自然しぜん)” の例文
なつになると、しろくも屋根やねうえながれました。おんなは、ときどき、それらのうつりかわる自然しぜんたいして、ぼんやりながめましたが
ちょうと三つの石 (新字新仮名) / 小川未明(著)
文化ぶんくわ發達はつたつしてれば、自然しぜん何處どこ漠然ばくぜんとして稚氣ちきびてるやうな面白おもしろ化物思想ばけものしさうなどをれる餘地よちくなつてるのである。
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
また貝殼かひがら一方いつぽうしかないといふことは、自然しぜんにたまつたものでなく、むかしひとつてからをすてたものであるといふほかはないのです。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
勘次かんじきはめてせま周圍しうゐいうしてる。しかかれせたちひさな體躯からだは、せま周圍しうゐ反撥はんぱつしてるやうな關係くわんけい自然しぜん成立なりたつてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
りよ行の時にはもうこひ人のやうな伴侶はんりよで、撮影さつえい現像げんぞうつけ技量ぎれう自然しぜんと巧くなつて、學校での展覽會てんらんくわいでは得意とくいな出ひんぶつであり
その予備知識よびちしきがあつて、ことさらにたずねてみたのだから、自然しぜんにこちらも、注意ちゅういぶかくこの重役じゅうやく態度たいど観察かんさつしていたわけである。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
貴方あなたは、んかてえとうちが淋しい淋しいツて有仰おつしやいますけれども、そりや家に病身の人がゐりや、自然しぜん陰氣いんきになりもしますわ。」
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
したには小石こいしが一めん敷詰しきづめてある。天井てんぜうたかさは中央部ちうわうぶは五しやくずんあるが。蒲鉾式かまぼこしきまるつてるので、四すみはそれより自然しぜんひくい。
あれより外に自慢するものは何もない。所が其富士山は天然てんねん自然しぜんむかしからあつたものなんだから仕方がない。我々われ/\こしらへたものぢやない
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
で、自然しぜん私達わたくしたち対話はなしんでからのち事柄ことがらかぎられることになりました。わたくし真先まっさきにいたのは良人おっと死後しご自覚じかく模様もようでした。——
もつと先祖せんぞ武家出ぶけでであらうが、如何いかにもくだんの、ならばが、ともだちのみゝさはつて聞苦きゝぐるしい。自然しぜんにつきあつてあそぶものもすくなくなる。
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それが次第しだいすゝんで、旅行中りよこうちゆううたにはほんとうに自然しぜんみこなした立派りつぱなものが、萬葉集まんようしゆうになると、だん/\てゐます。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
見いだし且つは其所の役人自然しぜん私欲しよくすぢ等之れあり下々の者難澁なんじふ致す向もあらば夫々御糺明きうめい仰付おほせつけらるゝ御趣意しゆいなり依て上樣御目代もくだいとの仰を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
いや阿關おせきこうふとちゝ無慈悲むじひ汲取くみとつてれぬのとおもふからぬがけつして御前おまへかるではない、身分みぶん釣合つりあはねばおもこと自然しぜんちがふて
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
(あとになってわかったことだが、くまは、ガラスまどに手をつっこんだひょうしに片手にけがをしたので、自然しぜんそんな手つきをしたのだ。)
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
自然しぜん、火薬も少量しか使えないので、そういうピストルは、殺す相手の身体にぴったりとつけて発射しないと、弾丸が身体の中へはいらない。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
大浪おほなみ小浪こなみ景色けしきなんだ。いまいままでぼくをよろこばして自然しぜんは、たちまちのうちなん面白味おもしろみもなくなつてしまつた。ぼくとは他人たにんになつてしまつた。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
いきほひ自然しぜんと言つては堅過かたすぎるが、成程なるほど江戸時代えどじだいからかんがへて見ても、湯屋ゆや与太郎よたらうとは横町よこちやうほう語呂ごろがいゝ。(十八日)
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
もと/\やまには、たかやまひくやまなめらかなやまけはしいやまとさま/″\ありますが、日本につぽんでも、どれにも、はじめは、自然しぜんしげつてゐたのです。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
そなたくろ外套マントルほゝばたく初心うぶをすッぽりとつゝんでたも、すれば臆病おくびゃうこのこゝろも、ぬゆゑにきつうなって、なにするもこひ自然しぜんおもふであらう。
人のすむあたりの雪は自然しぜんにきゆるをまたずして家毎いへごとに雪を取捨とりすつるに、あるひは雪を籠にいれてすつるもあり、あるひはのこぎりにて雪を挽割ひきわりてすてもし
といつて、れいくるまをさしせると、不思議ふしぎにもかたとざした格子こうし土藏どぞう自然しぜんいて、ひめからだはする/\とました。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
正直しやうぢきかうべかみ宿やどる——いやな思をしてかせぐよりは正直しやうぢきあそんでくらすが人間にんげん自然しぜんにしていのらずとてもかみまもらん。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
そこで、いしころのおほ坂路さかみちあるいてもつかれないやうなつよあしちからが、木曾生きそうまれのうまには自然しぜんそなはつてるのです。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
そこで父母が姙娠にんしんしたことを怪しんで、その女に、「お前は自然しぜん姙娠にんしんした。夫が無いのにどうして姙娠したのか」
