近寄ちかよ)” の例文
彼は又旅行案内をひらいて、細かい数字を丹念たんねんに調べしたが、少しも決定のはこび近寄ちかよらないうちに、又三千代の方にあたますべつてつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「あれは鉄砲てっぽうだよ。近寄ちかよると、ズドンといって、みんなころされてしまうのだよ。」と、おやすずめはすずめにいいきかせました。
からすとかがし (新字新仮名) / 小川未明(著)
じゆく山田やまだは、つて、教場けうぢやうにも二階にかいにもたれらず、物音ものおともしなかつた。枕頭まくらもとへ……ばたばたといふ跫音あしおと、ものの近寄ちかよ氣勢けはひがする。
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
すると、まばゆいようにかゞやをんながゐます。これこそ赫映姫かぐやひめちがひないとおぼしてお近寄ちかよりになると、そのをんなおくげてきます。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
『でも、おまへ!』と公爵夫人こうしやくふじんつて、『何事なにごとでも徳義とくぎつてるのさ、よくをつけて御覽ごらん夫人ふじんほもあいちやんのそば近寄ちかよりました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
彼方あつち此方こつちさがす中、やつとのことで大きな無花果いちじく樹蔭こかげこんでるのをつけし、親父おやぢ恭々うや/\しく近寄ちかよつて丁寧ていねいにお辭儀じぎをしてふのには
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
そして、ばたばた近寄ちかよつて夏繪なつゑ敏樹としきしづかにさせながら、二人ふたり兩方りやうはうからいだきよせたままはち動作どうさながめつゞけてゐた。
画家とセリセリス (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
五、 屋外おくがいおいては屋根瓦やねがはらかべ墜落ついらいあるひ石垣いしがき煉瓦塀れんがべい煙突えんとつとう倒潰とうかいきたおそれある區域くいきからとほざかること。とく石燈籠いしどうろう近寄ちかよらざること。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
ラランの悪知慧わるぢえ有名いうめいなもので、ほかのとりがうまくんでるのをると、近寄ちかよつては自分じぶんとがつた嘴先くちさきでチクリとして墜落ついらくさせてしまふのだ。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
陰湿いんしつ穴蔵部屋あなぐらべや、手さぐりで近寄ちかよると、鉄格子てつごうしさびがザラザラ落ちた。すると、ウーム……とうめきだしたかすかな人声。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふと、かがみのおもてからはなしたおせんのくちびるは、ちいさくほころびた。と同時どうじに、すりるように、からだ戸棚とだなまえ近寄ちかよった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
また此短針このたんしんと十とのあひだ半過なかばすぎて十はう近寄ちかより、長針ちやうしんすゝんで八ところきたればこれを十まへ二十分時ぶんじと云ふ。
改暦弁 (旧字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
けれどもかぶと前立まえだてのきらきらするほしひかりにおじけて、ただ口から火をくばかりで、そばへ近寄ちかよることができません。
大江山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
何故なぜだと。』と、イワン、デミトリチはおどすやうな氣味きみで、院長ゐんちやうはう近寄ちかより、ふる病院服びやうゐんふくまへあはせながら。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
浮加々々うか/\其所へ至り災難さいなんあふときは父母への不孝此上なし我は君子に非れどもあやふき事には近寄ちかよる可からず部屋へやのみ居て花のなき庭を眺て消光くらしなば書物しよもつ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
はづかしさ、かなしさ、腹立はらだたしさ、——そのときのわたしのこころうちは、なんへばいかわかりません。わたしはよろよろあがりながら、をつとそば近寄ちかよりました。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その巡査はおそらく犬がきらいであったか、あるいはそんな所にわれわれの近寄ちかよることをふつごうと考えたのか、ひどくふきげんでわたしたちを追いはらおうとした。
達二はしばらく自分の眼をうたがって立ちどまっていましたが、やはりどうしても家らしかったので、こわごわもっと近寄ちかよって見ますと、それはつめたい大きな黒い岩でした。
種山ヶ原 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
武村兵曹たけむらへいそう大軍刀おほだちブン/\とまわ海賊船かいぞくせん近寄ちかよらばわれからその甲板かんぱん飛移とびうつらんばかりのいきほひ。
私達わたくしたちは一おう参拝さんぱいませてから、ただちに目的もくてき銀杏いちょう近寄ちかよりますと、はやくもそれとづいたか、白茶色しろちゃいろ衣裳いしょうをつけた一人ひとり妖精ようせい木蔭こかげからあゆで、私達わたくしたちちかづきました。
にん武士ぶしかたなしに、左右さいうかへりみつゝ、すこしづつ死體したいそば近寄ちかよつてた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
雷鳥らいちようははひまつの高山植物こうざんしよくぶつ若芽わかめ食物しよくもつとしてゐます。性質せいしつ遲鈍ちどんですから、ひと近寄ちかよつても容易よういげません。つゑたゝけばおとせそうなひくそらを、うろ/\まはつてゐます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
また以前いぜんみづわかすことは非常ひじよう困難こんなんであつて、わづかにいしのくぼみへみづれて、それにいしむとか、貝殼かひがられたみづ近寄ちかよせてすこしのたにぎなかつたのでありますが
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
各自棍棒石斧抔を手にして獸に近寄ちかより之を捕獲ほくわくせしならん。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
此時このとき、ベンヺーリオー近寄ちかよりて
れかゞかご近寄ちかよると
