かへり)” の例文
平次は番頭の仲左衞門をかへりみました。ドカドカと店に出た家中の顏の中に、それは一番分別臭く尤もらしく平次の眼に映つたのです。
なにとして今日けふはとうなじばすこゝろおなおもてのおたか路次口ろじぐちかへりみつ家内かないのぞきつよしさまはどうでもお留守るすらしく御相談ごさうだんすることやまほどあるを
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「そんだが、旦那だんなはたいしたもんでがすね、旦那だんないたんだつてつたらなあ」とかれさらいてつた近所きんじよものかへりみていつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
大来目主おほくめぬしと、ひ持ちて仕へしつかさ、海行かば水漬みづかばね、山ゆかば草むす屍、おほきみのにこそ死なめ、かへりみはせじと言立ことだ
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
かへりみず不屆きの次第故早速さつそく取押へ町名家主等相尋あひたづね候へ共何か取留とりとまらぬ申くちにて至極しごく怪敷あやしく存じ候間其儘差出候に付御吟味下さるべく候以上
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
或る人民のこのんでくらふ物を他の人民はててかへりみず、或る人民の食ふ可からずとするものを他の人民はよろこんで賞玩せうくわんするの類其れいけつして少からす。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
『もう一復誦ふくせうしてれッて、むすめへ』れはあだかあいちやん以上いじやう權威けんゐつてゞもるかのやうに、グリフォンのはうかへりみました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
二人ふたりあとから続々ぞく/\聴講生がる。三四郎はやむを得ず無言の儘階子はしご段をりて横手の玄関から、図書館わき空地あきちて、始めて与次郎をかへりみた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
然うなると周三はさすがにうちかへりみて心にづる、何だか藝術の神聖をがすやうにも思はれ、またお房に藝術的良心りやうしん腐蝕ふしよくさせられるやうにも感ずる。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
晩餐を果てて、三人燈下に物語りつゝあり、「何だか、阿母おつかさん、先生が御不在ともや、其処そこいらが寂しいのねエ」と、お花は、篠田の書斎のかたかへりみつゝ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「ぼち/\行きまへうかな。」と、千代松は初めて竹丸の居るのに氣がついたやうな風をして、背後をかへりみた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「このことは最初の衝動で爲されてゐるのです。だから、あなたの言葉が確實なものとしてかへりみられる爲めには、こんなことは數日考へなければいけません。」
さうとした信玄袋しんげんぶくろは、かへりみるにあまりにかるい。はこせると、ポンと飛出とびだしさうであるから遠慮ゑんりよした。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
『おゝ、可愛かあいらしいですな。』と親切しんせつそのかしらでつゝ、吾等われらかたわらいさましきおもてしててる水兵すいへいかへり
さうしてこれはただ人事ひとごとではないのでした。私達わたしたちはよくみづかかへりみ、自らよく考へなければなりませぬ。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
「さあ」と瀬田が声を掛けて一座をかへりみると、皆席を起つた。中で人夫の募集を受け合つてゐた柏岡かしはをか伝七と、檄文げきぶんを配る役になつてゐた上田とは屋敷を出て往つた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
武矦ぶこう西河せいがうかびてくだる、中流ちうりうにしてかへりみて呉起ごきつていはく、『なる哉乎かな山河さんがかため、魏國ぎこく寶也たからなり』と。こたへていはく、『((國ノ寶ハ))とくりてけんらず。 ...
相憐あひあはれんで曰く泣面なきづらはちとは其れ之をふ乎と、午後五時井戸沢山脈中の一峯にのぼ露宿ろしゆくる、高四千五百尺、かへりみれば前方の山脈其中腹ちうふく凹所わうしよに白雪を堆くし、皚々眼を射る
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
中々なか/\大人たいじんは知らんところ御来臨ごらいりんのない事はぞんじてりましたが、一にても先生の御入来おいでがないと朋友ほういうまへじつ外聞ぐわいぶんわるく思ひます所から、御無礼ごぶれいかへりみず再度さいど書面しよめん差上さしあげましたが
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
往時わうじかへりみて感慨かんがいもよふすのとき換骨脱體くわんこつだつたいなる意味いみはじめてかいしたるのおもひあり。
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
しかし、ぼくもずゐぶんけちやあゐたんだぜ‥‥」と、わたしそば兵士へいしかへりみた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
日本の女は商品同様に扱はれ、彼等の意志もかへりみられず、彼等の女としての権利も顧みられず、をつとに売られるものである。且つまた夫の在世中は、家畜或は奴隷のやうに扱はれるものである。
日本の女 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
かへりみて明治の作家をかぞふるに、真に情熱の趣を具ふるもの果して之を求め得べきや。露伴に於て多少は之を見る、然れども彼の情熱は彼の信仰(宗教?)によりて幾分か常に冷却せられつゝあるなり。
情熱 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
かへりみるとまち旅館りよかんはた竿頭かんとうしろうごいてる。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
と、千種は、園子の方をかへりみた。
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
「そんぢやおとつゝあ水飴みづあめでもつててやつたらよかつぺな、與吉よきかくしてけばなんでもんめえな」おつぎはさら卯平うへいかへりみて
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
