ゑが)” の例文
僕の訳文はつたないのに違ひない。けれどもむかし Guys のゑがいた、優しい売笑婦の面影おもかげはありありと原文に見えるやうである。
澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
おもふに、ゑがける美人びじんは、ける醜女しうぢよよりもなりつたく、かん武帝ぶてい宮人きうじん麗娟りけんとしはじめて十四。たまはだへつややかにしてしろく、うるほふ。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
何故ならば、氏の心理解剖しんりかいばう何處どこまでも心理解剖で、人間の心持を丁度ちやうどするどぎん解剖刀かいばうたうで切開いて行くやうに、緻密ちみつゑがいて行かれます。
三作家に就ての感想 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
ゑがかれた人物は泣いてゐたのか戰つてゐたのか忘れてしまつて、唯濃く塗られた繪具の色ばかりが記憶されて居るやうな氣がするのであつた。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
ほこりてんこがしてつた。ほこり黄褐色くわうかつしよくきりごと地上ちじやうすべてをおほつゝんだ。雜木林ざふきばやしは一せいなゝめかたぶかうとしてこずゑ彎曲わんきよくゑがいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
蝋燭の灯を中心に、女の頭の上に顏を集めると、濃い黒髮の地に、藍色あゐいろゑがかれたのは、まぎれもない一匹の鼠の文身ほりもの
よる煤竹すゝだけだいけた洋燈らんぷ兩側りやうがはに、ながかげゑがいてすわつてゐた。はなし途切とぎれたときはひそりとして、柱時計はしらどけい振子ふりこ音丈おとだけきこえることまれではなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
エゼキエレを讀め、彼は彼等が風、雲、火とともに寒き處より來るを見てこれをゑがけり 一〇〇—一〇二
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
探検一行二十七名上越国界を定むとしよす、しばらく休憩きうけいをなして或は測量そくりやうし或は地図ちづゑがき、各幽微いうび闡明せんめいにす、且つ風光の壮絶さうぜつなるに眩惑げんわくせられ、左右顧盻こめんるにしのびず
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
人間をゑが巴里パリイの青年画家の中で僕の今日こんにち迄に最も感服したのはこの人である。又新しく印度インド内地の旅行から帰つて来たベナアル氏の印度土産インドみやげの絵が目下もくか大変な人気を集めて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
それのみにてもれは生涯しやうがい大事だいじにかけねばなるまじきひと不足ふそくらしき素振そぶりのありしか、れはらねどもあらばなんとせん、果敢はかなき樓閣ろうかく空中くうちゆうゑがとき、うるさしや我名わがな呼聲よびごゑそで
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
開卷第一かいかんだいゝちに、孤獨幽棲こどくゆうせい一少年いつしようねん紹介しようかいし、その冷笑れいしようその怯懦きようだうつし、さらすゝんでその昏迷こんめいゑがく。襤褸らんるまとひたる一大學生いつだいがくせい大道だいどうひろしとるきながら知友ちゆう手前てまへかくれするだんしめす。
罪と罰(内田不知庵訳) (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
かぜやはらかに、くさみどりなる陸上りくじやうひとは、ふね沈沒ちんぼつなどゝけば、あだか趣味しゆみある出來事できごとやうおもはれて、あるひ演劇えんげきに、あるひ油繪あぶらゑに、樣々さま/″\なることをしてその悲壯ひさうなる光景ありさま胸裡むねゑがかんとしてるが
にほやかにさくらゑがきておみなかねもうけむとおもひ立ちたり
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
その種子きのふゑがきし夢をゆめみ
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
わが道は明日あすゑがかん
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
心のうちにゑがきつつ
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
Francesco de Goya と云ふ。ゴヤは画名を西班牙にするもの、生前しばしばドンナ・マリア・テレサの像をゑがく。
あめはしと/\とるのである。上流じやうりうあめは、うつくしきしづくゑがき、下流かりう繁吹しぶきつてる。しと/\とあめつてる。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そのちゝと子の心と心とが歔欷きよきの中にぴつたり抱き合ふ瞬間しゆんかん作者さくしやの筆には、恐ろしい程眞實しんじつあい發露はつろするどゑがき出してゐるではありませんか。
三作家に就ての感想 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
きはめて一直線な石垣いしがきを見せた台の下によごれた水色のぬのが敷いてあつて、うしろかぎ書割かきわりにはちひさ大名屋敷だいみやうやしき練塀ねりべいゑが
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
うしろ田圃たんぼでは、みづこけのわるにはつてるうちからゆきけつゝあつたので、畦畔くろ殊更ことさらしろせんゑがいてたつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それと利害りがいともにすべく滿洲まんしうから一所いつしよ安井やすゐが、如何いかなる程度ていど人物じんぶつになつたかを、あたまなかゑがいてた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
潜戸を脱けたお秀の身體は、夜空にゑがいて、大川へ水音高く飛び込んでしまつたのです。
モリエエルと第二の夫人アルマンとの恋を具体化し、アルマンの乱行らんぎやうに対する文豪の煩悶を主としてゑがかうとした為、かへつて偉大なモリエエルのの雑多な性格、例へばその冷静な哲学者的な方面
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
その惡事あくじたとへば殺人罪さつじんざいごと惡事あくじ意味いみもなく、原因げんいんきものとふをべきや、これ心理的しんりてき解剖かいぼうして仔細しさいその罪惡ざいあく成立なりたちいたるまでの道程みちのりゑがきたる一書いつしよ淺薄せんはくなりとしてしりぞくることべきや。
「罪と罰」の殺人罪 (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
はじめは好奇かうきこヽろさそはれて、むなしき想像おもひをいろいろにゑがきしが、またをりもがないまたびみたしとねがへど、それよりは如何いか行違ゆきちがひてかうしろかげだにることあらねば、みづもとめてときかわきにおなじく
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
火もてゑがける火の少女。
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
一枚の像をゑがきたまへ。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
早い話が、近松門左衛門ちかまつもんざゑもんの「国姓爺こくせんや」のうちゑがかれてゐる人物や風景を読んで見れば、やはり、日本とも支那ともつかぬ、甚だ奇妙な代物しろものである。
日本の女 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
アナスチグマツト——さういふ寫眞用語しやしんようごがいかに歴亂れきらんとしてわたし腦裡のうりうごき、いかに胸躍むねをどるやうな空想くうそうゑがかせ、いかに儚ない慰樂いらくあたへたことか?
