)” の例文
庭は広くてよく手入れがき届いていた。そして家の中からその庭への出口はたくさんあった。が庭から世の中への出口がないのだ。
ですから何日いつかの何時頃、此処ここで見たから、もう一度見たいといっても、そうはかぬ。川のながれは同じでも、今のは前刻さっきの水ではない。
一寸怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三十七ねんぐわつ十四幻翁げんおう望生ぼうせい二人ふたりとも馬籠まごめき、茶店ちやみせ荷物にもつ着物きものあづけてき、息子むすこ人夫にんぷたのんで、遺跡ゐせきむかつた。
全身砂埃を浴びた彼の後影うしろかげが、刹那に高く大きくなり、その上けばくほど大きくなり、仰向いてようやく見えるくらいであった。
些細な事件 (新字新仮名) / 魯迅(著)
これからはほとんど人の歩るいた事のないような谷合を通り、前黒山まえぐろやま釈迦しゃかヶ岳の山の中腹を迂回して深林の薄暗い中をくのである。
物音にすぐ眼のさめるおかあさんも、その時にはよく寝ていらっしゃいました。僕はそうっと襖をしめて、中の口の方にきました。
僕の帽子のお話 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
はヽさまとならではおにもかじ、觀音かんのんさまのおまゐりもいやよ、芝居しばゐ花見はなみはヽさましよならではとこの一トもとのかげにくれて
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「ねえ、」とおかあさんがった。「あの田舎いなかきましたの、ミュッテンの大伯父おおおじさんのとこへ、しばらとまってるんですって。」
それにくはへてをとこ周旋業しうせんげふも一かううまくはかないところから、一年後ねんごには夫婦別ふうふわかれとはなしがきまり、をとこはゝいもうととをれて関西くわんさいく。
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
って、あたりを見𢌞みまわしたとき袖子そでこなにがなしにかなしいおもいにたれた。そのかなしみはおさなわかれをげてかなしみであった。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
所が小説中夢を道具に使ふ場合は、その道具の目的を果す必要上、よくよく都合つがふい夢でも見ねば、実際見た夢を書くわけかぬ。
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
けれどふ言ふのが温泉場をんせんばひと海水浴場かいすゐよくぢやうひと乃至ないし名所見物めいしよけんぶつにでも出掛でかけひと洒落しやれ口調くてうであるキザな言葉ことばたるをうしなはない。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
うつくしいてて、たまのやうなこいしをおもしに、けものかはしろさらされたのがひたしてある山川やまがは沿うてくと、やまおくにまたやまがあつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
かれ生活せいくわつかくごとくにしていた。あさは八き、ふく着換きかへてちやみ、れから書齋しよさいはひるか、あるひ病院びやうゐんくかである。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
くりけた大根だいこうごかぬほどおだやかなであつた。おしなぶんけば一枚紙いちまいがみがすやうにこゝろよくなることゝ確信かくしんした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
この野だは、どういう了見りょうけんだか、赤シャツのうちへ朝夕出入でいりして、どこへでも随行ずいこうしてく。まるで同輩どうはいじゃない。主従しゅうじゅうみたようだ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
帽も上衣うはきジユツプも黒つぽい所へ、何処どこか緋や純白や草色くさいろ一寸ちよつと取合せて強い調色てうしよくを見せた冬服の巴里パリイ婦人が樹蔭こかげふのも面白い。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
「おっと、御念ごねんにはおよばねえ。おかみゆるしておくんなさりゃァ、棒鼻ぼうはなへ、笠森かさもりおせん御用駕籠ごようかごとでも、ふだててきてえくらいだ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
大勢まんぜい寄りたかって私共わっちどもに赤恥をかゝせてけえそうとするから、腹が立って堪らねえ、わっちが妹をわっちが連れてくに何も不思議はねえ
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その明け方の空の下、ひるの鳥でもかない高い所を鋭い霜のかけらが風に流されてサラサラサラサラ南の方へ飛んできました。
いてふの実 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
娘は村を追ひ出されてもく先もありませぬ、又乞食するすべも知らずただ声を限りに泣き叫びながら広い/\野原の方へ参りました。
金銀の衣裳 (新字旧仮名) / 夢野久作(著)
私が幾人も残してく子供を育てヽ下さるであらうと依頼心をあのかたおこすやうになつたのもおつやさんの言葉がいんになつて居るのです。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
すなわち成るべきように成りいたもので、それらの横領者の御蔭でもって、将来の日本の秩序が促進されるということになったのだ。
これ政府せいふ指導しだうまた消費節約せうひせつやく奬勵しやうれいわたつたとふよりも、むし國民自體こくみんじたい事柄ことがら必要ひつえうかんじてつたからだとおもふのである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
同時に「自我じが」といふものが少しづゝ侵略しんりやくされてくやうに思はれた。これは最初のあひだで、少時しばらくつとまたべつに他の煩悶が起つた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
