ひく)” の例文
そこで、王子は、森にむかってずんずん進んでいきますと、大きな木もひくい木も、草やぶもいばらも、みんな道をよけて通しました。
眠る森のお姫さま (新字新仮名) / シャルル・ペロー(著)
これより他木さらになく、俗に唐松といふもの風にたけをのばさゞるがこずゑは雪霜にやからされけん、ひくき森をなしてこゝかしこにあり。
カアカア、アオウガアガアガア、と五六みづうへひく濡色ぬれいろからすくちばしくろぶ。ぐわた/\、かたり/\とはしうへ荷車にぐるま
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
冷静れいせいなる社会的しやくわいてきもつれば、ひとしく之れ土居どきよして土食どしよくする一ツあな蚯蚓みゝず蝤蠐おけらともがらなればいづれをたかしとしいづれをひくしとなさん。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
眼鏡めがねをかけているのが、有田ありたくんのおかあさん、ひくいちぢれがみのが、あずまくんのおかあさん、ふとっているのは、小原おばらくんのおかあさんさ。
生きぬく力 (新字新仮名) / 小川未明(著)
たとへば相模平野さがみへいやおこ地震ぢしんおいては、其地方そのちほう北西方ほくせいほうおい氣壓きあつたかく、南東方なんとうほうおいてそれがひくいと其地方そのちほう地震ぢしん誘發ゆうはつされやすい。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
したには小石こいしが一めん敷詰しきづめてある。天井てんぜうたかさは中央部ちうわうぶは五しやくずんあるが。蒲鉾式かまぼこしきまるつてるので、四すみはそれより自然しぜんひくい。
牧場ぼくじょうのうしろはゆるいおかになって、その黒いたいらな頂上ちょうじょうは、北の大熊星おおくまぼしの下に、ぼんやりふだんよりもひくく、つらなって見えました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
大きなおしろがそびえ立ち、ひくかべはなにかこまれた中庭には、美しく石がしきつめてあって、古風こふう庭園ていえんはいかにも優雅ゆうがです。
慶州けいしゆうには周圍しゆういひくやまがあつて、一方いつぽうだけすこひらけてゐる地勢ちせいは、ちょうど内地ないち奈良ならて、まことに景色けしきのよいところであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
よろめくように立上たちあがったおせんは、まど障子しょうじをかけた。と、その刹那せつなひくいしかもれないこえが、まどしたからあがった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「さうかい、つてたね、まああがりな」内儀かみさんはランプを自分じぶんあたまうへげて凝然ぢつくびひくくしておつぎの容子ようすた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ひくくて眉毛まゆげまなこするどく其上に左の目尻めじり豆粒程まめつぶほどの大きな黒子ほくろが一つあり黒羽二重はぶたへ衣物きものにて紋は丸の中にたしか桔梗ききやうと言れてお金は横手を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
さうして學者がくしや文學者ぶんがくしやも、かならずしも上流社會じようりうしやかい人々ひと/″\ばかりでなく、かへってひく位置いちひとほう中心ちゆうしんうつつてるようになりました。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
そこからうへふたゝ落葉濶葉樹らくようかつようじゆのかばるいとかはんのきるいとか、うつくしいはなくしゃくなげなどちひさくひく植物しよくぶつ生育せいいくしてゐます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
此樣こん工夫くふうをやるのだもの、この武村新八たけむらしんぱちだつてあんまり馬鹿ばかにはなりますまい。』と眞丸まんまるにして一同いちどう見廻みまわしたが、たちまこゑひくくして
「わたしは目が見えなくなったかしらん」と親方はひくい声で言って、両手を目に当てた。「森についてまっすぐにおいで。手をしておくれ」
やゝしばしありて雪子ゆきこいきしたきはめてはづかしげのひくこゑして、もう後生ごしやうねがひで御座ござりまする、其事そのことふてくださりますな
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
長持ながもちの中のしっぺい太郎たろうは、この物音ものおとくと、くんくんはなをならして、ひくこえでうなりながら、いまにもびつこうというがまえをしました。
しっぺい太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
代助も脊のひくい方ではないが、あには一層たかく出来てゐる。其上この五六年来次第に肥満してたので、中々なか/\立派に見える。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
くと、それがボズさんとのちつた老爺ぢいさんであつた。七十ちかい、ひくいが骨太ほねぶと老人らうじん矢張やはり釣竿つりざをもつる。
都の友へ、B生より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
彼等かれらみな、この曇天どんてんしすくめられたかとおもほどそろつてせいひくかつた。さうしてまたこのまちはづれの陰慘いんさんたる風物ふうぶつおなじやうないろ著物きものてゐた。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
場長じょうちょう同僚どうりょうと話をしているのに、声がひくくてよく聞きとれないと、胸騒むなさわぎがする。そのかんにも昨夜さくや考えたことをきれぎれに思いださずにはいられない。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
あいちやんはすこぶ失望しつばうしてだれかにたすけてもらはうとおもつてた矢先やさきでしたからうさぎそばたのをさいはひ、ひく怕々おど/\したこゑで、『萬望どうぞ貴方あなた——』とひかけました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
昨日の売れ残りのふかし甘薯いもがまずそうに並べてある店もあった。雨は細く糸のようにそのひくき軒をかすめた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
