“一度(いちど)” の例文
「無(な)くなったな。」赤シャツの農夫はつぶやいて、も一度(いちど)シャツの袖(そで)でひたいをぬぐい、胸(むね)をはだけて脱穀小屋の戸口に立ちました。
耕耘部の時計 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
第六 毎日(まいにち)一度(いちど)は冷水(ひやみづ)或(あるひ)は微温湯(ぬるゆ)にて身體(からだ)を清潔(きれい)に拭(ぬぐ)ひとり、肌着(はだぎ)を着替(きかへ)べし。入浴(ふろ)は六七日目(にちめ)毎(ごと)に成(なる)たけ熱(あつ)からざる湯(ゆ)に入(い)るべき事(こと)。
養生心得草 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
息(いき)を吐(つ)くやうに、一度(いちど)止(や)んで、しばらくぴつたと靜(しづ)まつたと思(おも)ふと、絲(いと)を搖(ゆす)つたやうに幽(かすか)に來(き)たのが、忽(たちま)ち、あの大地震(おほぢしん)であつた。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
『モ一度(いちど)合唱(がつせう)を!』とグリフォンが叫(さけ)びました、海龜(うみがめ)がそれを繰返(くりかへ)さうとした時(とき)に丁度(ちやうど)、『審問(しんもん)始(はじ)め!』の叫(さけ)び聲(ごゑ)が遠方(えんぱう)に聞(きこ)えました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
且(かつ)指(ゆび)の先(さき)へでも、手(て)の平(ひら)の上(うへ)へでも自由(じいう)に尻(しり)が据(すわ)る。それが尻(しり)の穴(あな)へ楊枝(やうじ)の樣(やう)な細(ほそ)いものを突(つ)つ込(こ)むとしゆうつと一度(いちど)に收縮(しうしゆく)して仕舞(しま)ふ。
門 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
私(わたし)は一人子(ひとりご)で同胞(きやうだい)なしだから弟(おとゝ)にも妹(いもと)にも持(も)つた事(こと)は一度(いちど)も無(な)いと言(い)ふ、左樣(さう)かなあ、それでは矢張(やつぱり)何(なん)でも無(な)いのだらう
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
砂(すな)すべりの谷(たに)、一名(いちめい)を死(し)の谷(たに)と呼(よ)ばるゝ程(ほど)で、一度(いちど)此(この)穴(あな)の中(なか)へ陷落(かんらく)したるものは、到底(とうてい)免(の)がれ出(で)る事(こと)は出來(でき)ないのである。
獨樂(こま)の自分(じぶん)に一度(いちど)廻(まは)るは即(すなは)ち地球(ちきう)の自轉(じてん)といふものにて、行燈(あんどう)の方(かた)に向(むき)たる半面(はんめん)は晝(ひる)となり、裏(うら)の半面(はんめん)は夜(よ)となり、この一轉(ひとまはり)を一晝夜(いつちうや)とするなり。
改暦弁 (旧字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
「然うかい、君も然うなのかい、」と私は引取ツて、「工場の前も幾度(いくたび)通(とほ)ツたか知れないが、今日程(ほど)悲しいと感(かん)じたことは是(これ)まで一度(いちど)もなかツた。 ...
