わづか)” の例文
左右は千丈の谷なり、ふむ所わづかに二三尺、一脚ひとあしをあやまつ時は身を粉砕こなになすべし。おの/\忙怕おづ/\あゆみてつひ絶頂ぜつてうにいたりつきぬ。
不知庵主人フチアンシユジンやくりしつみばつたいする批評ひゝやう仲々なか/\さかんなりとはきゝけるが、病氣びやうき其他そのたことありて今日こんにちまでにたるはわづか四五種しごしゆのみ
「罪と罰」の殺人罪 (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
これが西暦せいれき千八百八十三年せんはつぴやくはちじゆうさんねん大爆裂だいばくれつをなして、しま大半たいはんばし、あとにはたかわづか八百十六米はつぴやくじゆうろくめーとる小火山島しようかざんとうのこしたのみである。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
わたくしはこのときはじめて、ひやうのない疲勞ひらう倦怠けんたいとを、さうしてまた不可解ふかかいな、下等かとうな、退屈たいくつ人生じんせいわづかわすれること出來できたのである。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
質請しちうけして御主人をあたゝかにやすませられよほかに思案は有まじと貞節ていせつを盡して申を聞き喜八も涙を流して其志操そのこゝろざしかんわづか二分か三分の金故妻を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
卓子テーブルそばわづかすこしばかりあかるいだけで、ほか電灯でんとうひとけず、真黒闇まつくらやみのまゝで何処どこ何方どちらに行つていかさツぱりわからぬ。
検疫と荷物検査 (新字旧仮名) / 杉村楚人冠(著)
彼は書斎へ老女を招致せり、新古の書巻わづかに膝をるゝばかりに堆積散乱して、だ壁間モーゼ火中に神と語るの一画を掛くるあるのみ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
馬士まごもどるのか小荷駄こにだとほるか、今朝けさ一人ひとり百姓ひやくしやうわかれてからときつたはわづかぢやが、三ねんも五ねん同一おんなじものをいふ人間にんげんとはなかへだてた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おつぎのまだみじか身體からだむぎ出揃でそろつたしろからわづかかぶつた手拭てぬぐひかたとがあらはれてる。與吉よきちみちはたこもうへ大人おとなしくしてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
す事もあらねば、貫一は臥内ふしどに入りけるが、わづかまどろむと為ればぢきに、めて、そのままにねむりうするとともに、様々の事思ひゐたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
東京とうきやうてから、自分じぶんおもひつゝもみづかかなくなり、たゞ都會とくわい大家たいか名作めいさくて、わづか自分じぶん畫心ゑごころ滿足まんぞくさしてたのである。
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
しかし九州きゆうしゆうにはこのたいにはひる土地とちがなく、四國しこく六千五百尺ろくせんごひやくしやく以上いじよう高山こうざん石槌山いしづちやま劍山つるぎやま)に、わづかにこのたい下部界かぶかいることが出來できます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
提灯ちやうちんにもそのいろ多少たせううつかんじがあつた。その提灯ちやうちん一方いつぱうおほきなみき想像さうざうする所爲せゐか、はなはちひさくえた。ひかり地面ぢめんとゞ尺數しやくすうわづかであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
物おぼえのついた以後特に文筆をろうしはじめた以後の経験が誠にすくないので、そのわづかの経験をつづり合せれば、ただ懐しい川として心中に残るのみである。
最上川 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
資本主しほんぬし機械きかい勞働らうどうとに壓迫あつぱくされながらも、社會しやくわい泥土でいど暗黒あんこくとのそこの底に、わづかに其のはかな生存せいぞんたもツてゐるといふ表象シンボルでゞもあるやうなうたには
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
わづか三十一みそひと文字を以てすら、目に見えぬ鬼神おにがみを感ぜしむる国柄なり。いはんや識者をや。目に見えぬものに驚くが如き、野暮なる今日の御代みよにはあらず。
青眼白頭 (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
わづか收入しうにふはゝ給養きふやうにもきようせねばならず、かれつひ生活せいくわつにはれず、斷然だんぜん大學だいがくつて、古郷こきやうかへつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
わづかに原詩「牀前」の「前」字をつて一個「頭」字に易へ、而かも用ひ来つて直ちに天衣無縫の如し、云々」。
「ほんのわづかだが、こゝに三十円ばかしあるから以前の朋輩衆と何処どつかで一口やつて呉れないか、俺がこんな出世をしたのも、つまりみんなのお蔭だからな。」
和歌をくし、筆札ひつさつを善くし、絵画を善くした。十九歳で家督をして、六十二万石の大名たることわづかに二年。
椙原品 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
わづかうかゞひ得たり、この芙蓉の根部より匐枝ふくしを出だしたる如き、宝永山の、鮮やかに黒紫色に凝固せるを、西へと落ちたる冷魂の、さびにおぼろなる弧線を引いて
霧の不二、月の不二 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
今迄は、秋の湖のやうに澄み切つてゐた夫人の容子が、青年の遺言と云ふ言葉を聴くと、急にわづかではあるが、擾れ始めた。信一郎は手答へがあつたのを欣んだ。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
じんの崖上わづかに一条のささたのみてぢし所あり、或は左右両岸の大岩すであしみ、前面の危石まさに頭上にきたらんとする所あり、一行おおむね多少の負傷をかうむらざるはなし。
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
彼女かのぢよが、戀人こひびと片山かたやまと一しよ生活せいくわつしたのは、わづかかに三ヶげつばかりだつた。かれがそのぞくしてゐるたう指令しれいのもとに、ある地方ちはう派遣はけんされたのち彼等かれら滅多めつた機會きくわいもなかつた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
