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唯
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たゞ
ふりがな文庫
“
唯
(
たゞ
)” の例文
唯
(
たゞ
)
ならぬ樣子を見て、平次は女を
導
(
みちび
)
き入れました。奧の一間——といつても狹い家、
行燈
(
あんどん
)
を一つ點けると、家中の用が足りさうです。
銭形平次捕物控:020 朱塗りの筐
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
唯
(
たゞ
)
爰
(
こゝ
)
にハルトマンが哲學上の用語例によりて、右の三目を譯せば足りなむ。固有は
類想
(
ガツツングスイデエ
)
なり、折衷は
個想
(
インヂヰヅアアルイデエ
)
なり、人間は
小天地想
(
ミクロコスミスムス
)
なり。
柵草紙の山房論文
(旧字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
こゝでは、誰と成績を競ふこともなく、伊藤も、ばア様も、川島舎監長も、下駄屋の亭主もゐなかつた。
在
(
あ
)
るものは
唯
(
たゞ
)
解放であつた。
途上
(新字旧仮名)
/
嘉村礒多
(著)
われを君が
仇
(
あだ
)
と
思
(
おぼ
)
し給ふ
勿
(
なか
)
れ、われは君のいづこに
在
(
いま
)
すかを
辨
(
わきま
)
へず、また見ず、また知らず、
唯
(
たゞ
)
この涙に
暮
(
く
)
るゝ
面
(
おもて
)
を君の方に向けたり。
頌歌
(旧字旧仮名)
/
ポール・クローデル
(著)
記録
(
きろく
)
は
愼
(
つゝし
)
まなければ
成
(
な
)
らない。——
此
(
こ
)
のあたりで、
白刃
(
しらは
)
の
往來
(
わうらい
)
するを
見
(
み
)
たは
事實
(
じじつ
)
である。……けれども、
敵
(
かたき
)
は
唯
(
たゞ
)
、
宵闇
(
よひやみ
)
の
暗
(
くら
)
さであつた。
間引菜
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
▼ もっと見る
けれど
私
(
わたし
)
は
如何
(
どう
)
いふものか、
其
(
それ
)
に
触
(
さは
)
つて
見
(
み
)
る
気
(
き
)
は
少
(
すこ
)
しもなく、
唯
(
たゞ
)
端
(
はじ
)
の
喰出
(
はみだ
)
した、一
筋
(
すぢ
)
の
背負揚
(
しよいあげ
)
、それが
私
(
わたし
)
の
不安
(
ふあん
)
の
中心点
(
ちうしんてん
)
であつた。
背負揚
(新字旧仮名)
/
徳田秋声
(著)
「だから、
云
(
い
)
はない
事
(
こ
)
ツちやない。」と
蘿月
(
らげつ
)
は軽く
握
(
にぎ
)
り
拳
(
こぶし
)
で
膝頭
(
ひざがしら
)
をたゝいた。お
豊
(
とよ
)
は
長吉
(
ちやうきち
)
とお
糸
(
いと
)
のことが
唯
(
たゞ
)
何
(
なん
)
となしに心配でならない。
すみだ川
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
家庭の悲惨な犠牲になつて青年の希望も勇気も
消磨
(
せうま
)
しつくして
了
(
しま
)
つた兄の苦痛と——人生は
唯
(
たゞ
)
長い苦痛の無意味の連続ではないか。
父の墓
(新字旧仮名)
/
田山花袋
(著)
唯
(
たゞ
)
大地震直後
(
だいぢしんちよくご
)
はそれが
