うす)” の例文
そらくもくした! うすかげうへを、うみうへう、たちままたあかるくなる、此時このときぼくけつして自分じぶん不幸ふしあはせをとことはおもはなかつた。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
土井もそれに同意を表したくらゐ、彼女はうすぼんやりしてゐた。しかし漸と這ひ/\のできる子供は、甥の幼時に似て可愛ゆかつた。
(新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
『ちょうど、旦那様ぐらいなお年頃で、背は、もちっと高く、うすあばたが顔にあって、ずんと、田舎くさいお武家でござりましたが』
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところかほわりあたまうすくなりぎたふとつたをとこて、大變たいへん丁寧ていねい挨拶あいさつをしたので、宗助そうすけすこ椅子いすうへ狼狽あわてやうくびうごかした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それが一だん向上こうじょうすると浅黄色あさぎいろになり、さらまた向上こうじょうすると、あらゆるいろうすらいでしまって、なんともいえぬ神々こうごうしい純白色じゅんぱくしょくになってる。
小生、今朝こんてうふと応接室へまゐり候所、この影のうすき少女、とうのテエブルの上へのしかかり、熱心に「けふの自習課題」を読み居り候。
伊東から (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
雲のしまうす琥珀こはくいたのようにうるみ、かすかなかすかな日光がって来ましたので、本線シグナルつきの電信柱はうれしがって
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
従ってつい風景とか自然に対する親しみが比較的うすかった、私はあまり人気ひとけのない山奥などへ出かけると不安でたまらなくなるのである。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
木曾きそ檜木ひのき名所めいしよですから、あのうすいたけづりまして、かさんでかぶります。そのかさあたらしいのは、檜木ひのき香氣にほひがします。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
草餅くさもちが出来た。よもぎは昨日鶴子が夏やと田圃たんぼに往ってんだのである。東京の草餅は、染料せんりょうを使うから、色は美しいが、肝腎かんじんの香がうすい。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
その途中とちゅう、山の上にさしかかりますと、いままでからりとがってあかるかった青空あおぞらが、ふとくもって、そこらがうすぼんやりしてきました。
白い鳥 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
骸骨係の清君、一郎君、ブウちゃん、良ちゃん、鉄ちゃんの五人は、道具などをかかえていそいそとうすぐらい骸骨館の中へ入っていった。
骸骨館 (新字新仮名) / 海野十三(著)
をりからあめのあとのおもて打沈うちしづめる蒼々漫々さう/\まん/\たるみづうみは、水底みなそこつきかげはうとして、うすかゞやわたつて、おき大蛇灘おろちなだ夕日影ゆふひかげはしつた。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
勘次かんじうす蒲團ふとんへくるまつてうちからえてたあしあたゝまらなかつた。うと/\と熟睡じゆくすゐすることも出來できないで輾轉ごろ/\してながやうやあかした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
昔から農は国のもとというたくらいであるから、いかに苦しくも、いかに利益がうすくとも、国家のために奮励ふんれいせよと説いて歩いた。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ところが人形には、うす着物きものの下にくぎがいっぱい、とがったさきを外にけてつまっているのです。いくら大蛇おろちでもたまりません。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
子供こどもは、これにたいして、すげなくあたまをふりました。そして、うつろにひらいたで、電燈でんとうひかりが、うす弱々よわよわしくただよう、四ほうまわしました。
雲と子守歌 (新字新仮名) / 小川未明(著)
いつのまにかじめじめしたうすぎたない狭い通りに来たと思うと、はしなくもいつか古藤と一緒に上がった相模屋さがみやの前を通っているのだった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
着ているのは、ふわりとしたうすしゃの服で、淡青うすあお唐草模様からくさもようがついていた。かみはイギリス風に、長いふさをなして両のほおれかかっていた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
夕暮ゆふぐれうすくらきにまよこゝろもかきくらされてなにいひれんのすきよりさしのぞ家内かないのいたましさよ頭巾づきん肩掛かたかけはつゝめど
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
何故と言って、自分の見ている薄暗い窓のなかが、自分の思っているようなものでは多分ないことが、僕にはもううすうすわかっているんです。
ある崖上の感情 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
「文字ノ精ハ人間ノ鼻・咽喉のど・腹等ヲモ犯スモノノ如シ」と、老博士はまた誌した。文字を覚えてから、にわかに頭髪のうすくなった者もいる。
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
しかも物質的に報いられる所ははなはうすく給料等も時々の手当てに過ぎず煙草銭たばこせんにもきゅうすることがあり衣類は盆暮ぼんくれに仕着せを
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
初鮏は光り銀のごとくにしてすこしあをみあり、にくの色べにをぬりたるがごとし。仲冬の頃にいたればまだらさびいで、にくくれなうすし。あぢもやゝおとれり。
やがて五日ごろの月は葉桜はざくらしげみからうすく光って見える、その下を蝙蝠こうもりたり顔にひらひらとかなたこなたへ飛んでいる。
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
あゝいと聖なる威力ちからよ、汝我をたすけ、我をしてわが腦裏にされたる祝福めぐみの國のうすれしかたあらはさしめなば 二二—二四
