てん)” の例文
峠と書いてタワ又はタヲと読ませているものが中国には可なり多く、四国には滑峠なめつとうてんとうの如くトウと読ませているものさえある。
(新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
くもの うえに のると、うみへびの からだは だいじゃに ばけました。また、うみぼうずの あたまは てんまで とどきました。
うみぼうずと おひめさま (新字新仮名) / 小川未明(著)
さて、屋根やねうへ千人せんにんいへのまはりの土手どてうへ千人せんにんといふふう手分てわけして、てんからりて人々ひと/″\退しりぞけるはずであります。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
しかるに形躯けいく変幻へんげんし、そう依附いふし、てんくもり雨湿うるおうの、月落ちしん横たわるのあしたうつばりうそぶいて声あり。其のしつうかがえどもることなし。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
くてぞありける。あゝ、何時いつぞ、てんよりほしひとつ、はたとちて、たまごごといしとなり、水上みなかみかたよりしてカラカラとながる。
妙齢 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
騙詐かたり世渡よわた上手じやうず正直しやうぢき無気力漢いくぢなし無法むはう活溌くわつぱつ謹直きんちよく愚図ぐづ泥亀すつぽんてんとんびふちをどる、さりとは不思議ふしぎづくめのなかぞかし。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
てんにでもいゝ、にでもいゝ、すがらうとするこゝろいのらうとするねがひが、不純ふじゆんすなとほしてきよくとろ/\と彼女かのぢよむねながた。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
いまだ一三高野山を見ず、いざとて、夏のはじめ青葉のしげみをわけつつ、一四てんの川といふよりえて、一五摩尼まにの御山にいたる。
乳母 てん如何どうあらうと、ロミオは無慈悲むじひぢゃ。おゝ、ロミオどのが、ロミオどのが! ……れがおもひがけうぞい? ロミオどのが!
いや三月十三日のとらノ一てん(午前四時)からたつこく(午前八時)までとあるから厳密には早朝一ト煙の市街戦だったといってよい。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「でもわたしはあなたをてんかえしたくないのです。それよりもわたしのところへおいでなさい。いっしょにたのしくらしましょう。」
白い鳥 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
んと奇妙きめうではありませんか、これてん紹介ひきあはせとでもふものでせう、じつわたくし妻子さいしも、今夜こんや弦月丸げんげつまる日本につぽん皈國かへりますので。
(2)三位一体さんみいったいというのは、キリストきょうで、父であるてんかみと、子であるキリストと、聖霊せいれいの三つはもともと一体であるという教理きょうりです。
今の大多数は質に置くべき好意さえてんで持っているものが少なそうに見えた。いかに工面くめんがついても受出そうとは思えなかった。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
産業別の生産組合は、或る一つの企業をやるとき、必ずてんから勤労者福祉資金何割というものを予算に加えて仕事をはじめる。
さういふてん世界せかいにとゞくやうな、空気くうき稀薄うすいところでは、あれあれといふもなく、千ねんぐらゐ年月としつきながれてしまふさうだ。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
犯すに至れること恐るべき次第なりされどもてんまことてらし給ふにより大岡越前守殿の如きけん奉行の明斷めいだんに依てのがれ難き死刑一等を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
されどもてん美人びじんんで美人びじんめぐまずおほくは良配りやうはいざらしむとかいへり、彌生やよひはなかぜかならずさそひ十五夜じふごやつきくもかゝらぬはまことにまれなり
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そこに映る自分の姿をみると、例のとおり怒髪どはつてんをつき、髭は鼻の下をがっちりと固めているという勇ましい有様だった。
不思議なる空間断層 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あまさかるは、やはり枕詞まくらことばで、ひなのひといふおこしてゐます。意味いみは、てんとほくかゝつてゐるといふことなんです。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
ほこりてんこがしてつた。ほこり黄褐色くわうかつしよくきりごと地上ちじやうすべてをおほつゝんだ。雜木林ざふきばやしは一せいなゝめかたぶかうとしてこずゑ彎曲わんきよくゑがいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
づめ志道軒しどうけんなら、一てんにわかにかきくもり、あれよあれよといいもあらせず、天女てんにょ姿すがたたちまちに、かくれていつかたらいなか。……
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
黎元れいぐわん撫育むいくすることやや年歳としを経たり。風化ふうくわなほようして、囹圄れいごいまむなしからず。通旦よもすがらしんを忘れて憂労いうらうここり。頃者このごろてんしきりあらはし、地しばしば震動す。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
どんな鳥でもとてもあそこまでは行けません。けれども、てん大烏おおがらすの星やさそりの星やうさぎの星ならもちろんすぐ行けます。
双子の星 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「十万億土の夢を見て、豁然かつぜんとして大悟一番したんだ。一出家しゅっけ功徳くどくによって九族きゅうぞくてんしょうずというんだから素晴らしい。僕は甘んじて犠牲になる」