号室ごうしつだい番目ばんめは、元来もと郵便局ゆうびんきょくとやらにつとめたおとこで、いような、すこ狡猾ずるいような、ひくい、せたブロンジンの、利発りこうらしい瞭然はっきりとした愉快ゆかい眼付めつき
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
きり何時いつしかうすらいでたのか、とほくのひく丘陵きうりよう樹木じゆもくかげ鉛色なまりいろそらにしてうつすりとえた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
中国式のかご不潔ふけつではあるが、読書することもできれば、眠ることもできて、僕には最も都合つごうよいが、轎夫きょうふのがやがやさわぐために大いに楽しみの程度をひくめられる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
利根山奥のひくところは山毛欅帯にぞくし、たかきは白檜帯に属す、最高なる所は偃松帯にぞくすれども甚だせましとす、之を以て山奥の入口は山の頂上に深緑色の五葉松繁茂はんも
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
かぜすこいてりましたが、そらには一てんくももなく、五六もあろうかとおもわるるひろ内海いりうみ彼方かなたには、ふさくにひく山々やまやまのようにぽっかりとうかんでりました。
これまでいたところは、通りにたった一つしかあかりがなく、夜になるとまっくらだった。ひしゃげたような、木づくりのひくなみは、みんなよろい戸をおろしてしまう。
この家にて或る年田植たうえ人手ひとでらず、明日あすそらあやしきに、わずかばかりの田を植え残すことかなどつぶやきてありしに、ふと何方いずちよりともなくたけひく小僧こぞう一人来たりて
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
なほ遥かに左にかたよりたるところに島の影のひくく見ゆるが、これぞ——かしは(神集)島なり。
松浦あがた (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
そこまで話して来て、闇太郎の目は、異様にふすぼり、語調はためらい、ひくまるのだった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
そして、どのれつでも右側みぎがわにいるのがちょっと高い方で、左側ひだりがわひくめの子供こどもになっている。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
くまは、ひくく長くうなりだした。それは、さっきまでほえたような声とちがって、大敵たいてき出会であった場合ばあいに、たがいにすきをねらってにらみ合っているような、不気味ぶきみなものだった。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
弓矢ゆみや使用しようは、諸人種に普通ふつうなるものにあらず。未開人民中みかいじんみんちうには今尚いまなほ之を知らざる者有り。此點このてんのみにいて云ふも、コロボックル、の智識ちしきけつしてはなはひくきものには非ざるなり。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
權山ごんざんといふたうげは、ひくいながらも、老人らうじんにはだいぶあへいでさねばならなかつた。たうげ頂上ちやうじやうからは、多田院ただのゐん開帳かいちやう太鼓たいこおときこえて、大幟おほのぼり松並木まつなみきおくに、しろうへはうだけせてゐた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
汽車きしゃの中等室にて英吉利婦人にう。「カバン」の中より英文の道中記どうちゅうき取出して読み、眼鏡めがねかけて車窓の外の山をのぞみ居たりしが、記中には此山三千尺とあり、見る所はあまりにひくしなどいう。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
あられゆきをもよおすくもそらひくくかかり、大烏おおがらす羊歯しだうえって
手をひざに眼をじて聴く八十一のおきなをはじめ、皆我を忘れて、「戎衣よろいそでをぬらしうらん」と結びの一句ひくむせんで、四絃一ばつ蕭然しょうぜんとしてきょく終るまで、息もつかなかった。讃辞さんじ謝辞しゃじ口をいて出る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
小夜吹雪激しくは打て角をひくめたじろぐ牛のまなこかがやきぬ
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
溜息ためいきひくにまよふのみ。——ゆめなりけらし
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
一学いちがくの声は、ひくいが、おごそかである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いとひくうたひはじめぬ
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
これより他木さらになく、俗に唐松といふもの風にたけをのばさゞるがこずゑは雪霜にやからされけん、ひくき森をなしてこゝかしこにあり。
やゝひくく、やまこしながれめぐらして、萌黄もえぎまじりのしゆそでを、おもかげごと宿やどしたのは、つい、まのあたりちかみね向山むかひやまひとぶ。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
けものきばをならべるように、とお国境こっきょうほうからひかったたか山脈さんみゃくが、だんだんとひくくなって、しまいにながいすそをうみなかへ、ぼっしていました。
しいたげられた天才 (新字新仮名) / 小川未明(著)
シグナレスは、じっと下の方を見てだまって立っていました。本線シグナルつきのせいのひく電信柱でんしんばしらは、まだでたらめの歌をやっています。
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
其處そこにはもうそつけなくなつた女郎花をみなへしくきがけろりとつて、えだまでられたくりひくいながらにこずゑはうにだけはわづかんでる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)