じつ)” の例文
かんがへてもたがい。風流人ふうりうじんだと、うぐひすのぞくにも行儀ぎやうぎがあらう。それいた、障子しやうじけたのでは、めじろがじつとしてようはずがない。
湯どうふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
屍を守る見樣みえで、棒の如く突立つた女は、軈て俄然がばと身を投て、伏重なつたと思ふと、じつと僵れて身動も仕無い。
二十三夜 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
じつと其の邪気あどけない顔付を眺めた時は、あのお志保の涙にれたすゞしいひとみを思出さずに居られなかつたのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
巨砲もて打たれたらん如き驚愕きやうがくを、梅子はじつと制しつ「——左様さうですか——誰にお聴きなすつて——」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
良々意氣を揚げきたつて、彼はじつと考へ込む。是れ、久しい間、彼が頭の中に籠つた大問題である。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
身動みうごきもせずじつとして兩足をくんすわつてると、その吹渡ふきわた生温なまぬくいかぜと、半分こげた芭蕉の實や眞黄色まつきいろじゆくした柑橙だい/\かほりにあてられて、とけゆくばかりになつてたのである。
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
一箇ひとりの男をじつと守つて、さうしてその人の落目に成つたのも見棄てず、一方には、身請の客を振つてからに、後来これから花の咲かうといふ体を、男の為には少しも惜まずに死なうとは
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
松公はこの四五日、姿も見せない。お大は頭腦あたまも體も燃えるやうなので、うちじつとしてゐる瀬はなく、毎日ぶら/\と其處そこら中彷徨うろつきまはつて、妄濫むやみやたらと行逢ふ人に突かゝつて喧嘩をふつかけて居る。
絶望 (旧字旧仮名) / 徳田秋声(著)
とせい/\、かたゆすぶると、ひゞきか、ふるへながら、をんな真黒まつくろかみなかに、大理石だいりせきのやうなしろかほ押据おしすえて、前途ゆくさきたゞじつみまもる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さすが心の表情は何処どこかに読まれるもので——大きな、ぱつちりとした眼のうちには、何となく不安の色もあらはれて、じつと物を凝視みつめるやうな沈んだところも有つた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「でも、くおツてゐらツしやるんだもの、惡いわ。」と今度はまるい柔な聲がする。基れはお房で。周三は何といふことは無くじつと耳を澄ました。眼はパツチリ覺めて了つた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
左様さうですねエ——思ひに悩む時、心のさびしい時、気の狂ほしい時、じつと精神をらして祈念しますと、影の如く幻の如く、其のおもても見え、其声も聴こゆるですよ、伯母さんのと格別ちがひありますまい」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
うございますよ。さあ、じつとして」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
美女たをやめは、やゝ俯向うつむいて、こまじつながめる風情ふぜいの、黒髪くろかみたゞ一輪いちりん、……しろ鼓草たんぽゝをさしてた。いろはなは、一谷ひとたにほかにはかつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
丑松は明後日あたり蓮華寺へ引越すといふ話をして、この友達と別れたが、やがて少許すこし行つて振返つて見ると、銀之助は往来の片隅に佇立たゝずんだまゝじつ是方こちらを見送つて居た。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
古谷俊男ふるやとしをは、椽側えんがはゑてある長椅子に長くなツて、りやうの腕で頭をかゝへながらじつひとみゑて考込むでゐた。からだのあいた日曜ではあるが、今日のやうに降ツてはうすることも出來ぬ。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
言ひもをはらぬ顔を満枝はじつ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
かげうつしたときでした……ようおもむきかされた、かみながい、日本につぽんわかひとの、じつるのと、ひとみあはせたやうだつたつて……
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
周三は、何と云ふ譯もなく此の音と響とを聞き分けて見やうと思ツて、じつと耳を澄ましてゐると、其の遠い音と響とを消圧けをして、近く、邸内の馬車廻ばしやまはし砂利じやりきしむ馬車のわだちの音がする。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「うむ、」とふ。なかからふちへしがみついた、つら眞赤まつかに、小鼻こばなをしかめて、しろ天井てんじやうにらむのを、じつながめて
銭湯 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
又かと思ふと氣持が惡くなつて胸が悶々もだ/\する。でも近子ちかこじつこらえて
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
ツの壁越かべごしですが、寢臺ねだいわたしこほりついたやうにつて、じつ其方そのはうますと、きました、たかかべと、天井てんじやう敷合しきあはせのところから、あの、女性をんな
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
と自分はじつと流を見詰めると、螢の影はまるで流れるやうだ。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
で、すべらしたしろを、若旦那わかだんなむねにあてて、うですやうにして、すゞしじつる。こびつたらない。妖艷無比えうえんむひで、なほ婦人ふじんいてる。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あみそこはう……みづなかに、ちら/\とかほえる……のお前様めえさましろかほ正的まともじつ此方こちらるだよ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
