“若(わか)” の例文
それでいちばんに万福丸どの、二ばんには当歳の若(わか)が御焼香をすまされますと、「お茶々、そなたの番ですよ」と仰せられましたが
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
こう注意(ちゅうい)してやると、後方(こうほう)から、前線(ぜんせん)へ送(おく)られたばかりの、若(わか)い兵士(へいし)の一人(ひとり)が、目前(もくぜん)で、背嚢(はいのう)をおろして、その内(うち)を改(あらた)めていました。
少女と老兵士 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「いや、気(き)に病(や)むほどのことでもなかろうが、何(なん)せ若(わか)い女(おんな)の急病(きゅうびょう)での。ちっとばかり、朝(あさ)から世間(せけん)が暗(くら)くなったような気(き)がするのさ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
そのなみだの霧(きり)の中から、わたしは、前列のこしかけにすわっていた若(わか)いおくさんがいっしょうけんめい手をたたいているのを見た。
然(しか)しながら若(わか)い衆(しゆ)と稱(しよう)する青年(せいねん)の一部(ぶ)は勘次(かんじ)の家(いへ)に不斷(ふだん)の注目(ちうもく)を怠(おこた)らない。其(そ)れはおつぎの姿(すがた)を忘(わす)れ去(さ)ることが出來(でき)ないからである。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
まだうら若(わか)い身(み)でありながら再縁(さいえん)しようなどという心(こころ)は微塵(みじん)もなく、どこまでも三浦(みうら)の殿様(とのさま)に操(みさお)を立(た)て通(とう)すとは見上(みあ)げたものである。
そして若(わか)い牝狐(めぎつね)が一匹(ぴき)、中から風(かぜ)のように飛(と)んで来(き)ました。「おや。」という間(ま)もなく、狐(きつね)は保名(やすな)の幕(まく)の中に飛(と)び込(こ)んで来(き)ました。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
あゝ、若(わか)い衆(しう)何(なに)かい、連(つれ)のものが、何處(どこ)か二次會(にじくわい)へ引張出(ひつぱりだ)さうとして、私(わたし)を中(なか)へ引挾(ひつぱさ)んだ、……其(そ)れを外(はづ)したのだと思(おも)つたのかい。
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
○小高坂(高知城西)辺(ヘン)のむすめまで、きんのふ(勤王)とか国家の為とか、あわて(ママ)さがし夫が為ニ女の道おうしない、若(わか)き男とくらがり咄ししたがり
「あの爺さんしようがないんですよ。それに小汚(こぎたな)くてしようがありませんや。」肴屋の若(わか)い衆(しゅ)は後で台所口へ来て、そのことを話した。
黴 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
(脚(あし)早くて。とっても。)(若(わか)いがら律儀(りちぎ)だもな。)嘉吉(かきち)はまたゆっくりくつろいでうすぐろいてんを砕(くだ)いて醤油(しょうゆ)につけて食った。
十六日 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「もう夜だからこんばんはというもんだよ。」という声がして、白い服(ふく)をきた若(わか)い女が顔をだし、「なあに、くすりをとりにきたの。」
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
乳母 はい、御機嫌(ごきげん)よう。……もし/\、あの人(ひと)は、ま、何(なん)といふ無作法(ぶさはふ)な若(わか)い衆(しゅ)でござるぞ? あくたいもくたいばかり言(い)うて。
「だつて小六(ころく)さんなんか、まだ若(わか)いぢやありませんか。何(なに)をしたつて是(これ)からだわ。そりや兄(にい)さんの事(こと)よ。さう悲觀(ひくわん)しても可(い)いのわ」
門 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
是よりいたして雨の降る夜(よ)も風の夜も、首尾を合図にお若(わか)の計らい、通える数も積りつゝ、今は互(たがい)に棄てかねて、其の情(なか)漆(うるし)膠(にかわ)の如くなり。
忘(わす)るゝ人(ひと)ありとか聞(き)きしがこれは又(また)いかに歸(かへ)るべき家(いへ)を忘(わす)れたるか歳(とし)もまだ若(わか)かるを笑止(せうし)といはゞ笑止(せうし)思(おも)へば扨(さて)も訝(いぶか)しき事(こと)なり
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
私(わたし)はお稻荷(いなり)さまの使(つか)ひですよ。この社(やしろ)の番人(ばんにん)ですよ。私(わたし)もこれで若(わか)い時分(じぶん)には隨分(ずゐぶん)いたずらな狐(きつね)でして、諸方(はう/″\)の畠(はたけ)を荒(あら)しました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
余此蝶を見ざりしゆゑ、近隣(きんりん)の老婦(らうふ)若(わか)きころ渋海川の辺(ほと)りより嫁(か)せし人ありしゆゑ尋(たづ)ね問(と)ひしに、その老婦(らうふ)の語(かた)りしまゝをこゝに記(しる)せり。
