あたま)” の例文
見渡すかぎり、一面にあたまの海である。高くさし上げた腕の森が、波に半身を露はす浮標うきのやうに突出てゐる。跪いて祈る一大民衆だ。
さしあげた腕 (旧字旧仮名) / レミ・ドゥ・グルモン(著)
そして、ここがいちばん安心あんしんだというふうに、あたまをかしげて、いままでさわいでつかれたからだを、じっとしてやすめるのでありました。
山へ帰ったやまがら (新字新仮名) / 小川未明(著)
此方こちら焚火たきびどころでい。あせらしてすゝむのに、いや、土龍むぐろのやうだの、井戸掘ゐどほり手間てまだの、種々いろ/\批評ひひやうあたまからかぶせられる。
「日本よりあたまなかの方がひろいでせう」と云つた。「とらはれちや駄目だ。いくら日本の為めを思つたつて贔負ひいきの引き倒しになる許りだ」
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
爐端ろばたもちいたゞくあとへ、そろへ、あたまをならべて、幾百いくひやくれつをなしたのが、一息ひといきに、やまひとはこんだのであるとふ。洒落しやれれたもので。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おぼえてます。父樣おとつさんわたくしあたまでゝ、おまへ日本人につぽんじんといふことをばどんなときにもわすれてはなりませんよ、とおつしやつたことでせう。
勘次かんじはそれでも分別ふんべつもないので仕方しかたなしに桑畑くはばたけこえみなみわびたのみにつた。かれふる菅笠すげがさ一寸ちよつとあたまかざしてくびちゞめてつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
百姓ひゃくしょうは「桑原くわばら桑原くわばら。」ととなえながら、あたまをかかえて一ぽんの大きな木の下にんで、夕立ゆうだちとおりすぎるのをっていました。
雷のさずけもの (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
それすこぎて、ポカ/\するかぜが、髯面ひげつらころとなると、もうおもく、あたまがボーツとして、ひた気焔きえんあがらなくなつてしまふ。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
すっかりまいってしまい、あたまからすっぽり毛皮けがわのきものをかぶせられたまんま、板の寝床にのびている囚人がもう二三人もいるのです。
阿母さんは大原おほはら律師様りつしさまにお頼みしてにいさん達と同じやう何処どこかの御寺おてらへ遣つて、あたまを剃らせて結構な御経おきやうを習はせ度いと思ふの。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
可哀かわいそうな子家鴨こあひるがどれだけびっくりしたか! かれはねしたあたまかくそうとしたとき、一ぴきおおきな、おそろしいいぬがすぐそばとおりました。
木刀ぼくとうをもってたっているにいさんのあしもとに、おかあさんはきちんとすわって、あたまをたたみにすりつけんばかりにして、たのみました。
そうって、扉口とぐち拍子ひょうしに、ドシーン! ととり石臼いしうすあたまうえおとしたので、おかあさんはぺしゃんこにつぶれてしまいました。
古今集こきんしゆううたは、全體ぜんたいとしてはいけないうたがありますが、短歌たんかはどんなものかとかんがへると、古今集こきんしゆううたがまづあたまうかぶのであります。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
此時このときいへいて、おほきなさら歩兵ほへいあたまうへ眞直まつすぐに、それからはなさきかすつて、背後うしろにあつた一ぽんあたつて粉々こな/″\こわれました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
坊主ぼうずは、たてつけのわる雨戸あまどけて、ぺこりと一つあたまをさげた。そこには頭巾ずきんかおつつんだおせんが、かさかたにしてっていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
乳母 はれ、頭痛づつうがする! あゝ、なんといふ頭痛づつうであらう! あたま粉虀こな/″\くだけてしまひさうにうづくわいの。脊中せなかぢゃ。……そっち/\。
私は、これまで斎藤茂吉についてはいろいろ余り書きすぎたので、今、いくらどんあたまをひねっても、どうしても書く事が浮かんでこない。
茂吉の一面 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
其處そこその翌日あくるひ愈〻いよ/\怠惰屋なまけや弟子入でしいりと、親父おやぢ息子むすこ衣裝みなりこしらへあたま奇麗きれいかつてやつて、ラクダルの莊園しやうゑんへとかけてつた。
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
と云つて、あたまその方へ傾けて見せた。髪の根を下の方でたばねて、そしてその根も末の方も皆裏へ折り返して畳んでしまつてあるのである。
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
折々をり/\には會計係くわいけいがゝり小娘こむすめの、かれあいしてゐたところのマアシヤは、せつかれ微笑びせうしてあたまでもでやうとすると、いそいで遁出にげだす。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
うやうやしくあたまげているわたくしみみには、やがて神様かみさま御声おこえ凛々りんりんひびいてまいりました。それは大体だいたいのような意味いみのお訓示さとしでございました。
早々そうそう蚊帳かやむと、夜半よなかに雨が降り出して、あたまの上にって来るので、あわてゝとこうつすなど、わびしい旅の第一夜であった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
しかもその劇場の維持費ゐぢひさへ負擔ふたんしなければならない集りであるから、そこへあたまを突つ込んで、他で見られない高級演劇を見ようとならば
むぐらの吐息 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
自分たちの右手の高きには前穂高のいただきがなおさっきの夕焼の余燼でかがやいて、その濃い暗紫色の陰影は千人岩のあたまのうえまでものびていた。
子供こどもあたまには、善良と馬鹿とは、だいたい同じ意味いみの言葉とおもわれるものである。小父おじのゴットフリートは、そのきた証拠しょうこのようだった。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