頗
(
すこぶ
)
る
頻々
(
ひんぴん
)
に
起
(
おこ
)
り、しかも
間々
(
まゝ
)
膽
(
きも
)
を
冷
(
ひや
)
す
程
(
ほど
)
のものも
來
(
く
)
るから、
氣味惡
(
きみわる
)
くないとはいひ
難
(
にく
)
いことであるけれども。
地震の話
(旧字旧仮名)
/
今村明恒
(著)
一
日
(
にち
)
を
經
(
へ
)
て、アンドレイ、エヒミチは
埋葬
(
まいさう
)
された。
其
(
そ
)
の
祈祷式
(
きたうしき
)
に
預
(
あづか
)
つたのは、
唯
(
たゞ
)
ミハイル、アウエリヤヌヰチと、ダリユシカとで。
六号室
(旧字旧仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
與吉
(
よきち
)
は
斜
(
なゝめ
)
に
身
(
み
)
を
置
(
お
)
くのが
少
(
すこ
)
し
窮屈
(
きうくつ
)
であつたのと、
叱言
(
こごと
)
がなければ
唯
(
たゞ
)
惡戲
(
いたづら
)
をして
見
(
み
)
たいのとで
側
(
そば
)
な
竈
(
かまど
)
の
口
(
くち
)
へ
別
(
べつ
)
に
自分
(
じぶん
)
で
落葉
(
おちば
)
の
火
(
ひ
)
を
點
(
つ
)
けた。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
この人は、憎むべき『
我
(
が
)
』をほろぼしつ。しかはあれど、吾の祈りえざるは、あながちに、
唯
(
たゞ
)
我
(
が
)
のたかぶりあるのみにあらじよ。
一僧
(旧字旧仮名)
/
イワン・ツルゲーネフ
(著)
唯
(
たゞ
)
皆
(
みな
)
あまり
仲間
(
なかま
)
づきあひが
盛
(
さか
)
んに
行
(
おこな
)
はれたゝめに、
歌
(
うた
)
は、お
互
(
たが
)
ひによい
影響
(
えいきよう
)
ばかりでなく、わるい
流行
(
りゆうこう
)
を
起
(
おこ
)
すことになりました。
歌の話
(旧字旧仮名)
/
折口信夫
(著)
唯
(
たゞ
)
何事
(
なにごと
)
も
耻
(
はづ
)
かしうのみ
有
(
あり
)
けるに、
或
(
あ
)
る
霜
(
しも
)
の
朝
(
あさ
)
水仙
(
すいせん
)
の
作
(
つく
)
り
花
(
ばな
)
を
格子門
(
かうしもん
)
の
外
(
そと
)
よりさし
入
(
い
)
れ
置
(
お
)
きし
者
(
もの
)
の
有
(
あり
)
けり、
誰
(
だ
)
れの
仕業
(
しわざ
)
と
知
(
し
)
るよし
無
(
な
)
けれど
たけくらべ
(旧字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
「そんな事が、あらう
筈
(
はづ
)
がない。いくら、
変
(
かは
)
つたつて、そりや
唯
(
たゞ
)
年
(
とし
)
を
取
(
と
)
つた丈の変化だ。成るべく
帰
(
かへ
)
つて三千代さんに安慰を与へて
遣
(
や
)
れ」
それから
(新字旧仮名)
/
夏目漱石
(著)
開いて見れば不思議にも
文字
(
もんじ
)
は
消
(
き
)
えて
唯
(
たゞ
)
の白紙ゆゑ這は如何せし事成かと千太郎は
暫時
(
しばし
)
惘
(
あき
)
れ
果
(
はて
)
茫然
(
ばうぜん
)
として居たりしが我と我が心を
大岡政談
(旧字旧仮名)
/
作者不詳
(著)
私はその
後
(
あと
)
で
唯
(
たゞ
)
一人広い広い空を眺めて、小さい一つの星と月の間を、もう少し離す工夫はないか、焼ける家の子が可哀想で
