黒雲くろくも)” の例文
あとから、かみなりおといかけるようにきこえたのです。ふりくと、もはや野原のはらのかなたは、うず黒雲くろくものうちにつつまれていました。
曠野 (新字新仮名) / 小川未明(著)
さけんで、大音だいおん呵々から/\わらふとひとしく、そらしたゆびさきへ、法衣ころもすそあがつた、黒雲くろくもそでいて、虚空こくういなづまいてぶ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
悪魔のような黒雲くろくもは町から村へと大きな手を拡げてしまった。ここに有るほどの家も人も、総て悪魔の黒い袖の下に包まれたのであった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
こうした風景が、カフェ・ネオンにおいて表面は案外平凡にくりかえされているうちに、突如として大惨劇だいさんげき黒雲くろくもが、この家の上に舞いくだった。
電気看板の神経 (新字新仮名) / 海野十三(著)
弦月丸げんげつまる萬山ばんざんくづるゝがごとひゞきとも左舷さげん傾斜かたむいた。途端とたんおこ大叫喚だいけうくわん二百にひやく船員せんゐんくるへる甲板かんぱんへ、數百すうひやく乘客じやうきやく一時いちじ黒雲くろくもごと飛出とびだしたのである。
「毘沙門さまの御前おんまへ黒雲くろくもさがつた(モウ)」 (衆人おほぜい)「なんだとてさがつた(モウ)」(山男)「よねがふるとてさがつた(モウ)」とさゝらをすりならす。
と文治も一生懸命であかを掻出かきだして居ります。烈風ます/\たけり狂って、黒雲くろくも彼方かなた此方こなたしゅをそゝいだようになりました。船頭はこれを赤じまと申します。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そのもやが少しずつくなって、やがて、黒雲くろくものようにまっくらになってしまうと、からだが深い深い地の底へでも落ちこんでいくような気持がして、老人は
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
立っているところは、つき立った岩の上で、もくらむほど下の方に、白雲しろくも黒雲くろくもとがき立って、なにも見えませんでした。つめたい風がきつけてきて、今にも大嵐おおあらしになりそうでした。
強い賢い王様の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
じいさんからそう注意ちゅういされるまでもなく、わたくしはもう先刻さっきから一心不乱いっしんふらんふか統一とういつはいって、黒雲くろくもなかにらみつめてたのですが、たちまち一体いったい竜神りゅうじん雄姿ゆうしがそこにあざやかに見出みいだされました。
かなしみは遠き窓より我によるを催す黒雲くろくもごと
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
寢みだれ髮か黒雲くろくもの風にふかれつそらに飛び
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
そのときはるかな黒雲くろくもの中で
羅生門 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
ながめ居たりしがはるかむかうに山一ツ見えけるにぞ吉兵衞は水差みづさしに向ひあの高き山は何國いづくの山なりやかきし駿河の富士山ふじさんよくも似たりと問ふ水差みづさしこたへて那山あのやまこそ名高き四國の新富士しんふじなりと答ふるをりから抑何そもいかに此山の絶頂ぜつちやうより刷毛はけにて引し如き黒雲くろくもの出しに水差は仰天ぎやうてんしすはや程なく雨下あまおろしの來るぞや早く用心ようじんして帆を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
子供こども角笛つのぶえいて、きたきたへと、おおかみのれとともにあたまうえそらには、黒雲くろくもがわいて、かみなりがとどろいていたのであります。
角笛吹く子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
曇ると見るに、むらがりかさなる黒雲くろくもは、さながらすそのなき滝の虚空こくうみなぎるかとあやしまれ、暗雲あんうんたちまち陰惨として、灰に血をぜた雨が飛んだ。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「毘沙門さまの御前おんまへ黒雲くろくもさがつた(モウ)」 (衆人おほぜい)「なんだとてさがつた(モウ)」(山男)「よねがふるとてさがつた(モウ)」とさゝらをすりならす。
北の山々は夜のころもをまだ脱がぬと見えて、くずれかかった砲塁ほうるいのような黒雲くろくもうずたかく拡がっていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
