“持(も)” の例文
「おやおや、まあ。めずらしい大きな瓜(うり)だこと、さぞおいしいでしょう。うちへ持(も)って帰(かえ)って、おじいさんと二人(ふたり)で食(た)べましょう。」
瓜子姫子 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
片手(かたて)にブリキかんをぶらさげて、片手(かたて)にはさおを持(も)ち、いつも帽子(ぼうし)を目深(まぶか)にかぶって、よくこの洋服屋(ようふくや)の前(まえ)を通(とお)ったのでありました。
窓の内と外 (新字新仮名) / 小川未明(著)
と、海蔵(かいぞう)さんがいいました。そばに来(き)てみると、それはこの附近(ふきん)の土地(とち)を持(も)っている、町(まち)の年(とし)とった地主(じぬし)であることがわかりました。
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
女房(かみさん)は、弱(よわ)つちやつた。可恐(おそろ)しく重(おも)いんです。が、持(も)たれないといふのは悔(くや)しいてんで、それに押(お)されるやうにして、又(また)ひよろ/\。
廓そだち (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
その当時は、客車(きゃくしゃ)にさえ、うす暗い魚油灯(ぎょゆとう)をつけたもので、車掌室(しゃしょうしつ)はただ車掌の持(も)つシグナル・ランプで照(て)らされるばかりであった。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
おお、洋傘直し、洋傘直し、なぜその石をそんなに眼(め)の近くまで持(も)って行ってじっとながめているのだ。石に景色(けしき)が描(か)いてあるのか。
チュウリップの幻術 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
何(なに)も下品(げひん)に育(そだ)つたからとて良人(おつと)の持(も)てぬ事(こと)はあるまい、殊(こと)にお前(まへ)のやうな別品(べつぴん)さむではあり、一足(そく)とびに玉(たま)の輿(こし)にも乘(の)れさうなもの
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
老婆は、片手(かたて)に、まだ屍骸の頭から奪(と)つた長い拔け毛を持(も)つたなり、蟇(ひき)のつぶやくやうな聲で、口ごもりながら、こんな事を云つた。
羅生門 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
やがて盗賊(とうぞく)どもは、生人形(いきにんぎょう)を奥(おく)から持(も)ってきましたが、首(くび)はぬけ手足はもぎれて、さんざんな姿(すがた)になっていました。それも道理(もっとも)です。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
愛(あい)ちやんは直(たゞ)ちに此(こ)れが扇子(せんす)を持(も)つて居(ゐ)た所爲(せい)だと云(い)ふ事(こと)を知(し)つて急(いそ)いで其扇子(そのせんす)を捨(す)てました、恰(あだか)も縮(ちゞ)むのを全(まつた)く恐(おそ)れるものゝ如(ごと)く。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
見ると七人の持(も)ち人(て)の内真中の一人だけは黄色の着物を着たお爺さんで、あとの六人は皆空色の着物を着た十二三の男の児であった。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作、杉山萠円(著)
あたしゃ今こそお前(まえ)に、精根(せいこん)をつくしたお化粧(けしょう)を、してあげとうござんす。——紅白粉(べにおしろい)は、家(いえ)を出(で)る時(とき)袱紗(ふくさ)に包(つつ)んで持(も)って来(き)ました。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
今まで持(も)ち応(こた)えに持ち応え抜いた心機をひらりと転換させられる彼から云えば、見す見す彼女の術中に落ち込むようなものであった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
塾(じゆく)は家族的(かぞくてき)の組織(そしき)であるから各人(かくじん)共同(きようどう)の物(もの)である、塾生(じゆくせい)は此處(こゝ)を自分(じぶん)の家(いへ)と心得(こゝろえ)て何事(なにごと)も自分(じぶん)に責任(せきにん)を持(も)つて遣(や)らねばなりません。
女教邇言 (旧字旧仮名) / 津田梅子(著)
ママは外(ほか)にいい仕事(しごと)を持(も)っていて、たくさんおあしがもらえるので、いつまでもやめたくないのだという事(こと)を、シューラは思い出した。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
此女(このをんな)は国(くに)から連(つ)れて来(き)たのではない、江戸(えど)で持(も)つた女(をんな)か知れない、それは判然(はつきり)分(わか)らないが、何(なに)しろ薄情(はくじやう)の女(をんな)だから亭主(ていしゆ)を表(おもて)へ突(つ)き出す。
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
