とゞ)” の例文
羅馬ロオマ七日なぬか、ナポリとポンペイに二日ふつかと云ふ駆歩かけあしの旅をして伊太利イタリイから帰つて見ると、予が巴里パリイとゞまる時日は残りすくなくなつて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
更に見よ、新道の開通せられてより、更に旅客の此地を過ぐるものなく、當年繁盛はんせいの驛路、今は一戸の旅舍をもとゞめずなりたるを。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
深閑しんかんとして、生物いきものといへばありぴき見出せないやうなところにも、何處どことなく祭の名殘なごりとゞめて、人のたゞようてゐるやうであつた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
かれ時々とき/″\椅子のかどや、洋卓デスクの前へまつた。それから又あるした。かれこゝろの動揺は、かれをして長く一所いつしよとゞまる事を許さなかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
すべひとたるものつね物事ものごとこゝろとゞめ、あたらしきことおこることあらば、何故なにゆゑありてかゝこと出來できしやと、よく其本そのもと詮索せんさくせざるべからず。
改暦弁 (旧字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
それ故私はたゞ代官町だいくわんちやう蓮池御門はすいけごもん三宅坂下みやけざかした桜田御門さくらだごもん九段坂下くだんざかしたうしふちとう古来人の称美する場所の名を挙げるにとゞめて置く。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
壽阿彌は西村氏の菩提所昌林院に葬られたが、親戚が其名を生家の江間氏の菩提所にとゞめむがために、此墓にり添へさせたものであらう。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
墳墓も亦た Time の為に他の墳墓に投げらるゝなり、墳墓すら其迹をとゞめず、いづくんぞ預言者、英雄、詩人を留めんや。
頑執妄排の弊 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
だい腕車わんしやにん車夫しやふは、茶店ちやみせとゞまつて、人々ひと/″\とともに手當てあてをし、ちつとでもあがきがいたら、早速さつそく武生たけふまでも其日そのひうち引返ひつかへすことにしたのである。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
待兼て居る成らん因て明あさは是非とも出立致し度と言けるに長庵否々いや/\此通り雨もふつて居ることゆえ明日あしたは一日見合せて明後日あさつて出立しゆつたつなすべしととゞめけれ共十兵衞は是を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
つき白晝まひるのやうにあきらかだが、小蒸滊船こじようきせんかたち次第々々しだい/\おぼろになつて、のこけむりのみぞなが名殘なごりとゞめた。
よわものいぢめは此方こつちはぢになるから三五らう美登利みどり相手あひてにしても仕方しかたい、正太しようた末社まつしやがついたら其時そのときのこと、けつして此方こつちから手出てだしをしてはならないととゞめて
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
また平仄ひやうそくひませんければなりません、どうも斯様かやうなものを詩だといつてお持ちあそばすと、かみ御恥辱ごちじよく相成あひなります事ゆゑに、これはおとゞまりあそばしたはうよろしうございませう。
詩好の王様と棒縛の旅人 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
また丹後大地震たんごだいぢしんときは、九歳きゆうさいになる茂籠傳一郎もかごでんいちろうといふ山田小學校やまだしようがつこう二年生にねんせい一家いつか八人はちにんとも下敷したじきになり、家族かぞく屋根やねやぶつてしたにかゝはらず、傳一郎君でんいちろうくん倒潰家屋内とうかいかおくないとゞまり
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
そして、私はなぜか泣き出したいやうな寂しさをおぼえて、ひるまうとする、崩折くづをれようとする自分をさへ見出さずにはゐられなかつた。が、そこで私は自分をむち打ちながら踏みとゞまつた。
処女作の思い出 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
ことに樂浪郡らくろうぐん役所やくしよのあつたところは、今日こんにち平壤へいじようみなみ大同江だいどうこうむかぎしにあつて、ふる城壁じようへきのあともありますが、支那しなから派遣はけんせられた役人やくにんがこゝにとゞまつて朝鮮ちようせんをさめてゐたのであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
患者くわんじやおほいのに時間じかんすくない、で、いつ簡單かんたん質問しつもんと、塗藥ぬりぐすりか、※麻子油位ひましあぶらぐらゐくすりわたしてるのにとゞまつてゐる。院長ゐんちやう片手かたて頬杖ほゝづゑきながら考込かんがへこんで、たゞ機械的きかいてき質問しつもんけるのみである。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
瀧口入道とのりの名に浮世の名殘なごりとゞむれども、心は生死しやうじの境を越えて、瑜伽三密の行の外、月にも露にも唱ふべき哀れは見えず、荷葉の三衣、秋の霜に堪へ難けれども、一杖一鉢に法捨を求むるの外
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
そつととゞめて、聞惚れて、なにをおもふや、うつとりと
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
春をとゞむるすべを知る。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
混合ふ見物人に交りながら裾をからげて登る厭な気持のあとで、幾多の囚人の深い怨みを千古にとゞめた題壁だいへきの文字や絵を頂上の室に眺めた時は
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
もしくは夫等それらからてられた。學校がくかうからは無論むろんてられた。たゞ表向おもてむきだけ此方こちらから退學たいがくしたことになつて、形式けいしきうへ人間にんげんらしいあととゞめた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
あくる朝、友の強ゐてとゞむるをさま/″\に言ひ解きてていのぼる。旅の衣を着け、草鞋わらぢ穿うがち、藺席ござかうぶればまた依然として昨日きのふの乞食書生なり。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