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
ひいらぎの葉のやうにうすぺらで、そして又柊の葉のやうに触つた人を刺さないでは置かない雑誌だが、まちへ出す数もごく少いので知らぬ人が多いやうだ。
なにぶんうすてついたでつくり、これをかはひもむすあはせたものでありますから、いまではぼろ/\にこはれて、完全かんぜんのこつてゐるものはまれであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
九月十月の二た月は矢野もすこぶる元気よく経過し、体力のやや回復したにつれて、内心の不安もいつとなしうすらぎ、血色などもよほどよくなった。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
マーキュ 出來できた。此上このうへ洒落競しゃれくらべぢゃぞ。これ、足下おぬしそのうすっぺらなくつそこは、いまこと/″\って、はて見苦みぐるしいあししゃらうぞよ。
蛙や蝸牛などのグロテスクなものをうす気味悪い思いをしてまで食べなくとも、巴里パリにはうまい料理がいくらもある。
異国食餌抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
うつむいていると、美濃紙みのがみうすく白いので、窓の外の雲の姿や桐の梢のむらさきの花の色までみて写りそうであった。
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
この作の表現形式へうげんけいしき構圖こうづの不統一な事をげて、作のテエマの效果エフエクトうすいと云ひ、私は作の構圖こうづ形式けいしきに對する缺點けつてんおほふ丈けに、作の内容がふかめに
三作家に就ての感想 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
……そうしてそんなうすぐらい道ばたなどで、私は私の方に身をもたせかけてそれ等のものをよく見ようとしている彼女のしなやかな肩へじっと目を注ぎながら
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
もしまた医学いがく目的もくてきくすりもって、苦痛くつううすらげるものとすなれば、自然しぜんここに一つの疑問ぎもんしょうじてる。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
しかし、今から思ふと、いくら呑気な大正時代でも、あんな粗末な体裁のわるいうすぺらな雑誌が、数多あまたの名のある雑誌がならんでゐる店頭で、目につく筈がない。
ると煎餅せんべいのやうなうすつぺらの蒲団ふとんつめ引掻ひつかくとポロ/\あかおちる冷たさうな蒲団ふとんうへころがつてるが、独身者ひとりものだからくすりぷくせんじてむ事も出来できない始末しまつ、金
黄金餅 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
本尊の阿弥陀様の御顔おかほは暗くて拝め無い、たヾ招喚せうくわんかたち為給したまふ右の御手おてのみが金色こんじきうすひかりしめし給うて居る。貢さんは内陣を出て四畳半の自分の部屋にはいつた。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
小さい和尚さんは白い星かうすい霧のやうな星の雲かでせう。滑橋すべりばしもさうした雲のながれでせう。天の川のやうな。ずるずる滑るところがをかしいではありませんか。
お月さまいくつ (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
このふたりも、口もとに微笑びしょうをうかべながら、こけのむしたおかうす暗いしげみのほうをながめました。
更にきてはたけの中にたゝずむ。月はいま彼方かなた大竹薮おほだけやぶを離れて、清光せいくわう溶々やう/\として上天じやうてん下地かちを浸し、身は水中に立つのおもひあり。星の光何ぞうすき。氷川ひかわの森も淡くしてけぶりふめり。
良夜 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
ることこれしばらくして其母そのははす。つひかへらず。曾子そうし(六六)これうすんじてつ。すなは兵法へいはふまなび、もつ(六七)〔魯〕きみつかふ。〔魯〕きみこれうたがふ。
かく何氣なにげなき體にて彼女中の客人は今朝こんてう餘程よほどはやたゝれたり貴樣の方へはゆかずやといふ善六かしらふり左樣さやうはずはなし其譯そのわけ昨日きのふ途中にて駕籠へのるとき駕籠蒲團かごふとんばかりではうすしとて小袖を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「名器は名器にしろ、あのうすぎたない茶壺が、柳生家門外不出の逸品いっぴんと伝えられていたのは、さては、そういう宝の山の鍵がおさめられてあったのか。そうとも知らず——」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
じょううすかりき。われをしてふたたびその暖かき昔の友情を復活せしめよ。しょせん、境遇は境遇なり、運命は運命なり、かれらをうらやみて捨て去りしわれの小なりしことよ。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
秋になって病気もややうすらぐ、今日は心持が善いという日、ふと机の上に活けてある秋海棠しゅうかいどうを見て居ると、何となく絵心が浮んで来たので、急に絵の具を出させて判紙べて
(新字新仮名) / 正岡子規(著)
〔ヱヴェレストはおもつたよりとほいな〕と独言ひとりごとしながら四辺あたり見廻みまはすと、うすひかりうつくしくあやしくみなぎつて、夕暮ゆふぐれちかくなつたのだらう。下界したても、くもきりでまるでうみのやうだ。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
小兒せうにけはどうか日本帝國につぽんていこく干城まもりとなる有爲りつぱ海軍々人かいぐん/″\じんにしてたい、それにつけても、日本人にほんじん日本にほん國土こくど教育けういくしなければしたがつ愛國心あいこくしんうすくなるとはわたくしふかかんずるところ
月日つきひともきず疼痛いたみうすらぎ、また傷痕きずあとえてく。しかしそれとともくゐまたるものゝやうにおもつたのは間違まちがひであつた。彼女かのぢよいまはじめてまことくゐあぢはつたやうながした。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
し吾が直行の行ふところをもてとがむべしと為さば、誰か有りてとがめられざらん、しかもなほはなはだしきを為して天も憎まず、命もうすんぜず、応報もこれをさくるもの有るを見るにあらずや。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)