いろ五百機いほはた碧緑あをみどりつて、濡色ぬれいろつや透通すきとほ薄日うすひかげは——うちなにますべき——おほいなる琅玕らうかんはしらうつし、いだくべくめぐるべき翡翠ひすゐとばりかべゑがく。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
作者が勧善懲悪の名のもとに或は作劇の組織を複雑ならしめんが為めにゑがき出した多種類の悪徳及び殺人の光景が、写実的なると空想的なるとを問はず
虫干 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
みづわづかれてそのえだため下流かりう放射線状はうしやせんじやうゑがいてる。あしのやうでしかきはめてほそ可憐かれんなとだしばがびり/\とゆるがされながらきしみづつてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
だから日本の文学者が、好んで不安と云ふがはからのみ社会をゑがき出すのを、舶来の唐物とうぶつの様に見傚してゐる。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
まないたの上の赤ん坊は、泣きも叫びもせず、好い心持さうにニコニコしてゐるのが、四方あたりの陰慘な空氣の中に、不思議な對照をゑがき出して、身の毛のよ立つやうな氣味の惡い情景シーンです。
ゑがかぬもおなじこと御覽ごらんはずもあらねば萬一もしやのたのみもきぞかしわらはるゝからねどもおもそめ最初はじめより此願このねがかなはずは一しやう一人ひとりぐすこゝろきにおく月日つきひのほどにおもひこがれてねばよしいのちしも無情つれなくて如何いかるは
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
謂ゆる「やうに由つて胡蘆ころゑがく」
朝涼あさすゞの中に垂れてゑが
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
評論がポオの再来と云ふのは、たしかにこの点でも当つてゐる。その上彼が好んでゑがくのは、やはりポオと同じやうに、無気味ぶきみな超自然の世界である。
点心 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
料理屋の夜深けに遠くの座敷で彈く三絃のは、封建時代の血なまぐさい戀の末路を目に見る如くゑがき出させる。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
もすそ濡縁ぬれえんに、瑠璃るりそらか、二三輪にさんりん朝顏あさがほちひさあはく、いろしろひとわきあけのぞきて、おび新涼しんりやうあゐゑがく。
月令十二態 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
里見さんのは確か修善しゆぜん寺あたりの球突塲たまつきば題材だいざいにしたもので、そこにあつまつてくる温泉客おんせんきやくや町の常連ぜうれんの球突振つきふりそのものをれいの鮮かな筆致ひつちゑがいてあつたかとおもふ。
文壇球突物語 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
はつと驚ろいた三四郎の足は、早速さそくの歩調にくるひが出来た。其時透明な空気の画布カンヷスなかくらゑがかれた女のかげ一歩ひとあし前へうごいた。三四郎もさそはれた様に前へ動いた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
世にも奇怪な話が、老爺の朴訥ぼくとつな調子で斯うゑがき出されて行きます。
今ごろは丹塗にぬりの堂の前にも明るい銀杏いてふ黄葉くわうえうの中に、不相変あひかはらずはとが何十羽も大まはりに輪をゑがいてゐることであらう。
野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
大川筋おおかはすぢの料理屋の変遷を知るに足るべき「開化三十六会席かいくわさんじふろくくわいせき」と題した芳幾よしいくの綿絵には、当時名を知られた芸者の姿を中心にして河筋の景色がゑがかれてある。
虫干 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
宵々よひ/\稻妻いなづまは、くもうす餘波なごりにや、初汐はつしほわたるなる、うみおとは、なつくるまかへなみの、つゞみさえあきて、松蟲まつむし鈴蟲すゞむしかたちかげも、刈萱かるかやはぎうたゑがく。
五月より (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
たゞなかふくれた。てんなみつてちゞんだ。地球ちきういとるしたまりごとくにおほきな弧線こせんゑがいて空間くうかんうごいた。すべてがおそろしい支配しはいするゆめであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
こゝらにも各人が作の價値かち批判ひはんする心持の相違さうゐがあると見えますが、「和解」にゑがかれてゐる作のテエマ、即ち父と子のいたましい心の爭鬪さうとうに對してはたらいてゐる作者の實感じつかん
三作家に就ての感想 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)