つき)” の例文
「たいへんにせいるな。」と、つきはいいました。馬追うまおいはびっくりして、二ほんながいまゆうごかして、こえのしたそらあおぎながら
酒屋のワン公 (新字新仮名) / 小川未明(著)
いま廿日はつかつきおもかげかすんで、さしのぼには木立こだちおぼろおぼろとくらく、たりや孤徽殿こきでん細殿口ほそどのぐちさとしためにはくものもなきときぞかし。
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
よいあんばいに、おぼろつきがさし昇って来ましたから、ここに立ったままでも絵図をさすように、この上の院のお墓、御影堂みえいどう、観月亭。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夕月夜ゆふづくよといふのは夕月ゆふづきといふことでなく、月夜つきよつきのことです。で、夕月ゆふづきころといふと、新月しんげつ時分じぶんといふことになります。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
さくらうらを、ぱつとらして、薄明うすあかるくかゝるか、とおもへば、さつすみのやうにくもつて、つきおもてさへぎるやいなや、むら/\とみだれてはしる……
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
するとだんだんがふさいで、病気びょうきになりました。それから八つきったときに、おんなおっとところって、きながら、こういました。
そらにあるつきちたりけたりするたびに、それと呼吸こきゅうわせるような、奇蹟きせきでない奇蹟きせきは、まだ袖子そでこにはよくみこめなかった。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
手拭てぬぐひひたたびちひさな手水盥てうずだらひみづつきまつたかげうしなつてしばらくすると手水盥てうずだらひ周圍しうゐからあつまやう段々だん/\つきかたちまとまつてえてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
つきかはつてからさむさが大分だいぶゆるんだ。官吏くわんり増俸ぞうほう問題もんだいにつれて必然ひつぜんおこるべく、多數たすううはさのぼつた局員きよくゐん課員くわゐん淘汰たうたも、月末げつまつまでほゞ片付かたづいた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
この八月はちがつ十五日じゆうごにちにはてんからむかへのものるとまをしてをりますが、そのときには人數にんずをおつかはしになつて、つきみやこ人々ひと/″\つかまへてくださいませ
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
二人ふたりがいよいよもんを出ようというときに、ちょうどがたつき西にしほうそらに、ぎすましたかがみのようにきらきらひかっていました。
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
アンドレイ、エヒミチはひてこゝろ落着おちつけて、なんの、つきも、監獄かんごくれが奈何どうなのだ、壯健さうけんもの勳章くんしやうけてゐるではないか。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
わたしたちはおまえが死んだものと思っていたが、つい三つきまえ、このぬすんだ女が死んでね。死にぎわにわたしに悪事を白状はくじょうしたのだ。
画家ゑかき田能村直入たのむらちよくにふは、晩年年齢としを取る事が大好きになつて、太陽暦で八十のとしを迎へてまだ二つきと経たぬうちに、旧暦のお正月が来ると
今では余熱ほとぼりが冷めてホテルのダンス場も何カつきぶりかで再び開かれたが、さしもに流行したダンス熱は一時ほどでなくなった。
すなはつき太陽たいよう引力いんりよくによつてわが地球ちきゆうけるひづみの分量ぶんりようは、地球全體ちきゆうぜんたい鋼鐵こうてつ出來できてゐると假定かていした場合ばあひ三分さんぶんしかないのである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
と心配をして居るうちに、十月とつき経っても産気附かず、十二ヶつき目に生れましたのが、たまのような男の、続いてあとから女の児が生れました。
やが船尾せんびかたると、此處こゝ人影ひとかげまれで、すで洗淨せんじようをはつて、幾分いくぶん水氣すゐきびて甲板かんぱんうへには、つきひかり一段いちだん冴渡さへわたつてる。
そのくるま手長蜘蛛てながぐもすね天蓋てんがい蝗蟲いなごはねむながい姫蜘蛛ひめぐもいと頸輪くびわみづのやうなつき光線ひかりむち蟋蟀こほろぎほねその革紐かはひもまめ薄膜うすかは
つきぐらゐは咲いては落ち、咲いては落ちしてゐる。たゞ、わかれ霜に逢つて花片はなびらがわるく黄いろく焼けるのはあまり好いものではなかつた。
樹木と空飛ぶ鳥 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
つきでも 二つきでも、或は又一年でも、わたしと一しよに住んで下さい。わたしはアラアのおんに誓ひ、妹のやうにつき合ふことにします。
三つの指環 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
常子とれそめてからもう三つきあまりになるが、誰をも憚らず二人一しよに一夜をかたり明したのは昨夜ゆうべが初めてゞあつた。
来訪者 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
頃は長月ながつき中旬なかばすぎ、入日の影は雲にのみ殘りて野も出も薄墨うすずみを流せしが如く、つきいまのぼらざれば、星影さへもと稀なり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
つき四月とたつに従って、島全体を取囲んで、丁度万里ばんり長城ちょうじょうの様な異様な土塀が出来、内部には、池あり、河あり、丘あり、谷あり、そして
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
話がちょっともとに戻るが、居士が「つきみやこ」という小説を苦心経営したのは余がまだ松山にいる頃であったと記憶する。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
月に寄せたるにて木曾の山つきいだくの語は杜工部とこうぶ四更山吐月しかうやまつきをはくと詠じたると異意同調ともいふべきなり其の謠ふ間の拍子取りにはトコセイ。
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
