おと)” の例文
ある日などはチュンセがくるみの木にのぼって青いおとしていましたら、ポーセが小さな卵形たまごがたのあたまをぬれたハンケチでつつんで
手紙 四 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
鳥部野とりべの一片のけむりとなって御法みのりの風に舞い扇、極楽に歌舞の女菩薩にょぼさつ一員いちにん増したる事疑いなしと様子知りたる和尚様おしょうさま随喜の涙をおとされし。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
おくさんのこゑにはもうなんとなくりがなかつた。そして、そのままひざに視線しせんおとすと、おもひ出したやうにまたはりうごかしはじめた。
(旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
勘次かんじ畦間うねまつくりあげてそれから自分じぶんいそがしく大豆だいづおとはじめた。勘次かんじ間懶まだるつこいおつぎのもとをうねをひよつとのぞいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
九州きうしうさるねらふやうなつまなまめかしい姿すがたをしても、下枝したえだまでもとゞくまい。小鳥ことりついばんでおとしたのをとほりがかりにひろつてたものであらう。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そうって、扉口とぐち拍子ひょうしに、ドシーン! ととり石臼いしうすあたまうえおとしたので、おかあさんはぺしゃんこにつぶれてしまいました。
おとして川へ投入なげいれたるに相違これなく候御定法通ごぢやうほふどほ御所刑おしおき仰せ付られ下され度と申立てければ伊藤は聞て然らば傳吉の口書を以て爪印つめいん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
わたしあがつて、をりからはこばれて金盥かなだらひのあたゝな湯氣ゆげなかに、くさからゆるちたやうななみだしづかにおとしたのであつた。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
誰人だれむかえにてくれるものはないのかしら……。』わたくしはまるで真暗闇まっくらやみ底無そこなしの井戸いど内部なかへでもおとされたようにかんずるのでした。
それもはじめから宿やどたねがなかつたのなら、まだしもだが、そだつべきものを中途ちゆうとおとしたのだから、さら不幸ふかうかんふかかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そののち、夕立ゆうだちが二どあって、そのぼろが、ちぢんでしまったところへ、カラスがやってきて、とうとうそれをつつきおとしてしまいました。
その畜生ちくしやうおとされるとは、なにかの因縁いんえんちがひございません。それは石橋いしばしすこさきに、なが端綱はづないたままみちばたの青芒あをすすきつてりました。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
同樣どうようおとへるに『落葉針葉樹らくようしんようじゆ』(からまつ、いてふなど)と『落葉闊葉樹らくようかつようじゆ』(さくら、もみぢなど)のべつがあります。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
四月十日ごろには、寛斎は朝早くしたくをはじめ、旅のおとざしに身を堅めて、七か月のわびしい旅籠屋住居はたごやずまいに別れて行こうとする人であった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「妻はのうてもわしとて男でござりますわい。若い時に粗相そそうをしてな。おとだねじゃ、落し胤じゃ。——伜よ。参ろうぞい」
市内で相応に名を売つてゐる或る鶏肉かしは屋の主人あるじ鶏肉かしはの味はとりおと瞬間ほんのまにあります。」と言つてしかつべらしく語り出す。
それには遠方えんぽうよりつち次第しだいにつんで傾斜けいしやした坂道さかみちきづげ、それへいしげてこれをたておとて、それからそのうへ横石よこいしせたもので
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
歩くくせがありました、私は眞夜中に納戸にゐる叔父さんを見たり、おとしに首を突つ込む叔父さんを見たこともあります
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
するとうさぎなんおもつたか大急おほいそぎで、しろ山羊仔皮キツド手套てぶくろおとせば扇子せんす打捨うツちやつて、一目散もくさんやみなかみました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
後に茨田は瀬田の妻子をおとしてつた上で自首し、父柏岡と高橋とも自首し、西村は江戸で願人坊主ぐわんにんばうずになつて、時疫じえきで死に、植松は京都で捕はれた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
落葉木らくようぼくは若葉から漸次青葉になり、すぎまつかしなどの常緑木が古葉をおとし落して最後の衣更ころもがえをする。田は紫雲英れんげそうの花ざかり。林には金蘭銀蘭の花が咲く。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
と、書きおとしたが、その漆の花が目にるまでに、石床いしどこの大きなでこでこの岩、おとみ与曾松よそまつの岩というのがあった。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
「初めは、おらも、ばくち場でみた気味のわるい浪人の子かと思っていたら、甲州でちょっとべい世話になった、身分のあるお武家のおとだねだそうだ」
野槌の百 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私の母の目をおとす時は、私は家内と二人で母をていたが、母の寝ている部屋の屋根のむねで、タッタ一声ひとこえ烏がカアと鳴いた。それが夜中の三時であった。
白い光と上野の鐘 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
一人ひとり張飛ちやうひやせよわくなつたやうな中老ちゆうらう人物じんぶつ一人ひとり關羽くわんう鬚髯ひげおとして退隱たいゝんしたやうな中老ちゆうらう以上いじやう人物じんぶつ
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
ドクトルがまるで乞食こじきにもひとしき境遇きょうぐうと、おもわずなみだおとして、ドクトルをいだめ、こえげてくのであった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
