌイチはさき大地主おおじぬしであったときの、あま感心かんしんせぬふうばかりがいまのこっているとうことを。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
色は衰えたといってもまだのこんの春をたくわえている。おもだちは長年の放埒ほうらつすさんだやつれも見えるが、目もと口もとには散りかけた花の感傷的な気分の反映がある。
それとも矢っぱりおれの家にのこっていたのかな。そうだ、そうだ。いつまでもここの家を立去らないで、おれを守ってくれるに相違ないのだ。いや、有難いことだ。
青蛙神 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
のこる所の二十七名は之よりすすむのみにしてかへるを得ざるもの、じつすすりて决死けつしちかひをなししと云ふてなり、すでにして日やうやたかく露亦やうやへ、かつ益渇をくわ
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
今だにひとばなしのこつてるのは、此際このさいの事です、なんでも雑誌を売らなければかんとふので、発行日はつかうびには石橋いしばしわたしかばんの中へ何十部なんじふぶんで、さうして学校へ出る
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
おい……ハヽヽ彼方あつちげてきやアがつた、馬鹿ばかやつだなア……先刻さつきむぐ/\つてゐた粟饅頭あはまんぢう……ムンこゝにけむ饅頭まんぢうがある、くひかけてのこしてきやアがつたな。
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
しぎにありては百羽掻也もゝはがきなり、僕にありては百端書也もゝはがきなりつきのこんの寝覚ねざめのそらおゆれば人の洒落しやれもさびしきものと存候ぞんじさふらふぼく昨今さくこん境遇きやうぐうにては、御加勢ごかせいと申す程の事もなりかねさふらへども
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
そのとき、まだくちのこつていたどく水中すいちゅうへしたたりおちたために、金魚きんぎょんだのだとおもわれる。しかし、問題もんだいはこの毒殺死体どくさつしたいだつた。だんじてまきぞえをくつた金魚きんぎょではない。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
こう一言さけんだお政は、きゃくのこした徳利とくりを右手にとって、ちゃわんを左手に、二はい飲み三ばい飲み、なお四はいをついだ。お政の顔は皮膚ひふがひきつって目がすわった。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
絶頂の苔蒸こけむして、雅味がみんだ妙見の小さな石の祠のあるあたりには、つつじの株最も多く、現在では蛍袋ほたるふくろおびただしく花をつけており、しもつけもまだのこんの花を見せている。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
「じゃ、あなたは、エムリーヌ・カペルさん、十二から四ついたら、いくのこりますか。」
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)
御食みけむかふ南淵山みなぶちやまいはほにはれる斑雪はだれのこりたる 〔巻九・一七〇九〕 柿本人麿歌集
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
中村なかむらさんと唐突だしぬけ背中せなかたゝかれてオヤとへれば束髪そくはつの一むれなにてかおむつましいことゝ無遠慮ぶゑんりよの一ごんたれがはなくちびるをもれしことばあと同音どうおんわらごゑ夜風よかぜのこしてはしくを
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
のこんの色香いろかを墨染の袖に包んでいる尼と狭い一室にひざをつき合わせ、彼女の孤独を慰めたり自分の無躾ぶしつけびたりしながら、少しずつ身の上話を手繰たぐり出すようにしたのであろう。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
人々は陽気に笑いさゞめきながら、郊外にのこんの梅花や、未だ蕾の堅い桜などを訪ねるのだった。忙しそうに歩き廻る商店街の人達さえ、どことなくゆったりとした気分に充ちていた。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
人々ひとびと御主おんあるじよ、われをもつみくなしたまへ、この癩病らいびやうものを。」あゝさむしい、あゝ、こはい。だけに、生来しやうらいしろいろのこつてゐる。けものこはがつてちかづかず、わがたましひげたがつてゐる。
恐らく神代の海神宮古伝ののこんの形であろうから、これだけは別にまた考えてみるとして、この他に田道間守たじまもりの家の由緒でも秦河勝はたかわかつ手柄てがらに帰した虫の神の出処でも、事実の真偽は問題でなく
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
トヾの結局つまり博物館はくぶつくわん乾物ひもの標本へうほんのこすかなくば路頭ろとういぬはらこやすが学者がくしやとしての功名こうみやう手柄てがらなりと愚痴ぐちこぼ似而非えせナツシユは勿論もちろん白痴こけのドンづまりなれど、さるにても笑止せうしなるはこれ沙汰さた
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
「四からげいく、れいのこる。斯ういう算術を御存じですか?」
心のアンテナ (新字新仮名) / 佐々木邦(著)