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
生(なま)の立(た)ち木(き)はちよっと燃(も)えにくいようにおもへますが、一度(いちど)火勢(かせい)がつけば、こんもりと茂(しげ)つた美(うつく)しい森林(しんりん)もまたゝくまに灰(はひ)になつてしまふのです。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
「にんげん五じふねん、げてんのうちをくらぶれば、夢まぼろしのごとくなり、一度(いちど)生を得て滅せぬものゝあるべきか」
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
山田(やまだ)も読売新聞(よみうりしんぶん)へは大分(だいぶ)寄書(きしよ)して居(ゐ)ました、私(わたし)は天にも地にも唯(たゞ)一度(いちど)頴才新誌(えいさいしんし)と云(い)ふのに柳(やなぎ)を咏(えい)じた七言絶句(しちごんぜつく)を出した事が有るが、其外(そのほか)には何(なに)も無い
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
また石器時代(せつきじだい)の人(ひと)も一度(いちど)石器(せつき)が破損(はそん)した場合(ばあひ)には、たいてい捨(す)てゝしまひ、これを改造(かいぞう)するようなことはなかつた。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
諸君(しよくん)の中(うち)、若(も)し僕(ぼく)の故郷(くに)に旅行(りよかう)せられるやうなことが有(あ)つたならば、是非(ぜひ)一度(いちど)大島小學校(おほしませうがくかう)を訪(と)はれたいものです。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
一度(いちど)新技巧派と云ふ名が出来ると、その名をどこまでも人に押しかぶせて、それで胡麻(ごま)をする時は胡麻をするし、退治(たいぢ)する時は退治しようとするんですからな。
饒舌 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「一度(いちど)そういう山(やま)へ、登(のぼ)ってみたいと思(おも)いながら、私(わたし)たちには、そんな元気(げんき)がない。せめてこの木(き)でもながめて、あこがれた山(やま)へいったつもりでいましょう。」
しんぱくの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
是非(ぜひ)一度(いちど)お目通(めどお)りを願(ねが)わずには居(い)られなくなりました、一向(いっこう)何事(なにごと)も弁(わきま)えぬ不束者(ふつつかもの)でございますが、これからは末長(すえなが)くお教(おし)えを受(う)けさせて戴(いただ)きとう存(ぞん)じまする……。
そのかはり、一度(いちど)懲(こ)りたことは、めつたにそれを二度(にど)する氣(き)にならなかつたのは、あの梨(なし)の木(き)の下(した)に立(た)たせられた晩(ばん)のことをよく/\忘(わす)れずに居(ゐ)たからでありませう。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
一言すれば田舎のどこへ行つても見ることの出来る、いかにも田舎らしい、穏かな、平凡な風景。画を習ひ初めた学生のカンバスには一度(いちど)は必ず上(のぼ)されるべき風景に過ぎない。
畦道 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
かういつて來(く)ると、歌(うた)が非常(ひじよう)に、おもしろくなく聞(きこ)えるかも知(し)れませんが、一度(いちど)この意味(いみ)を頭(あたま)に入(い)れて、その後(のち)度々(たび/\)、讀(よ)み返(かへ)して見(み)て下(くだ)さい。さうすると、自然(しぜん)にわかつて來(く)るでせう。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
休息(きゆうそく)の間隔(かんかく)は比較的(ひかくてき)に遠(とほ)いが、一度(いちど)活動(かつどう)を始(はじ)めるとなか/\激(はげ)しいことをやる。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
「わたしは、も一度(いちど)海を越して、ロスアンゼルスへ行くの。」
あるとき (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
両手を子どものほうへ一度(いちど)につきだしてみせるがよい。
おぢさん「一度(いちど)そんなことがあると決(けつ)して忘(わす)れません」
千年(ちとせ)に一度(いちど)現るるかの星こそは
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
