うば)” の例文
おくっていただいた、うつくしい雑誌ざっしともだちにせると、みんなが、うばって、たちまち、きたなくしてしまいました。残念ざんねんでなりません。
おかめどんぐり (新字新仮名) / 小川未明(著)
なにをとこころすなぞは、あなたがたおもつてゐるやうに、たいしたことではありません。どうせをんなうばふとなれば、かならずをとこころされるのです。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そのうつくしいそらうばはれてゐたを、ふと一ぽん小松こまつうへすと、わたし不思議ふしぎなものでも見付みつけたやうに、しばらくそれにらした。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
おおかた上のプールでは、水泳選手の河童かっぱ連が、水沫みずしぶきをたてて、浮いたりしずんだり、ウォタアポロの、球をうばいあっているのでしょう。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
しいつちんだらしてれえ」かれはいつた。おつぎは戸棚とだなから煎餅せんべいを一まいして與吉よきちわたした。與吉よきちはすつとうばやうにしてつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
だまし討になし其金をうばとりそれ而已成のみならず文妹富をあざむきて遊女に賣渡し同人の身の代金三十兩をかすとり其後十兵衞後家ごけやすを己れが惡事露顯ろけん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
おなとき賈雍將軍かようしやうぐん蒼梧さうごひと豫章よしやう太守たいしゆとしてくにさかひで、夷賊いぞくあだするをたうじてたゝかひたず。つひ蠻軍ばんぐんのためにころされかうべうばはる。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
折角きづき上げた大身代を、をひや養女や、赤の他人に、熊鷹くまたかゑさうばはれるやうに滅茶々々にされて了ふのが心外でたまらなかつたのです。
誰が聞いても怪しいやつですが、そのとき博士は大いに要慎ようじんして、自分の持っている鞄をうばわれまいとして、一生懸命かかえこんだそうです。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
何を苦しんでか外部の顔のために進取の気象をうばわれ、いたずらに卑屈ひくつ引込ひっこみ勝ちになろう、と思えば心も晴々しくなって来る。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
こうして、雪は塾生たちから外出の楽しみをうばったが、それは必ずしもかれらの気持ちを冷たくしたとばかりは言えなかった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
、何とか、うばかえさんものとあがいているのらしいが、そうはさせぬ。……が、法師よ、いまから吉田山へ帰るなどは物騒だぞ、よせ、よせ
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし命は、それらの賊たちよりも、もっともっとにくいのはおあにいさまのみことのお命をうばった、あの鳥見とみ長髄彦ながすねひこでした。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
独木舟を操るにたくみでない遊牧民は、湖上の村の殲滅せんめつを断念し、湖畔に残された家畜かちくうばっただけで、また、疾風のように北方に帰って行った。
狐憑 (新字新仮名) / 中島敦(著)
江戸えど民衆みんしゅうは、去年きょねん吉原よしわら大火たいかよりも、さらおおきな失望しつぼうふちしずんだが、なかにも手中しゅちゅうたまうばわれたような、かなしみのどんぞこんだのは
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
法律ほうりつてらしても明白あきらかだ、何人なにびといえども裁判さいばんもなくして無暗むやみひと自由じゆううばうことが出来できるものか! 不埒ふらちだ! 圧制あっせいだ!
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
希望どおり彼女が男に生まれていたとしても、今ごろは兵隊墓にいるかもしれないこの若いいのちを、遠慮えんりょもなくうばったのはだれだ。また涙である。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
俊寛 (ほとんど無感覚になりたるごとくうつろなる目つきにて)無だ! すべてが、すべてが亡びていたのか、わしのうじを根こそぎうばってゆくのか。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
落草ぬすびとども道をささへて、行李にもつも残りなくうばはれしがうへに、人のかたるを聞けば、是より東の方は所々に新関しんせきゑて、旅客たびびと往来いききをだにゆるさざるよし。
女性じよせい無邪氣むじやきなる輕薄けいはくわらひ、さら一旦いつたんあたへたる財貨ざいか少娘こむすめ筐中きようちうよりうばひて酒亭一塲しゆていいちじやう醉夢すいむするのじようかしめついふたゝ免職めんしよくになりしこと
罪と罰(内田不知庵訳) (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
その思いがけない美しさでひととき私の心をうばっていたアカシアの花が、一週間近い雨のためにすっかり散って
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
昨夜さくや彼が𤢖わろと共に山を降って、七兵衛と闘い、安行をうばったのは、市郎に対する恋のうらみと母の恨とであった。が、そんなことはう忘れてしまったらしい。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
第二に食事は一つの享楽である菜食によってその多分はうばわれるとこれはやはり肉食者よりのお考であります。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
宗助そうすけ一目ひとめて、たゞめづらしいとかんじた。けれどもかれあたまむしほか方面はうめんうばはれてゐた。すると主人しゆじん
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
