姿すがた)” の例文
あちらで、それをおくさまは、おんなはだれでも、かがみがあれば、しぜんに自分じぶん姿すがたうつしてるのが、本能ほんのうということをらなそうに
だまされた娘とちょうの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
成経 でも船の姿すがただけでもどんなになつかしいか。灰色にとりとめもなく広がる大きな海を見ているとわしは気が遠くなってしまう。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
狼群ろうぐん鉄砲てっぽうをおそれて日中はあまりでないし、また人間の姿すがたが見えると、さっさとげてしまうので、この日は別段べつだん危険きけんもなかった。
姿すがた婀娜あだでもおめかけではないから、團扇うちは小間使こまづかひ指圖さしづするやうな行儀ぎやうぎでない。「すこかぜぎること」と、自分じぶんでらふそくにれる。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
といいながら、はちをつかんでげますと、したから人間にんげん姿すがたあらわれたので、びっくりして、はなしてげていってしまいました。
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
看護かんごひとつかれぬ、雪子ゆきこよわりぬ、きのふも植村うゑむらひしとひ、今日けふ植村うゑむらひたりとふ、かはひとへだてゝ姿すがたるばかり
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
やがて盗賊とうぞくどもは、生人形いきにんぎょうおくからってきましたが、くびはぬけ手足はもぎれて、さんざんな姿すがたになっていました。それも道理もっともです。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
さうしたあかいろどられたあきやまはやしも、ふゆると、すっかりがおちつくして、まるでばかりのようなさびしい姿すがたになり
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
それから數日間すうじつかん主人しゆじんうち姿すがたせなかつた。内儀かみさんは傭人やとひにん惡戯いたづらいてむしあはれになつてまたこちらから仕事しごと吩咐いひつけてやつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
追かけてちのめそうか、と思ったが、やっとこらえた。彼は此後仙さんをにくんだ。其後一二度来たきり、此二三年は頓斗とんと姿すがたを見せぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
牛はとうとうわたしたちが通って来た最後さいごの村までかけもどった。道はまっすぐであったから、遠方でもその姿すがたを見ることができた。
その姿すがたのちらりと眼前がんぜんおこつた時、またかと云ふ具合に、すぐり棄てゝ仕舞つた。同時に彼は自己の生活力の不足を劇しく感じた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
いたずら小僧こぞうのニールスは、おとうさんやおかあさんの留守るすのまに、小人こびとをからかったため、小人の姿すがたに変えられてしまいました。
このモンクスがしまのジャケツを着て鳥打ちぼうを横にかぶった姿すがたというものは、通る人がそっと道をよけるほどこわい様子だった。
柔道と拳闘の転がり試合 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
稚児輪ちごわ姿すがたの牛若丸が笛にしめりを与えると同時に、突然苦悶くもんのさまを現わして、水あわを吹きながら、その場に悶絶もんぜついたしました。
顏色かほいろ蒼白あをじろく、姿すがたせて、初中終しよつちゆう風邪かぜやすい、少食せうしよく落々おち/\ねむられぬたち、一ぱいさけにもまはり、往々まゝヒステリーがおこるのである。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
その得意先とくいさきの一けん橋場はしば妾宅せふたくにゐる御新造ごしんぞがおいと姿すがたを見て是非ぜひ娘分むすめぶんにして行末ゆくすゑ立派りつぱな芸者にしたてたいと云出いひだした事からである。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
それから、しろきつね姿すがたをあらはした置物おきものいてありました。その白狐しろぎつねはあたりまへのきつねでなくて、寶珠はうじゆたまくちにくはへてました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
問『ではいままでただお姿すがたせないというだけで、あなたさまわたくし狂乱きょうらん状態じょうたいかげからすっかり御覧ごらんになってはられましたので……。』
ニールスが魔法まほうで小人にされてから、ちょうど一週間になります。しかし、あいもかわらず、ニールスはちっぽけな姿すがたのままなのです。
てき姿すがたは、ぜんぜん見えないのだ。どうやってトーマスをかれの手からうばいかえして助けてやればいいのか、さっぱりわからなかった。
れるとれぬは生死せいしわか日出雄少年ひでをせうねんをまんまるにして、このすさまじき光景くわうけいながめてつたが、可憐かれん姿すがたうしろからわたくしいだ
あわてて枕許まくらもとからがったおせんのに、夜叉やしゃごとくにうつったのは、本多信濃守ほんだしなののかみいもうとれんげるばかりに厚化粧あつげしょうをした姿すがただった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
下宿げしゅく主人しゅじんにきいてみても、前の家をたれがりているのか知りませんでした。なにしろ、にんげんの姿すがたをみたことがないというのです。
坂の上にも下にも人の姿すがたは見えないので、幸ひ羞しいおもひもしなくてすんだのである。もつとも見られたとて大して羞しがることでもない。
坂道 (旧字旧仮名) / 新美南吉(著)
それは高日子根神たかひこねのかみの顔や姿すがた天若日子あめのわかひこにそっくりだったので、みんなは一も二もなく若日子だとばかり思ってしまったのでした。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
能々よく/\見るに岡山におはせし時數年我が家に使ひたる若黨の忠八にて有ければあまりの事に言葉も出ず女の細き心にてかゝいやし姿すがたに成しを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