私の生ひ立ち
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
なんたる因果のことか、此の貧乏の中へ眼病とは実に
神仏
(
かみほとけ
)
にも見放されたことかと、
唯
(
たゞ
)
私
(
わし
)
の困る事よりお前に気の毒でならない
業平文治漂流奇談
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
晩餐の饗応などとは彼れが柄に無き事と思い余は少し不気味ながらも
唯
(
たゞ
)
彼れが本性を
見現
(
みあらわ
)
さんと思う一心にて其招きに応じ
血の文字
(新字新仮名)
/
黒岩涙香
(著)
其翌五日
(
そのよくいつか
)
、
奮然
(
ふんぜん
)
として
余
(
よ
)
は
唯
(
たゞ
)
一人
(
ひとり
)
で
行
(
ゆ
)
つた。
寒
(
さむい
)
い
風
(
かぜ
)
が
吹
(
ふ
)
き、
空
(
そら
)
の
曇
(
くも
)
つた、
厭
(
いや
)
な
日
(
ひ
)
であつたが、
一人
(
ひとり
)
で一
生懸命
(
しやうけんめい
)
に
掘
(
ほ
)
つたけれど、
何
(
なに
)
も
出
(
で
)
て
來
(
こ
)
ぬ。
探検実記 地中の秘密:02 権現台の懐古
(旧字旧仮名)
/
江見水蔭
(著)
それには私が無断で家出をしたことについては小言らしいことも書いてなかつた。
唯
(
たゞ
)
、奮発して一人前の人間に早くなるやうにと書いてあつた。
ある職工の手記
(新字旧仮名)
/
宮地嘉六
(著)
『いえ——私はもう死んで
了
(
しま
)
ひましたも同じことなんで御座ます——
唯
(
たゞ
)
、人様の情を思ひますものですから、其を力に……
斯
(
か
)
うして生きて……』
破戒
(新字旧仮名)
/
島崎藤村
(著)
二人
(
ふたり
)
で何を話したかも覚えず、
唯
(
たゞ
)
繞石
(
ぜうせき
)
君の
暫
(
しばら
)
く散髪をしないらしい頭と
莞爾
(
にこ/\
)
して居た顔とが目に残つて居る
許
(
ばか
)
りである。
巴里より
(新字旧仮名)
/
与謝野寛
、
与謝野晶子
(著)
山田
(
やまだ
)
も
読売新聞
(
よみうりしんぶん
)
へは
大分
(
だいぶ
)
寄書
(
きしよ
)
して
居
(
ゐ
)
ました、
私
(
わたし
)
は天にも地にも
唯
(
たゞ
)
一度
(
いちど
)
頴才新誌
(
えいさいしんし
)
と
云
(
い
)
ふのに
柳
(
やなぎ
)
を
咏
(
えい
)
じた
七言絶句
(
しちごんぜつく
)
を出した事が有るが、
其外
(
そのほか
)
には
何
(
なに
)
も無い
硯友社の沿革
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
本艦
(
ほんかん
)
を
去
(
さ
)
る
事
(
こと
)
約
(
やく
)
一千米突
(
いつせんメートル
)
——
忽然
(
こつぜん
)
波間
(
はかん
)
に
沈
(
しづ
)
んだと
思
(
おも
)
ふ
間
(
ま
)
も
疾
(
と
)
しや
遲
(
おそ
)
しや、
唯
(
たゞ
)
見
(
み
)
る
本艦
(
ほんかん
)
前方
(
ぜんぽう
)
の
海上
(
かいじやう
)
、
忽
(
たちま
)
ち
起
(
おこ
)
る
大叫喚
(
だいけうくわん
)
。
海島冒険奇譚 海底軍艦:05 海島冒険奇譚 海底軍艦
(旧字旧仮名)
/
押川春浪
(著)
ロミオ あゝ、
彼等
(
かれら
)
十
人
(
にん
)
、二十
人
(
にん
)
の
劍
(
けん
