かれ)” の例文
たとえば、きかん坊主ぼうず秀吉ひできちが、先生せんせいにしかられて、この運動場うんどうじょうたされたとき、かれかなしくなって、しそうになりました。
学校の桜の木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
温泉をんせんかうとして、菊屋きくや廣袖どてら着換きかへるにけても、途中とちう胴震どうぶるひのまらなかつたまで、かれすくなからずおびやかされたのである。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かれこもつくこをかついでかへつてとき日向ひなたしもすこけてねばついてた。おしな勘次かんじ一寸ちよつとなくつたのでひどさびしかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
其頃そのころ東京とうきやういへたゝむとき、ふところにしてかねは、ほとんど使つかたしてゐた。かれ福岡ふくをか生活せいくわつ前後ぜんごねんつうじて、中々なか/\苦鬪くとうであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
が、うちもんをはひらないまへに、かれはからつぽになつた財布さいふなかつま視線しせんおもうかべながら、その出來心できごころすこ後悔こうくわいしかけてゐた。
画家とセリセリス (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
江戸川縁えどがわべりに住んでいる啓吉けいきちは、いつものように十時ごろ家を出て、東五軒町ひがしごけんちょうの停留場へ急いだ。かれは雨天の日が致命的フェータルきらいであった。
死者を嗤う (新字新仮名) / 菊池寛(著)
いやがる妻を紀昌はしかりつけて、無理に機を織り続けさせた。来る日も来る日もかれはこの可笑おかしな恰好かっこうで、瞬きせざる修練を重ねる。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
イワン、デミトリチ、グロモフは三十三さいで、かれ此室このしつでの身分みぶんいもの、元來もと裁判所さいばんしよ警吏けいりまた縣廳けんちやう書記しよきをもつとめたので。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
学んで然る後、前にもいった如くかれの長を取ってわれの短を補い、以て日本今日の文明を促進せしめることが我々国民の使命である。
可哀かわいそうな子家鴨こあひるがどれだけびっくりしたか! かれはねしたあたまかくそうとしたとき、一ぴきおおきな、おそろしいいぬがすぐそばとおりました。
クリストフはくちびるをかみしめた。あごがふるえていた。かれきたかった。ゴットフリートは自分でもまごついてるようにいいはった。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
しうることになつてました、かれわたしどもに懶聲なまけごゑすことゝ、びをすることゝ、それから蜷局とぐろくことゝををしへました
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
のきいた運転士うんてんしくるまをつけたところが、はたしてそれであつた、かれ門前もんぜんくるまをおりて、右側みぎがわ坂道さかみち爪先上つまさきあがりにのぼつてつた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
その日にやけた年とったかおには、いつにない若々わかわかしい元気がうかんでいました。かれひたいあせをにじましながら、つよい調子ちょうしでいいました。
活人形 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
当地では石炭の出入しゆつにふに桟橋費一とんにつき三十五銭取られる如き費用を要するのをかれおいては一切省略しようとするのださうである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
かれ赤栗毛あかくりげの、すばらしいイギリス馬を持っていた。すらりと細長い首をして、よくびたあしをして、つかれを知らぬ荒馬あらうまだった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
かれ熱心ねつしんいてくさうへこしからうへて、そのてたひざ畫板ぐわばん寄掛よりかけてある、そして川柳かはやぎかげうしろからかれ全身ぜんしんおほ
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
左樣さやう殘念ざんねんながら、西班牙イスパニヤや、亞弗利加アフリカはう今度こんど斷念だんねんしました。』と、わたくしがキツパリとこたへると、かれはポンとひざたゝいて
かくてたとへば群鶴むらづるの、一部はリフエの連山やま/\にむかひ、また一部は砂地すなぢにむかひ、これ氷をかれ日を厭ひて飛ぶごとく 四三—四五
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
万葉集にある浦島うらしまの長歌を愛誦あいしょうし、日夜低吟ていぎんしながら逍遥しょうようしていたという小泉八雲は、まさしくかれ自身が浦島の子であった。
明治開化かいか爆笑王ばくしょうおうステテコの円遊えんゆうも、かゝる雪のかれの言の葉を以てせば「御膳上等」なる宇治にお茶漬ちゃづけサク/\とかつこみし事ならむか。
滝野川貧寒 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
かれの心には、むろんこの場合にも道江みちえのことがひっかかっていた。むしろそのほうが荒田老以上にかれをなやましていたともいえるのだった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
またかれらの行動をいさぎよしとせざることあるもこれを黙認もくにんし、あるいはかえって進んでこれを弁護することありはせぬか。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
井沢香央の人々、七四かれにくこれかなしみて、もは七五しるしをもとむれども、七六ものさへ日々にすたりて、よろづにたのみなくぞ見えにけり。
すれば是は容易の公事くじでなしの惣右衞門めはとしこそ老込おいこみたれど並々なみ/\の者に非ずかれこれ評定所へいづるならば此方が是迄の惡事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ことに童話詩人としてのかれの名前は、われわれにとってはなつかしいひびきを持っているのである。しかし彼は単に童話を書いたばかりではない。
絵のない絵本:02 解説 (新字新仮名) / 矢崎源九郎(著)
「失礼でございますがあなたはどなたでしょうか」とかれはききかえした。「わたしはこの水の底に住んでいる水のせいじゃ」