苦情(くじよう)を持(も)ち込(こ)みましたので、まやかしものといふことがわかつて、これも忽(たちま)ち突(つ)っ返(かへ)され、皇子(みこ)は大恥(おほはぢ)をかいて引(ひ)きさがりました。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
くど/\と長(なが)たらしい事(こと)を書(か)いた手紙(てがみ)よりか『御返事(ごへんじ)を待(ま)つて居(を)ります』の葉書(はがき)の方が、遙(はる)かに君(きみ)の胸(むね)をゑぐる力(ちから)を持(も)つてゐたんだね。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
ですから、われ/\が、ある一(ひと)つの土地(とち)にはえた木(き)を、やたらにわきへ持(も)つて行(い)ったつて、それが一々(いち/\)つくわけのものではありません。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
ロミオ (炬火持に對ひ)俺(おれ)に炬火(たいまつ)を與(く)れい。俺(おれ)には迚(とて)も浮(う)かれた眞似(まね)は出來(でき)ぬ。餘(あんま)り氣(き)が重(おも)いによって、寧(いっ)そ明(あかる)いものを持(も)たう。
勘次(かんじ)は近所(きんじよ)と姻戚(みより)との外(ほか)には一飯(ぱん)も出(だ)さなかつたがそれでも村(むら)のものは皆(みな)二錢(せん)づゝ持(も)つて弔(くや)みに來(き)た。さうしてさつさと歸(かへ)つて行(い)つた。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それを火から卸して一晩おいて明日から食べ始めると寒い時なら四、五日は持(も)ちますから煮る時面倒(めんどう)でも毎日の副食物(おかず)になります。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「いま持(も)ってくるよ。だが、こんなきちがいじみたことにであうのは、生まれてはじめてだよ。ぼくは催眠術(さいみんじゅつ)にかかっているのかな?」
「天橋(あまはし)も長くもがも、高山も高くもがも、月読(つくよみ)の持(も)たる変若水(をちみづ)、い取り来て君に奉(まつ)りて、変若(をち)得しむもの」(三二四五)、反歌に
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
望蜀生(ぼうしよくせい)と余(よ)とは、夢中(むちう)に成(な)つて、それを採集(さいしふ)した。其數(そのすう)實(じつ)に二百(ひやく)七十六本(ほん)。それを四箇(こ)の大布呂敷(おほふろしき)に包(つゝ)み、二箇(こ)宛(づゝ)を分(わ)けて持(も)つ事(こと)にした。
「一斗五升あります。持(も)ち重(おも)りがするんでね、すこし風邪は引いてますし、買っておくんなさるなら、願ったり叶ったりです。」
買出し (新字新仮名) / 永井荷風(著)
坂路(さかみち)の多(おほ)い父(とう)さんの村(むら)では、氷滑(こほりすべ)りの出來(でき)る塲所(ばしよ)が行(ゆ)く先(さき)にありました。村(むら)の子供(こども)はみな鳶口(とびぐち)を持(も)つて凍(こゞ)つた坂路(さかみち)を滑(すべ)りました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
島本(しまもと)の話(はなし)では、ぼたんの鉢(はち)を持(も)つてきたのが、事件発見(じけんはっけん)のあの日、つまり五月(がつ)六日(か)からいうと、一昨日(おととい)だといつたんじやないでしようか。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
丁度(ちょうど)声(こえ)を高(たか)めて命令(めいれい)などは决(けっ)して致(いた)さぬと、誰(たれ)にか誓(ちかい)でも立(た)てたかのように、くれとか、持(も)って来(こ)いとかとはどうしても言(い)えぬ。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
『おろかものの愚老(ぐらう)、碌(ろく)な智慧(ちゑ)も持(も)ち合(あ)はせませんが、どういふ儀(ぎ)でござりませうか。』と、玄竹(げんちく)はまた但馬守(たじまのかみ)の氣色(けしき)を窺(うかゞ)つた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
此際(このさい)鐵道橋梁(てつどうきようりよう)も下(くだ)り汽車(きしや)と共(とも)に浚(さら)はれてしまつたが、これは土砂(どさ)に埋(うづま)つたまゝ海底(かいてい)まで持(も)つて行(ゆ)かれたものであることが解(わか)つた。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
この点にいたると婦人は侮(あなど)るべからざる強いところがある。日ごろは一つの柔(やさ)しき飾りに過ぎぬ「簪(かんざし)も逆手(さかて)に持(も)てば恐ろしい」。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
昔(むかし)の人(ひと)は、今日(こんにち)田舍(ゐなか)の樵(きこり)や農夫(のうふ)が山(やま)へ行(ゆ)く時(とき)に、鎌(かま)や斧(をの)を腰(こし)に着(つ)けてゐるように、きっと何(なに)か刃物(はもの)を持(も)つてゐたものと思(おも)ひます。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