のですが、それが、黒目勝くろめがちさうひとみをぱつちりとけてる……に、此處こゝころされるのだらう、とあまりのことおもひましたから、此方こつちじつ凝視みつめました。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あしすそへ、素直まつすぐそろへたつきり兩手りやうてわきしたけたつきり、でじつとして、たゞ見舞みまひえます、ひらきくのを、便たよりにして、入口いりくちはうばかり見詰みつめてました。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
せきをすると、じつるのを、もぢや/\とゆびうごかしてまねくと、飛立とびたつやうにひざてたが、綿わたそつしたいて、立構たちがまへで四邊あたりたのは、母親はゝおやうちだとえる。
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ときくだんの、長頭ながあたまは、くるりと眞背後まうしろにむかうをいた、歩行出あるきだすか、とおもふと……じつのまゝ。
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
はて、何時いつに、あんなところ水車みづぐるまけたらう、とじつかすと、うやらいとくるまらしい。
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ほとゝぎすの繪比羅ゑびらながら、じつ見惚みとれ何某處なにがしどころ御贔屓ごひいきを、うつかりゆびさき一寸ちよつとつゝく。
銭湯 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ふすま障子しやうじ縱横じうわう入亂いりみだれ、雜式家具ざふしきかぐ狼藉らうぜきとして、化性けしやうごとく、ふるふたびにをどる、たれない、二階家にかいやを、せままちの、正面しやうめんじつて、塀越へいごしのよその立樹たちきひさし
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さて/\淺間あさましや、おや難儀なんぎおもはれる。おもてげさせろ。で、キレーすゐじつながめて
麦搗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かたなゝめにまへおとすと、そでうへへ、かひなすべつた、……つきげたるダリヤの大輪おほりん白々しろ/″\と、れながらたはむれかゝる、羽交はがひしたを、かるけ、すゞしいを、じつはせて
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ト、ひとひとつ、自分じぶんまつげが、かみうへへばら/\とこぼれた、ほんの、片假名かたかなまじりに落葉おちばする、やまだの、たにだのをそのまゝのを、じつ相手あひてませて、傍目わきめらずたのが。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
をんな一人ひとり、これは背向うしろむきで、三人さんにんがかり、ひとすくつて、ぐい、とせて、くる/\とあんをつけて、一寸ちよいとゆびめて、ひとづゝすつとくしへさすのを、煙草たばこみながらじつた。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
……真夜中まよなかに、色沢いろつやのわるい、ほゝせた詩人しじん一人ひとりばかりかゞやかしてじつる。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
先刻さつきから、人々ひと/″\布施ふせするのと、……ものやはらかな、おきなかほの、眞白まつしろひげなかに、うれしさうなくちびる艷々つや/\あかいのを、じつながめて、……やつこつゝんでくれた風呂敷ふろしきを、うへゑたまゝ
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あふいでふのを、香川かがはは、しばらくじつたが、ひざをついて、ひたと居寄ゐよつて
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ちひさき潛門くゞりもんなか引込ひつこんで、利口りこうさうなをぱつちりと、蒋生しやうせいじつ
麦搗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
御免ごめん。」とひざすゝめて、おもてにひたとむかうて、じつるや、眞晝まひるやなぎかぜく、しんとしてねむれるごとき、丹塗にぬりもんかたはらなる、やなぎもとくゞもん絹地きぬぢけて、するりとくと
画の裡 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
つゑ引緊ひきしめるやうに、むねつて兩手りやうてをかけた。痩按摩やせあんまじつあんじて
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
衣紋えもんほそく、圓髷まげを、おくれのまゝ、ブリキのくわんまくらして、緊乎しつかと、白井しらゐさんのわかかあさんがむねいた幼兒をさなごが、おびえたやうに、海軍服かいぐんふくでひよつくりときると、ものをじつて、みつめて
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しかもゆきなすゆびは、摩耶夫人まやぶにんしろほそはな手袋てぶくろのやうに、まさ五瓣ごべんで、それ九死一生きうしいつしやうだつたわたしひたひそつり、かるむねかゝつたのを、運命うんめいほしかぞへるごとじつたのでありますから。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
唯今たゞいまおびれたをさないのの、じつたものにると、おほかみとも、とらとも、おにとも、ともわからない、すさまじいつらが、ずらりとならんだ。……いづれも差置さしおいた恰好かつかう異類いるゐ異形いぎやうさうあらはしたのである。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
たびこれだからい——陽氣やうきよしと、わたしじつとしてつてた。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
じつひとみさだめると、其處そこ此處こゝに、それ彼處あすこに、かずおびたゞしさ、したつたものは、赤蜻蛉あかとんぼ隧道トンネルくゞるのである。往來ゆききはあるが、だれがつかないらしい。ひとふたつはかへつてこぼれてかう。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
たまのやうな二のうでをあからさまに背中せなかせたが、じつ
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
床几しやうぎむすめ肩越かたごし振向ふりむいた。一同いちどうじつ二人ふたりた。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「え、つてるかい、わかしう。」と振返ふりかへつてじつた。
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)