むまじき事なりおとろふまじき事なりおとろへたる小生等せうせいらが骨は、人知ひとしらぬもつて、人知ひとしらぬたのしみと致候迄いたしそろまで次第しだいまるく曲りくものにそろ
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
みぎうち説明せつめいりやくしてもよいものがある。しかしながら、一應いさおうはざつとした註釋ちゆうしやくはへることにする。以下いかこううてすゝんでく。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
爪牙そうがの鈍った狼のたゆたうのを、大きい愛の力で励まして、エルラはその幻の洞窟どうくつたる階下の室に連れてこうとすると、幕が下りる。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
明治十二年めいじじゆうにねんふね横濱よこはまきまして、そのころ出來できてゐました汽車きしや東京とうきよう途中とちゆう汽車きしやまどからそこらへん風景ふうけいながめてをりました。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
で、わたくしおもってそのもんをくぐってきましたが、門内もんない見事みごと石畳いしだたみの舗道ほどうになってり、あたりにちりひとちてりませぬ。
……まア、あたじけない! みんんでしまうて、いてかうわたしためたゞてきをものこしておいてはくれぬ。……おまへくちびるはうぞ。
は一こく友人ゆうじん送別会席上そうべつかいせきぜう見知みしりになつたR国人こくじんであつたので、わたしはいさゝか心強こゝろつよかんじて、みちびかるゝまゝにおくとほつた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
「ああカーボン卿、ドイツ空軍のために、こんなにわたって爆撃されたのでは、借間しゃくまが高くなって、さぞかし市民はたいへんであろう」
龐涓はうけんくこと三日みつかおほひよろこんでいはく、『われもとよりせいぐんけふなるをる。りて三日みつか士卒しそつぐるものなかばにぎたり』
すると、まばゆいようにかゞやをんながゐます。これこそ赫映姫かぐやひめちがひないとおぼしてお近寄ちかよりになると、そのをんなおくげてきます。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
喬介は涼しい顔をして一号船渠ドックの方へ飛んでくと、間もなく、今入渠船にゅうきょせん据付すえつけ作業を終ったばかりの潜水夫もぐりを一人連れて来た。
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
ごく遠いところからやってるようでもあるし、どこへくのかわからなくもあった。ほがらかではあるが、なやましいものがこもっていた。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
いははなをば、まはつてくごとに、そこにひとつづゝひらけてる、近江あふみ湖水こすいのうちのたくさんの川口かはぐち。そこにつるおほてゝゐる。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
あわれや、この大不孝者の立場は——いて勝つも滅び、戦って負くれば滅び、いずれにしても、家名は到底保ち難いことになりおった。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今度こんどこそはなんつても、寸分すんぶんぶた相違さうゐありませんでしたから、あいちやんもれをれてくのはまつた莫迦氣ばかげたことだとおもひました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
木村摂津守艦長木村摂津守きむらせっつのかみう人は軍艦奉行の職を奉じて海軍の長上官であるから、身分相当に従者を連れてくに違いない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
おじいさんは、かれあるいているって、みちをふさぎました。かれは、あたまげて、おじいさんをだまってながめたのです。
銀のつえ (新字新仮名) / 小川未明(著)
これでい。(安心したるらしき様子にて二三歩窓の方にき、懐中時計を見る。)なんだ。まだ三時だ。大分だいぶ時間があるな。
この点に重きを置けば、唱門師はまた下級の神主・修験者・または竈神の札を配って歩きいた舞太夫などと類を同じくするとも見られる。
俗法師考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
つまつた俳優連が襲名によつて人気を新しくし、それと同時に自分の技芸にも一飛躍を企てようとするのは、あながち間違つた仕方でもない。
彼女かのぢよ恐怖きようふは、いままでそこにおもいたらなかつたといふことのために、餘計よけいおほきくかげのばしてくやうであつた。彼女かのぢよあらたなるくゐおぼえた。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
しかし、月きふの上る見込みこみもなかつたし、ボオナスもるばかりの上に、質屋しちやちかしい友だちからの融通ゆうづうもさうさうきりなしとはかなかつた。
(旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
おれも、あの市來知いちぎしりにある、野菊のぎくいてる母親マザーはかにだけはきたいとおもつてゐる。本當ほんたう市來知いちぎしりはいゝところだからなあ。』
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
わたし人物じんぶつまつた想像さうざうはんしてたのにおどろいたとひます、甚麼どんなはんしてたか聞きたいものですが、ちと遠方ゑんぱうで今問合とひあはせるわけにもきません
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
何しろ相手が地方の大金持で、友人には有力な政治家などもいるものだから、警察の方が一歩譲らない訳にはかなかった。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)