むかしむかし大昔(おおむかし)、今(いま)から二千年(ねん)も前(まえ)のこと、一人(ひとり)の金持(かねも)ちがあって、美(うつ)くしい、気立(きだて)の善(い)い、おかみさんを持(も)って居(い)ました。
その意味(いみ)で、狹(せま)い路次(ろじ)の奧(おく)にあつた、木造(もくざう)の、あのささやかな洋館(やうくわん)は日本麻雀道(にほんマアジヤンだう)のためには記念保存物(きねんほぞんぶつ)たる價値(かち)を持(も)つてゐるかも知(し)れない。
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
「清水を尋ねて、早く小手の掠り傷をお洗いなさるがよい。おお、ちょうど拙者が持(も)ち合(あわ)している傷薬、これをおわけ申そう」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
話もそれでおわりになったが、主人(しゅじん)はこの花前(はなまえ)のことについて考えることに興味(きょうみ)を持(も)ってきた。その夜もいろいろと考えた。
箸 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「まずまず、お前(まえ)さん方(がた)もっとからだをらくになさい。そしてね、鰻(うなぎ)の頭(あたま)を見(み)つけたら、私(わたし)のところに持(も)って来(き)ておくれ。」
併(しかし)ながら金解禁(きんかいきん)の準備(じゆんび)としては在外正貨(ざいぐわいせいくわ)を潤澤(じゆんたく)に持(も)ち得(え)たことはその準備(じゆんび)の大半(たいはん)の目的(もくてき)を達(たつ)したと云(い)つて差支(さしつかへ)ないのである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
見合(みあい)の時(とき)の良人(おっと)の服装(ふくそう)でございますか——服装(ふくそう)はたしか狩衣(かりぎぬ)に袴(はかま)を穿(は)いて、お定(さだ)まりの大小(だいしょう)二腰(ふたこし)、そして手(て)には中啓(ちゅうけい)を持(も)って居(お)りました……。
己は選びもせずに、ラシイヌの外(ほか)の一巻を抽(ぬ)き出して、持(も)て来た一巻を代りに入れて置いて、しづえと一しょに洋室を出た。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
実(げ)に直行も気味好からぬ声とは思へり。小鍋立(こなべだて)せる火鉢(ひばち)の角(かど)に猪口(ちよく)を措(お)き、燈(あかし)を持(も)て来よと婢(をんな)に命じて、玄関に出でけるが、先(ま)づ戸の内より
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「注意(ちうい)を拂(はら)ふ」だの「近(ちか)き將來(しやうらい)」などは、おかしいけれどもまだ意味(いみ)が分(わ)かるが、妙(めう)に持(も)つてまはつて、意味(いみ)が通(つう)じないのは、まことに困(こ)まる。
国語尊重 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
日本(につぽん)の古代(こだい)の人々(ひと/″\)は、かういふふうに、一首(いつしゆ)の歌(うた)についても、何(なに)か神(かみ)の心(こゝろ)あるひは、諭(さと)しが含(ふく)まれてゐるのだ、といふ考(かんが)へ癖(くせ)を持(も)つてゐました。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
持(も)つて来た風呂敷包を背負(せお)つて、古びた蝙蝠傘(かうもりがさ)を持つて、すり減した朴歯(ほほば)の下駄を穿(は)いて、しよぼたれた風(ふう)をして、隣の老人は暇(いとま)を告て行つた。
朝 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
「これも今(いま)となつてみれば、何(な)んでもない。船(ふね)から海(うみ)へ棄(す)てようかと思(おも)つたけれど、到頭(たうとう)また日本(にほん)へ持(も)つて帰(かへ)つた。」
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
怜悧(れいり)な快活(くわいくわつ)な、大(おほ)きい眼(め)を持(も)つてゐた美(うつく)しい彼女(かのぢよ)、今(いま)は一人(ひとり)の女(をんな)として力限(ちからかぎ)り鬪(たゝか)つた。そして遂(つひ)に安(やす)らかに睡(ねむ)つた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
亭主(ていしゅ)持(もつ)なら理学士、文学士潰(つぶし)が利く、女房持(も)たば音楽師、画工(えかき)、産婆三割徳ぞ、ならば美人局(つつもたせ)、げうち、板の間挊(かせ)ぎ等の業(わざ)出来て然(しか)も英仏の語に長じ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ですからニールスは、お城の中の部屋(へや)という部屋を、持(も)ち主(ぬし)の生徒についてまわらなければなりませんでした。じつにじれったい旅(たび)ではありませんか。
「忠成め、飛んだ食(くら)ひぬけと見えるて。」豊後守はそつとその弁当箱に触つてみた。箱は鎧櫃(よろひびつ)ほど持(も)ち重(おも)りがした。