堀割の岸には処々しよ/\物揚場ものあげばがある。市中しちゆうの生活に興味を持つものには物揚場ものあげばの光景もまたしばし杖をとゞむるに足りる。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
が、砂地すなぢ引上ひきあげてある難破船なんぱせんの、わづかに其形そのかたちとゞめてる、三十こくづみ見覺みおぼえのある、ふなばたにかゝつて、五寸釘ごすんくぎをヒヤ/\とつかんで、また身震みぶるひをした。
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
せめての腹愈はらいやしには、わが鐵拳てつけんをもつてかれかしら引導いんどうわたしてれんと、驅出かけだたもと夫人ふじんしづかとゞめた。
しかし隊の勇ましい門出かどで余所よそに見て、ひとり岡山にとゞまるに忍びないから、し戦闘が始まつたら、微力ながら応援いたさうと思つて、同じ街道を進んでゐるのだと云つた。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
ウーンと云う処へ、プツーリッとた一とかたなあびせ、胸元へとゞめを差して、庄左衞門の着物でのりぬぐって鞘へ納め、小野庄左衞門の懐へ手を入れて見ましたが何もございません
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
頸飾くびかざりを草の上にとゞ
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
御座りませんときくより流石さすがの段右衞門も愕然ぎよつて大いに驚きヤア然らば其時の馬士まごめで有たか扨々さて/\うんつよき奴かな頭から梨割なしわりにして其上に後日のためと思ひとゞめ迄さしたるに助かると言はなんぢは餘程高運かううんな者なりとあきれ果てぞ居たりける時に越前守殿如何いかに段右衞門金飛脚かなひきやくの彌兵衞ならびに馬士爲八を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ヤング氏はかつて日本の音楽と俗謡とを研究する為に東京や薩摩に半年程とゞまつて居た人で、驚くばかり日本語が達者である。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
山巓なる夕照の光は次第に微かに、いつか全く消え失せて、終にはその尨大なる黒き姿をとゞむるのみになりぬ。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
あには打衝を受けた人の様に一寸ちよつと扇のおととゞめた。しばらくは二人ふたりともくちき得なかつた。やゝあつてあに
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
もとの処に仮普請の堂をとゞめてゐるが、然し周囲の光景があまりに甚しく変つてしまつたので、これを尋ねて見ても、同じ場処ではないやうな気がする程である。
里の今昔 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
嬢様ぢやうさまかへるにいへなくたゞ一人ひとりとなつて小児こどもと一しよやまとゞまつたのは御坊ごばうらるゝとほりまた白痴ばかにつきそつて行届ゆきとゞいた世話せわらるゝとほり洪水こうずゐときから十三ねん
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かくも、けつして他國たこくにはわたすまじきこの朝日島あさひじま占領せんりようをば、いまより完全くわんぜん繼續けいぞくして、櫻木大佐等さくらぎたいさら立去たちさつたあといへども、うごかしがた確證くわくしようとゞめ、※一まんいち他國たこく容嘴ようしする塲合ばあひには、一言いちげんした
しかれどもかくごときはたゞ一部、一篇、一局部の話柄わへいとゞまるのみ。其実そのじつ一般の婦人が忌むべく、恐るべき人生観は、婚姻以前にあらずして、其以後にあるものなりとす。
愛と婚姻 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
私は毎年の秋たけだいに開かれる絵画展覧会を見ての帰り道、いつも市気しき満々まん/\たる出品の絵画よりも、むかうをか夕陽せきやう敗荷はいかの池に反映する天然の絵画に対して杖をとゞむるを常とした。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
代助のあたまには今具体的な何物をもとゞめてゐない。恰かも戸外こぐわいの天気の様に、それがしづかにじつはたらいてゐる。が、其底には微塵みじんの如き本体の分らぬものが無数に押し合つてゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
あるひかたむき、また俯向うつむき、さてふえあふいでいた、が、やがて、みちなかば、あとへ引返ひきかへしたところで、あらためてつかるごと下駄げたとゞめると、一方いつぱう鎭守ちんじゆやしろまへで、ついたつゑ
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
これたもとはらふにあたりて、やはらかなるはだへたまれて、あととゞめむことをおそれてなり。るべし、いまいたづら指環ゆびわおほきをほつすると、いさゝ抱負はうふことにするものあることを。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
みやは、報徳神社はうとくじんじやといふ、二宮尊徳にのみやそんとくをうまつれるもの、石段いしだん南北なんぼくかしこくも、宮樣みやさま御手植おんてうゑつゐさかき四邊あたりちりとゞめず、たかきあたりしづかとりこゑきかはす。やしろまうでて云々しか/″\
城の石垣 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
旅順りよじゆん吉報きつぱうつたはるとともに幾干いくばく猛將まうしやう勇士ゆうしあるひ士卒しそつ——あるひきずつきほねかは散々ちり/″\に、かげとゞめぬさへあるなかをつと天晴あつぱれ功名こうみやうして、たゞわづかひだり微傷かすりきずけたばかりといたとき
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
家につかふる者ども、其物音に駈附かけつけしも、主人が血相におそれをなして、とゞめむとする者無く、遠巻とほまきにして打騒ぎしのみ。殺尽ころしつくせしお村の死骸は、竹藪の中に埋棄うづみすてて、跡弔あととむらひもせざりけり。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そのしつは当時家中かちうきこえし美人なりしが、女心をんなごころ思詰おもひつめて一途に家を明渡すが口惜くちをしく、われ永世えいせい此処このところとゞまりて、外へはでじと、その居間に閉籠とぢこもり、内よりぢやうおろせしのちは、如何いかにかしけむ
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
はるかにのぞんでも、えだしたは、一筵ひとむしろ掃清はききよめたか、とちりとゞめぬ。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)