あふ)” の例文
裾野すそのけむりながなびき、小松原こまつばらもやひろながれて、夕暮ゆふぐれまくさら富士山ふじさんひらとき白妙しろたへあふぐなる前髮まへがみきよ夫人ふじんあり。ひぢかるまどる。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
言はれて内室ないしつはひつて見ると成程なるほど石は何時いつにか紫檀したんだいかへつて居たので益々ます/\畏敬ゐけいねんたかめ、うや/\しく老叟をあふぎ見ると、老叟
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
それは食料しよくれうまきとの不廉ふれん供給きようきふあふがねばならぬからである。勘次かんじはおしな發病はつびやうから葬式さうしきまでにはかれにしては過大くわだい費用ひようえうした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
微賤びせんの一僧侶そうりよ吉宗ぬしの落胤らくいんと稱し政府せいふせまる事急にして其證跡しようせきも明かなれば天下の有司いうし彼に魅入みいれられ既にお世繼よつぎあふがんと爲たりしを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
今日けふごと浪路なみぢおだやかに、やがあひとも※去くわこ平安へいあんいはひつゝ芙蓉ふようみねあふこと出來できるやうにと只管ひたすらてんいのるのほかはないのである。
其顏そのかほ不審いぶかしげにあふぎて、姉樣人形ねえさまにんぎやうくださるか、げまするとわづかにうなづ令孃ひめ甚之助じんのすけうれしくたちあがつて、つたつた。
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
云ふが儘に、酒が運んで来られたので、今ぐられた憤怒いかりは殆ど全く忘れたやうに、余念なく酒を湯呑茶椀であふり始めた。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
二人ふたり蓮池はすいけまへとほして、五六きふ石段いしだんのぼつて、その正面しやうめんにあるおほきな伽藍がらん屋根やねあふいだまゝすぐひだりへれた。玄關げんくわんしかゝつたとき宜道ぎだう
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
加藤武雄かとうたけを様。東京をとむらふの文を作れと云ふあふせは正に拝承しました。又おひきうけしたことも事実であります。
〔譯〕人心のれい太陽たいやうの如く然り。但だ克伐こくばつ怨欲えんよく雲霧うんむ四塞しそくせば、此のれいいづくに在る。故に意をまことにする工夫は、雲霧うんむはらうて白日をあふぐより先きなるはし。
それで噴火ふんか珍現象ちんげんしよう收録しゆうろくするには、いきほひ海外かいがい火山かざん材料ざいりようあふがざるをなくなる。勿論もちろんそれには研究けんきゆう行屆ゆきとゞいてゐるのと、さうでないとの關係かんけいくははつてゐる。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
是則これすなはちいきてかたちを以てめぐり、しゝてはたましひを以てめぐるゆゑなりとかや。(文海披沙の説)菅神も此ろんに近し。逃入村にごろむらの事を以ても千年にちかき神灵しんれい赫々かく/\たることあふぐべしうやまふべし。
丁度ちやうど福鼠ふくねずみ法廷ほふてい横切よこぎつたときに、女王樣ぢよわうさま廷丁てい/\一人ひとりに、『この以前まへ音樂會おんがくくわいの、演奏者えんそうしや名簿めいぼつてまゐれ』とあふせられました、これをいてあはれな帽子屋ばうしやは、ふるをのゝいて
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
謂はゞ精神的せいしんてき監禁かんきんツたやうなもので、日光ひのめあふぐことさへ出來なくなツて了ふ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
本殿の眞後まうしろへ𢌞はつた時、なゝめ破風はふの方をあふぎながら、お光はこんなことを言つた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
ガラツ八の八五郎は、小鼻をふくらませて、親分の錢形平次をあふぎました。
「はい。」怜悧れいりらしい目を見張つて、存外おくれた様子もなく堀をあふた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
しらぬひ筑紫つくしのはてにわれ居れどをしへのおやたたへざらめやあふがざらめや
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
そのくさはないてゐるところにすわりこんでそらあふぐと、くもてゐる。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
れば瀧口が錫杖の到る所、其風そのふうを慕ひ其徳をあふがざるはなかりけり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
あふ向けに手足ひろげて白熊の浮かぶを見ればのどかなりけり
河馬 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
あふぐともなき目見まみのゆめ、やはらに涙さそふとき
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
まがかどに出してある宮戸座みやとざ絵看板ゑかんばんあふいだ。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
まこと」のくちはかしこみて「のぞみ」のまなこそらあふ
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