たちまち姿すがたは見えずなって、四五けん先の鍛冶屋かじやつちの音ばかりトンケンコン、トンケンコンと残る。亭主はちょっと考えしが
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
こういった清兵衛は、その太刀たちを朝月の首にかけてやって、そこへかしこまった姿すがたは、いいようのないゆかしいものがあった。
三両清兵衛と名馬朝月 (新字新仮名) / 安藤盛(著)
それがぱく/\ひらいたりぢたりするので、たま/\これにおちいつた人畜じんちくたちまえなくなり、ふたゝびその姿すがたあらはすことは出來できなかつた。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
たとへば、吝嗇者りんしょくもののやうにたからおびたゞしうってをっても、たゞしうもちふることをらぬ、姿すがたをも、こひをも、分別ふんべつをも、其身そのみ盛飾かざりとなるやうには。
ひとりは右へ、ひとりは左へ、別れわかれに姿すがたをかくして、そこにうッすらと立ちのこったのは、和田呂宋兵衛わだるそんべえだけになった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
兎は一息ひといきに、百ヤードばかり走りぬきました。そして、自分のまわりを見廻みまわしてみると、そこには、亀の姿すがたも形も見えないではありませんか。
兎と亀 (新字新仮名) / ロード・ダンセイニ(著)
無電室へとびこんだ隊員たちは、だれ一人として姿すがたをあらわさなかった。ただ、よいしょよいしょという掛け声だけがする。
大空魔艦 (新字新仮名) / 海野十三(著)
『——それ、あたまねとばせ』と女王樣ぢよわうさま一人ひとり廷丁てい/\まをされました、が帽子屋ばうしや姿すがたは、廷丁てい/\戸口とぐちまでかないうちえなくなりました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
たちなんかとはなしてゐると三人の位置いちひき玉にかんがへられたり、三つならんだちや碗の姿すがたおも白いおし玉の恰好かつこうに見※たりする。
文壇球突物語 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
たうとう盲目めくらになつたペンペは、ラランの姿すがた見失みうしなひ、方角ほうがくなにもわからなくなつて、あわてはじめたがもうをそかつた。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
次々つぎつぎうつるひるのたくさんの青い山々の姿すがたや、きらきら光るもやのおくだれかが高く歌を歌いながら通ったと思ったら富沢はまた弱くびさまされた。
泉ある家 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
おもふかおもはないうちに、つまたけ落葉おちばうへへ、ただ一蹴ひとけりに蹴倒けたふされた、(ふたたびほとばしごと嘲笑てうせう盜人ぬすびとしづかに兩腕りやううでむと、おれの姿すがたをやつた。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「私のは少しむずかしいかもしれませんよ。いわく、王者にして、その声天地にあまねく、その姿すがた捕捉ほそくすべからず」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
商家の小僧が短夜みじかよ恨めしげに店の大戸がらがらとあくれば、寝衣ねまき姿すがたなまめきてしどけなき若き娘が今朝の早起を誇顔ほこりがお
銀座の朝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
きでないかあのものしづかなかけひおとを。とほりにゆき眞白ましろやまつもつてゐる。そして日蔭ひかげはあらゆるものの休止きうし姿すがたしづかにさむだまりかへつてゐる。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
おゝこの集団しふだん姿すがたあらはすところ、中国ちうごく日本にほん圧制者あつせいしゃにぎり、犠牲ぎせいの××(1)は二十二しやうつちめた
ひだりはうには、六甲ろくかふ連山れんざんが、はるひかりにかゞやいて、ところ/″\あか禿げた姿すがたは、そんなにかすんでもゐなかつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
なかには旋頭歌せどうかが、まだ片歌かたうた一組ひとくみであつたとき姿すがたを、のこしてゐるものすらあります。やはり萬葉集まんにようしゆう
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
やがておくのダンスホールへ人々ひと/″\ながれこんでつたころにはMR姿すがたがどこへつたかえなかつた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
運命うんめい人間にんげんかたちきざめり、境遇けふぐう人間にんげん姿すがたつくれり、不可見の苦繩人間の手足を縛せり、不可聞の魔語人間の耳朶を穿てり、信仰しんこうなきのひと自立じりつなきのひと寛裕かんゆうなきのひと
「罪と罰」の殺人罪 (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
これは立派りつぱなお姿すがただと感心かんしんして、佛教ぶつきようしんずるものもおほ出來できたのですが、そのうち日本につぽんでも佛像ぶつぞうつくるようになり、それから百年ひやくねんもたゝない奈良朝ならちようごろになつては
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
それで三にん相談さうだんするやうかほをして、一端いつたん松林まつばやしまで退しりぞき、姿すがた彼等かれら視線しせんからかくれるやいなや、それツとばかり間道かんだう逃出にげだして、うらいけかたから、駒岡こまをかかた韋駄天走ゐだてんばしり。
半鐘はんしょうの音はその暴風雨あらしの中にきれぎれに響いた。郡奉行こおりぶぎょうの平兵衛は陣笠じんがさ陣羽織じんばおり姿すがた川縁かわべりへ出張して、人夫を指揮して堤防の処どころへ沙俵すなだわらを積み木杭きぐいを打ち込ましていた。
水面に浮んだ女 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)