黒い煙は、いったん銀白色のまくにつつまれたが、まもなくそれを破って、あらしの黒雲くろくものように——いや、まっくろなりゅうのように天じょうをなめながら、のたくりまわった。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
我先われさきその端艇たんてい乘移のりうつらんと、人波ひとなみうつて嘈閙ひしめさまは、黒雲くろくもかぜかれて卷返まきかへすやうである。
黒雲くろくもの行く大空おほぞらのかなたにむかひうめきしが
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
影が、結んだ玉ずさのようにも見えた。——夜叉ヶ池のお雪様は、はげしいなかにおゆかしい、野はその黒雲くろくも尾上おのえ瑠璃るり、皆、あの方のお計らい。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
正直しょうじきで、しんじやすいかみなりは、たかのいうことにしたがいました。そして、かみなりは、方向ほうこうてんじて、みやこほうすすんでいきました。黒雲くろくもかみなりに、したがいました。
ぴかぴかする夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
更に山の方を振返ふりかえって見ると、三方崩さんぽうくずれの彼方あなたから不思議な形の黒雲くろくも勃々むくむくと湧き出して来た。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
天色てんしよく倏急にはかかは黒雲くろくもそらおほひければ(是雪中の常也)をつとそらを見て大に驚怖おどろき、こは雪吹ふゞきならんいかゞはせんと踉蹡ためらふうち、暴風はやて雪を吹散ふきちらす巨濤おほなみいはこゆるがごとく、つぢかぜ雪を巻騰まきあげ白竜はくりやうみねのぼるがごとし。
金絲きんしの縫の黒繻子の帶かとぞ見る黒雲くろくも
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
黒雲くろくもいて、んでき、いなづまのやうに、てつもんいし唐戸からとにも、さへぎらせず、眞赤まつかむねほのほつゝんで、よわをんなひました。
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
つきまるく、ひがしそらからのぼばんも、また、黒雲くろくもそとくらばんも、こうもりは、りんごばたけうえびまわりました。
牛女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その大暴れの最中に、外堀から黒雲くろくもをまき起して、金色こんじきうろこをかゞやかしながら天上に昇つた怪物のあることを、多数の人が目撃した。人々はそれを龍の昇天であると云つた。
梟娘の話 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
しかし、それは、西風にしかぜであって、たかみねすべった夕日ゆうひは、ゆきをはらんで黒雲くろくものうずなかちかかっていたのです。
深山の秋 (新字新仮名) / 小川未明(著)
まだ方角はうがくたしかでない。旅馴たびなれた野宿のじゆく覺悟かくごで、かすか黒雲くろくもごとひくやま四方しはうつゝんだ、はひのやうな渺茫べうばうたる荒野あらのあしにまかせて辿たどること二里にりばかり。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
源吉げんきちは、かぜ比較的ひかくてきたらない、北窓きたまどけてそらあおぐと、地球ちきゅううごくように、黒雲くろくもがぐんぐんとながれている。
台風の子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そりゃあるいは雨も降ろう、黒雲くろくもき起ろうが、それは、惨憺さんたんたる黒牛の背の犠牲ぎせいを見るに忍びないで、天道が泣かるるのじゃ。月がおもておおうのじゃ。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
けると、かぜみましたけれど、おきうえには黒雲くろくもがって、ゆくふねかげえませんでした。
薬売り (新字新仮名) / 小川未明(著)
なから舞ひたりしに、御輿みこしたけ愛宕山あたごやまかたより黒雲くろくもにわか出来いできて、洛中らくちゅうにかゝると見えければ、——
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
二人ふたりは、海辺うみべにきてみたのです。するとなみたかくて、おきほう雲切くもぎれのしたそらいろあおく、それに黒雲くろくもがうずをいていて、ものすごい模様もよう景色けしきでした。