そっちの方から、もずが、まるで音譜(おんぷ)をばらばらにしてふりまいたように飛(と)んで来て、みんな一度(いちど)に、銀(ぎん)のすすきの穂(ほ)にとまりました。
めくらぶどうと虹 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
懷姙(くわいにん)と事(こと)が極(きま)つたとき、御米(およね)は此(この)新(あた)らしい經驗(けいけん)に對(たい)して、恐(おそ)ろしい未來(みらい)と、嬉(うれ)しい未來(みらい)を一度(いちど)に夢(ゆめ)に見(み)る樣(やう)な心持(こゝろもち)を抱(いだ)いて日(ひ)を過(す)ごした。
門 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
これを二碗(にわん)と傾(かたむ)けた鄰家(りんか)の辻井(つじゐ)さんは向(むか)う顱卷(はちまき)膚脱(はだぬ)ぎの元氣(げんき)に成(な)つて、「さあ、こい、もう一度(いちど)搖(ゆす)つて見(み)ろ。」と胸(むね)を叩(たゝ)いた。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
春(はる)ならで芳之助(よしのすけ)の歸宅(かへり)の遲(おそ)さよ好(よ)き客(きやく)ありて遠(とほ)くまで行(ゆ)きたるにやそれにしても最(も)う歸(かへ)りさうなもの日沒(ひぐれ)まへに一度(いちど)づゝ樣子見(やうすみ)に戻(もど)るが常(つね)なるを
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
私(わたくし)は今(いま)やまた軍艦(ぐんかん)日(ひ)の出(で)のみならず一度(いちど)喪(うしな)つたと思(おも)つた日出雄(ひでを)をも國(くに)に獻(さゝ)ぐる事(こと)の出來(でき)るやうになつた事(こと)を感謝(かんしや)します。
二十五六歳(さい)の頃(ころ)より毎日(まいにち)朝夕(てうせき)實行(じつかう)して、七十七歳(さい)の今日(こんにち)に及(およ)び、爾來(じらい)數十年間(すうじふねんかん)頭痛(づつう)を忘(わす)れ、胃(ゐ)は健全(けんぜん)となり、感冐(かんばう)に犯(をか)されたる事(こと)未(いま)だ一度(いちど)もあらず。
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
この土器(どき)も石器(せつき)と同(おな)じように、あるひは石器(せつき)よりもより以上(いじよう)に、一度(いちど)破損(はそん)した場合(ばあひ)はとうてい修繕(しゆうぜん)が出來(でき)ない。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
一度(いちど)は綿と交易してつぎの替引の材料となし、一度は銭と交易して世帯の一分(いちぶ)を助け、非常の勉強に非ざれば、この際に一反を余(あま)して私家(しか)の用に供するを得ず。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そして僕等(ぼくら)は月(つき)に一度(いちど)同窓會(どうさうくわい)を開(ひら)いて一夕(いつせき)を最(もつと)も清(きよ)く、最(もつと)も樂(たの)しく語(かた)り且(か)つ遊(あそ)ぶのです。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
あの光子(みつこ)さんなぞが黒(くろ)いふさふさした髪(かみ)の毛(け)を振(ふ)って、さも無邪気(むじゃき)に、家(いえ)のまわりを駆(か)け𢌞(まわ)っているのを見(み)ると、袖子(そでこ)は自分でも、もう一度(いちど)何(なに)も知(し)らずに眠(ねむ)ってみたいと思(おも)った。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
盃(さかずき)持つ妓女(ぎじょ)が繊手(せんしゅ)は女学生が体操仕込の腕力なければ、朝夕(あさゆう)の掃除に主人が愛玩(あいがん)の什器(じゅうき)を損(そこな)はず、縁先(えんさき)の盆栽も裾袂(すそたもと)に枝引折(ひきお)らるる虞(おそれ)なかりき。世の中一度(いちど)に二つよき事はなし。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
みんな人間(にんげん)というものは一度(ど)経験(けいけん)したことも年(とし)をたつにつれて、だんだんと忘(わす)れてしまうものです。そして、もう一度(いちど)それを知(し)りたいと思(おも)っても思(おも)い出(だ)すことができないのであります。
幾年もたった後 (新字新仮名) / 小川未明(著)
『是非(ぜひ)とも、一度(いちど)お目(め)にかかって、いろいろお話(はなし)を承(うけたまわ)り、又(また)お力添(ちからぞえ)を願(ねが)わねばならぬ……。』——そう考(かんが)えると矢(や)も楯(たて)もたまらぬようになり、とうとうその旨(むね)を竜宮界(りゅうぐうかい)にお願(ねが)いすると