その時は直ぐ思い出せなかったが、それから一つき程後、ふと、そうだ、志賀重昂(矧川)の『日本風景論』書出かきだしの文句の中にあった、と思い出した。
「我がかげの我をおひけりふゆつき」と人之をうたがふ時はやなぎかゝ紙鳶たこ幽靈いうれいかとおもひ石地藏いしぢざう追剥おひはぎかとおどろくがごとし然ば大橋文右衞門の女房お政はをつとの身の上を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「さうだ、もうつき時分じぶんだな‥‥」と、しばらくしてわたしとほひがしはう地平線ちへいせんしらんでたのにがついてつぶやいた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
いま社會しやくわいは一回轉くわいてんした。各個人かくこじん極端きよくたん生命せいめいおもんじ財産ざいさんたつとぶ、都市としは十ぶん發達はつたつして、魁偉くわいゐなる建築けんちく公衆こうしゆ威嚇ゐかくする。科學くわがくつき進歩しんぽする。
日本建築の発達と地震 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
んだそらつきながらながめる、ひといきれからのがれた郊外こうがいたのしみは、こゝにとゞめをす……それがられない。
ねこ (旧字旧仮名) / 北村兼子(著)
足掛あしかけねんまたが籠城ろうじょう……つき幾度いくどとなくかえされる夜打ようち朝駆あさがけ矢合やあわせ、い……どっとおこときこえ
泥棒どろぼう監獄かんごくをやぶつてげました。つきひかりをたよりにして、やまやま山奥やまおくの、やつとふか谿間たにまにかくれました。普通なみ大抵たいてい骨折ほねをりではありませんでした。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
「まだ三つきめだという、このまえ流産したから安心はならぬが、医者はまったく順調だと申しているそうだ」
山蔭やまかげの土に四つきも五つきもひつゝいて居る落葉のやうなものを着て居るのです。竹の棒やら、木のはしやらを皆持つて居て私等の足に近い所を叩いて居るのです。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
このつき燕王指揮しき李遠りえんをして軽騎六千を率いて徐沛じょはいいたり、南軍の資糧をかしむ。李遠、丘福きゅうふく薛禄せつろくと策応して、く功をおさめ、糧船数万そう、糧数百万をく。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
火星くわせいにも北極ほつきよくのやうなさむいところがある。『極冠きよくくわん』とんでる。まんなかのは火星くわせいにのぼつたつきだ。火星くわせいさむいところは零下れいか四十から零下れいか七十さむさだ。
れ——達人たつじんは——」声はいさゝかふるえて響きはじめた。余は瞑目めいもくして耳をすます。「大隅山おおすみやまかりくらにィ——真如しんにょつきの——」弾手は蕭々しょうしょうと歌いすゝむ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
深刻に出水の苦痛を恐れて居る予は、八月というつきこの天候に恐怖を感ぜずには居られなかったのである。
大雨の前日 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
つき此地球このちきう周圍まはりまはるものにて其實そのじつは二十七日と八ときにて一廻ひとまはりすれども、地球ちきうつきとの釣合つりあひにて丁度ちやうど一廻ひとまはりしてもとところかへるには二十九日と十三ときなり。
改暦弁 (旧字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
ひようむなししづかにして高楼にのぼり、酒を買ひ、れんを巻き、月をむかへてひ、酔中すいちゆうけんを払へばひかりつきを射る」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
神戸の牛のミソ漬、下総しもうさきじ、甲州のつきしずく、伊勢のはまぐり、大阪の白味噌、大徳寺だいとくじの法論味噌、薩摩さつまの薩摩芋、北海道の林檎、熊本のあめ、横須賀の水飴、北海道のはららご
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
つきのあかりに、野茨のいばらとうつぎのしろはながほのかにえているむらよるを、五にん大人おとな盗人ぬすびとが、一ぴき仔牛こうしをひきながら、子供こどもをさがしてあるいていくのでありました。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
そうすれあ二つき、三つき、埋宝の場処によっては二年、三年、江戸に別れをつげなくちゃあならねえ。発足前にとっくりと、源三郎の生死をたしかめてえものだが——
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
友人の剃刀かみそりを持つて来て夜半ひそかに幾度いくたびとなく胸にあてゝ見た……やうな日が二つきも三月も続いた。
弓町より (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
そののちさいわつきばかりは何の変事もおこらなかった、がさすがにその当座は夜分便所に行く事だけは出来なかった、そのうち時日じじつったし職務上種々しゅじゅな事があったので
暗夜の白髪 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
大庭 編物が上手だつていふんですが、この正月でしたか、僕のチヨツキをこしらへてくれつて頼むと、四つきも五つきもはふつといて、催促をしたら……今こさへてる最中だ。
五月晴れ (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
ひむがしのにかぎろひのえてかへりすればつきかたぶきぬ 〔巻一・四八〕 柿本人麿
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
新入生しんにゅうせいは、緒方先生おがたせんせい入門料にゅうもんりょうをおさめますが、そのとき塾長じゅくちょう諭吉ゆきちにも、いくらかのおれいをもってきます。つき新入生しんにゅうせいが四、五にんもあれば、ちょっとした金額きんがくになります。
その時分じぶんとうのおこのは、駕籠かごいそがせて、つきのない柳原やなぎはら土手どてを、ひたはしりにはしらせていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)