)
よりも、それ、その
卿
(
そもじ
)
の
眼
(
まなこ
)
にこそ
人
(
ひと
)
を
殺
(
ころ
)
す
力
(
ちから
)
はあれ。
唯
(
たゞ
)
もう
可愛
(
かはゆ
)
い
目
(
め
)
をして
下
(
くだ
)
され、
彼等
(
かれら
)
に
憎
(
にく
)
まれうと
何
(
なん
)
の
厭
(
いと
)
はう。
ロミオとヂュリエット:03 ロミオとヂュリエット
(旧字旧仮名)
/
ウィリアム・シェークスピア
(著)
『
此處
(
こゝ
)
は
可
(
か
)
なり
釣
(
つ
)
れます。』と
老爺
(
ぢいさん
)
は
僕
(
ぼく
)
の
直
(
す
)
ぐ
傍
(
そば
)
に
腰
(
こし
)
を
下
(
おろ
)
して
煙草
(
たばこ
)
を
喫
(
す
)
ひだした。けれど
一人
(
ひとり
)
が
竿
(
さを
)
を
出
(
だ
)
し
得
(
う
)
る
丈
(
だけ
)
の
場處
(
ばしよ
)
だからボズさんは
唯
(
たゞ
)
見物
(
けんぶつ
)
をして
居
(
ゐ
)
た。
都の友へ、B生より
(旧字旧仮名)
/
国木田独歩
(著)
が、少くとも僕の場合は
唯
(
たゞ
)
ぼんやりした不安である。君は或は僕の言葉を信用することは出来ないであろう。
闘争
(新字新仮名)
/
小酒井不木
(著)
「そうだとも、そうだとも。こりや一つ
何
(
なん
)
とかせにあなるめえ」その
癖
(
くせ
)
、
何
(
なに
)
一つ
爲
(
し
)
たことはないのです。
唯
(
たゞ
)
、
喋舌
(
しやべ
)
るばかりです。
爲
(
し
)
たくも
出來
(
でき
)
ないんでせう。
ちるちる・みちる
(旧字旧仮名)
/
山村暮鳥
(著)
唯
(
たゞ
)
里が工面がよいので、
随
(
したが
)
つて婿さんが会社で貰ふ俸給をそつくり自分の小使に
費
(
つか
)
ふ事が出来る位のものだ。
茶話:03 大正六(一九一七)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
右
(
みぎ
)
の
次第
(
しだい
)
にて
大陰暦
(
たいゝんれき
)
は
春夏秋冬
(
しゆんかしうとう
)
の
節
(
せつ
)
に
拘
(
かゝは
)
らず、一年の
日數
(
ひかず
)
を
定
(
さだむ
)
るものなれば
去年
(
きよねん
)
の
何月何日
(
なんぐわつなんにち
)
と、
今年
(
ことし
)
の
其日
(
そのひ
)
とは
唯
(
たゞ
)
唱
(
となへ
)
のみ
同樣
(
どうやう
)
なれども
四季
(
しき
)
の
節
(
せつ
)
は
必
(
かなら
)
ず
相違
(
さうゐ
)
せり。
改暦弁
(旧字旧仮名)
/
福沢諭吉
(著)
南洲も亦曰ふ、天下
眞
(
しん
)
に
畏
(
おそ
)
る可き者なし、
唯
(
たゞ
)
畏る可き者は東湖一人のみと。二子の言、
夢寐
(
むび
)
相
感
(
かん
)
ずる者か。
南洲手抄言志録:03 南洲手抄言志録
(旧字旧仮名)
/
秋月種樹
、
佐藤一斎
(著)
唯
(
たゞ
)
彼ひとりが、ムクムクと堅く肥え太つて、ゆるやかに張つたお腹を突き出して、非常に威張つた姿勢をして、手を振つて
大股
(
おほまた
)
に室の中を歩いてゐるのであつた。
哀しき父
(新字旧仮名)
/
葛西善蔵
(著)
が、未亡人は
箸
(
はし
)
を置くとすぐに、レウマチスが痛むと云つて女中に支へられながら、これだけが新築の
邸
(
やしき
)
のうちで
唯
(
たゞ
)
一つの日本間である隠居所に入つてしまつた。
朧夜
(新字旧仮名)
/
犬養健
(著)
昨今は
唯