心細(こゝろぼそ)い氣持(きも)ちで眺(なが)めてゐるのです。さぁこれで、も一度(いちど)、讀(よ)み返(かへ)して下(くだ)さい。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
緯度(いど)は一度(いちど)進(すゝ)むごとに攝氏(せつし)の約(やく)一度(いちど)づゝ温度(おんど)が下(くだ)りますが、高山(こうざん)ではおよそ百五十(ひやくごじゆう)めーとるから二百(にひやく)めーとる登(のぼ)るたびに攝氏(せつし)の一度(いちど)ぐらゐ、温度(おんど)が低(ひく)くなり、登(のぼ)れば登(のぼ)るほど寒(さむ)さを加(くは)へます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
女王樣(ぢよわうさま)が其(そ)の不幸(ふかう)な賓客(まらうど)を死刑(しけい)にせよと命(せい)ぜられる金切聲(かなきりごゑ)も聞(きこ)えました——も一度(いちど)豚(ぶた)の仔(こ)が公爵夫人(こうしやくふじん)の膝(ひざ)に居(ゐ)て嚏(くさめ)をし、其(そ)の間(あひだ)、皿小鉢(さらこばち)が其(そ)の周(まは)りに碎(くだ)けました——再(ふたゝ)びグリフォンの叫(さけ)び聲(ごゑ)
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
鹿(しか)はおどろいて一度(いちど)に竿(さを)のやうに立(た)ちあがり、それからはやてに吹(ふ)かれた木(き)の葉(は)のやうに、からだを斜(なゝ)めにして逃(に)げ出(だ)しました。
鹿踊りのはじまり (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
「そうですか。今日はもうそのくらいでたくさんでしょう。あんまり一度(いちど)きに伺ってしまうと、これから先の楽しみがなくなりますから」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
婦人(ふじん)たちの、一度(いちど)に目(め)をさました時(とき)、あの不思議(ふしぎ)な面(めん)は、上﨟(じやうらふ)のやうに、翁(おきな)のやうに、稚兒(ちご)のやうに、和(なご)やかに、やさしく成(な)つて莞爾(につこり)した。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
『サア、今度(こんど)は貴方等(あなたがた)の順番(じゆんばん)です、日本(につぽん)の代表者(だいひやうしや)として何(なに)かおやりなさい。』と喚(わめ)く、滿塲(まんじやう)は一度(いちど)に拍手(はくしゆ)した。
北海道(ほくかいだう)に移住後(いぢゆうご)、冬時(とうじ)余(よ)の服裝(ふくさう)は、内地(ないち)に在(あ)りし時(とき)と殆(ほと)んど異(こと)ならず。而(しか)して當地(たうち)の寒氣(かんき)を左程(さほど)に感(かん)ぜざるのみならず、凍傷(とうしやう)等(とう)に一度(いちど)も犯(をか)されたる事(こと)あらず。
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
この銅鐸(どうたく)は今(いま)まで古墳(こふん)から出(で)たことはなく、岩(いわ)の間(あひだ)や、山(やま)かげなどからひょこっと出(で)るのが普通(ふつう)であり、そしてたくさんの數(かず)が一度(いちど)に出(で)ることも時々(とき/″\)あります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
一日(いちにち)床(とこ)を敷(し)いて臥(ふせ)つて居(ゐ)た事(こと)も一度(いちど)や二度(にど)では御座(ござ)りませぬ、私(わたし)は泣虫(なきむし)で御座(ござ)いますから、その強情(がうじやう)の割合(わりあひ)に腑甲斐(ふがひ)ないほど掻卷(かいまき)の襟(えり)に喰(くひ)ついて泣(な)きました、唯々(たゞ/\)口惜(くや)し涙(なみだ)なので
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
文学でも武芸でも何でも外に出ることが出来さえすれば難有(ありがた)いと云うので出掛けたことだから、故郷を去るに少しも未練はない、如斯(こんな)処(ところ)に誰が居るものか、一度(いちど)出たらば鉄砲玉で
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
『一度(いちど)はあんまり早過(はやす)ぎたし、一度(いちど)はあんまり遲過(おそす)ぎました。丁度好(ちやうどい)い時(とき)を知(し)らなければ、好(い)い榎木(えのき)の實(み)は拾(ひろ)はれません。私(わたし)がその丁度好(ちやうどい)い時(とき)を教(をし)へてあげます。』と申(まを)しました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)