「なるほど、あるひはそうかもれない。けれど自分じぶんえてゐる。それだからべる。これは自然しぜんだ、また權利けんりだ」
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
でもね人間の力でなくても 自然しぜんの力でも いまここにうつぐらいのまつすぐな運河もできるのぢや ごらんあれを
さすれば、いま天下に身のおきどころのない、落人おちゅうどが、そこをたよってくるのは、まことに自然しぜんだとかんがえます
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
美しいもの——と云つて無氣力な私の觸角しよくかくに寧ろ媚びて來るもの。——さう云つたものが自然しぜん私を慰めるのだ。
檸檬 (旧字旧仮名) / 梶井基次郎(著)
じつにすばらしいはな日本にっぽんにはあるものだ。いつかおとうさんが、日本にっぽんほど自然しぜんにめぐまれているくにはないとおっしゃったが、ほんとうにそうだとおもう。
ごんごろ鐘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
もしたいした地震ぢしんでないといふ見込みこみがついたならば、こゝろ自然しぜんやすらかなはずであるから過失かしつおこりようもない。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
もしまた医学いがく目的もくてきくすりもって、苦痛くつううすらげるものとすなれば、自然しぜんここに一つの疑問ぎもんしょうじてる。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
けっしてまっすぐに歩けるものではありません。自然しぜんに、右か左かにまがってしまいます。人間は、どんなりっぱな身体からだのひとでも、右と左とはかたわです……。
風ばか (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
寢食しんしよくことまをすにおよばず、器物きぶつ取扱とりあつかひことみづこと掃除さうぢこと其外そのほかさい仕事しごとくわんしてみん銘々めい/\獨立心どくりつしんつておこなへば自然しぜん責任せきにんおもんずるやうになる。
女教邇言 (旧字旧仮名) / 津田梅子(著)
すなは熊公くまこうくちから自然しぜんほとばしりた『たまのでんぐりかへる』といふ大膽だいたん用語ようごむし奇拔きばつでいゝね。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
よるいろにそのみどりくろずみ、可愛かあいらしい珊瑚珠さんごじゆのやうなあかねむたげではあるけれど、荒涼くわうりやうたるふゆけるゆゐ一のいろどりが、自然しぜんからこの部屋へやうつされて
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
村に行わるゝ自然しぜん不文律ふぶんりつで、相応な家計くらしを立てゝ居る者が他人のくぬぎの枝一つ折っても由々敷ゆゆしいとがになるが、貧しい者はちっとやそとのものをとっても、大目に見られる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そのとびら自然しぜんぢ、ていふたゝ海面かいめんうかばんとするや、そのとびら忽然こつぜんとしておのづかひらくやうになつてる。
さうすれば自然しぜんあのかたのお名前なまへにもきずのつくことでございますから、ふねにおりになるまで、我慢がまんしてゐたはうが、双方さうはう利益りえきだらうと、あにもさうまうしますものですから。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
それにかの女の身ぶりと目つきとは、べつにことばの助けをりる必要ひつようのないほどじゅうぶんにものを言って、そこによけい自然しぜん情愛じょうあいがふくまれているようであった。
文句は薩張さっぱり分らぬが、如何にも深い思いがあるらしく、誰かをさして訴うるらしく、銀の様な声をあげては延ばし、延ばしては収め、誰教うるともない節奏せっそう自然しぜんみょうって
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
人間の子が自然しぜんの理にしたがって、スクスクとのびて行くことにも無限の喜びを感じていた。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
圖中精製石棒せい/\いしばう中央の下にゑがきたるは自然しぜんの扁平石にして、周縁相對する部に人爲じんゐ缺損けつそん有り。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
朝廷ちょうてい二派ふたはかれたものですから、自然しぜんおそばの武士ぶしたちの仲間なかま二派ふたはかれました。
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
ゴットフリートは一ばんに一つきり歌わなかった。たのんでも気持きもちよく歌ってはくれないことを、クリストフは知っていた。歌いたい時に自然しぜんてくるのでなくてはだめだった。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
自然しぜん風景ふうけいうつすほかは、画帳がちょうことごとく、裸婦らふぞうたされているというかわようだった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
壯烈そうれつなる剛腸ごうちようしばし破天荒はてんこう暴圖ぼうとくわだて、シベリアの霜雪そうせつをして自然しぜん威嚴いげんうしなはしむ。
罪と罰(内田不知庵訳) (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
人と森との原始的げんしてき交渉こうしょうで、自然しぜん順違じゅんい二面にめんが農民にあたえたながい間の印象いんしょうです。森が子供こどもらや農具のうぐをかくすたびに、みんなは「さがしに行くぞお」とさけび、森は「お」と答えました。
みちというものはかわによくています。それは、かわというものがもともとみちだからです。つまり、川というのは自然しぜん出来できた道で、人は七ひとびのくつをはいてそこを歩きまわるのです。
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)
こういうことは、夏でないと、よく見えないのですが、それでもニールスは、自然しぜんはなんておだやかでやさしいんだろうと思いました。そして、まえよりも、ずっと心がおちついてきました。