鸚鵡:(フランス) (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
からすは、いしたらないのをっていて、こちらのことはにもめずに、だんだんほう近寄ちかよって、じっと機会きかいをねらっていました。
僕はこれからだ (新字新仮名) / 小川未明(著)
軍曹殿ぐんそうどの軍曹殿ぐんそうどのはやはやく、じうはやく‥‥」と、中根なかねきし近寄ちかよらうとしてあせりながらさけんだ。じうはまだ頭上づじやうにまつげられてゐた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
何故なぜだと。』と、イワン、デミトリチはおどすような気味きみで、院長いんちょうほう近寄ちかより、ふる病院服びょういんふくまえあわせながら。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
彼等かれらはるかずして、遠方ゑんぱう海龜うみがめが、爼形まないたなりちひさないはうへに、かなしさうにもまたさびしさうにすわつてるのをました、彼等かれら段々だん/\近寄ちかよつてとき
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
不思議ふしぎおもつて近寄ちかよつて、そっとつてると、そのつたつゝなかたか三寸さんずんばかりのうつくしいをんながゐました。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
其時、往来のいそがしさに、始めて気がいた様にかほげた。三四郎のいだ帽子のかげが、女のうつつた。二人ふたりは説教の掲示のある所で、互に近寄ちかよつた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
どかりとこしをおろした縁台えんだいに、小腰こごしをかがめて近寄ちかよったのは、肝腎かんじんのおせんではなくて、雇女やといめのおきぬだった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
武村たけむらが、とう/\御安眠ごあんみん妨害ぼうがいしましたね。』と、水兵すいへいめいじて二個にこ倚子ゐす近寄ちかよせた。
しかしながらそのようなたか殿堂でんどう近寄ちかよることや堂上どうじようのぼることは年齡ねんれい無關係むかんけいなことであるから、わが讀者どくしやたま/\かような場所ばしよ居合ゐあはせたとき大地震だいぢしん出會であふようなことがないともかぎらぬ。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
さけんで、手早てばやく二のをつがえて、いっそうつよきしぼってはなしましたが、これもはねかえってました。もうあとには一ぽんしかのこってはおりません。むかではずんずん近寄ちかよってました。
田原藤太 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
してはいけないよ。みんなもこちらへ近寄ちかよろうとしていっしょうけんめいやっているのだ。それには二つしかたがある……一つはこのおれたちのいる下まで、トンネルをほるのだ。もう一つは水を
はなれたあぜつたつて、むかふからまたひとつ、ひよい/\とて、ばさりとかしらせておなじくまる。と素直まつすぐ畷筋なはてすぢを、べつ一個ひとつよたよた/\/\と、それでも小刻こきざみ一本脚いつぽんあしたけはやめていそいで近寄ちかよる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
このとき、ゆうちゃんはあしもとのつちひろって、あおあてにげました。すると、あおうごいて、しろ着物きものがこちらへ近寄ちかよってきました。
二百十日 (新字新仮名) / 小川未明(著)
三千代のかほ此前このまへつたときよりは寧ろ蒼白あをしろかつた。代助にあごまねかれて書斎の入口いりぐち近寄ちかよつた時、代助は三千代のいきはづましてゐることに気が付いた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
あいちやんはれは奇妙きめうだとおもつて、近寄ちかよつてじつてゐますと、やがて其中そのなか一人ひとりふことには、『をおけよ、なんだね、五點フアイブ!こんなにわたし顏料ゑのぐねかして!』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
とおほめになつて、うちに少々しよう/\のこつてゐたもの褒美ほうびらせました。もちろんひめ難題なんだいにはふるひ、「赫映姫かぐやひめおほがたりめ」とさけんで、またと近寄ちかよらうともしませんでした。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
大地震だいぢしんによりて損傷そんしようした家屋かおくなかには崩壞ほうかいふち近寄ちかより、きはどいところ喰止くひとめたものもあらう。さういふものは、地震ぢしんならずとも、あるひかぜあるひあめによつて崩壞ほうかいすることもあるであらう。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
ひかったものは、だんだんきしほう近寄ちかよってきました。そして、だんだんはっきりとそれがわかるようになりました。それは、氷山ひょうざんであったのです。
幽霊船 (新字新仮名) / 小川未明(著)
其内そのうちで野々宮さんは尤も多忙に見えた。部屋の入口に顔をした三四郎を、一寸ちよつと見て、無言むげんの儘近寄ちかよつてた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
わたしは、自分じぶん一人ひとりだけで、ほかにともだちがなかったから、あまり屋台やたいには近寄ちかよらずに、はなれてぼんやりとっていますと
子供の時分の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
然し時によると、それが尤も機嫌のわるい索引さくいんになる事があつた。さう云ふときは、いかに神経のふつくら出来あがつたあにでも、成るべく近寄ちかよらない事にしてゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
むすめくろんぼを、物珍ものめずらしそうにかえりますと、くろんぼはまって、不思議ふしぎそうに、むすめかおつめていましたが、やがて近寄ちかよってまいりました。
港に着いた黒んぼ (新字新仮名) / 小川未明(著)
さう場合ばあひ度重たびかさなるにれて、二人ふたりあひだすこしづゝ近寄ちかよこと出來できた。仕舞しまひには、ねえさん一寸ちよつとこゝをつてくださいと、小六ころくはうからすゝんで、御米およねものたのやうになつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「これが千りょう値打ねうちのあるほとけさまですか。」と、なかには、おそるおそる近寄ちかよってながめるひとたちもあったのです。
天下一品 (新字新仮名) / 小川未明(著)