(
たゞ
)
器械的に他人の
工場内
(
こうばない
)
に働き居り候へども二ヶ年位後には本式に独立してやる考に候。
新らしき祖先
(新字旧仮名)
/
相馬泰三
(著)
汽車の
内
(
うち
)
は
唯
(
たゞ
)
二人
(
ふたり
)
だけであつた。
萌黄
(
もえぎ
)
のやうな
色合
(
いろあひ
)
に
唐草模樣
(
からくさもやう
)
を
織
(
お
)
り出したシートの
状
(
さま
)
が、東京で乘る汽車のと同じであつたのは、小池に東京の家を思はせる
種
(
たね
)
になつた。
東光院
(旧字旧仮名)
/
上司小剣
(著)
唯
(
たゞ
)
、今時分、この門の上で、
何
(
なに
)
をして居たのだか、それを己に
話
(
はなし
)
しさへすればいいのだ。
羅生門
(旧字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
なかに
緑
(
みどり
)
のがあつたが、それはきつと
木
(
こ
)
の
葉
(
は
)
を
縫
(
ぬ
)
ひつけたのだらう。
皆
(
みんな
)
野育
(
のそだち
)
の
無知
(
むち
)
の
子供
(
こども
)
たちで、どこを
指
(
さ
)
して
行
(
ゆ
)
くのだか、
何
(
なに
)
しろずんずん
歩
(
ある
)
いてゆく。
唯
(
たゞ
)
耶路撒冷
(
イエルサレム
)
を
信
(
しん
)
じてゐる。
浮浪学生の話
(新字旧仮名)
/
マルセル・シュウォッブ
(著)
文久錢
(
ぶんきうせん
)
とも
云
(
い
)
ふべき
錢
(
おあし
)
を
呑
(
の
)
んだのです、
恰度
(
てうど
)
私
(
わたくし
)
も
其節
(
そのせつ
)
其塲
(
そのば
)
に
居
(
お
)
りましたが、
何
(
なに
)
も
心得
(
こゝろゑ
)
ませんから
唯
(
たゞ
)
慌
(
あわ
)
てる
計
(
ばか
)
り、
何
(
なに
)
か
振舞
(
ふるまい
)
のあツた
時
(
とき
)
ですから、
大勢
(
たいぜい
)
人
(
ひと
)
も
居
(
お
)
りましたが、
何
(
いづ
)
れも
青
(
あを
)
くなり
手療法一則:(二月例会席上談話)
(旧字旧仮名)
/
荻野吟子
(著)
唯
(
たゞ
)
僕
(
ぼく
)
が
心配
(
しんぱい
)
でならぬは
家内
(
かない
)
の
眼
(
め
)
——
眼
(
め
)
だ。
殊
(
こと
)
に
頬
(
ほう
)
が
紅
(
べに
)
を
點
(
さ
)
した
樣
(
よう
)
になつて
呼吸
(
こきう
)
が
忙
(
せわ
)
しくなる。
僕
(
ぼく
)
之
(
これ
)
を
見
(
み
)
るのが
實
(
じつ
)
に
辛
(
つら
)
い。
先生
(
せんせい
)
は
家内
(
かない
)
と
同
(
おな
)
じ
疾
(
やまい
)
のものが
挑動
(
いらだ
)
つ
時
(
とき
)
の
呼吸
(
こきう
)
を
聞
(
きい
)
た
事
(
こと
)
があるかネ。
罪と罰(内田不知庵訳)
(旧字旧仮名)
/
北村透谷
(著)
井
(
いど
)
は勝手口から
唯
(
たゞ
)
六歩
(
むあし
)
、ぼろ/\に腐つた
麦藁屋根
(
むぎわらやね
)
が
通路
(
かよひぢ
)
と
井
(
いど
)
を
覆
(
お
)
ふて
居
(
を
)
る。
水汲み
(新字旧仮名)
/
徳冨蘆花
(著)
○
志
(
こゝろざし
)
は行ふものとや、
愚
(
おろか
)
しき君よ、そは
飢
(
うゑ
)
に
奔
(
はし
)
るに過ぎず。志は
唯
(
たゞ
)
卓を
敲
(
たゝ
)
いて、なるべく
高声
(
かうせい
)