おしどり (新字新仮名) / 新美南吉(著)
天公てんたうさま機状からくりのしかけかの妙法寺村の火とおなじ事也。かれは人のる所、是は他国の人のしらざる所なればこゝにしるし話柄はなしのたねとす*3
鰻飯は西洋料理の媒酌ばいしゃくとなり、西洋料理は金の時計の手引きとなり、これよりかれに移り、一より十に進み、一進また一進、段々限りあることなし。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そこで四人が、表においてあった大学生のセダンに乗りこむと、かれは、ロングビイチの海岸まで車を走らせて行きました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
そのほか蘭、仏の語もまたしかるものありという。しかしてかれよく誤解することなし。しからばすなわち、我といえども何ぞ誤解するの理あらんや。
平仮名の説 (新字新仮名) / 清水卯三郎(著)
が、かれはたしていたちたぬきか、あるいは人の悪戯いたずらかと種々いろいろ穿索せんさくしたが、ついに其正体を見出し得なかつた。宿やどの者はあくまでも鼬と信じてゐるらしいとの事。
雨夜の怪談 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
下宿屋げしゆくや下婢かひかれあざけりてそのすところなきをむるや「かんがへることす」とひて田舍娘いなかむすめおどろかし、故郷こきやうよりの音信いんしんはゝいもととの愛情あいじやうしめして
罪と罰(内田不知庵訳) (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
そしてかれ彼女かれとは、子供こどもいていへるのであつた。けれども、どことつてあてもないので、二人ふたりはやはり電車でんしやにのつて銀座ぎんざてしまつた。
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
彼れがいたという城は伊祖城といって、今もなお残っているが、浦添城をへだたること十町ばかりの山脈つづきで、しかかれこれとがその両端をなしている。
浦添考 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
かれ地上ちじやうたふれ、次々つぎ/\に×(6)き×(7)されるじう×(8)もとに、うしほ退しりぞくやうに全身ぜんしんからけてちからかん
日本人にほんじん歐文おうぶん飜譯ほんやくするとき、年紀ねんき所在地しよざいちかたは、これを日本流にほんりうだいよりせうへの筆法ひつぱふなほすが、固有名こゆうめい矢張やは尊重そんちようしてかれ筆法ひつぱふしたがふのである。
誤まれる姓名の逆列 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
今年十七の春父が急いで国元へ引返す際、かれはすぐにさわぎを打ち鎮めて京へ帰れる見込みで、留守るすの館には姫の従者として男女一人ずつ残しておきました。
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
かれは、人柄ひとがらとしては、まことに温和おんわ風貌ふうぼう分別盛ふんべつざかりの紳士しんしである。趣味しゅみがゴルフと読書どくしょだという。そして、井口警部いぐちけいぶとのあいだに、つぎのような会話かいわがあつた。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
それゆゑだれかれききまゐなかに、可楽からくふ者があつて、これ櫛職人くししよくにんでござりましたが、いたつ口軽くちがる面白おもしろい人ゆゑ、わたくしも一つ飛入とびいり落語はなしをして見たいと申込まうしこんだ。
落語の濫觴 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
かれは千八百六十三ねんペテルブルグでまれた。ちちはポルタワけん出身しゅっしん仕立屋したてやで、はは農婦のうふあがりだった。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
侠客伝は女仙外史じょせんがいしより換骨脱胎かんこつだったいきたる。其の一部は好逑伝こうきゅうでんるありといえども、全体の女仙外史をきたれるはおおからず。これ姑摩媛こまひめすなわかれ月君げっくんなり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
およぜいつとめ、ところけいするところかざり・しかうしてにくところ(八五)めつするをるにり。かれみづか其計そのけいとせば、すなは其失そのしつもつこれ(八六)きはむるかれ。
此度このたびくはだて残賊ざんぞくちゆうして禍害くわがいつと云ふ事と、私蓄しちくあばいて陥溺かんできを救ふと云ふ事との二つをこゝろざした者である。しかるにかれまつたく敗れ、これは成るになん/\としてくじけた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
研究者けんきゆうしや次第しだい増加ぞうか優秀ゆうしゆうわか學者がくしや出來できたので、最近さいきん二三年にさんねんあひだおいては此方面このほうめんにも次第しだいびてて、今日こんにちでは最早もはやかれおくれてゐようとはおもはれない。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
晴着はれぎ場所ばしよへはかない。これはかれさげすみ、かれはこれをいきどほる。こんなことが、一たいあつてよいものか
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
双方そうほうしばしは天井てんじょう馬糧まぐさのなかとで、いきをこらし、らんらんたる眼光がんこうめあっていたが、やがてこれこそ、はりの上から鞍馬くらま竹童ちくどう、じッとかれなることを見さだめて
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女かのぢよは、片山かたやま同志どうしのKうちせて、かれ居所ゐどころさがしてゐたが、そのかれが、I刑務所けいむしよ未決監みけつかんにゐるとわかつたのは、行方不明ゆくへふめいになつてから、半年はんとしもののちだつた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
だが、かれわれとの距離は、いまはもうかなりへだたっていた。だからこの三台の追跡隊が、金属箔のかべのところまでいくには、四時間もかかって、午前五時となった。
怪星ガン (新字新仮名) / 海野十三(著)
この点は北海道の登別温泉に似ているが、周囲の風致において、広さにおいてかれしのいでいる。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)