合縁奇縁 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ちよとはなし、神の云うこと聞いて呉れ、悪しきの事は云わんでな、この世のじいてんとをかたどりて、夫婦を拵えきたるでな、これはこの世の始だし。
ドナウ源流行 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
「懐疑は悲観のなりサ、彼女かれ芳紀とし既に二十二—三、いま出頭しゆつとうてん無しなのだ、御所望とあらば、僕いさゝか君の為めに月下氷人げつかひようじんたらんか、ハヽヽヽヽヽ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
彼は義太夫の「てん網島あみじま」は巣林子そうりんしの原作でなく、半二か誰かの改作であるのをぼんやり記憶していたが、きっとこの文句は原作の方にあるのだろう
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
弥左ヱ門が雪頽なだれに熊を得たるは金一釜きんいつふ掘得ほりえたる孝子かうしにもすべく、年頃としごろ孝心かうしんてんのあはれみ玉ひしならんと人々しやうしけりと友人いうじん谷鴬翁こくあうをうがかたりき。
けれど何程なにほどのことがあらうと運命うんめいてんにゆだね、夢中むちうになつてけだしました。それからのことは一さいわかりません
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
しかあぢなるものはおほくはまた同時どうじ營養えいやうにもよろしいので、ひと不知不識しらず/″\營養えいやうところてん配劑はいざい妙機めうぎがある。
建築の本義 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
うさぎ經行きやうぎやうの者を供養せしかば、天帝哀みをなして、月の中にをかせ給ひぬ。今、てんを仰ぎ見るに月の中に兎あり。
おにこころになりったわたくしは、両親りょうしん好意こういそむき、同時どうじまたてんをもひとをもうらみつづけて、生甲斐いきがいのない日子ひにちかぞえていましたが、それもそうながいことではなく
すべてそういう習慣をてんから考えの中に入れていない倉地に対して今さらそんな形式事を迫るのは、自分の度胸を見すかされるという上からもつらかった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
〔譯〕毀譽きよ得喪とくさうは、しんに是れ人生の雲霧うんむ、人をして昏迷こんめいせしむ。此の雲霧を一さうせば、則ちてんあをしろし。
或日瀧口、閼伽あかみづまんとて、まだけやらぬ空に往生院を出でて、近き泉の方に行きしに、みやこ六波羅わたりと覺しき方に、一道の火焔くわえんてんこがして立上たちのぼれり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
ゆえに富貴ふうき必ずしも不正ならず、子夏が「富貴ふうきてんに在り」と言ったのは、意味の取りようによって富貴必ずしもあくと言えず、むしろてん賜物たまものという意に取れる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
てんかわというところでの大敗、藤本鉄石ふじもとてっせきの戦死、それにつづいて天誅組てんちゅうぐみの残党が四方への離散となった。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼等かれらてんぷらをあいするやうに「しるこ」をもかならず——あいするかどうかは多少たしよう疑問ぎもんはあるにもせよ、かくおうはすすめて價値かちのあることだけはたしかであらう。
しるこ (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
小田原をだはらいて何時いつかんずるのは、自分じぶんもどうせ地上ちじやうむならば此處こゝみたいといふことである。ふるしろたかやまてんらなる大洋たいやう樹木じゆもくしげつてる。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
しゅねがわくはおんてんよりたまえ、なんじ右手めてもてたまえるこの葡萄園ぶどうぞの見守みまもらせたまえ、おとなたまえ。
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
且つやてん一豪傑を鉄門関辺の碣石けっせきに生じて、カザン(Kazan)しいされて後の大帝国を治めしむ。これを帖木児チモル(Timur)と為す。西人せいじん所謂いわゆるタメルラン也。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
二人ふたりものおいこゝろはせ何事なにごとにももとめばてんいま我父わがちゝ彼等かれらのためにこれをたまふべし。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
はしものもつ(八)あみく、およものもつ(九)いとく、ものもつ(一〇)いぐるみし。りよういたつては、われ風雲ふううんじようじててんのぼるをることあたはず。
うすき影と、うすき光は、落花らくゝわ点々てん/\たる庭に落ちて、地を歩す、ながらてんあゆむのかんあり。
花月の夜 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
つてからは、城の内外の持口々々もちくち/″\篝火かゞりびつらねて、炎焔えん/\てんこがすのであつた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
いわゆる吹雪なるものにして、観測所の光景はあたかも火事場に焼け残りたる土蔵の、白煙のうちに包まれたるに似たり故に一てんぬぐうが如く快晴なるも、雪は常に降れるに異ならず
てんも暗号書の名で、天は普通暗号、仁は人事に関する暗号である。しかし五郎の口にのぼって来るのは〈暗号符字のまごつきに〉という部分だけであって、あとは元歌通りだ。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
そのご座船を囲繞いにょうして二十隻の小船が漂っていたが、この日てん晴れ気澄み渡り、鏡のような湖面にはただ一点の曇りさえなく、人を恐れず低く飛ぶ小鳥の、矢のように早い影をさえ
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
てんきり殺された奴の名前からして世間に知て居る人が無いそれだから君何所から手を
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)