に語るに
止
(
とゞ
)
むべし。
生半
(
なまなか
)
なる志を存せんは、存せざるに如かず、志は飯を食はす事なければなり。
青眼白頭
(新字旧仮名)
/
斎藤緑雨
(著)
唯
(
たゞ
)
一人心細き旅路に
上
(
のぼ
)
りけるに、
車中
(
しやちゆう
)
片岡直温
(
かたをかちよくをん
)
氏
(
し
)
が
嫂
(
あによめ
)
某女
(
ぼうぢよ
)
と
同行
(
どうかう
)
せられしに逢ひ、同女が
嬰児
(
えいじ
)
を
懐
(
ふところ
)
に抱きて
愛撫
(
あいぶ
)
一方
(
ひとかた
)
ならざる有様を目撃するにつけても、他人の手に愛児を残す母親の浅ましさ
母となる
(新字旧仮名)
/
福田英子
(著)
猫
(
ねこ
)
は
愛
(
あい
)
ちやんを
見
(
み
)
て、
唯
(
たゞ
)
その
齒並
(
はなみ
)
を
見
(
み
)
せたばかりでした。
優
(
おとな
)
しさうだと
愛
(
あい
)
ちやんは
思
(
おも
)
ひました、
矢張
(
やつぱり
)
其
(
そ
)
れが
大層
(
たいそう
)
長
(
なが
)
い
爪
(
つめ
)
と
澤山
(
たくさん
)
の
齒
(
は
)
とを
持
(
も
)
つてゐたので、
鄭重
(
ていちやう
)
にしなければならないとも
考
(
かんが
)
へました。
愛ちやんの夢物語
(旧字旧仮名)
/
ルイス・キャロル
(著)
唯
(
たゞ
)
一人
(
ひとり
)
、
頼
(
たの
)
みとする
片山
(
かたやま
)
に
訣
(
わか
)
れた
彼女
(
かのぢよ
)
は、
全
(
まつた
)
く
淋
(
さび
)
しい
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
だつた。
彼女こゝに眠る
(旧字旧仮名)
/
若杉鳥子
(著)
己が願ひの
唯
(
たゞ
)
一の
目的
(
めあて
)
なる高き光を必ず見るをうる民よ 八五—八七
神曲:02 浄火
(旧字旧仮名)
/
アリギエリ・ダンテ
(著)
げに
唯
(
たゞ
)
わが
爲
(
ため
)
にわが爲に、
孤
(
ひと
)
り
空
(
むな
)
しくわれは咲きにほふと
エロディヤッド
(旧字旧仮名)
/
ステファヌ・マラルメ
(著)
其間
(
そのかん
)
唯
(
たゞ
)
一歩
(
いつぽ
)
だ。なるほど
黎明
(
しのゝめ
)
と
牧羊神
(旧字旧仮名)
/
上田敏
(著)
とせい/\、
肩
(
かた
)
を
揺
(
ゆすぶ
)
ると、
其
(
そ
)
の
響
(
ひゞ
)
きか、
震
(
ふる
)
へながら、
婦
(
をんな
)
は
真黒
(
まつくろ
)
な
髪
(
かみ
)
の
中
(
なか
)
に、
大理石
(
だいりせき
)
のやうな
白
(
しろ
)
い
顔
(
かほ
)
を
押据
(
おしす
)
えて、
前途
(
ゆくさき
)
を
唯
(
たゞ
)
熟
(
じつ
)
と
瞻
(
みまも
)
る。
神鑿
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
裏長屋の狹い庭越しに、梅から櫻へ移り行く春の風物を眺めて、
唯
(
たゞ
)
斯
(
か
)
うぼんやりと日を暮してゐる、この頃の平次だつたのです。
銭形平次捕物控:107 梅吉殺し
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
唯
常用漢字
中学
部首:⼝
11画
“唯”を含む語句
唯一
唯々
唯一人
唯今
唯物
唯唯
唯々諾々
唯事
唯我独尊
唯者
唯識
唯中
唯〻
唯一不二
唯物論者
唯一言
真唯中
唯有
唯識論
唯独
...