取卷く人達をかへりながら、平次は床の間に登つて、狆潜ちんくゞりのわくへ足を掛けると、長押なげしに片手を掛けて、床の間の天井の板を押して見ました。
それとればにはかかたすぼめられてひとなければあはたゞしく片蔭かたかげのある薄暗うすくらがりにくるまわれせていこひつ、しづかにかへりみればれも笹原さゝはらはしるたぐひ
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
京都きやうとところね」とつて二人ふたりかへりみた。それを一所いつしよながめた宗助そうすけにも、京都きやうとまつたところやうおもはれた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
かへりみられよ古語こごにもちゝちゝたればたりちゝちゝたらざればたらずと云に非ずや然る故に此度このたびの如き家の騷動さうどう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ぬすんだナ!』と王樣わうさま陪審官ばいしんくわんかへりみながらさけばれました、陪審官ばいしんくわんえず事實じゞつ備忘録びばうろくつくつてゐました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
空は何時しか晴れぬ、陰暦の何日いつかなるらん半ば欠けたる月、けやきの巨木、花咲きたらん如き白きこずゑかゝりて、かへりみ勝ちに行く梅子の影を積れる雪の上に見せぬ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
北八きたはちかへりみて、日曜にちえうでないから留守るすだけれども、いた小間使こまづかひるぜ、一寸ちよつとつてちやまうかとわらふ。およしよ、とにがかほをする。すなはちよして、團子坂だんござかおもむく。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それに結婚といふむきつけな考への私の氣持が、どんなにいまはしいかを知つてゐます。誰も私を愛してはくれないでせうし、單に、金儲けといふ意味いみでは、私はかへりみられないでせう。
にん武士ぶしかたなしに、左右さいうかへりみつゝ、すこしづつ死體したいそば近寄ちかよつてた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
かうなつて來ると、一體私は内容ないようの方に心をかれるものですが、とても形式方面の缺點けつてん非難ひなんかへりみる暇はありません。そのゑがかれてゐる事に對して、作の大きなたふとさをかんじて了ふのです。
三作家に就ての感想 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
しかうしてその隆盛りうせいに至りし所以ゆゑんのものは、有名の学士羅希らきいでて、之れが改良をはかるにる。然るに吾邦わがくにの学者はつと李園りゑん(原)をいやしみ、おいかへりみざるを以て、之を記するの書、未嘗いまだかつて多しとせず。
本の事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
利根とね支流しりうたるの小屋河にのぞみ、河をくだる事二町にし玄道、大龍、小龍の三大瀑布ばくふありてじつに壮観をきはむ、衆相かへりみて曰く、這回の探検たんけんたる此等の如き険所けんしよ数多を経過けいくわせざるべからざるかと
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
されど現状げんじやうかへりみれば、すで七福しちふくたるにはあらざるかとおもふ。
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
全體ぜんたいなかひとの、みちとか宗教しうけうとかふものにたいする態度たいど三通みとほりある。自分じぶん職業しよくげふられて、たゞ營々役々えい/\えき/\年月としつきおくつてゐるひとは、みちふものをかへりみない。これは讀書人どくしよじんでもおなことである。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
ぱん子女しぢよ境涯きやうがい如此かくのごとくにしてまれにはいたしかられることもあつてそのときのみはしをれても明日あすたちま以前いぜんかへつてその性情せいじやうまゝすゝんでかへりみぬ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ガラツ八の八五郎は、八つ手の葉つぱのやうなを叩きながら、自分のことのやうに、自慢らしく平次をかへりみるのでした。
ひとあれほどにてひとせいをば名告なのらずともとそしりしもありけれど、心安こゝろやすこゝろざすみちはしつて、うちかへりみるやましさのきは、これみな養父やうふ賜物たまものぞかし
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
貴方あなた今夜こんやいてください」とつて、御米およね宗助そうすけかへりみた。をつとから、坂井さかゐてゐた甲斐かひをとこはなしいたときは、御米およね流石さすがおほきなこゑしてわらつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
の書生は、木立のなる新築の屋根をかへりみつゝ「うも不思議だナ、僕はほとんど信ずることが出来んよ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
とり勿體もつたい無い何事ぞや失禮しつれいなるもかへりみず御意見なせしおしかりもなきのみ成ずすみやかに御志ざしを御改め下さらんとは有難ありがたく夫にて安心仕つりぬとよろこび云ば千太郎はなほ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
かれひとうなづきつゝ、從容しようようとして立上たちあがり、甲板デツキ欄干てすりりて、ひしめへる乘客等じようかくらかへりみて
旅僧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
私はロチスター氏がイングラム孃をかへりみイングラム孃が彼の方をくのを見た。
負傷ふしやうなをる、しかし、精巧せいかうじうこはしたならば、それはなをらない。してあのとき中根なかねじうはなしてかへりみなかつたならば、じう水中すゐちうくなつたかもれない。すなは歩兵ほへいいのちうしなつたことになる。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
同じく大刀根岳よりはつするものたり、数間ことかなら瀑布ばくふあり、而して両岸をかへりみれば一面の岩壁屏風びやうぶの如くなるを以て如何なるあやうき瀑布といへども之をぐるのほかみちなきなり、其危険きけん云ふべからず
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)