お馬のジヤンコジヤンコもおもしろいでせう。それにまた、「そりやまだ若(わか)い。若船(わかぶね)に乗(の)つて、唐(から)まで渡(わた)れ。」(紀伊)といふのもあります。
お月さまいくつ (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
若(わか)い神はおかげで、気らくにぐっすりおよって、朝になると、あたりまえの顔をして、大神(おおかみ)の前に出ていらっしゃいました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
「芝になりたや箱根の芝に、諸国諸大名の敷き芝に、ノンノコセイセイ」「コチャエ、コチャエは今はやる、若(わか)い衆(しゅ)が、提灯(ちょうちん)雪駄(せった)でうとてゆく」
私の母 (新字新仮名) / 堺利彦(著)
「入(い)らつしやいまし。」と若(わか)い女中(ぢよちゆう)が上(あが)り口(ぐち)の板(いた)の間(ま)に膝(ひざ)をつき、出(だ)してあるスリツパを揃(そろ)へ、「どうぞ、お二階(かい)へ。突当(つきあた)りが明(あ)いてゐます。」
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風、永井壮吉(著)
若(わか)き血潮(ちしほ)の漲(みな)ぎりに、私は微醺(びくん)でも帶(お)びた時のやうにノンビリした心地(こゝち)になツた。友はそんなことは氣が付(つ)かぬといふ風(ふう)。
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
この外(ほか)、樂(たの)しみの歌(うた)はありますが、年(とし)の若(わか)いあなた方(がた)にはわかりにくいものは省(はぶ)きました。これらの歌(うた)ならば、あなた方(がた)にも大體(だいたい)わかりませう。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
この長歌には、『吾妹子が形見に置ける若(わか)き児(こ)の乞ひ泣く毎に』云々とあつて、幼児を残して死んだやうに出来てゐる。
人麿の妻 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
その頃(ころ)の若(わか)いもんたちは、三日三晩(みっかみばん)、たたらという大(おお)きなふいごを足(あし)で踏(ふ)んで、銅(かね)をとかす火(ひ)をおこしたもんだそうだ。
ごんごろ鐘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
其(そ)はお若(わか)い衆(しう)不了簡(ふれうけん)死ぬは何時(いつ)でも易い事先々(まづ/\)此方(こなた)へ來(こ)られよと云ふ面(かほ)見(み)れば吉原の幇間(たいこ)五八なれば吉之助は尚々(なほ/\)面目なく又もや身を投(なげ)んとせしを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
領主 月桂冠は、死んだ若(わか)が戴くべきものだ! 汝の歌った一曲は、若が歌うべき「死に行く人魚」の歌ではないか。(鋭く)盗める曲に何を与う!
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
正に骨味(ほねみ)を削(けづ)るが如くあれほど必(ひつ)死に眞劍(しんけん)に爭(あらそ)ひ戰(たゝか)はなければならないとは! さう言えば、昔(むかし)爭(あらそ)ひ將棋(せうき)に敗(やぶ)れて血(ち)を吐(は)いて死んだ若(わか)い棋士(きし)があつた。
梅(うめ)の花(はな)、菜(な)の花(はな)ののどかな村むらを、粟毛(くりげ)に額白(ぬかじろ)の馬をのりまわした糟谷は、当時(とうじ)若(わか)い男女の注視(ちゅうし)の焦点(しょうてん)であった。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「そうでした。すみません。わけをハッキリと話(はな)さなくちやいけなかつたんです。実(じつ)は、この事件(じけん)の発見者(はっけんしゃ)は、島本守(しまもとまもる)という若(わか)いお医者(いしゃ)さんでしたね」
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
この山(やま)が琵琶湖(びはこ)と共(とも)に一夜(いちや)にして出來(でき)たなどといふのは、科學(かがく)を知(し)らなかつた人(ひと)のこじつけであらうが、富士(ふじ)が若(わか)い火山(かざん)であることには間違(まちが)ひはない。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
姫や若(わか)の顔、女房(にょうぼう)の罵(ののし)る声、京極(きょうごく)の屋形(やかた)の庭の景色、天竺(てんじく)の早利即利兄弟(そうりそくりきょうだい)、震旦(しんたん)の一行阿闍梨(いちぎょうあじゃり)、本朝の実方(さねかた)の朝臣(あそん)、——とても一々数えてはいられぬ。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「中入(なかい)りが済むと、もう一度いつもの芸当をごらんに入れるか、忌(いや)だ、いやだ。からだが悪いとでもいって、お若(わか)のように二、三日休んでやろうかしら」