王はおんみずか太刀たちふるって防がれたけれども、ついにぞくのためにたおれ給い、賊は王の御首みしるしと神璽とをうばってげる途中とちゅう、雪にはばまれて伯母おばみねとうげに行き暮れ
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
狐と大力とは別に関係はないわけだが、狐の兇悪きょうあくな性質を受けたと見え、現在の闇市やみいちの親分のように、商人をいじめては、いろいろな品物をうばいとっていた。
大力物語 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
全校ぜんかうたい腕白わんぱくでも數學すうがくでも。しかるに天性てんせいきなでは全校ぜんかうだい一の名譽めいよ志村しむらといふ少年せうねんうばはれてた。
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
しかるに、あのかはけつしてあさくはなかつた。ながれもおもひのほかはやかつた。次第しだいつてはいのちうばはれんともかぎらなかつた。その危急ききふさい中根なかねはどうことをしたか。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
それからこちらの住人じゅうにんとしてなによりつつしまねばならぬは、うらみ、そねみ、またもろもろの欲望よくぼう……そうったものにこころうばわれるが最後さいご、つまりは幽界ゆうかい亡者もうじゃとして
人これを知るゆゑ、かれにぬすまれじとて人智を以てかまへおけども、すこしのうばひ喰ふ、其妖術そのえうじゆつ奇々怪々き/\くわい/\いふべからず、時としてかれがくるとこざるはねずみのごとし。
剣をなげうつ可く彼に勧告し、彼を乃木将軍からうばう可く多少の努力をして、彼が悶死の一因を作ったのと
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
文麻呂 (次第に懺悔ざんげするもののごとく)なよたけ、……許しておくれ。僕は自分の心をいつわっていたんだ。不純な虚栄に心をうばわれていたんだ。僕の心はにごっていた。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
署長がピストルで応戦おうせんした。起きあがったが、けり倒されてピストルをうばわれ、手をあげて家のほうへ歩きだしたが、ピストルを取り返そうとして射ち倒されてしまった。
みづうつつきうばはんとする山猿やまざるよ、無芸むげい無能むのうしよくもたれ総身そうみ智恵ちゑまはりかぬるをとこよ、よつうをもとくさうつへびをどろ狼狽うろたへものよ、白粉おしろいせて成仏じやうぶつせんことねが艶治郎ゑんぢらう
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
そしてよさそうなかたなをさした人がると、だしぬけにとびして行ってうばいとります。げようとしたり、すなおにわたさなかったりするものは、なぎなたでなぎたおしました。
牛若と弁慶 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
カピ長 むすめうばうてかせをる死神しにがみめに、このしたしばられて、ものふことがかなはぬわい。
第二十四条 日本臣民ハ法津ニ定メタル裁判官ノ裁判ヲ受クルノ権ヲうばハルヽコトナシ
大日本帝国憲法 (旧字旧仮名) / 日本国(著)
さて一同いちどう裏庭にわいてみますと、そこではいま大騒おおさわぎの最中さいちゅうです。ふたつの家族かぞくで、ひとつのうなぎあたまうばいあっているのです。そして結局けっきょく、それはねこにさらわれてしまいました。
これほど邪慳じやけんひとではなかりしをと女房にようぼうあきれて、をんなたましひうばはるればれほどまでもあさましくなるものか、女房にようぼうなげきはさらなり、ひには可愛かわゆをもじにさせるかもれぬひと
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
われこそはおと名高なだか印度洋インドやう大海賊船だいかいぞくせんなり、なんぢ新造軍艦しんざうぐんかんうばはんとて此處こゝつこと久矣ひさしすみやか白旗はくきてゝその軍艦ぐんかん引渡ひきわたさばよし躊躇ちうちよするにおいては、われに七せき堅艦けんかんあり
あるひ七十五尺しちじゆうごしやくといふようなたかさの洪水こうずいとなり、合計ごうけい二萬七千人にまんしちせんにん人命じんめいうばつたのに、港灣こうわん兩翼端りようよくたんではわづか數尺すうしやくにすぎないほどのものであつたし、其夜そのよ沖合おきあひ漁獵ぎよりようつてゐた村人むらびと
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
わたしは、自分が彼女かのじょを敵の手中から救い出す有様ありさまや、血まみれになった自分が彼女を牢屋ろうやからうばい出す光景や、そしてとうとう彼女の足もとで死ぬ場面を、次々に心にえがき出した。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
学校がっこうにあがってからでも学校がっこうがひけたあとでは、たいていそこにあつまるのだ。夕方ゆうがた庵主あんじゅさんが、もうかねをついてもいいとおっしゃるのをまっていて、ぼくらは撞木しゅもくうばいあってついたのだ。
ごんごろ鐘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
盗賊とうぞくどもは人形をうばうと、そのままどこかへ行ってしまいました。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
あき奉天ほうてん街上かいじやう銃架じうかはひとりの同志どうしうばつた
「諸君、うばってご欠席ください」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
うばはれたる言葉のかはりに
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
霜はましらかてうば
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
卯平うへいくぼんだしかめるやうにした。勘次かんじ放心うつかりした自分じぶんふところものうばはれたほど驚愕きやうがく不快ふくわいとのもつ卯平うへいとおつたとをた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
これは、なつ晩方ばんがた海面かいめんへ、たれさがるくものように、みずみずとして、うつくしかったので、こんどは、がそのほううばわれてしまいました。
太陽と星の下 (新字新仮名) / 小川未明(著)