空をあふぐといふことが一度もなかりき。
悲しき玩具 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
あま御空みそらに此君をあふぎ見すらむ。
豁然かつぜんたる 大空を あふぎたちたり
秋の瞳 (新字旧仮名) / 八木重吉(著)
葡萄ぶだういろの秋の空をあふげば
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
あひひかりをあふがしめずや。
友に (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
ぐわい獨尊どくそんあふがれたま
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
あふがねば
佐藤春夫詩集 (旧字旧仮名) / 佐藤春夫(著)
振向ふりむざまに、ぶつきらぼうつて、握拳にぎりこぶしで、ひたいこすつたのが、悩乱なうらんしたかしらかみを、掻毮かきむしりでもしたさうにえて、けむりなび天井てんじやうあふいだ。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あふぎ地にふしかなしみ歎き我が身程世に因果いんぐわなる者はなし主人の養子が引負ひきおひを身に引受てかくはぢも若旦那樣を眞人間まにんげんにして上たさにいとはゞこそなほ御異見を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
さうしてはじめから取捨しゆしや商量しやうりやうれないおろかなものゝ一徹いつてつ一圖いちづうらやんだ。もしくは信念しんねんあつ善男善女ぜんなんぜんによの、知慧ちゑわす思議しぎうかばぬ精進しやうじん程度ていど崇高すうかうあふいだ。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
『あら、あら、あのおとは——。』と日出雄少年ひでをせうねんをまんまるにして母君はゝぎみやさしきかほあふぐと、春枝夫人はるえふじん默然もくねんとして、その良君をつとる。濱島武文はまじまたけぶみしづかに立上たちあがつて
かれいまさかんあつあふいだはなつてにはか物陰ものかげさがさうとするものゝやうにひど勝手かつてちがつたのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
今出すから、まア一先ひとまづ坐んなさいとなだめられて、兎に角再び席にいたが、前の酒を一息にあふつて
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
れを腑甲斐ふがひなしとおもふな、うでにはしよくありすこやかなるに、いつまでくてはあらぬものをと口癖くちぐせあふせらるゝは、何處どこやらこゝろかほでゝいやしむいろえけるにや
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
是則これすなはちいきてかたちを以てめぐり、しゝてはたましひを以てめぐるゆゑなりとかや。(文海披沙の説)菅神も此ろんに近し。逃入村にごろむらの事を以ても千年にちかき神灵しんれい赫々かく/\たることあふぐべしうやまふべし。
それが汽車きしやとほるのをあふながら、一せいげるがはやいか、いたいけなのどたからせて、なんとも意味いみわからない喊聲かんせいを一しやう懸命けんめいほとばしらせた。するとその瞬間しゆんかんである。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
『オイ、だまれ!』とつてうさぎさゝやくやうな調子てうしで、『女王樣ぢよわうさまがおまへことをおきになつた!おまへ女王樣ぢよわうさまおくれておでになつたことをつてるだらう、それで女王樣ぢよわうさまあふせらるゝには——』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
まこと」のくちはかしこみて「のぞみ」のまなこそらあふ
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
たゆげにあふぐ人はいまにぶくもきかむ
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
あふげば、夕空さびしき星めざめて
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
但馬守たじまのかみ悵然ちやうぜんとして天井てんじやうあふいだ。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
あふげばふかふぢたな
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
いざあふげ、共に
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
綺麗きれいだわ、綺麗きれいだわ、綺麗きれいむしだわ。」とせられたやうにひつゝ、草履ざうりをつまつやうにして、大空おほぞらたかく、ゑてあふいだのである。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
縁側えんがはて、たかひさしあふぐと、くろかはら小口こぐちだけそろつて、ながく一れつえるそとに、おだやかなそらが、あをひかりをわがそこはうしづめつゝ、自分じぶんうすくなつてところであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
さうしてはかへるかぬ日中につちうにのみ、これあふげばまばゆさにへぬやうにはるかきらめくひかりなかぼつしてそのちひさなのど拗切ちぎれるまでははげしくらさうとするのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)