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
町(まち)では實(じつ)にもう退屈(たいくつ)です。誰(だれ)を相手(あひて)に話(はなし)するものもなし。話(はなし)を聞(き)く者(もの)もなし。新(あたら)しい人間(にんげん)はなし。然(しか)し此頃(このころ)ハヾトフと云(い)ふ若(わか)い醫者(いしや)が町(まち)には來(き)たですが。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「宇部の炭坑に行った帰りです。……ああ、大庭へ行きなさったといやあ、若(わか)オヤジのおめでたでしょう?」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
それから王子(おうじ)が妻(つま)になってくれないかと言(い)い出(だ)すと、少女(むすめ)は王子(おうじ)の若(わか)くって、美(うつく)しいのを見(み)て、心(こころ)の中(うち)で
また日向(ひむか)の泉(いづみ)の長(なが)比賣に娶ひて、生みませる御子、大羽江(はえ)の王(みこ)、次に小羽江(をはえ)の王、次に檣日(はたび)の若(わか)郎女三柱。
あゝ聖なる父よ、墓の邊(ほとり)にて若(わか)き足に勝ちしほどかたく信じゐたりしものを今見る靈よ 一二四—一二六
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
いちど深く沈(しず)んでから、ボカッと、あわだった水面に浮(う)きあがってきたのを見ると、若(わか)い武士(ぶし)の生首(なまくび)だ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『若(わか)い時(とき)は二度(ど)はない』と稱(しよう)してあらゆる肉慾(にくよく)を恣(ほしい)まゝにせんとする青年男女(せいねんだんぢよ)の自由(じいう)に干渉(かんせふ)し得(う)るぞ。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
玄竹(げんちく)の藥箱(くすりばこ)は可(か)なり重(おも)いものであつた。これは玉造(たまつくり)の稻荷(いなり)の祭禮(さいれい)に御輿(みこし)擔(かつ)いだ町(まち)の若(わか)い衆(しう)がひどい怪我(けが)をした時(とき)玄竹(げんちく)が療治(れうぢ)をしてやつたお禮(れい)に貰(もら)つたものであつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
だから、若(わか)い船員たちは、或る者は、紙のように白い顔となり、また或る者は朱盆(しゅぼん)のように、真赤な顔になっていた。一等運転士が、それをしきりに、止めている。
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
物堅(ものがた)い和上も若(わか)いので未(ま)だ法力(はふりき)の薄(うす)かつた故(せゐ)か、入寺(にふじ)の時の覚悟を忘れて其の娘を貰(もら)ふ事に定(き)めた。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
もう卅歳(さい)若(わか)かつたなら?——日本(につほん)の文壇(ぶんだん)は、何(ど)う動搖(どうえう)し、私(わたし)は——私(わたし)は、數(かぞ)へると、九歳(こゝのつ)だつ!
するとこの若(わか)い鳥(とり)は翼(つばさ)で横腹(よこばら)を摶(う)ってみましたが、それは全(まった)くしっかりしていて、彼(かれ)は空(そら)高(たか)く昇(のぼ)りはじめました。そしてこの翼(つばさ)はどんどん彼(かれ)を前(まえ)へ前(まえ)へと進(すす)めてくれます。
まだ若(わか)い十八の年(とし)に、彼女(かれ)は、淋(さび)しい昔戀(むかしこひ)しいやうな心持(こゝろもち)になつて、もしも自分(じぶん)が松葉杖(まつばづゑ)をつかない壯健(そうけん)な女(をんな)であつたならば、自分(じぶん)の運命(うんめい)はどうなつたであらうかと考(かんが)へた。
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
Sとは、極度(きよくど)に切(き)り詰(つ)めた生活(せいくわつ)をして、献身的(けんしんてき)に運動(うんどう)をしてゐた、若(わか)い一人(ひとり)の鬪士(とうし)だつた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
此(この)弦月丸(げんげつまる)にも屡(しば/\)其(その)催(もようし)があつて私等(わたくしら)も折々(をり/\)臨席(りんせき)したが、或(ある)夜(よ)の事(こと)、電燈(でんとう)の光(ひかり)眩(まば)ゆき舞踏室(ぶたうしつ)では今夜(こんや)は珍(めづ)らしく音樂會(おんがくくわい)の催(もよう)さるゝ由(よし)で、幾百人(いくひやくにん)の歐米人(をうべいじん)は老(おい)も若(わか)きも其處(そこ)に集(あつま)つて
すると一番(ばん)最後(さいご)にペンペといふ何(なに)も知(し)らない若(わか)い鴉(からす)が出(で)てきて『そいつはおもしろいな、ヱヴェレストのてつぺんまでは大飛行(だいひかう)だ。僕(ぼく)は大賛成(だいさんせい)だ。ラランよ。僕(ぼく)でも大丈夫(だいじやうぶ)か。』
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)