山石のかど出張でっぱっておりますから、頭を打破うちやぶって、落ちまするととても助かり様はございませんが、新吉は側にある石をごろ/\谷間たにあいへ転がしおとしました
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
まづ始には女目付をんなめつけのバルバラがつぶやくやう、あのピエロオの拔作め、氣のかないのも程がある、カサンドル樣の假髮かづらの箱をおとして、白粉おしろいみんないて了つたぞ。
胡弓 (旧字旧仮名) / ルイ・ベルトラン(著)
そうして手に水蜜桃すいみつとうを持って、じっとその上に目をおとしているところであった。この女は西洋絵で見たことのある裸体の女がぬけ出して来たのかと思われた。
別府温泉 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
一秒間いちびようかん二三回にさんかい繰返くりかへされるほどの急激きゆうげきなものであつたならば、木造家屋もくぞうかおく土藏どぞう土壁つちかべおとし、器物きぶつたなうへから轉落てんらくせしめるくらゐのことはありべきである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
やはらかきひとほどはつよく學士がくし人々ひと/″\なみだあめみちどめもされず、今宵こよひめてとらへるたもとやさしく振切ふりきつて我家わがやかへれば、おたみものられしほどちからおとして
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
とお嬢様は口早くちばやに云つた。山崎は目で点頭うなづいて駆けて行つた。平井は其跡を追つて行かうとした拍子に、手にもつたお納戸なんどのとクリイム色のと二本の傘を下におとした。
御門主 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
「おお、わがよ」とおほせられて、人間にんげんどものらないきよたつといなみだをほろりとおとされました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
川をわたってからやく二マイルのところがれい難所なんしょなのだ。機関士きかんしも、十分じゅうぶん速度そくどおとしはするが、後部こうぶのブレーキは、どうしてもまかなければならないことになっている。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
その太夫さんは、やんごとなきお方のおとだね、何の仔細しさいがあってか、わたしはよく存じませねど、お身なりを平素ふだんよりはいっそう華美はでやかにお作りなされ、香をいて歌を
冗談じょうだんいわっし。当節とうせつぜにおとやつなんざ、江戸中えどじゅうたずねたってあるもんじゃねえ。かせえだんだ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
土饅頭どまんじゅうぐらいな、なだらかなおか起伏きふくして、そのさきは広いたいらな野となり、みどり毛氈もうせんをひろげたような中に、森や林がくろてんおとしていて、日の光りにかがやいてる一筋ひとすじの大河が
強い賢い王様の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
これは水揚みづあがりせざるところものどもこゝにはせあつまりて、川すぢひらき水をおとさんとする也。闇夜あんやにてすがたは見えねど、をんなわらべ泣叫なきさけこゑあるひとほく或はちかく、きくもあはれのありさま也。
おといみ饗宴きょうえんのこと、その際の音楽者、舞い人の選定などは源氏の引き受けていることで、付帯して行なわれる仏事の日の経巻や仏像の製作、法事の僧たちへ出す布施ふせの衣服類
源氏物語:21 乙女 (新字新仮名) / 紫式部(著)
長羅は宿禰をにらんで肉迫した。たちまち広間の中の人々は、宿禰と長羅の二派に分れて争った。見る間に手と足と、角髪みずらを解いた数個の首とがおとされた。燈油の皿は投げられた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「ヘエ……じゃけんど、ヒョットしたらおといて行ったもんじゃ御座いませんでしょか」
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
鍵は内側からのみ閉められる簡単なおとがね式の物で、そのカキガネは長さ約一尺、巾一寸五分、厚さ五分位の相当重い堅木で作られていてこれにも、アラベスクの象眼がされていた。
(新字新仮名) / 楠田匡介(著)
土偶どぐう※ なにしろ泥土でいどおとしてるべしと、車夫しやふをして、それをあらひにつてると、はからんや、それは獸骨じうこつの一大腿骨だいたいこつ關節部くわんせつぶ黒焦くろこげけてるのであつたので
もしこの二人ふたりんでしまつても、おぢさんはまだ/\おとしはしまい。それは元氣げんききみたちが大勢たいぜいゐてくれるからだ。それほどおぢさんはきみたちを、自分じぶんのやうにおもつてゐる。
赤い旗 (旧字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
さなきだに競争の結果はすべての器を粗製と俗悪とにおとれました。民藝はかくしてその美しい歴史を閉じたのです。作る時代、用いる時代は過ぎて、今は省る時代へと移りました。
民芸とは何か (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
おとばなしかい。馬鹿にしている」私が少々怒って見せると、本田は真顔になって
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
すでに水平線上すゐへいせんじやうたかのぼつた太陽たいよう燦爛さんらんたるひかりみづおとして金波きんぱ洋々やう/\たるうみおもには白帆はくはんかげてんてんそのあひだ海鴎かいおう長閑のどかむらがんで有樣ありさまなどは自然しぜんこゝろさはやかになるほど
早朝さうてう出立、又昨日の如く水中をさかのぼる、進むこと一里余にして一小板屋いたや荊棘中けいきよくちうつあり、古くして半ば破壊にかたむけり、衆皆不思議にへす、余たちまち刀をきて席にてつくれるとびらおと
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
見物人が笑つた。舞台の人物はおとしたものをさがていなにかを取り上げると、突然とつぜんまへとはまつたく違つた態度になつて、きはめて明瞭めいれう浄瑠璃外題梅柳中宵月じやうるりげだいうめやなぎなかもよひづきつとめまする役人………と読みはじめる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
なんのことはない膃肭獣おっとせいのような真似をすること三分、ブルブルと飛び上ってこわひげをすっかりおとすのに四分、一分で口と顔とを洗い、あとの二分で身体をぬぐい失礼ならざる程度の洋服を着て
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)