大きなかに (新字新仮名) / 小川未明(著)
ちつゞく惡鬼あくきばらひ、をくあつする黒雲くろくもをぬぐつて、景氣けいきなほしに「明月めいげつ」も、しかし沙汰さたぎるから、せめて「良夜りやうや」とでもだいして、小篇せうへんを、とおもふうちに……四五人しごにんのおきやくがあつた。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
夕焼ゆうやけのした晩方ばんがたに、うみうえを、電光でんこうがし、ゴロゴロとかみなりって、ちょうど馬車ばしゃけるように、黒雲くろくもがいくのがられます。それをると、このまち人々ひとびと
赤い姫と黒い皇子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
彫像てうざうつたとききた一天いつてんにはかに黒雲くろくも捲起まきおこして月夜つきよながらあらればした。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
伯父おじさんは、だまって、とおくの地平線ちへいせんせていました。そのほうにはみだれた黒雲くろくもがものすごくれさがって、町々まちまちが、そのくものすそにつつまれようとしていました。
僕はこれからだ (新字新仮名) / 小川未明(著)
老爺ぢいさけぶ、……それなるは、黄金こがねしやちかしらた、一個いつこ青面せいめん獅子しゝかしらけるがごと木彫きぼり名作めいさくやぐらあつして、のつしとあり。つのも、きばも、双六谷すごろくだに黒雲くろくもなかた、それであつた。……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
たかは、黒雲くろくもに、伝令でんれいすべく、夕闇ゆうやみそらのぼりました。ふるいひのきはあめかぜぶためにあらゆるおおきなえだちいさなえだを、落日後らくじつごそらにざわつきたてたのであります。
あらしの前の木と鳥の会話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
これ禁厭まじなひるのとえます。まどとほしてのやうにひろがります、黒雲くろくもが、じり/\とては、引返ひきかへし、じり/\とては、引返ひきかへし、仙人せんにん波打なみうつやうに、進退かけひきするのがえました。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
また、あるときはしらさぎにまじって、かぜに、そして、うみうえれて、どちらをても黒雲くろくもがわきたつようなに、なみって中空なかぞらにひるがえることをまなんだのです。
紅すずめ (新字新仮名) / 小川未明(著)
……余波なごりが、カラカラとからびたきながら、旅籠屋はたごやかまち吹込ふきこんで、おおきに、一簇ひとむら黒雲くろくもの濃く舞下まいさがつたやうにただよふ、松を焼く煙をふっと吹くと、煙はむしろの上を階子段はしごだんの下へひそんで
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「さあ、今年ことしふゆおどりおさめに、みんながうたって、さわいでくれ。」と、一人ひとりかみ命令めいれいすると、かぜは、凱歌がいかをあげ、いく百千まんなみは、をたたいて乱舞らんぶし、黒雲くろくもは、かみなりらして
海の踊り (新字新仮名) / 小川未明(著)
ほとん形容けいよう出來できないおとひゞいて、ほのほすぢうねらした可恐おそろし黒雲くろくもが、さらけむりなかなみがしらのごとく、烈風れつぷう駈𢌞かけまはる!……あゝ迦具土かぐつちかみ鐵車てつしやつて大都會だいとくわい燒亡やきほろぼ車輪しやりんとゞろくかとうたがはれた。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
たかは、そらにまきこった、黒雲くろくもがけて、たかく、たかく、がりました。そして、その姿すがたくもなかに、ぼっしてしまいました。たかは、黒雲くろくもなかけりながら、かみなりかって、さけびました。
ぴかぴかする夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
はしらのやうにつたとおもふと、ちやうどおほきさにえました、つめいなづまのやうなてのひらひらいて、をんなたちのかみうへ仙人せんにんあし釣上つりあげた、とますと、天井てんじやうが、ぱつと飛散とびちつて、あとはたゞ黒雲くろくもなか
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しかし、どういうものか、そのかねらしますと、いかに、いい天気てんきでも、たちまちのうちに、いけのあるほうの、あっちのやまいただき黒雲くろくもがわいてあめになったり、かぜいたりするのであります。
娘と大きな鐘 (新字新仮名) / 小川未明(著)