世間せけん)” の例文
世間せけん人々ひとびとは、このうわさをみみにするとおおさわぎでありました。そこにもここにも、あつまって金色こんじきうおはなしをしたのであります。
金の魚 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「いや、むほどのことでもなかろうが、なんわかおんな急病きゅうびょうでの。ちっとばかり、あさから世間せけんくらくなったようながするのさ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「こんなことでおまへ世間せけんさわがしくてやうがないのでね、わたしところでも本當ほんたうこまつてしまふんだよ」内儀かみさんは巡査じゆんさ一寸ちよつとてさうして
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
大きなみやこにでて、世間せけんの人をびっくりさせるのもたのしみです。それでさっそく支度したくをしまして、だいぶとおみやこへでてゆきました。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
あれと私達わたしたちとはなん關係くわんけいいやうなものの、あれも着物きもの私達わたしたちたがひ着物きものなんとなく世間せけんたいして、わたし氣耻きはづかしいやうでなりませんのよ
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
しも貴下こなたが、世間せけんふやうに、阿呆あはう極樂ごくらくひいさまをれてかっしゃるやうならば、ほんに/\、世間せけんとほり、不埓ふらちことぢゃ。
「あゝ、結構けつこうわたしは、それが石地藏いしぢざうで、いまのが姑護鳥うぶめでもかまひません。けれども、それぢや、貴方あなた世間せけんまないでせう。」
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しかしその電燈でんとうひかりらされた夕刊ゆふかん紙面しめん見渡みわたしても、やはりわたくし憂鬱いううつなぐさむべく世間せけんあまりに平凡へいぼん出來事できごとばかりでつてゐた。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
生中なまなかこがれて附纒つきまとふたとて、れてはれるなかではなし、可愛かあいひと不義ふぎせてすこしもれが世間せけんれたらなんとせう
うらむらさき (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「なんてことをいうんだい。あたしゃ、おまえを世間せけんからひきはなしておいたつもりだったのに、よくもひとをだましたね。」
したが、これも時代ときよとあきらめるがいぞよ。これさ、うのたかのつて世間せけんくちにか〻るではないか、そんなこははせぬものぢや
かれ其時そのとき服裝なりにも、動作どうさにも、思想しさうにも、こと/″\當世たうせいらしい才人さいじん面影おもかげみなぎらして、たかくび世間せけんもたげつゝ、かうとおもあたりを濶歩くわつぽした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「しばらくのあいだ、またもとの鏃鍛冶やじりかじにばけて、世間せけんのなりゆきを見ているとしよう。そのうちには、なんとかいいうんがひらけてくるだろう」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
えうするに世間せけんいま固有名こゆうめいなるものゝ意味いみ了解れうかいしてをらぬのであらう。固有名こゆうめい普通名ふつうめいどう程度ていどてゐるのであらう。
誤まれる姓名の逆列 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
お酒と御飯のあいだ、壁辰と喬之助は、世間せけん話のほか何もしなかった。お妙にとっては、消え入りたいように恥かしい、お酌と給仕であった。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
世間せけんには、二十めんそうのほうが、よく知られていますので、このお話では、二十めんそうの名でよぶことにしましょう。
ふしぎな人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
だがこのひとうた全體ぜんたいに、かならずしも世間せけんでいふようなものばかりでなく、やはり當時とうじ流行りゆうこうの、はでなこせ/\したものもないではありません。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
世間せけんの女の子によく百合子があるが、これは正しい書き方ではない。ゆえにユリコといいたければ、仮名かなでユリ子と書けば問題はないことになる。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
世間せけんからては、病的びやうてき頭脳づのう狂人きちがひじみた気質きしつひともないことはなかつた。竹村自身たけむらじしんにしたところで、このてんでは、あま自信じしんのもてるはうではなかつた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
世間せけんへ知らさない試合なのに、命がけの大試合ということが口から口へ伝わって、広間はいっぱいの人だかりだ。
柔道と拳闘の転がり試合 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
このことは、前に言った高橋さんたちのはたらきとともに、まだ世間せけんにつたえられていないのでとくに、人々のけいちょうをあおいでおきたいと思います。
大震火災記 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
大島伸一先生おほしましんいちせんせいなかつたなら、此小學校このせうがくかうた、世間せけんりふれたもの大差たいさなくをはつたかもれません。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
「きみのことが、すっかり新聞にのっているよ。世間せけん透明人間とうめいにんげんのうわさでもちきりらしい。ただ、ぼくの家にきみがしのびこんでいることは知らないがね」
彼女かのぢよしもそのとき子供こどもがなかつたならば、のろひや果敢はかなみや、たゞ世間せけんをのみ對象たいしやうにしてかんがへた汚辱をじよくのために、如何いかにも簡單かんたんんでしまつたかもれない。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
ことわりければ當家に幼年えうねんの頃より奉公して番頭と迄出世しゆつせをなし忠義無類むるゐ世間せけんにて伊勢屋の白鼠しろねずみと云ひはやし誰知らぬ者も無き評判の久八は日頃より主人の吝嗇りんしよくなるを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
警戒の方も、このくらいかんたんになっていることゆえ、世間せけんも、この事件をもはやわすれかけていた。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