にはとりおどろいて、きりしたあたまをさげて友伯父ともをぢさんのはうんでました。そして、かみつてもらつて友伯父ともをぢさんのわききました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
わたくしは一さいがくだらなくなつて、みかけた夕刊ゆふかんはふすと、また窓枠まどわくあたまもたせながら、んだやうにをつぶつて、うつらうつらしはじめた。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「えいくそッ、びっくりした。おかしらなどとぶんじゃねえ、さかなあたまのようにこえるじゃねえか。ただかしらといえ。」
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
へば、あたまから青痰あをたんきかけられても、かねさへにぎらせたら、ほく/\よろこんでるといふ徹底てつていした守錢奴しゆせんどぶりだ。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
そして、ちよつといきれたやうな樣子やうすをすると、今度こんどはまたあたま前脚まへあしさかんうごかしながらかへしたつちあなした。
画家とセリセリス (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
そればかりか、折角せつかくのごちさう はとみれば、そのあひだに、これはまんまと、あなげこんでしまつてゐるのです。そしてあなくちからあたまをだして
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
これはつかあたまつちあたま、あるひはこぶしげたようなかたちをしてゐるもので、おほくはきんめっきをしたどう出來できて、非常ひじようにきれいなものであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
不器用ぶきようなればお返事へんじのしやうもわからず、唯々たゞ/\こ〻ろぼそくりますとてをちゞめて引退ひきしりぞくに、桂次けいじ拍子ひようしぬけのしていよ/\あたまおもたくなりぬ。
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そして男のあたまを引き寄せて、自分の肩へ寄り掛からせた。男は優しく女と顔を見合って、目を閉じたが、ぐに寐入ねいった。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
そして、のこしの牛肉のきれをやって、はなしてやりました。たぬきは肉をもらって、あたまをぴょこぴょこさげながら、やぶの中へはいっていきました。
ばかな汽車 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
奧さんのあたまの中では、また考がさきのとほりに、どうどうめぐりをしてゐる。をつとに別れるのも嫌な事だから、それを思ひ切つてすることは出來ない。
半日 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
諸外國しよぐわいこく事情じじやうこと/″\あたまなかれてかんがへなければならぬのであつて、もつと見通みとほしのにくいものである。それでつね商賣人しやうばいにんるゐきたすものである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
それは、まださむい春のはじめで、一ばん汽車きしゃにのるために、あけちかく、山をおりていくいのきちたちのあたまの上には、ほしがきらきらかがやいていた。
ラクダイ横町 (新字新仮名) / 岡本良雄(著)
手拭てぬぐひうへにすつかりあたまをさげて、それからいかにも不審ふしんだといふやうに、あたまをかくつとうごかしましたので、こつちの五ひきがはねあがつてわらひました。
鹿踊りのはじまり (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
▲話は一向いっこうまとまらないが堪忍かんにんして下さい。御承知のとおり、私共は団蔵だんぞうさんをあたまに、高麗蔵こまぞうさんや市村いちむら羽左衛門うざえもん)と東京座で『四谷怪談』をいたします。
薄どろどろ (新字新仮名) / 尾上梅幸(著)
それに續く丘陵の先に龍ヶ嶽(そのあたまは富士と同じやうにまだ雲の中に隱れてゐた)を見た景色は、たとへば
湖水めぐり (旧字旧仮名) / 野上豊一郎(著)
これだけんだので言葉ことば意義内容いぎないようわたしあたまなかにハツキリしてた。大和魂やまとだましい表象へうしやうする、朝日あさひにほ山櫻やまざくらがコスモポリタン植物しよくぶつでないこと無論むろんである。
麦藁帽子をかぶらせたら頂上てっぺんおどりを踊りそうなビリケンあたまが入っていて、これも一分苅ではない一分生えの髪に、厚皮あつかわらしい赭いが透いて見えた。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
土方を使えば、当り前一日三、四円分位の労働はたらきを五、六十銭でやる。で、あたまが二重にも、三重にもハネられた。
不在地主 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
埃及えじぷとにはあたまとりだのけものだの色々いろ/\化物ばけものがあるがみな此内このうちである。この(一)にぞくするものはがいして神祕的しんぴてきたうとい。
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
はるたといつては莞爾につこりなにたといつては莞爾につこり元来ぐわんらいがあまりしつかりしたあたまでないのだ。十歳じつさいとき髪剃かみそりいたゞいたが、羅甸ラテン御経おきやうはきれいに失念しつねんしてしまつた。
ハテ品川しながは益田孝君ますだかうくんさ、一あたまが三じやくのびたといふがたちまふくろく益田君ますだくんと人のあたまにるとはじつ見上みあげたひとです、こと大茶人だいちやじん書巻しよくわんを愛してゐられます
七福神詣 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
するときゅう生徒監せいとかんはシューラにやさしくなって、あたまでたり、なぐさめたり、ふくを着るのを手伝ったりした。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)