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良君
『あら、あら、あの
音は——。』と
日出雄少年は
眼をまん
丸にして
母君の
優しき
顏を
仰ぐと、
春枝夫人は
默然として、
其良君を
見る。
濱島武文は
靜かに
立上つて
此時夫人は
少年を
膝に
上せて、
其良君や
他の
三人を
相手に
談話をして
居つたが、
私の
姿を
見るより
春枝夫人の
美はしき
顏は『あら。』とばつかり、
其良君を
顧見る。
私は
彼方へ!
彼方は
此方へ!
轉ぶがごとく※
また
松島海軍大佐の
令妹なる
彼の
夫人にはまだ
面會はせぬが、
兄君の
病床を
見舞はんが
爲めに、
暫時でも
其良君に
別を
告げ、
幼き
兒を
携へて、
浪風荒き
萬里の
旅に
赴くとは
仲々殊勝なる
振舞よと