さりながら、世間せけんの有様を考ふるに、今は物ごと新奇を好む風俗なれば、この学風も儒仏の道の栄えたるごとく、だんだんとひろまり行くことであらうと思はれる。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
四 これは田園でんえん新鮮しんせん産物さんぶつである。われらは田園の風と光の中からつややかな果実かじつや、青い蔬菜そさいといっしょにこれらの心象スケッチを世間せけんに提供するものである。
山田やまだともかず石橋いしばしとも付かずでお茶をにごしてたのです、其頃そのころ世間せけん持囃もてはやされた読物よみものは、はるのやくん書生気質しよせいかたぎ南翠なんすゐくんなんで有つたか、社会小説しやくわいせうせつでした、それから
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そんな心掛こころがけは、このたちにはそもそも註文ちゅうもんするだけ無理むりなのです。そういうところは、この子たちも大人おとなおなじです。「すすめッ」と、世間せけんつよい人たちはいいます。
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)
あらゆる醜状しゅうじょう世間せけんにさらしたきがいなき不幸ふこうな母と思いつめると、ありし世の狂母きょうぼ惨状さんじょうやわが過去かこ悲痛ひつうやが、いちいち記憶きおくからび起こされるのである。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
おとうさんのそんな心持こころもちをさっしない世間せけんの人たちは、ひいさんがへんな姿すがたになったのをおもしろがって、「はちかつぎ、はちかつぎ。」と、あだんであざわらいました。
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
白鹿はくろくかみなりというつたえあれば、もしきずつけて殺すことあたわずば、必ずたたりあるべしと思案しあんせしが、名誉めいよ猟人かりうどなれば世間せけんあざけりをいとい、思い切りてこれをつに
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
自分じぶんいへうまれた子供こどもでもなく、むかしやまつけたのをやしなつただけのことでありますから、氣持きもちも世間せけん普通ふつうひととはちがつてをりますので、殘念ざんねんではございますが……
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
それにまだ世間せけんには売物ばいぶつにないと結構けつこうなお下物さかなでせうなんだか名も知らない美味物許うまいものばかりなんで吾知われしらず大変たいへんつちまひました、それゆゑ何方様どちらさまへも番附ばんづけくばらずにかへつたので
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
母は母で、自分の家庭から葉子のような娘の出た事を、できるだけ世間せけんに知られまいとした。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
或は今後も、世間せけん所謂いふところの使用人の地位を脱しない限り、幾年の間休暇の無い生活を送るのでは無いかとさへ悲觀する事もある。そして、机にむかひつゝ海を想ひ山を想ふのである。
山を想ふ (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
何故なぜなら、そのころ、さういふ野蠻やばん戰慄せんりつすべきうはさが、世間せけんやかましくつたはつてゐたからだ。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
かつまたこれまでのこよみにはつまらぬ吉凶きつきやうしる黒日くろび白日しろびのとてわけもわからぬ日柄ひがらさだめたれば、世間せけんこよみひろひろまるほど、まよひたねおほし、あるひ婚禮こんれい日限にちげんのばし、あるひ轉宅てんたくときちゞ
改暦弁 (旧字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
何不自由なく、世間せけんから天才とか何とかいわれるまで勉強もさせ、小遣こづかいだって月五十円はおろか一万円にものぼることすらある。あの女を、伊藤なればこそ養っているなどとうわさもある。
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
今日けふ郡司大尉ぐんじたいゐ短艇遠征たんていゑんせいかうを送るに、ねて此壮図このさうと随行ずゐかうして其景況そのけいきやうならびに千島ちしま模様もやうくはしくさぐりて、世間せけん報道はうだうせんとてみづから進みて、雪浪萬重せつらうばんちよう北洋ほくやう職務しよくむためにものともせぬ
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
しかしわれはひときずつそこなやからとはちがふ。幼児をさなごき、あしち、しばつて、これを曝物さらしものに、憐愍あはれみ悪人あくにんどもが世間せけんにある。さればこそいまこの幼児等えうじらて、心配しんぱいいたすのだ。
これでも藝能があるんだ、幾ら社會しやくわいがせゝこましくなつてゐると謂つても、俺の生活する領分りやうぶんくらゐ殘してあるだらう、然うよ、そして世間せけんを廣くして、自曲じいうの空氣を吸ふことにしやう。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
それに世間せけんでは三種さんしゆ神器じんぎなかにある御鏡みかゞみを、八稜鏡はちりようきようのような恰好かつこうのものとおもひとがあるのは間違まちがひで、もちろん、たれもこれをはいしたひとはないのでありますが、ふる時代じだいかゞみでありますれば
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
実際じっさい世間せけんならわしとしてはいかにも表門おもてもんをりっぱにし裏門うらもん粗末そまつにする。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「じゃあ、わたしは、いつものスカートにしておくわ。けれど、そのかわり、金の花もようのマントを着るわ。そうして、ダイヤモンドのおびをするわ。あれは世間せけんにめったにない品物なんだもの。」
親戚しんせきの、幼馴染おさななじみ一人ひとり若人わこうど……世間せけんによくあることでございますが、敦子あつこさまははやくからみぎ若人わこうどおもおもわれるなかになり、すえ夫婦めおとと、内々ないない二人ふたりあいだかた約束やくそくができていたのでございました。
あきれた人間にんげんどもだ、其樣そん臆病をくびやう船長せんちやうなんかは、げたとてどうせろくことはあるまい、なみでもくらつて斃死へたばつてしまつたらうが、※一まんいちきてゞもやうものなら、この武村新八たけむらしんぱち承知しやうちしねえ、世間せけん見懲みせしめ
ハイ 世間せけんではねこはどんなくらやみでも見えるといひますがうそです
己がう云うと、世間せけん奴等やつらは恐らく冷笑するだろう。———
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)