(三にんでしたがその一人ひとり現實げんじつ世界せかいにでてわづかに三日光ひのひかりにもれないですぐまた永遠えいゑん郷土きやうどにかへつてきました)勿論もちろん天眞てんしんどもたちたいしてははづかしいことばかりの
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
それは灯のある夜景であつた。五層楼位の洋館の高さが、わづかに五とは無いであらう。
今日こんにちまで吾々が年久しく見馴れて来た品川の海はわづか房州通ぼうしうがよひの蒸汽船とまるツこい達磨船だるません曳動ひきうごかす曳船の往来するほか、東京なる大都会の繁栄とは直接にさしたる関係もない泥海どろうみである。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
はじめには越後の諸勝しよしようつくさんと思ひしが、越地ゑつちに入しのちとしやゝしんして穀価こくか貴踊きようし人心おだやかならず、ゆゑに越地をふむことわづかに十が一なり。しかれども旅中りよちゆうに於て耳目じもくあらたにせし事をあげて此書に増修そうしうす。
なほ源頼朝のひるしまに在りしや、わづかに伊豆一国の主たらんことを願ひしも、大江広元を得るに及びて始めて天下をぬすみしが如き也、正統記大鏡等、けだし其跡に就いて而して之を拡張せる也、故にらず
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
左右は千丈の谷なり、ふむ所わづかに二三尺、一脚ひとあしをあやまつ時は身を粉砕こなになすべし。おの/\忙怕おづ/\あゆみてつひ絶頂ぜつてうにいたりつきぬ。
今夜それを読んだら、かなはない気がした。わづか百枚以内の短篇を書くのに、悲喜こもごも至つてゐるやうでは、自分ながら気の毒千万なり。
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
あれよ/\とみてゐると水煙みづけむりきゆうおとろくちぢて噴出ふんしゆつ一時いちじまつてしまつたが、わづか五六秒位ごろくびようくらゐ經過けいかしたのちふたゝはじめた。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
其處そこにはもうそつけなくなつた女郎花をみなへしくきがけろりとつて、えだまでられたくりひくいながらにこずゑはうにだけはわづかんでる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
わづか二三兩の金をも貸ず只今に至り證據もなき事を公儀かみへ申立候だん不屆者めと白眼にらまれしかば彌吉夫婦は戰慄ふるへ出し恐れ入て居たりける
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
婚姻と死とは、わづかに邦語を談ずるを得るの稚児より墳墓に近づく迄、人間の常に口にする所なりとは、ヱマルソンの至言なり。
厭世詩家と女性 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
世上貫一のほかに愛する者無かりし宮は、その貫一と奔るをうべなはずして、わづかに一べつの富の前に、百年の契を蹂躙ふみにじりてをしまざりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
がう/\と戸障子としやうじをゆするかぜがざツとむねはらつて、やゝかるくなるやうにおもはれて、したものも、わづかかほげると……うだらう
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
死力をめたる細き拇指おやゆびに、左眼ゑぐられたる松島は、いたみに堪へ得ぬかほわづかもたげつ「——秘密——秘密に——名誉に関はる——早く医者を、内密に——」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
父を知つてゐた人は勿論、父の事を聞いたことのある人は絶無僅有で、其のわづかに存してゐる人も、記憶のおぼろげになり、耳の遠くなつたのをかこつばかりである。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
この少年せうねん數學すうがく勿論もちろん其他そのた學力がくりよく全校ぜんかう生徒中せいとちゆうだいりう以下いかであるが、天才てんさいいたつてはまつたならぶものがないので、わづかるゐさうかともはれるもの自分じぶんにん
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
わづかなペンキ一缶の価でこの「好意」が買へたかと思ふとこんな嬉しい事はないといふのださうだ。
危險あぶな御座ございます」とつて宜道ぎだう一足先ひとあしさきくら石段いしだんりた。宗助そうすけはあとからつゞいた。まちちがつてよるになると足元あしもとわるいので、宜道ぎだう提灯ちやうちんけてわづかちやうばかりみちらした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
灌木はミヤマはんの木のせさらばひたるがわづかに数株あるのみ、初めは草一面、後は焦沙せうさ磊々らい/\たる中に、虎杖いたどり鬼薊おにあざみ及び他の莎草しやさう禾本くわほん禿頭とくとうに残れる二毛の如くに見るも、それさへせて
霧の不二、月の不二 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
わづかながらもわざわざ買つて貰つた自分の畑の地面を
○さてわが塩沢しほさはは江戸をさることわづかに五十五里なり、直道すぐみちはからばなほ近かるべし。雪なき時ならば健足たつしやの人は四日ならば江戸にいたるべし。
實際じつさい大地震だいぢしん損害そんがいおいて、直接ちよくせつ地震動ぢしんどうよりきたるものはわづか其一小部分そのいつしようぶぶんであつて、大部分だいぶぶん火災かさいのためにしようずる損失そんしつであるといへる。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
加へ新規しんき建添たてそへなどし失費もいとはず人歩をまして急ぎければわづかの日數にて荒増あらまし成就じやうじゆしたれば然ばとて一先歸國すべしと旅館へは召し連下男一人を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
抑も当時武門の権勢漸く内に衰へて、華美を競ひ遊惰を事とするに及びて、風教を依持す可き者とてはわづかに朱子学を宗とする儒教ありしのみ。
天秤商人てんびんあきうどつてるのは大抵たいていくづばかりである。それでも勘次かんじやすいのをよろこんだ。かれわづかぜに幾度いくたび勘定かんぢやうしてわたした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
このほこらいたゞく、鬱樹うつじゆこずゑさがりに、瀧窟たきむろこみちとほつて、断崖きりぎし中腹ちうふく石溜いしだまりのいはほわづかひらけ、たゞちに、くろがね階子はしごかゝ
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)